与信とは?意味や与信管理・与信審査の方法をわかりやすく解説
更新日:2024年12月16日
与信とは、信用を相手に与えることです。関連する言葉として、与信管理・審査(調査)などがあります。自社の資金繰り悪化や信用が落ちることを防ぐためには、与信管理が欠かせません。本記事では、与信管理の方法や流れについて詳しく解説します。
目次
与信とは
与信とは、取引相手に対して信用を供与することを意味する言葉を指します。また、一般的に与信取引とは取引先に信用を供与し、商品を納品したりサービスを提供したりしてから後で代金を請求する取引のことです。
商品やサービスを提供しても取引先に支払ってもらえない可能性があるため、与信取引にはある程度のリスクがあります。それにもかかわらず頻繁に実施されているのは、与信取引を実施することでビジネスの効率化につながるためです。
商品・サービス提供の都度、代金の振込や現金の授受をする場合と比べて、与信取引は手間を省けます。また、与信取引により買い手は手元に現金がなくても購入できるため、売り手もより大きな取引を期待できるでしょう。
「与信」が重要になる場面
「与信」が重要になるのは、主に以下のとおりです。
- 個人がクレジットカードやローンを申し込む場面
- 個人事業主や企業が掛けで取引する場面
詳しく解説します。
個人がクレジットカードやローンを申し込む場面
プライベートでクレジットカードやマイカーローンを申し込む場面のように、日常生活でも「与信」が重視されることがあります。
クレジットカードなどにおける与信とは、対象者(利用者)を信用して利用限度額・融資限度額を与えることです。金融機関は属性や利用履歴などを考慮したうえで、利用者の「与信枠」(利用限度額)を決めます。
利用者によるクレジットカードやローンの支払いが滞ることにより、最終的に債権を回収できなくなるのを防ぐことが、金融機関が「与信枠」を設定する主な目的です。原則として、利用者は与信枠を超えた金額の利用・借入はできません。
なお、本記事主に解説するのは、クレジットカードやローンにおける「与信」ではなく、ビジネスにおける「与信」です。
個人事業主や企業が掛けで取引する場面
個人事業主や企業が「掛け」で取引する場面においても、「与信」が重要な意味を持ちます。
掛け(掛け取引)とは、取引で発生した金額をその場で支払わず、あらかじめ定められた期日にまとめて精算することです。商品やサービスを提供した側に発生する金額を売掛金(売掛債権)、商品やサービスを受けたことにより後日支払わなければならない金額を買掛金と呼びます。
とくに、買い手が商品やサービスの提供を受けてから、後日に届く請求書に基づき代金を支払う「請求書払い」などにおいて、売り手は「与信」の判断が必要です。売り手は、代金の回収漏れを防ぐために、慎重に「与信」を判断しなければなりません。
「与信」に関連する用語の意味
「与信」に関連する用語として、「与信管理」や「与信審査(調査)」があります。それぞれの用語の意味について、確認していきましょう。
与信管理とは
与信管理とは、取引先から代金回収できなくなることを防ぐために実施する管理活動のことです。金融機関が対象者に貸し出しできる額を決める、取引先に対して販売できる額を設定する、新規取引を実施してもよいか判断するなどが与信管理の具体例として挙げられます。
与信管理と債権管理の主な違いは、いつ実施するかという点です。債権管理がすでに発生した債権を管理するための行動であるのに対し、与信管理は債権発生前にも債権発生後にも実施する行動を指します。
そのため、債権管理は与信管理のなかのひとつの行動ともいえるでしょう。
与信審査・与信調査とは
与信審査(与信調査)も、与信管理のなかのひとつに含まれる行動です。主に与信管理にあたって、取引先が信用できるかを確認するために実施する審査や調査のことを指します。
与信審査を実施するタイミングは、金融機関がクレジットカード・各種ローンを申し込んだ人の支払い能力を判断する際や、企業が掛け取引を始める際などです。与信審査を実施することにより、リスクを抑えるために取引相手に対してどれだけ信用を与えるべきかを判断しやすくなります。
なお、与信審査の結果次第で、取引が見送られることもあるでしょう。
ビジネスにおいて与信審査・与信管理が重要な理由
与信取引を実施するにあたっては、与信審査や与信管理が欠かせません。主な理由は、以下のとおりです。
- 資金繰りの悪化を回避する
- 自社の信用を失うことを防ぐ
各理由について、詳しく解説します。
資金繰りの悪化を回避する
資金繰りの悪化を回避するには、与信審査や与信管理が重要とされています。資金繰りとは、ビジネスを円滑に進めるために事業資金の過不足が発生しないよう調整することです。
与信管理を怠ると、取引先からの代金回収漏れが発生するリスクが高まります。なぜなら、相手が「支払い能力の低い企業」「倒産リスクの高い企業」「代金を意図的に支払わない企業」などであることを見逃して取引してしまう可能性があるためです。その結果、大きな取引の代金を回収できなかったり、回収漏れが頻繁に発生したりすると、資金繰りが悪化しかねません。
