債権とは?債務や物権との違い、回収のポイントについて解説
更新日:2025年04月25日

債権とは、特定の相手に対して一定の行為や給付を請求できる権利のことです。例えば、売買契約における代金の支払請求や、貸付金の返済請求などが該当します。一方、債権とよく比較される概念として「債務」や「物権」があります。これらの違いを、正しく理解することが重要です。本記事では、債権の基本的な仕組みや種類、契約ごとの債権・債務の関係について解説します。
目次
債権とは?債務や物権との違い
「債権」「債務」「物権」は、いずれも権利や義務に関する用語ですが、その違いは時にわかりにくく、混同してしまうことがあるかもしれません。それぞれの違いについて明確にしておきましょう。
債権が「権利」であるのに対し債務は「義務」
債権とは、特定の相手に対し、一定の行為や給付を請求できる権利です。例えば、金銭の支払いや物の引き渡しを求めることが該当します。反対に、債務とは、請求された行為や給付を履行する義務のことです。両者は対の関係にあり、債権を有する人は「債権者」、債務を負う人のことを「債務者」と呼びます。
例えば、お金を貸した場合、貸した人は債権者となり、返済についての請求が可能です。一方、借りた人は債務者となり、返済義務が生じます。売買契約においても同様です。消費者は代金について支払う義務を負い、品物の引き渡しを求める権利も有します。販売者は品物を渡す義務があり、代金の支払いを請求する権利も有します。
債権と物権の違いは「権利の内容」
債権は、人に対する請求権であるのに対し、物権は物を直接支配できる権利である点が大きな違いです。債権は債務者との関係によって成り立つのに対し、物権は所有する物そのものに対する権利として成立します。
債権は特定の相手に対して一定の行為を求める権利であり、債務者に支払いや義務の履行について請求可能です。例えば、ローンの返済請求やクレジットカードの支払請求が該当します。
一方、物権は物を直接的に支配する権利であり、所有者は自由に使用や処分が可能です。対象となるのは、家や車、宝石などの財産所有が該当します。
債権の種類一覧
債権は、その発生原因や目的によっていくつかの種類に分類されます。主な債権の種類とその概要は、以下のとおりです。
【発生原因による分類】
種類 | 特徴 |
約定債権 | 契約に基づいて発生する債権 |
法定債権 |
法律の規定によって発生する債権(事務管理、不当利得、不法行為によるものなど)
|
【債権の目的による分類】
種類 | 特徴 |
特定物債権 | 個別に特定された物の給付を目的とする債権 |
種類債権 | 種類や数量で指定された物の給付を目的とする債権 |
金銭債権 | 一定額の金銭の給付を目的とする債権 |
利息債権 | 利息の支払いを目的とする債権 |
選択債権 | いくつかの給付の中から選択できる債権 |
債権には上記以外にもさまざまな種類が存在します。売買や掛取引をする際は、各債権の特性を理解することが重要です。
【契約種別】債権と債務の内容
契約は、債権・債務関係を生じさせる代表的な要因です。ここでは、代表的な契約の種類と、それぞれの契約によって生じる債権・債務の内容について解説します。
【双務契約】債権と債務の内容
双務契約では、契約当事者が双方ともに債権者であり、同時に債務者となります。
売買契約を例にすると、買主は売主に対して商品の引き渡しを求めるための債権を有し、代金を支払う義務も負います。一方、売主は代金の支払いを求めるための債権を有し、商品を引き渡す義務も負わなければなりません。
労働契約も双務契約の一例です。雇用主は労働の提供を求めるための債権を有し、給与を支払う義務も負います。労働者は給与を請求するための債権を有し、労働を提供する義務も負わなければなりません。
このように、双務契約では双方の債務履行が密接に関係しています。そのため、相手の履行がなければ自らの履行を拒否できる「同時履行の抗弁権」や、一方の債務が消滅した際に他方の債務をどう扱うかといった「危険負担」の問題が生じるのも特徴です。
【片務契約】債権と債務の内容
片務契約とは、当事者の一方のみが債務を負う契約のことを指します。
贈与契約では、贈与者が目的物について引き渡す義務を負い、一方の受贈者には義務が生じません。同様に、消費貸借契約では、借主が返済の義務を負う一方で、貸主は債務を負わないのが特徴です。
また、ビジネスにおいては、秘密保持契約(NDA)が身近な代表例です。情報を受け取る側が守秘義務を負う一方で、提供者は義務を負わないため、片務契約に該当します。
片務契約は、双務契約とは異なり、双方の義務が対等に成立しないため、同時履行の抗弁権や危険負担の問題が生じません。
