債権譲渡登記とは?メリット、デメリット、申請方法について解説
更新日:2024年06月26日

債権譲渡登記とは、法人による金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための手段です。債権の二重譲渡を防げる、取引先に知られずに資金調達できるなどのメリットがあり、ファクタリングなどの資金調達において広く活用されています。一方で、費用の発生や経営状態を周囲に知られるリスクといったデメリットが存在するのも事実です。
本記事では、債権譲渡登記の概要や手続き方法、ファクタリングに用いるメリットや注意点などについて解説します。
目次
債権譲渡登記とは?対抗要件や動産譲渡登記との違い
債権譲渡登記とは、法人による金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための手段です。債権譲渡登記は、ファクタリング(売掛債権の資金化)・割引手形・債権回収・代物弁済・債権譲渡担保など、企業の資金調達に広く利用されています。
債権譲渡登記制度は、1998年10月に債権流動化などの資金調達手段の多様化を背景に運用が開始されました。また、2005年10月には法改正により、将来発生する予定の債権(将来債権)の譲渡についても登記(動産譲渡登記)できるようになりました。
ここでは「債権譲渡登記の対抗要件」についての概要と「動産譲渡登記」との違いについて解説します。
債権譲渡登記の対抗要件
債権譲渡の対抗要件には、次の2つがあります。
- 第三者対抗要件
- 債務者対抗要件
以下にそれぞれについて詳しく解説しますが、「債権譲渡登記」とはこの2つのうちの「第三者対抗要件」を簡便に具備するための手段です。
【債権譲渡の対抗要件とは】
債権を譲渡した場合、新しい債権者(譲受人)が債務者やその他の第三者に対して債権を主張するには、以下のどちらかの手続きが必要です(民法第467条1項)。
- 譲渡人(旧債権者)から債務者に対して、債権譲渡の事実を通知する
- 債務者の承諾を得る
さらに、債権譲渡を第三者(二重譲受人・差押債権者・破産管財人など)に対抗するためには、上記の通知または承諾を「確定日付のある証書(公証役場において確定日付を付与された証書)」でする必要があります(民法第467条2項)。
このように、法人が多数の債権を一括して譲渡する場合、すべての債務者に対して上記の手続きをするのは現実的に困難です。そこで法人の金銭債権譲渡について、第三者に対する対抗要件を備えるために債権譲渡登記をします。
債権譲渡登記をすれば、債務者への個別の通知や承諾が不要になり、手続きが大幅に簡素化されます。また、将来発生する債権や不特定の債権の譲渡も可能です。つまり債権譲渡登記は、法人による債権の流動化を促進し、企業の資金調達の選択肢を広げる役割として機能しています。
ただし、債権譲渡登記をするだけでは「債務者対抗要件」を具備できないため注意が必要です。
第三者対抗要件
第三者対抗要件とは、同一の債権が二重に譲渡された場合に、どちらの債権者(譲受人)の権利が優先されるかを決める要件のことです。
債権は原則として自由に譲渡できますが、もし同じ債権が複数の人に譲渡されてしまった場合、誰が本当の債権者なのかの優劣を決めなければなりません。このとき、第三者対抗要件を備えている債権者が具備順で優先されます。そこで債権譲渡登記によって、第三者に対する対抗要件を具備します。
ただし債権譲渡登記は、債務者への個別の通知や承諾を得ずに、譲渡人と譲受人が共同申請するため、両者が通謀して実際には存在しない債権や、すでに消滅した債権を登記してしまう可能性も排除できません。つまり債権譲渡登記をしても、その債権の存在や譲渡が公的に証明されているわけではないということです。
債権譲渡登記は、第三者対抗要件を具備する手段に過ぎず、債権の存在や譲渡の有効性を証明するものではないことに注意が必要です。
債務者対抗要件
債務者対抗要件とは、債権者が債務者から支払いを拒否されないための要件です。債務者対抗要件は、債務者が二重に支払うことを防ぐためのもので、債権者が債務者に対して支払いを求めている場合、債権者が債務者対抗要件を満たすまで債務者は支払いを拒否できます。
【一般的な債務者対抗要件】
一般的に債権者が債務者対抗要件を具備するためには、以下のいずれかの方法で債務者対抗要件を具備する必要があります(民法第467条1項)。
- 譲渡人が債務者に債権譲渡の事実を通知する
- 債務者が債権譲渡を承諾する
【債権譲渡登記制度を利用した場合の債務者対抗要件(法人が譲渡人の場合のみ)】
債権譲渡登記制度を利用した場合、「第三者に対する対抗要件」のみを具備できます。その際、債務者の同意や関与は不要です。一方で「債務者対抗要件」については、実際に必要が生じた時点で、債務者に対し登記事項証明書を交付して債権譲渡の事実を通知することにより、後から具備できます。
- 債権譲渡登記が完了した後、譲渡人または譲受人が債務者に対して登記事項証明書を交付し、債権譲渡登記の事実を通知する
- 債務者が債権譲渡登記の事実を承諾する
