資金繰りとは?経営者が知っておくべき基礎知識を解説

2023.06.24

資金繰り

資金繰りとは、会社や事業の収入と支出を管理して、現金収支の過不足を調整することです。悪化する要因としてキャッシュインの減少やキャッシュアウトの増加が挙げられます。

本記事で、資金繰りが悪化する要因や改善策など、経営者が知っておくべき基礎知識を把握しておきましょう。

目次

資金繰りとは

資金繰りとは、会社や事業の収入と支出を管理して、現金収支の過不足を調整することです。「資金繰り」を使って、「資金繰り悪化」や「資金繰り改善」などと表現することがあります。

資金繰り悪化とは、会社のお金の流れに問題が生じて、現在もしくは将来的に手元の資金が不足することです。一方、資金繰り改善は、資金繰りが悪化した状況を何かしらの方法で変えて、手元資金に余裕を持たせることを指します。

会社経営を傾かせないために、経営者や財務・経理の部署は資金繰りが悪化しないように注意を払わなければなりません。ここから、資金繰りの重要性や類似する言葉との違いについて、詳しく解説します。

資金繰りの重要性

主に以下の理由から、資金繰りの重要性が認識されています。

  • 支払いを滞らせないため
  • 黒字倒産をさせないため

各支払いを滞らせないために、現金収支を意識した資金繰りの管理が重要です。資金繰りの管理がずさんだと、将来的に手元資金が不足して各支払いが困難になるおそれがあります。

銀行への借入金返済や従業員への給料支払い、仕入れ先への代金支払いなどが滞ると、会社の信頼を失うでしょう。借入金や代金の回収が困難な会社とは、銀行も仕入れ先も取引しようとしません。給料を支払えなければ、優秀な従業員が他社へ流出することもあるでしょう。

また、自社を黒字倒産させないためにも、資金繰りが重要です。黒字倒産とは、帳簿上利益が発生している(黒字)にもかかわらず、資金不足が生じて最終的に倒産することを指します。

黒字倒産に至るのは、資金と利益を混同しているためです。帳簿上の黒字だからといって、現金も増えるとは限りません。

参考:黒字倒産とは~利益が出ていても倒産する原因を解説~

資金繰りと似た言葉の違い

キャッシュフローや資金調達など、いくつか資金繰りと混同しやすい言葉が存在します。それぞれの違いを確認していきましょう。

キャッシュフローとの違い

資金(お金)の流れを管理する対象が、資金繰りとキャッシュフローの主な違いです。

キャッシュフローとは、事業におけるお金の流れを指します。キャッシュフローで管理するのは、基本的に過去のお金の流れです。それに対して、資金繰りでは未来のお金の流れを管理します。

たとえば、キャッシュフローをチェックすれば「なぜ今現金の過不足が生じているか」を把握できますが、「来月不足するか」まではわかりません。一方、資金繰りは、今後現金不足が発生しないか確認する手段として有効です。

資金調達との違い

資金繰りは現金収支の過不足を調整することであるのに対し、資金調達は会社を経営するための資金を調達することです。資金調達は、あくまで資金繰りの手段のひとつと理解するとよいでしょう。

資金調達には、主にデットファイナンス・エクイティファイナンス・アセットファイナンスの3つの方法があります。

デットファイナンスとは、負債を増やして資金を調達することです。主に銀行からの融資が該当します。

エクイティファイナンスとは、株主資本を増やして資金を調達することです。主に投資家からの出資が該当します。

アセットファイナンスとは、会社の資産を売却して資金を調達することです。主にM&Aや事業譲渡、ファクタリングなどが該当します。

調達した資金に返済義務があるか、ないかは、資金繰りに影響する要素です。一般的にデットファイナンスは返済義務があるのに対し、エクイティファイナンスには返済義務がありません。

参考:資金調達とは~4つの方法について具体的かつ簡単に解説します~

資金繰りが悪化する原因

資金繰りとキャッシュフローは別の概念ですが、両者は密接に関わっています。なぜなら、キャッシュフローに関連する「キャッシュインの減少」や「キャッシュアウトの増加」が資金繰りが悪化する原因のためです。

キャッシュインとは、対象期間内にお金が入ってくること、キャッシュアウトとは対象期間内にお金が出ていくことを指します。ここから、キャッシュインの減少・キャッシュアウトの増加が資金繰り悪化につながる理由や、具体例を確認していきましょう。

