社会保険料を滞納するとどうなる?差し押さえの影響と対処法
更新日:2025年01月31日

社会保険料の滞納は、企業や個人に大きなリスクをもたらします。滞納が続くと、延滞金の発生や財産の差し押さえ、信用力低下など深刻な影響が出るおそれもあるため注意が必要です。本記事では、社会保険料滞納がもたらす具体的なリスクと、万が一滞納してしまった場合の対処法について解説します。支払いが困難な状況に直面しても、正しい行動を取ることでリスクを軽減できる可能性があります。適切な情報をもとに、トラブルを未然に防ぎましょう。
目次
社会保険料を滞納する5つのリスク
社会保険料を滞納すると、さまざまなリスクが発生します。初期の督促から延滞金の発生、財産調査や差し押さえ処分にいたるまで、段階的に状況が悪化し、最終的には企業の信用力が低下する深刻な影響を招くおそれがあります。以下で、それぞれについて見ていきましょう。
1.督促を受ける
社会保険料を滞納すると、まず郵便で督促状が送られてきます。督促状は納付期限を過ぎた約1週間後に発行され、納付期限が督促状の発行日から10日後に設定されています。督促状に指定された納期限までに支払いを済ませれば、特に罰則はありません。
しかし滞納が続くと、次は電話での催促がはじまります。そして、電話での催促にも応じない場合は、年金事務所や労働局の職員が実際に自宅や事業所を訪問する「指導」に移行します。
電話や訪問による督促は、社内に滞納が知られる可能性もあるため、注意が必要です。督促状が届いた段階で、速やかに指定の納付書で支払いを済ませる必要があります。
2.延滞金が発生する
社会保険料の支払い期限を過ぎると、延滞金が課されます。その割合は日本年金機構が毎年更新しており、2024年(1月1日から12月31日)の場合、期限から3か月以内は年2.4%、それを超えると年8.7%となっています。
督促状を受け取った場合でも、督促状に記載された期限内に支払えば延滞金は発生しません。しかし、期限を過ぎると本来の納付期限の翌日からの延滞金が課されます。
3.財産調査が行われる可能性がある
社会保険料の滞納が続くと、年金事務所や労働局が法人代表者や個人事業主に対し、預貯金・不動産・売掛金などの財産状況について聞き取りを実施します。この聞き取りは任意で行われますが、協力を拒否したり、十分な情報が得られなかったりする場合には、強制的な調査へ進む可能性もあるため注意が必要です。
強制調査では、金融機関の口座残高の確認や自宅への立ち入り調査、さらには取引先への問い合わせなどを通じて、債権や資産の状況が詳しく調査されます。その際、虚偽の申告や財産の隠匿が判明した場合には、書類送検されるリスクもあるため慎重な対応が求められます。
4.滞納処分として財産が差し押さえられる
社会保険料を滞納し続けると、財産調査の結果をもとに差し押さえが実施されます。対象となるのは現金(銀行口座)・預貯金・不動産・売掛金などで、滞納額や延滞金を補填するために換価処分されます。
差し押さえの前には予告通知が送付され、この段階で滞納額と延滞金を支払えば、差し押さえを一旦回避できる場合もあるため、早急に対応を検討しましょう。
また、支払いが困難な場合でも、内容によっては年金事務所や労働局に相談することで状況に応じた対応が考慮されることもあります。放置すると財産が失われるだけでなく、信用にも影響を及ぼすため、早期の行動が重要です。
5.差し押さえにより企業の信用力が低下する
社会保険料を滞納して差し押さえを受けると、財産の没収だけでなく、企業の信用力低下という重大な影響を招きます。
まず、滞納の事実が金融機関に伝わると、新規融資が停止されたり、既存の融資条件が厳しくなったりする可能性があります。融資条件が厳しくなることにより資金繰りが悪化し、事業運営に支障をきたすリスクが高まるでしょう。
また、従業員に滞納や差し押さえの事実が知られると、不信感が広がり、離職が相次ぐ可能性もあります。その結果、労働力の減少や社内士気の低下を招くおそれもあるでしょう。
さらに、取引先に滞納が知られたり売掛金が差し押さえられたりすると、取引中止を求められるなど事業継続に悪影響を及ぼすリスクが高まり、倒産の憂き目にあってしまうこともありえます。
そもそも「社会保険料」とは
社会保険料とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つからなる公的保険制度の保険料のことです。これらの保険料は、従業員とその家族の医療費補償や老後の生活保障、失業時の支援など、さまざまな社会的リスクに対する保障を提供するために徴収されます。給与支払者から見ると、社会保険料は人件費に含まれ、中でも法定福利費に分類されます。
社会保険料の種類
社会保険料は、次の5つの種類に分けられます。
種類 | 内容 |
健康保険料 | 従業員およびその家族に対し、病気やケガ、出産に伴う医療費を補助するための保険料 |
厚生年金保険料 | 正社員や公務員が加入し、退職後の生活支援を目的とする年金制度に関連する保険料 |
介護保険料 | 高齢者や障害者への介護サービスを提供するための保険料 |
雇用保険料 | 労働者の雇用の安定や生活保障を目的とした制度にかかる保険料 |
労災保険料 | 労働中の事故や疾病によるリスクに備える保険制度のための保険料 |
社会保険料の負担割合
社会保険料は、企業と従業員が共に負担する形で構成されています。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、事業主と従業員がそれぞれ半分ずつ負担します。一方、労災保険料は全額事業主が負担する仕組みです。雇用保険料については、事業の種類によって負担割合が異なります。まとめると、下表のとおりです。
保険の種類 | 事業主負担割合 | 従業員負担割合 |