債権譲渡登記制度では、第三者対抗要件と債務者対抗要件の具備を分離できるため、債務者に関与を求めずに第三者対抗要件だけを先に備えられ、債務者への対抗要件は後から必要に応じて具備できる利点があります。
債権譲渡登記と動産譲渡登記の違い
債権譲渡登記と同様に、動産譲渡登記も法人が第三者対抗要件を備えるための制度です。ただし、登記対象が「債権」か「動産」かの違いがあります。
具体的な活用例として、担保を持たない中小企業が、自社の保有する動産(商品在庫や機械設備)を、金融機関への融資の担保(動産担保)として活用する場合が挙げられます。従来は動産を実際に引き渡さなければ第三者対抗要件を具備できませんでしたが、動産譲渡登記をすれば、動産を占有したまま事業での利用が可能です。
いずれの制度も、従来は活用が難しかった資産(債権や動産)を有効に活用することを可能にし、企業の資金調達の選択肢を広げ、事業展開を後押ししています。
ファクタリングに債権譲渡登記を用いるメリット
ファクタリングは資金調達の一手段で、「債権の買取」を意味します。企業が取引先から後日請求する代金、つまり売掛債権(主として売掛金)を活用する方法です。
具体的には、売掛金をファクタリング会社に売り渡し、その代わりに手数料が差し引かれた現金を受け取ります。
ファクタリングを用いると、売掛金の支払い期日を待つことなく早期に資金を得られ、結果として資金繰りの改善が見込めます。また、ファクタリングは銀行からの借入金や融資とは異なり、負債を増やすことなく資金調達が可能です。
ファクタリングに債権譲渡登記を用いるメリットとしては、次の2点が挙げられます。
- 二重譲渡を防げる
- 取引先に知られることなく資金調達できる
以下、それぞれについて解説します。
二重譲渡を防げる【ファクタリング会社】
債権譲渡の際に公的な登記制度を利用することで、同一債権が複数の企業に譲渡されてしまう「二重譲渡」のリスクを回避できます。
二重譲渡が起こると、債務者側は誰に債務を支払えばいいのか判断できません。また、すでに債権を買い取っているファクタリング会社は、債権回収ができなくなるおそれもあります。
しかし、債権譲渡を事前に登記しておけば、現在の債権譲渡関係の確認が可能です。債権買取企業(ファクタリング会社)は、登記情報から適切な債権保有者を特定できるため、二重譲渡を未然に防げます。万が一トラブルが起きた場合でも、登記により自社の権利を主張できます。
取引先に知られることなく資金調達できる【ファクタリング利用者】
従来の民法上の手続きでは、債権譲渡の事実を債務者(売掛先)に通知する必要がありました。しかし、債務者によっては債権譲渡を望まないケースがあり、取引関係に影響が出るおそれもあります。
一方、債権譲渡登記を活用すれば、債務者に知られずに債権を譲渡できます。ファクタリング会社側としては、債務者の関与なく安心して取引ができ、ファクタリング利用企業側も債務者への影響を気にせず資金調達が可能です。
ただし、登記データは法務局に公開されているため、債務者側が登記情報を確認すれば、債権譲渡の事実が判明します。仮にそうであったとしても、閲覧には手数料がかかるため、債務者が積極的に確認する可能性は低いと考えられます。
さらに、ファクタリングの契約形態には「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」があります。そのうちの2社間ファクタリングで契約すれば、債権譲渡登記をせずとも、取引先に知られずファクタリングでの資金調達が可能です。そのため、債権譲渡登記なしで2社間ファクタリングの契約をするのが、おすすめです。
債権譲渡登記の申請および確認方法
債権譲渡登記は、一定の手続きと費用が必要です。申請に際しては、準備すべき書類や費用を確認し、適切に対応する必要があります。また登記が完了した後は、登記内容を確認することも重要です。ここでは、債権譲渡登記の申請方法と確認方法について解説します。
債権譲渡登記の申請から確認までの手順を押さえておくことで、スムーズな登記手続きと債権保全につなげましょう。
債権譲渡登記の申請方法
債権譲渡登記では、譲渡人と譲受人が共同で申請する必要があります。登記申請には「債権譲渡登記」「延長登記」「抹消登記」の3つの種類があり、それぞれに対応した登録免許税(後述)の納付が必要です。
申請方法としては「書面方式」「事前提供方式」「オンライン方式」が選択できます。
書面方式 | 申請データ※CD-R(CD-RW)に記録 | 窓口に持参または郵送等 |
登記申請書 | ||
添付書面 | ||
事前提供方式 | 申請データ | 事前提供データとしてオンラインによる提出 |
登記申請書 | 窓口に持参または郵送等 | |
添付書面 | ||
オンライン方式 | 申請データ | オンラインにより提出 |
登記申請書 | ||
添付書面 |
事前提供方式は、先にオンラインでデータを送信し、その後に申請書や添付書類を法務局に提出します。
オンライン方式は、法務省のオンライン申請システムを利用して申請情報とデータを入力・作成し、電子署名を付与して送信するため、磁気ディスクの提出は不要です。
