貸倒引当金とは?その目的、対象になる債権、処理や仕訳について解説

2021.06.01

貸倒引当金

貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、貸倒損失によるリスクに備え、損失になるかもしれない金額を予想して、あらかじめ計上した引当金です。貸倒れとは、取引先の倒産などの理由で、債権(売掛金や受取手形など)を回収できなくなることです。その損失を、貸倒損失と呼びます。

貸倒引当金の目的

貸倒引当金の大きな目的は、正確な期間損益を計算することです。たとえば、事業年度が4月1日~3月31日の企業A社があったとします。A社は、2015年5月1日にB社に10,000円の商品を掛けで売り上げ、翌2016年6月1日にB社が倒産しました。この場合、2015年5月1日に売上が発生して、翌2016年6年1日に費用(貸倒損失)が発生していますが、収益と費用が異なる事業年度で発生しています。

企業会計原則の一つに、費用と収益を対応させなければならないという「費用収益対応の原則」があります。費用は収益を得るために使われたお金ですから、これが事業年度をまたいでしまうと、正確な期間損益の算定ができなくなってしまうのです。こういったケースでも、あらかじめ将来を見越して貸倒引当金を計上しておけば貸倒損失は発生せず、帳簿の整合性を保てます。

貸倒引当金の対象となる債権

貸倒引当金の対象となる債権は、売掛金貸付金未収金受取手形などの資産です。一方で、預け金、差入保証金、敷金、手付金、前払金仮払金などは、貸倒引当金の対象になりません。

貸倒引当金繰入額とは?

貸倒引当金を設定する際は、回収できなくなる可能性のある金銭債権を評価し、取立不能見込額を見積もって費用に繰り入れます。その際に、計上する金額を表す勘定科目が貸倒引当金繰入額です。また貸倒引当金繰入額は、現金が流出しない費用(非現金支出費用)のため、キャッシュフロー計算書を間接法で作る場合には、税引前当期純利益(法人税等を差し引く前の当期純利益)に加算されます。

貸倒引当金の繰入方法

貸倒引当金の繰入方法は、「洗替法」と「差額補充法」があります。税法上の原則は洗替法ですが、一定の要件のもとで差額補充法を採用することもできます。

洗替法

決算時に、前期末の貸倒引当金を取り崩し、当期分を繰り入れる方法

差額補充法

決算時に、前期と当期の貸倒引当金の差額を補充する方法

貸倒引当金の処理(仕訳)

貸倒れの可能性がある場合は、貸倒見積額を当期の費用とし「貸倒引当金繰入」(費用)という勘定科目を借方に、そして「貸倒引当金」(負債)勘定の貸方に記帳します。貸倒引当金は「資産」ではないかと思う方もいるかもしれませんが、貸倒引当金の計上は「将来的に得意先に対する債権を回収できない(資産が減る)ときの対策」のため負債に計上します。貸倒引当金を設定する際の仕訳は以下の通りです。

貸倒引当金繰入の仕訳

以前に設定した貸倒引当金が残っていた場合は、設定する貸倒引当金から残存する貸倒引当金を差し引いた額を、当期の決算にて設定します。このように、当期の設定額と期末の残高との差額の分だけ貸倒引当金を計上する処理方法が「差額補充法」です。貸倒引当金を増加させると同時に、貸倒引当金繰入の勘定を用いて仕訳します。

例)12月31日(期末)において、売掛金の残高が10,000円であるのに対し、3%の貸倒引当金を見積り、設定した場合。なお、貸倒引当金の残高は200円あるものとする。

借方 貸方
貸倒引当金繰入 100円 貸倒引当金 100円

10,000円の3%である300円が貸倒見積額となりますが、以前に準備しておいた200円があるため、300円から200円を引いて100円を当期の貸倒引当金として設定します。

貸倒引当金戻入の仕訳

前期に準備しておいた貸倒引当金が余ってしまった場合は、そこから差し引いた金額を当期の決算で取り崩します。貸倒引当金を減少させると同時に、「貸倒引当金戻入」(収益)勘定を用いて仕訳します。

例)12月31日(期末)において、売掛金の残高が20,000円であるのに対し、2%の貸倒引当金を見積り、設定した場合。なお、貸倒引当金の残高は500円あるものとする。

借方 貸方
貸倒引当金 100円 貸倒引当金戻入 100円

20,000円の2%である400円が貸倒見積額となりますが、以前準備しておいた500円があるため、500円から400円を引いて100円を当期に取り崩します。

償却債権取立益の処理

前期以前に貸倒れとして処理した債権を回収した場合、「償却債権取立益」(収益)勘定を用いて仕訳します。

例)前期に貸倒れとして処理した売掛金30,000円を現金で回収した場合。

借方 貸方
現金 30,000円 償却債権取立益 30,000円

貸倒損失が発生した場合の仕訳

実際に、債権を回収できなくなり貸倒損失が発生した場合の仕訳も紹介します。貸倒引当金を積んでいたケースと、そうでないパターンで解説します。

貸倒引当金を計上していなかった場合

例)売掛金10,000円が回収できなくなった。

借方 貸方
貸倒損失 10,000円 売掛金 10,000円

引当金がないため、貸倒れした金額分の貸倒損失を計上します。

貸倒引当金を計上していた場合

例)売掛金10,000円が回収できなくなったが、貸倒引当金が5,000円を計上していた。

借方 貸方
貸倒損失 5,000円 売掛金 10,000円
貸倒引当金 5,000円

引当金を上回ったマイナス分だけ貸倒損失を計上します。引当金に収まるだけの貸倒れだった場合は、貸倒損失の科目は使いません。

重要なのは日頃の債権管理

今回は貸倒れが発生した場合に備える貸倒引当金について解説しました。貸倒れが発生すると、会社の運営に大きな影響を及ぼします。受け取れるはずの金額を当てにしていた場合は、資金繰りが悪化して、最悪の場合には自社が倒産してしまう恐れがあるためです。貸倒引当金を積んでいても、お金が返ってくるわけではありません。最も大切なのは、日頃から得意先(取引先)の債権管理です。回収もれを起こさないように注意しましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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