【相殺】債権と債務の内容
相殺とは、同種の債務を持つ者同士が、互いの債務を対等額だけ消し合う行為です。この方法は、金銭の移動を避け、会計処理を簡素化できる利点があります。ただし、相殺が成立するためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
まず、両方の債権が同種の目的を持っていなければなりません。次に、自働債権(自分から「相殺させてほしい」と主張する側の債権)の弁済期が到来していなければなりません。さらに、相殺禁止の規定に該当しないことも条件です。
例えば、破産手続きにおいては、売掛金債権と借入金債務を相殺することで、一部の支払義務を免れる場合があります。また、企業の合併時には、債権者と債務者が同一法人となるため、互いに保有する債権と債務が相殺されることになります。
【相続】債権と債務の内容
相続とは、ある人が亡くなった際に、その人の財産(権利や義務)を特定の人が引き継ぐことです。亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人のことを「相続人」と呼びます。相続の対象となる財産には、現金や預貯金だけでなく、借入金などの債務も含まれます。
債権と債務は、原則として分けて相続できません。つまり、相続人が相続する場合には、被相続人の資産だけでなく負債も引き継がなければなりません。相続人が債権や債務を引き継ぐと、債権者または債務者としての立場になります。
そのため、相続を検討する際には、被相続人のすべての財産状況を確認したうえでの慎重な判断が求められます。
債権者が債務者に対してできる法的措置
債権者が債務者に対してできる法的措置は、以下のとおりです。
- 貫徹力
- 掴取力
- 訴求力
- 給付保持力
- 債務不履行による契約解除
- 債務不履行による損害賠償請求
それぞれ、見ていきましょう。
貫徹力
貫徹力とは、債権者が債務者から給付を受けられない場合に、法的な手続きを用いて強制的に履行させる力を指します。債権者は法律によって権利が守られており、債務者の意思に関係なく給付の請求が可能です。
例えば、売買契約において、注文者が代金を支払ったにもかかわらず受注者が商品を渡さない場合は、法的手続きによって商品の引き渡しを強制的に実行できます。
掴取力
掴取力(かくしゅりょく)とは、債権者が債務者から給付を受けられず、なおかつ返還義務にも応じない場合に、債務者の財産への強制的な差し押さえにより返還を実現する法的手段のことを指します。貫徹力と異なり、給付そのものではなく返還義務を強制する点が特徴です。
例えば、売買契約において、債務者が代金を支払ったにもかかわらず債権者が商品を引き渡さず代金の返還にも応じない場合には、債務者の財産を差し押さえて金銭の回収を図れます。
訴求力
訴求力とは、債権者が債務者に対して債務の履行を求め、裁判所に訴訟を提起して債権の権利を確認するための法的効力を指します。訴求力により、債権者は法的手続きを通じて債務者に履行を求めることが可能です。
訴求力を行使する方法には、訴訟、支払督促、民事調停などがあります。これらの手続きを経て、裁判所から債務名義の正本を取得することにより、債務者の財産を強制的に差し押さえることが可能になります。
貫徹力や掴取力の実行には必ずしも正式な手続きが必要ではありません。ただし、訴訟や支払督促、民事調停などの法的手続きを経ることで、その強制執行がより確実に行えるようになります。
給付保持力
給付保持力とは、債務者から受けた給付が法律上正当なものである場合、債権者がその給付を返還せずに保持できる権利のことです。
不当利得に該当しない限り、債権者は受け取った財産や金銭の返還義務を負いません。不当利得とは、正当な理由なく他人の財産を取得し、利益を得ることです。
給付保持力の例として、甲氏が乙氏に家を貸し、乙氏が賃料を支払った場合、甲氏は受領した賃料を返還する必要はありません。乙氏から、正当な賃貸借契約に基づいて賃料が支払われたためです。同様に、乙氏には契約に基づく家の使用権が認められます。
債務不履行による契約解除
契約解除は、債務者が契約上の義務を果たさない場合に、債権者が契約関係を解消するための法的措置です。債務不履行には、履行不能・履行遅滞・不完全履行の3種類があり、これらが生じた場合に契約解除が認められます。
例えば、建物の売買契約において、売主が目的物を引き渡せない場合、買主は売買代金の支払義務を免れるために契約解除を請求できます。
契約解除は、債務不履行があった場合の責任追及の一手段です。債権者は、履行請求や損害賠償請求ととともに、状況に応じて適切な措置を選択できます。