キャッシュインの減少

キャッシュインの減少とは、入ってくるお金が減ることを意味します。キャッシュアウトが今までと同じにもかかわらず、入ってくるお金が少なくなれば、現金が減り資金繰りが悪化するでしょう。

キャッシュインが減少する具体例は以下のとおりです。

  • 自社の商品やサービスの売上高が減少する
  • 売掛金の回収サイクルが長くなる

自社の商品やサービスの売上高が減少すれば、当然入ってくるお金も減ります。また、売上高に変化が生じなかったとしても、売掛金を回収するまでの期間が長くなれば、本来入ってくるタイミングでお金を手に入れられなくなるでしょう。

売掛金などから自社の資金繰り状態を確認する際、以下の式で売上債権回転期間を計算することがあります。

  • (売掛金+受取手形) / 平均月商(年間売上高 ÷ 12か月)

売上債権回転期間の目安は業種によって異なるため、同業他社平均と比較して自社の数値がどうか確認するとよいでしょう。

なお、財務省の発表によると、2018 年度の売上債権回転期間(全産業・全規模)の平均は 1.85か月でした。

参考:財務省「売上債権回転期間」

キャッシュアウトの増加

キャッシュアウトの増加とは、出ていくお金が増えることを意味します。キャッシュインが増えないまま、出ていくお金が増えると、現金が減り資金繰りが悪化するでしょう。

キャッシュアウトが増加する具体例は以下のとおりです。

  • 仕入れのコスト増加
  • 借入による返済額の増加
  • 買掛金の支払いサイクル短期化
  • 在庫の増加

売上の急激な増加に伴い仕入れなどのコストが増加すると、出ていくお金も増える可能性があります。また、設備投資などで借入した場合、毎月の返済額増加に伴い、出ていくお金が増えるでしょう。

取引先の希望で買掛金を支払う期間が短くなる場合も、キャッシュアウトの増加要因です。買掛金などから自社の資金繰り状態を確認する際、以下の式で買入債務回転期間を計算することがあります。

  • (買掛金+支払手形) / 平均月商(年間売上高 ÷ 12か月)

財務省の発表によると、2018 年度の買入債務回転期間(全産業・全規模)の平均は 1.37か月でした。

そのほか、在庫の増加も維持費や不良在庫の発生につながるため、キャッシュアウトの増加要因です。

参考:財務省「買入債務回転期間」

参考:買掛金とは~仕訳、回転率と回転期間、売掛金との違い~

資金繰りですべきこと

資金繰りですべきことは、主に以下の点です。

  • 資金繰り表を作成する
  • 定期的に見直しをする

それぞれ、具体的にすべきことを解説します。

資金繰り表を作成する

資金繰りには、資金繰り表を作成して自社の資金の流れを把握できるようにすることが必要です。

資金繰り表とは、一定期間の現金収入と支出を分類し、集計した表を指します。資金繰り表は、金融機関に融資を申し込む際に提出を求められることもある書類のため、できるだけ正確な数字を記入するようにしましょう。

資金繰り表に定型書式やフォーマットはありません。作り方がわからない場合は、資金繰り表のテンプレートを活用するとよいでしょう。

民間金融機関の金融を補完することを目的に活動する金融機関の「日本政策金融公庫」では、資金繰り表のテンプレートを提供しています。無料でExcel(エクセル)形式で作成できて便利なため、資金繰り表作りで悩んでいる方は以下からダウンロードするとよいでしょう。

参考:日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 中小企業事業」

定期的に見直しをする

資金繰り表作成だけで満足せず、定期的な見直しが必要です。現金収支プラスの状態が続く場合は、設備投資や借入金の一括返済などを検討するとよいでしょう。

また、現金収支がマイナスの場合、入ってくる金額よりも出ていく金額が大きいことになります。現金収支マイナスの状態が続く見込みの場合、現金不足が生じる前に早めの対策を検討しなければなりません。