債権譲渡登記の確認方法
債権譲渡登記は、先に設定された担保権者の権利が優先されるため、債権譲渡登記の確認は重要です。ただし債権譲渡登記は、不動産登記とは異なり一般に公開することを目的としていません。債権譲渡が公になると、債務者が債権者(譲渡人)を不審に思い、取引を控えるおそれがあるためです。
登記内容の公開範囲には制限があり、登記情報の公開レベルは下記の3段階に分かれています。
請求を認められる人 | 登記証明書 | 証明書の内容 | 請求先 |
誰でも | 概要記録事項証明書 | その法人が譲渡人となった動産譲渡登記・債権譲渡登記の有無 | 全国の法務局 |
登記事項概要証明書 | 大まかな動産譲渡登記・債権譲渡登記の内容 | 東京法務局民事行政部動産登録課/債権登録課 | |
利害関係人に限定 | 登記事項証明書 | 詳細な動産譲渡登記・債権譲渡登記の内容 |
一般には登記の有無までしかわかりませんが、利害関係次第では詳細を知ることが可能な仕組みになっています。
債権譲渡登記のデメリットや注意点
債権譲渡登記は、法人が金銭債権などを譲渡する際に、簡便に第三者に対抗できる制度として近年注目されています。しかし、メリットばかりではなく、以下のようなデメリットや注意点も存在します。
- 登記には費用が発生する
- 譲渡に関する契約書を作成しておく
- 経営状態を周囲に知られるリスクがある
以下、それぞれについて解説します。
登記には費用が発生する
債権譲渡登記を利用する際には、登録免許税と司法書士報酬の支払いが発生します。
登録免許税は以下のとおりです。
債権譲渡登記 | 債権個数 5,000個以下 |
1件につき7,500円 |
債権個数 5,000個超 |
1件につき1万5,000円 | |
延長登記 | 1件につき3,000円 | |
抹消登記 | 1件につき1,000円 |
司法書士に依頼する場合の報酬は、数万円から10万円程度が一般的です。
ファクタリングの利用に際しては、売掛債権の売買手数料が発生します。債権譲渡登記の費用については、ファクタリング会社側で負担する場合もありますが、その場合には手数料が割高になる懸念もあります。
譲渡に関する契約書を作成しておく
債権は目に見えない資産であり、その保有と譲渡を証明することが難しいため、債権譲渡登記を利用する際には、トラブル防止のため債権譲渡契約を締結することが重要です。
債権譲渡には当事者間の合意が必須であり、将来の債務不履行リスクも考慮する必要があります。債権譲渡契約作成の際、注意すべき主な点は以下のとおりです。
- 譲渡人と譲受人が同意した内容を反映した債権譲渡契約書を作成する
- 契約書には自筆で署名と住所を記載し、押印する
- 債務不履行に備え、弁済金額の過不足に関する項目を設ける
これらを踏まえた証拠力のある書類を作成し、トラブル防止をはかることが重要です。
経営状態を周囲に知られるリスクがある
債権譲渡には、経営状態が周囲に知られるリスクもあるため注意が必要です。
債権譲渡を行う際、対象の債権に譲渡禁止の特約がないか確認しましょう。特約がある場合、譲受人は債権を行使できなくなるリスクがあります。そのため、特約を無効化する必要があり、無効化には売掛先(債務者)の同意が必要です。この過程で債権譲渡の意図が伝わってしまうのです。
こうした債権譲渡による一連の流れが、売掛先(債務者)に経営状況の悪化を連想させ、その後の取引関係に悪影響を及ぼしかねません。また、債権譲渡登記を行えば、取引先以外の第三者にも情報が開示されてしまいます。
このように、債権譲渡には売掛先への影響や情報開示のリスクが伴うため、利用にあたっては慎重な検討が必要です。
債権譲渡登記まとめ
債権譲渡登記とは、法人による金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための手段です。ファクタリングをはじめ、企業の資金調達に広く利用されています。
債権譲渡登記のメリットは、二重譲渡を防げること、取引先に知られずに資金調達できることです。一方で、登録免許税や司法書士報酬など一定の費用がかかる点や、経営状態が周囲に知れ渡るリスクがあるなどのデメリットも存在します。
また、債権譲渡登記では「第三者対抗要件」を具備できますが、「債務者対抗要件」の具備には債務者への通知や承諾が不可欠です。
債権譲渡登記と同じく「動産譲渡登記」は、法人間での動産譲渡時の第三者対抗要件を備えます。その違いは、登記対象が「動産」か「債権」かどうかです。両制度とも、従来は活用が難しかった資産の流動化を後押ししています。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
---|---|
会社名 | 株式会社フリーウェイジャパン |
法人番号 | 1011101045361 |
事業内容 |
|
本社所在地 | 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町12-8 Biz-ark日本橋6F |
所属団体 | 一般社団法人Fintech協会 |
顧問弁護士 | AZX総合法律事務所 |