債務不履行による損害賠償請求
契約上の義務が守られなかった場合に発生する損害賠償請求権は、被害者が被った経済的損失を回復するための重要な法的手段となります。契約の相手方が約束を守らない状況では、被害にあった当事者は適切な補償の請求が可能です。
前述のとおり、契約義務の不履行には3つのパターンがあります。
- 履行遅滞:約束の期日までに債務が履行されないケース
- 履行不能:債務の履行が不可能になるケース
- 不完全履行:債務自体は履行されたものの、その内容が契約の内容と異なるケース
これらのいずれかの状況により損害が生じた場合、被害当事者は法的に補償を求める権利が生じます。
具体例としては、商品売買において納品がなされなかった場合、購入者は被った損失について補償を請求できます。また、借入金の返済が遅れた場合は、延滞期間に応じた利息を補償金として加算し、完済までの請求が可能です。
第三債務者が関係する債権や債務
債権や債務の関係には、債務者だけでなく「第三債務者」がかかわるケースもあります。
第三債務者とは、債務者に対してさらに債務を負っている者のことです。例えば、銀行預金が差し押さえの対象となる場合、預金先の銀行が第三債務者となります。給料債権が対象となる場合は、勤務先の会社が第三債務者です。
第三債務者が関与する場面としては、以下の手段が挙げられます。
- 債権執行(債権の差し押さえ)
- 債権譲渡
- 債権に対する質権の行使
- 債権代位権の行使
それぞれの制度を理解することで、債権の適切な管理や回収に役立てられます。以下で、それぞれについて見ていきましょう。
債権執行(債権の差し押さえ)
債権執行は、債務者が第三債務者に対して有する債権を差し押さえ、換価して請求債権の弁済に充てる強制執行の一種です。債権者は、裁判所の手続きを経て債務者の財産を確保し、回収を図ります。
手続きでは、直接取り立てや転付命令(被差押債権を債権者へ移転させる手続き)の申立てにより、得られた金銭が請求債権の弁済に充てられます。銀行預金や給料債権など、財産的価値のある権利は、いずれも債権執行の対象です。
債権譲渡
債権譲渡とは、債権者が保有する債権を第三者に譲渡することを指します。債権の内容は変わらず、債権者のみ変更される点が特徴です。
債権譲渡の主な目的は、現金不足の解消や取引先からの信用確保です。売掛金や貸付金のように支払期限がある債権を、第三者に売却して現金化する場合があります。その際、手数料などが差し引かれるため、本来の債権額よりも少ない金額を受け取ることになるものの、資金繰りの改善には役立ちます。
一般的に債権譲渡は認められていますが、大学教授が学生に教授する義務や扶養請求権など、性質上または法律上譲渡が禁止されている債権もあるため注意が必要です。
債権に対する質権の行使
質権とは、債権者が債務の担保として、債務者または第三者から受け取った物を保持し、債務が履行されない場合にその物を処分して弁済を受ける権利のことです。なかでも、債権を対象とする場合は「債権質」と呼ばれます。
債権質が設定されると、債務者が支払いを滞らせた際に、質権者はその債権を売却し、他の債権者よりも優先的に弁済を受けられます。対象となる財産権には、債権のほか、株式や知的財産権、火災保険金請求権なども質権の対象です。債権質により、債権者は債務不履行リスクを抑えられます。
債権質の設定には、債権譲渡と同様の手続きが必要です。質権者が債務者や第三債務者へ通知し質権の存在を明確にすることで、優先的に弁済を受ける権利の確保が可能となります。
債権代位権の行使
債権代位権とは、債権者が自身の債権を守るために、債務者が有する権利を代わりに行使できる権利を指します。債務者が自身の債権を回収しない場合、債権者が代わって第三債務者への請求が可能です。
例えば、AがBに貸金返還請求権を持ち、BもCに対して同じく貸金返還請求権を有しているとします。BがAへの返済を滞らせ、資力も不足している状況に際して、Aは債権代位権を行使できるため、AはBに代わりCに直接請求することで自身の債権回収を進められます。
登場人物 | 関係・権利 | 状況 | 債権代位権の行使 |
A(債権者) | Bに貸金返還請求権を持つ | BがAに返済しない 資力なし |
Bに代わりCに請求できる |
B(債務者) | Aに借金がある Cに貸金返還請求権を持つ |
Aへの返済が困難 | AがBの権利を行使 |
C(第三債務者) | Bに借金がある | - | Aから直接返済請求を受ける |
債権代位権は、債務者の支払能力が低い場合に有効ですが、行使には被保全債権と被代位権利の関係が明確であるなど一定の条件を満たさなければなりません。
債務の解消方法