たとえ利益が黒字であっても本来得られるはずのお金が回収できなければ、そのうち手元資金が不足して諸経費の支払いが困難になり、最悪倒産(黒字倒産)に至るでしょう。その点、与信管理を徹底していれば、取引相手の見極めをして回収漏れを極力抑え、資金繰りの悪化や黒字倒産を避けられます。
自社の信用を失うことを防ぐ
自社の信用を失うことを防ぐためにも、与信審査や与信管理が大切です。
すでに紹介したとおり、与信管理が不十分で回収漏れが頻繁に発生すると資金繰りがうまくいかなくなります。すると、株主や金融機関が自社のことをリスクの高い出資先・融資先とみなすようになるでしょう。
また、ほかの取引先からも、「見極めができない会社」「安定した営業基盤を築けていない会社」などの評価をされる可能性があります。その点、与信管理の体制を整えていれば、取引相手の見極められるため、株主・金融機関・ほかの取引先などから「信頼できる会社」と評価されやすくなるでしょう。
与信審査の種類と具体的な方法
与信審査(調査)の種類は主に以下のとおりです。
- 内部調査
- 直接調査・訪問調査
- 外部調査
- 依頼調査
ここから、各審査(調査)の具体的な方法について解説します。
内部調査
内部調査(社内調査)とは、自社で保有している情報を中心に調査する方法です。過去に取引がある場合は、取引履歴などでそのときの債権の回収状況がどうだったのかを確認することにより、対象先のある程度の信頼度を判定できます。
内部調査を実施するメリットは、基本的にコストがかからない点です。また、社内で作業を完結できるため、時間や労力も抑えられるでしょう。
一方、得られる情報に限りがある点が、内部調査に頼るデメリットです。そもそも、過去に取引がなければ判断材料をあまり集められないでしょう。また、担当者の主観に左右されやすい点もデメリットとして挙げられます。
直接調査・訪問調査
直接調査とは、取引相手から直接情報を入手する調査方法です。直接調査の具体的な手段として、相手の会社を訪問する「訪問調査」や電話で取引先からヒアリングする「電話調査」、メールを送って確認する「メール調査」などがあります。
たとえば、取引先(取引予定先)と面談して会社概要やビジネスモデルなどを聞き取りすることで相手をより深く知れば、信頼できるのかも判断しやすくなるでしょう。また、取引先の工場や事務所を訪問すれば、労働環境に問題はないか、設備は整っているのかなどもある程度わかります。
紙やデータだけをチェックするよりも解像度の高い情報を得られる点が、直接調査の主なメリットです。一方、担当者の聞き方や態度によって取引先に悪い印象を与えてしまい、取引中止を言い渡される可能性がある点がデメリットとして挙げられます。
外部調査
外部調査とは、自社や取引先のリソース以外を活用して情報を入手する調査です。具体例として、第三者機関のデータベースを活用して企業情報を確認したり、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を入手して定量分析したりする方法が挙げられます。
情報の入手方法は、官公庁の情報を閲覧する、インターネット上で検索するなどです。また、内部調査や直接調査で集めた情報が正しいのか確認するため、対象先に関わっている業者やほかの取引先などから情報を入手すること(側面調査)も、外部調査のひとつに分類できます。
内部調査・直接調査とあわせて実施することでより精度の高い情報を集められる点が、外部調査のメリットです。一方で、実施するにあたって手間や時間を要する点がデメリットとして挙げられます。
依頼調査
依頼調査とは、自社で調査に動かずに信用調査会社へ依頼する方法です。信用調査会社に依頼すれば対象先の評点などもわかるため、信頼できる会社か判断する際に役立ちます。
依頼調査のメリットは、専門知識がなくても外部の専門家による細かな情報を得られる点です。新しい情報を得られることが一般的なため、より正確性も高まるでしょう。
一方、依頼にあたってコストがかかる点は依頼調査のデメリットです。また、調査には一定の期間を要するため、結果を待っている間に商機を逃してしまう可能性もあります。
与信管理の方法・流れ
与信管理の方法・流れは、以下のとおりです。
- 取引先(取引予定先)の与信審査をする
- 与信限度額を設定する
- 与信取引実施後に債権を管理する
それぞれ解説します。
1. 取引先(取引予定先)の与信審査をする
新たに取引を開始するケースのように、リスクの存在に気づいた時点で取引先(取引予定先)の与信審査を始めます。
まずは過去の取引履歴を確認する、インターネットで検索する、官公庁の公開情報を閲覧するなど、できるところから審査(調査)を進めましょう。直接調査を実施する場合は、相手に不快な思いをさせないように段取りを組みます。
