M&Aとは?意味、手法、メリットについてわかりやすく解説

更新日:2024年01月26日

M&A

名称だけは社会に浸透したと言えそうなM&A(エムアンドエー)ですが、詳しい説明を求められると意外にうまく答えられない人が多いようです。企業買収というイメージで語られがちですが、M&A にはさまざまな側面があります。今回は、企業経営に大きな変革をもたらすM&Aの目的や得られる効果、主な手法を確認していきます。

M&Aの意味とは何か?

M&Aは「Mergers(合併) & Acquisitions(買収)」の略称で、日本語では「合併と買収」と訳されます。合併とは、2つ以上の企業が1つの企業に統合されることです。一方の買収は、企業が別の企業の経営を支配することを目的として株式を取得することです(経営の支配=株主総会での決議を支配という観点で、発行済株式総数の過半数を取得するケースが多い。いずれも、経営戦略に大きな影響を与えます。

M&Aが求められる背景

M&Aが特に注目されたのはバブル崩壊後、不良債権処理や企業再編の必要に迫られた大企業の動きによるものでした。外資系ファンドや投資銀行の国内進出が、当時は大きな話題となったことを覚えている方もいるでしょう。

中小企業こそM&Aが必要になっている

いま注目されているのは、比較的小規模の中小企業のM&Aの流れです。その背景としては、中堅・小規模企業の後継者不足があります。経済産業省中小企業庁の発表によると、「今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定」とされています。この問題を放置すれば多くの雇用が失われ、日本経済は大きな打撃を受けます。日本政府は、事業承継の課題解決にM&Aを活用する動きを加速させており、自社の事業存続に危機感を抱く経営者の多くがM&Aの検討に入っています。

また、現代の市場の多様化や急激な変化への対応策として、M&Aによる事業提携を選択する企業も多数見られます。M&Aは過去の負のイメージが払拭され、企業の幅広い課題解決策として、社会に受け入れられるようになったといえます。(参照:中小企業庁「中小企業庁長官 平成30年 年頭所感」

M&Aの主な手法

M&Aの主な手法としては次の3つがあります。

TOB:テイク・オーバー・ビット

TOBとは、株式公開買付と呼ばれます。世界中で用いられている手法で、M&Aの対象となる企業の株式の取得について、広く不特定多数の株主に公告します。金融商品取引所を通さずに取引されるため、市場価格に上乗せされた株価で買い付けられます。

日本のTOBは、一般的なTOBと異なる側面があります。通常のTOBは、敵対的M&Aや敵対的買収と呼ばれます。その理由は、買収の対象とされる企業の役員などの経営陣の承諾を得ずに実施されるためです。対象企業の資産を獲得後に企業価値を高め、売却して利益を得るのを目的としています。これに対し日本国内のTOBの多くは友好的M&Aと呼ばれるタイプで、買収の対象となる企業の経営陣との話し合いにより、双方が納得した上で実施されます。

MBO:マネジメント・バイアウト

MBOは経営陣やオーナー、または従業員が自社の株式を買い取り、オーナー経営者として独立する手法です。そのメリットは、株主や投資家の意向に左右されない、自由で柔軟性のある経営ができるほか、意思決定のスピード化が図れるようになる点です。

MBOは主に経営体制、企業運営の見直しの対応策として実施されます。また、株式を公開しているメリットが低下したことにより、MBOに踏み切って株式を非上場にする企業も見られます。

株式譲渡

中小企業のM&Aで利用されるのは、ほとんどの場合が株式譲渡か事業譲渡ですが、中でも最も簡易的なのが株式譲渡です。株式譲渡では、個人や法人が保有する株式を売買して、株主を変更します。株主が法人となった場合、売り渡された会社は子会社化され、事業をそのまま継続することが可能です。株式の譲渡は会社組織そのものが改変されるわけではないため、法務局への登記変更や役所への手続きは必要ありません。株式譲渡のメリットは、従業員や取引先に関しても、大きな影響を与えず現状を引き継げる点です。一方のデメリットとしては、簿外債務も取得することになるため、リスクを引き受けないためには事前に十分な調査を実施しなければなりません。

参考)事業譲渡とは

M&Aで見つかる簿外債務とは

簿外債務(偶発債務)とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。中小企業の簿外債務として考えられるのは、未払いの残業代や、回収が困難な売掛金などでしょう。簿外債務でさらに問題となるのが、多額の損失の恐れのある偶発債務です。偶発債務とは、現時点では顕在化していないものの、将来に何らかの原因で顕在化しうる債務のことです。たとえば、知り合いの会社の借入金の保証人になったとします(まだ債務は発生していない)。保証先の会社が借金を返済できなくなった場合、保証人が肩代わりしなければならなくなります(債務が発生する)。偶発債務は、企業価値に大きな影響を与えるリスクがありますので、前述のとおり、企業評価の際に徹底したリサーチが必要です。

M&Aはネガティブなイメージ?