債務を解消するには、本来の履行だけでなく、いくつかの方法があります。代表的なものとして、本来の給付の代わりに別のもので弁済する「代物弁済」、金銭などを供託所に預ける「供託」、既存の債務を新たな債務に変更する「更改」などです。ここでは、それぞれについて解説します。
代物弁済
代物弁済とは、債務者が債権者の承諾を得たうえで、本来の給付とは異なるもので弁済をする方法です。代物弁済が成立すると、元の債務は消滅します。
例えば、金銭の支払義務がある場合に、不動産や売掛債権(売掛金や受取手形)などを提供することで弁済とすることが可能です。
代物弁済が成立するには債権が存在し、代替の給付が現実に行われ、本来の弁済に代わるものであり、債権者の承諾を得ていることが必要です。
供託
供託とは、債務者が債権者に対して債務を履行しようとする際、債権者による受領の拒否や受領できない場合に、金銭や有価証券などを供託所に提出することで債務を履行する制度です。
供託をすることで、債務者は適切に履行を試みたことについて証明できるため、債務不履行の責任を免れることが可能です。
供託の典型的な例として、賃借人と大家の間で家賃の金額について争いが生じ、大家が家賃を受け取らない場合が挙げられます。
このような状況において、賃借人が家賃を供託することで、支払義務を履行したとみなされます。この供託により、賃借人は債務不履行の責任を負わず、裁判などに発展した場合でも不利な立場の回避が可能です。
更改
更改とは、既存の債権とは異なる内容の新たな債権を成立させ、それに伴い元の債権を消滅させる契約です。債権の継続を前提とする「更新」とは異なり、更改では債権の本質的な部分が変わり、新しい債権が生じます。
この制度が適用されるのは、債権者や債務者が変更される場合、あるいは債務の内容に大きな変更が加えられる場合です。例えば、従来の給付内容を別のものに改めることや、債務者や債権者が第三者と入れ替わるケースが該当します。
債権を速やかに回収するためのポイント
債権を速やかに回収するためには、迅速な対応と契約内容の確認が重要です。ここでは、効率的な債権回収のポイントを解説します。
早めに債権回収に取り組む
債権回収は、時間を置くほど回収が困難になるため、早めに取り組むことが重要です。債務者が経済的に苦境に立たされている場合、時間が経過するほど財務状況も悪化し、倒産リスクが高まります。また、債務者が破産申請などの法的手続きに入ると、債権回収はさらに困難になります。
倒産前であれば、仮差し押さえや強制執行、代物弁済などの手段を講じることが可能です。債権回収は「時間との戦い」であり、早期のスタートが確実な回収につながります。迅速な対応を心がけましょう。
契約内容をチェックする
債権回収を円滑に進めるためには、契約内容を事前に確認することが重要です。契約書がある場合、当事者名が請求先と一致しているかを確認しましょう。署名捺印した相手方と請求先が異なる場合、支払義務を負うのは契約書に記載された当事者です。内容証明郵便や訴訟手続きは、契約上の相手方に対して行う必要があります。
また、支払期限が記載されているかといった点も確認しましょう。支払期限が到来していない場合、原則として回収行動をとれません。支払期限を把握し、適切なタイミングで対応することが重要です。
さらに、「期限の利益喪失条項」の有無も確認ポイントです。期限の利益喪失条項がある場合は、債務不履行時に債権全額を請求できる可能性があります。条項がない場合には、支払期限に遅れた分のみ請求が可能です。契約内容を確認し、債権回収時のトラブルを防ぎましょう。
債権まとめ
債権とは、特定の相手に対して一定の行為や給付を請求できる権利のことであり、債務はその請求に応じて義務を履行することです。
これらは双務契約や片務契約など、さまざまな契約形態によって発生し、それぞれの契約において債権者と債務者の立場が明確に定められます。
債権回収においては、契約内容の確認と早期対応が鍵となります。債務不履行が発生した場合には、法的措置を講じることも可能です。
債権と債務は、日常生活やビジネスにおいて重要な役割を果たします。ビジネスであれば、不良債権が発生することで自社の財務状況が悪化する可能性もあります。債権を適切に管理し、迅速な回収を実現するためには、契約内容を十分に把握しつつ必要に応じて法的手段を活用することが重要です。時間が経過するほど回収も困難になるため、早めの対応を心がけましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
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