企業概要を入手したら、相手から伝えられた代表取締役などの役員の名前が本当に登記簿に記載されているか、本社住所と登記簿住所に変わりはないかなどを確認することが大切です。また、対象先の財務情報や周囲の評判なども、与信審査の重要な判断材料とされます。
2. 与信限度額を設定する
与信審査を通して対象企業の分析を終えたら、取引先が倒産する際に自社が被るリスクを軽減するために与信限度額を設定します。企業ごとの取引で発生する債権額を、与信限度額とすることが一般的です。
与信限度額を設定する際は、自社の純資産や取引で発生する売上債権額などを参考にします。具体的な方法のひとつが、自社の純資産に10%を乗じたうえで、取引先の信用度に基づき与信限度額を調整する方法です。
なお、与信限度額を設定する際は、基本的に担当者による与信限度申請書の提出、上席の承認・決済といったフローを経なければなりません。
3. 与信取引実施後に債権を管理する
与信限度額を設定して取引を実施してからも、対象債権の回収状況がどうなっているのかを随時把握する債権管理の作業が必要です。
債権管理の具体例として、以下が挙げられます。
- 請求管理
- 入金管理
- 滞留債権管理
請求管理は、販売先に対して、郵便やメールなどで請求書を送付することです。相手に期日や金額をはっきりと伝えるため、失念しないようにしましょう。
入金管理は、期日までに代金が入金されているかを確認することです。滞留債権管理は、期日が到来しても支払われていない債権の回収見込みを確認・把握することを指します。
なお、取引先からの回収に懸念が生じた場合は、新たな取引を見送る、現在の条件を見直すなどの措置を迅速に検討しなければなりません。
与信管理を実施するにあたって大切なこと
与信管理を実施するにあたって大切なことは、以下のとおりです。
- 定期的に与信限度額を見直す
- 社内での情報共有を徹底する
- 偏った情報に頼らない
- コストを考慮する
それぞれ確認していきましょう。
定期的に与信限度額を見直す
与信限度額は、設定してからも定期的に見直すようにしましょう。なぜなら、審査したときと取引先の状況や取り巻く環境が変わっている可能性があるためです。
大企業や老舗企業、自社と長く付き合いのある優良企業などでも、景気の悪化や特殊要因の発生などにより急に支払能力が悪化する可能性はあります。そのため、毎年対象先が決算発表するタイミングなどごとに、見直しをするとよいでしょう。見直し時期が到来していなくても、信頼を揺るがすニュースやプレスリリースがあった場合、支払遅延が発生した場合などには、与信限度額の見直しや引き下げが必要です。
なお、新規取引を開始した先のように、取引を重ねるにつれて最初に設定した与信限度額を引き上げるケースもあります。
社内での情報共有を徹底する
与信管理を実施するにあたって、社内における情報共有体制を整えておきましょう。
リスクを軽減するためには、対象先に不穏な動きがあった際に迅速な対応が求められます。そのため、債権管理では些細な違和感も見逃さないことが大切です。
たとえば、営業部と債権管理を担う部署が綿密に連携していれば、営業部の担当者が対象先を訪問した際に事務所や従業員に関する違和感に気づくかもしれません。そこから与信限度額の見直しにつなげれば、回収不能に陥る債権額を抑えられる可能性があります。
偏った情報に頼らない
偏った情報に頼らないことも、与信管理において重要です。「今までも回収できているから大丈夫」など、自社調査で担当者が安易に判断することのないようにしましょう。
偏った情報に頼らないようにするには、社内で評価基準を統一することがポイントです。また、より客観的な判断を目指すべく、第三者機関(信用調査会社)への依頼も検討しましょう。
コストを考慮する
与信管理には、コストや時間がかかることをあらかじめ理解しておかなければなりません。回収不能に陥るリスクは軽減できますが、取引するたびに信用調査会社に調査を依頼していると莫大な費用がかかるため、かえって資金繰りを悪化させかねません。
与信取引の額・取引の重要性・対象先への懸念・調査にかかる時間や費用など、さまざまな事情を考慮したうえで、どのような調査を実施するのかを決めましょう。
与信まとめ
与信とは、取引相手に対して信用を供与することです。また、取引先から代金回収できなくなることを防ぐために実施する管理活動を与信管理と呼びます。
与信管理には、与信審査・与信限度額の設定・債権管理などの作業が必要です。与信審査には、内部調査・直接調査・外部調査・依頼調査といった方法があります。
対象先のリスクやかかるコストなどを考慮したうえで、自社でどの与信審査を実施すべきか判断しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
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