資金繰りの改善方法

自社の資金繰りを改善するためには、キャッシュインの増加とキャッシュアウトの減少を図らなければなりません。具体的な改善策として、以下の方法が挙げられます。

  • 支払期日と入金期日を交渉する
  • 経費を削減する
  • 在庫量を減らす
  • 資金調達をする
  • 資産を資金化する
  • 返済条件を相談する

それぞれの改善方法を詳しく確認していきましょう。

支払期日と入金期日を交渉する

支払期日と入金期日を交渉することが、資金繰り改善策のひとつです。支払期日を遅くできればキャッシュアウトの減少、入金期日を早めればキャッシュインの増加につながります。

ただし、取引先との交渉のため、慎重な対応が必要です。強引に交渉を押し通すと、相手に迷惑がかかったり、今後の信頼関係にヒビが入ったりするおそれがあります。

また、諸費用を現金ではなく法人カード(会社や個人事業主に発行されるクレジットカード)で支払うようにすると、支払サイクルを長くできるでしょう。

経費を削減する

経費を削減してキャッシュアウトの増加を防ぐことも、資金繰り改善策のひとつです。自社に無駄な経費はないか、一度見直すとよいでしょう。具体例として、接待交際費を必要最小限に抑える、物品購入時は中古やリースを活用する、Web会議を利用して出張を減らすなどがあります。

ただし、安易な経費削減は、従業員からの反感や顧客離れにつながりうるため、十分に注意が必要です。まずは、商品やサービスの質を下げるものや賃金カットなど以外で、経費削減できないか検討しましょう。

参考:交際費とは~仕訳、損金算入の範囲、節税方法について解説~

参考:割賦とは何か~メリット、デメリット、リースやレンタルとの違い~

在庫量を減らす

過剰な在庫はキャッシュアウトの増加要因で、最悪の場合に黒字倒産につながることもあるため、在庫量を適切な分まで減らすことを心がけましょう。過剰な在庫を抱えないためには、販売数をできるだけ正確に予測すること、必要な分だけ在庫にすることが大切です。

また、作業工程をシンプルにしたり、在庫管理システムを導入したりすることも、適切な在庫量に抑えることにつながります。

資金調達をする

資金繰りが苦しくなりそうなときは、早めに資金調達も必要です。銀行や日本政策金融公庫への借入申し込みを検討しましょう。

借入には審査が必要なため、申し込んでから入金までに数週間から1か月かかることもあります。ギリギリになってから借入を申し込んでも、支払いに間に合わない場合や審査に通らない場合があるため、十分に注意しましょう。

資金繰りが悪化してから慌てないように、手元資金が潤沢なうちから銀行との取引をはじめておくことも大切です。銀行との接点があれば、新規融資を申し込むよりもスムーズに融資を受けられる可能性があります。

資産を資金化する

遊休資産を資金化することもキャッシュインの増加につながるため、資金繰り改善策のひとつです。遊休資産を資金化すれば、現金を得られるだけでなく、固定資産税や維持費など支払うコストも減らせます。

具体的に遊休資産とは、一度事業用に使いはじめるも、さまざまな事情から稼働を停止している土地・建物・工場・機械設備などのことです。ただし、諸費用支払いのために慌てて売却しようとすると、相場より安くなる可能性があります。遊休資産の資金化は、事業譲渡や会社分割などの手法も含めて「アセット・リストラクチャリング」とも呼ばれます。

返済条件を相談する

すでに金融機関からの借り入れがある場合は、返済条件を相談すること(リスケ)も対策のひとつです。返済期間の延長や毎月返済額の減額などが可能か、取引金融機関に一度相談してみましょう。

金融機関にとっても、支払いが滞るよりは返済条件を変更した方がよいため、相談に乗る可能性が高いです。また、金融庁は「金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべき」と述べています。

なお、返済条件変更にあたって、金融機関側から経営改善計画書の提出を求められることが一般的です。経営改善計画書とは、経営上悪い点をどのように改善していくか数値を用いて示したものを指します。

資金繰りまとめ

資金繰りとは、会社や事業の収入と支出を管理して、現金収支の過不足を調整することです。各方面への支払を滞らせないため、黒字倒産しないために資金繰りは重要です。

資金繰りが悪化する主な要因として、キャッシュインの減少、キャッシュアウトの増加が挙げられます。そこで、資金繰り悪化を改善するためには、経費を削減することや資金調達することなどがポイントです。

手元に現金がなくなってから、慌てて資金調達しようとしてもうまくいくとは限りません。資金繰り表を活用して早めの対策を心がけましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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