健康保険 | 50% | 50% |
厚生年金保険 | ||
介護保険 | ||
雇用保険 | 業種による | |
労災保険 | 100% | なし |
社会保険料の滞納が続いてしまうときの対処法
社会保険料の滞納が続く場合、早急な対応が必要です。支払いが困難になった際は、まず関係機関への相談を検討しましょう。健康保険、介護保険、厚生年金保険については年金事務所に、労災保険と雇用保険は労働局に相談します。
これらの機関では、支払い猶予や分納などの対応策を提案してくれる可能性もありますが、必ずしも適用されるわけではありません。申請が必要であり、その際には滞納の理由や今後の支払い計画を具体的に説明できるよう準備しておくことが重要です。
以下では、社会保険料の滞納に対する主な対処法について解説します。
社会保険料の猶予について相談する
社会保険料の納付が困難な状況になった場合、猶予制度を利用できる可能性があります。猶予が認められれば、延滞金の免除や財産の差し押さえの猶予・解除といった効果が得られます。納付が難しいと感じたら、まずは猶予について相談しましょう。
社会保険料の猶予には、主に災害による猶予(災害猶予)と通常の猶予(一般猶予)の2種類があります。
災害以外であっても、病気や事業の損失など、特定の理由がある場合に一般猶予が適用される可能性もあります。
次のような猶予該当事実がある場合に、申請により最長1年間の猶予が認められる場合もあるため、該当するかについて確認するようにしましょう。
- 財産の災害や盗難
- 納付者やその家族の病気や負傷
- 事業の廃止や休止
- 事業における著しい損失(前年の利益の半分を超える損失)
- 上記に類する事実
猶予期間は原則として1年間ですが、状況に応じて延長が可能です。災害猶予では、最長で3年間まで、一般猶予では最長で2年間まで延長できる可能性があります。ただし、猶予期間内に完納できないやむを得ない理由が必要です。
社会保険料の分納について相談する
猶予期間中に延滞金の分割払いを相談することは可能ですが、分納の条件や期間は公表されていません。分納の可否や期間は、申請者の財産や収支状況をもとに関係機関が個別に判断します。
そのため、財産収支状況書を提出し、最新の収支や財産に関する情報を提供する必要があります。虚偽の情報が含まれている場合、分納は認められません。
納付猶予が認められた場合、その期間中に分割払いで社会保険料を支払うことになります。ただし、分納中も通常の社会保険料の支払いは継続する必要がある点に注意が必要です。
法人の場合は破産を検討する
法人が破産すると、滞納していた税金や社会保険料の支払い義務は消滅します。破産手続きが進むと、法人自体が消滅し、債務や負債、そして未払いの税金や社会保険料に対する責任もなくなります。このように、破産した法人は国から税金や社会保険料の請求を受けることはありません。
ただし、注意が必要なのは、合同会社や合名会社の無限責任社員の場合です。これらの場合、法人の破産によっても、無限責任社員の支払い義務は消滅しません。
また、個人事業主の場合は、個人が自己破産をしても、その人自身が消滅するわけではありません。その結果、滞納している税金や社会保険料の支払い義務は残ります。つまり、自己破産によって借金は免除されても、税金や社会保険料の納付義務は引き続き国から請求され続けます。
以上のように、法人が破産した場合には滞納していた税金や社会保険料の支払い義務も消滅しますが、合同会社や合名会社の無限責任社員、個人事業主に関しては債務を免れないため注意が必要です。破産を検討する際は、適切な法的アドバイスを受け、今後の対応を慎重に決めることが重要です。
参考)日本年金機構「厚生年金保険料等の換価の猶予」
参考)日本年金機構「厚生年金保険料等の納付の猶予」
参考)厚生労働省「労働保険料等を一時に納付できない方のための猶予制度について」
社会保険料を滞納しても利用できる資金調達方法
社会保険料を滞納している事実が明るみに出ると、銀行融資など借入金での資金調達は難しくなります。しかし諦めることはありません。社会保険料や税金を滞納していたり債務超過であったりしても活用できる方法があります。それはファクタリングです。ファクタリングとは、売掛金をファクタリング会社へ売却して資金を調達する手法のことです。資産を活用して資金調達するアセットファイナンスの一種で、信用情報に傷をつけずに資金調達ができます。
参考)ファクタリングとは
社会保険料を滞納したときのために、ファクタリングサービスを提供している会社を今から探そうと思われた方は、以下の記事も参考にしてみてください。
社会保険料滞納まとめ
社会保険料の滞納は、企業や個人に大きなリスクをもたらします。督促状の送付や延滞金の発生、財産調査や差し押さえ処分など段階的に状況が悪化し、企業の信用力低下が低下。個人の銀行口座や法人口座の凍結、事業運営に重要な資産の差し押さえによって倒産するおそれがあります。
万が一滞納が続く場合は、関係機関に相談し、猶予や分納が可能かどうかの相談をしてみましょう。法人の場合は破産も選択肢の一つですが、無限責任社員や個人事業主は債務を免れないため、注意しなければなりません。迅速な対応を心がけ、滞納が及ぼす悪影響を極力小さくしていくことが重要です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
---|---|
会社名 | 株式会社フリーウェイジャパン |
法人番号 | 1011101045361 |
事業内容 |
|
本社所在地 | 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町12-8 Biz-ark日本橋6F |
所属団体 | 一般社団法人Fintech協会 |
顧問弁護士 | AZX総合法律事務所 |