M&Aは、その否定的な面ばかりが語られる傾向にあります。M&Aが「敵対的な合併や買収」のみだと思っている人が多いからかもしれません(日本のメディアで騒がれたことがありました)。しかしM&Aには、有効的な合併や買収もあり、さらに広義な意味合いにも使われ、企業競争力の強化や新規事業の多角化を目的とした業務提携などを指す場合もあります。

友好的なM&Aの利点とは?

一時、メディアを賑わせた敵対的なM&Aですが、友好的なM&Aの方がメリットが大きいとも言えます。

人員確保の負担が少ない

友好的なM&Aの場合、旧経営陣は経営を続投し、従業員もそのまま働くことになります。そのため、吸収または合併した側の企業にとって、人材を調達する負担が少なくなるのです。人材不足が叫ばれる日本にとって、大きなメリットでしょう。ちなみにM&Aの契約書には「キーマン条項」と呼ばれる項目があります。M&Aの後、特定の経営者や従業員(企業の中心人物)が○年以上はたらきつづけることを義務づけるような内容です。

ノウハウが生かされやすい

企業内のノウハウには、属人的になっているものがあります。個々人だけが身につけているものもあれば、企業文化や風土といった集団に属しているものもあります。それらを壊してしまっては、企業の成長性や魅力を毀損してしまうかもしれません。友好的なM&Aでは、そういったノウハウを活用しやすくなります。

M&Aのメリット

  • 他社への事業譲渡や経営権の委譲によって、独自のノウハウや販路などを活かしたまま経営を継続させられる。経営者側では廃業のコストを削減でき、従業員側では雇用継続がなされると同時に、新たな活躍の場が広げられる可能性がある。
  • 利益の上がらない事業を分割して譲渡するなど、「選択と集中」で本業の再生が図られる。
  • 新たな分野への進出により、既存事業とのシナジー効果が発揮される。
  • 企業競争力や市場支配力が強化され、シェア拡大の可能性が高まる。

M&Aのデメリット

  • 対外的なデメリットは、経営方針の変更により取引先に悪影響を与えるリスクがある。M&Aが実施された後に取引条件が変更されたり担当者が変更されたりすると、取引先からの反発を招き、契約を打ち切られる場合もあるため要注意。
  • 対内的なデメリットとして、組織の拡大により意思決定のスピードが遅れる、企業ガバナンスが弱体化する点などが挙げられる。合併に伴う異なる企業文化の融合に時間を要し、新たな運営体制の構築が遅れると、事業にマイナスの影響を及ぼす場合も。また、前述の簿外債務や偶発債務によって、事前に想定していなかった損失を被ることがある。

M&Aの相手の探し方

M&Aでは、株式や事業が売買されます。買い手と売り手の両方が必要になるわけですが、どのように見つければよいのでしょうか。大企業や上場企業であれば、自社内にM&Aを担当する部門を持っている会社もあります。しかし中小企業の場合は、自力でM&Aの相手を探すは一苦労です(知り合いの経営者に頼む、といったケースもあります)。そういったときには、M&Aを仲介する企業に依頼して、候補企業を探してもらうという方法もありますので、検討してみましょう。また、顧問税理士や中小企業診断士、取引金融機関に相談するのも一手です。さらには、M&Aのマッチングサイトもありますので、探してみましょう。

M&A案件が出回ると成立しない?

あなたが売り手だったとします。なるべく早く、かつ高い金額で売却したいと考えて、複数の仲介会社に依頼したくなるかもしれませんが、要注意です。なぜなら、買い手の元にも複数の仲介会社からM&A案件が持ち寄られ、「あれ、これ前に見た案件だ。」と買い手のM&A担当者に思われてしまうリスクがあるからです。このように、同じ買い手に複数回、同じM&A案件が持ち込まれてしまうと、「出回り案件」と呼ばれて避けられることがあります。回避されてしまう理由は様々ですが、「残り物には福がある」とは思ってもらえないから、というのが最大の原因でしょう。M&Aの情報は、ごくごく限られた信頼できる相手にのみ伝える方が無難かもしれません。

M&Aで未来が変わる

政府が奨励する現代のM&Aは、法整備も進み、さまざまな企業課題の解決策として期待されています。しかし、日本の人事制度や企業文化など、M&Aの成功までには数多くの障害が存在しています。また、M&Aに精通した人材の不足も指摘されており、企業自身がM&Aに対する理解を深められるかがカギとなりそうです。実施するにあたっては、M&Aの手法や形態、その手続きなども含めた十分な検討が求められます。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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