資本性劣後ローンとは?メリット・デメリットや融資との違いを解説
更新日:2024年09月04日
資本性劣後ローンとは、帳簿で「負債」として計上するにもかかわらず、金融機関の審査では「資本」としてみなされるローンを指します。銀行の融資審査に影響を与える点などが、利用する主なメリットです。本記事では、資本性劣後ローンと一般的な融資との違いや、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
そもそも劣後ローンとは
そもそも劣後ローンとは、ほかの債権よりも元利金の返済順位が低いローンのことです。劣後特約付きローンやハイブリッドローンと呼ばれることもあります。
劣後ローンを借りている企業の経営が破綻した場合、破産債権を回収できるのは、優先的破産債権を有する債権者・一般の破産債権を有する債権者・劣後的破産債権を有する債権者の順番です。その後、各種債権を有する債権者が回収し終えてから、劣後ローン(約定劣後的破産債権)の債権者が破産債権を回収できます。つまり、貸し手にとって劣後ローンはほかの債権よりリスクの高い債権といえるでしょう。
資本性劣後ローンとは
資本性劣後ローンとは、債権者(金融機関)から出資を受けて、資本金を強化したとみなされるローンのことです。資本性ローンや資本性借入金・資本的借入金などと呼ばれることもあります。
本来、「ローン」は債務に該当するため「借入金」です。資本性劣後ローンも帳簿上は「借入金」ですが、金融機関の審査などでは形式的に「自己資本」とみなされます。劣後ローンの一種である資本性劣後ローンは、万が一に借り手が倒産した場合に回収できる見込みが極めて低いことが「自己資本」とみなされる主な理由です。
金融庁では、資本性劣後ローンのような資本性借入金が、資本に類似していること(資本類似性)を判断するための観点を示しています。資本類似性を認識するための一般的な条件は、以下のとおりです。
- 償還条件(償還期間が5年超・期限一括償還)
- 金利設定(資本に準じ、配当可能利益に応じた金利設定がされている)
- 劣後性(法的破綻時の劣後性が確保されているなど)
そのため、資本性劣後ローンに該当するかどうかは、債務者の属性や資金使途、債権者の属性などに左右されません。
参考)金融庁「資本性借入金の取扱いの明確化に係る「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正について」
資本性劣後ローンと一般的な融資の違い
資本性劣後ローンと一般的な融資は、主に以下の点で異なります。
- 貸借対照表上の違い
- 返済方法の違い
それぞれ解説します。
貸借対照表上の違い
金融機関がチェックする際の貸借対照表(バランスシート)上の項目が、資本性劣後ローンと一般的な融資との主な違いです。
企業が一般的な融資を受ける際、融資金額は貸借対照表で借入金(負債)に該当します。一方、資本性劣後ローンを利用する場合の金額は、貸借対照表で自己資本(資本)の対象です。つまり、一般的な融資を利用すると「負債」が増えるのに対し、資本性劣後ローンを利用した場合は「資本」が増加します。
なお、資本性劣後ローンが自己資本とみなされるのは、あくまで金融機関がチェックする際の貸借対照表上の数字です。帳簿上は、資本性劣後ローンも一般的な融資と同様に負債として計上します。
返済方法の違い
返済方法も、資本性劣後ローンと一般的な融資との違いです。
資本性劣後ローンを利用する場合は、「期日一括返済(期限一括償還)」で返済します。期日一括返済とは、期日に元金をまとめて返済する方法です。
期日一括返済では、毎月元金分を返済せずに利息分のみを支払えばよいため、毎月の支払額を抑えられる点がメリットとして挙げられます。その分、最終期日にまとめて元金の支払いが必要なため、あらかじめ多額の資金を準備しておかなければならない点がデメリットです。
それに対し、1年超の返済期間で一般的な融資を利用する場合は、「分割返済(元金均等返済・元利均等返済)」で返済する点が異なります。分割返済とは、毎月元利金を返済していく返済方法のことです。
また、返済期間も資本性劣後ローンと一般的な融資の違いとして挙げられます。資本性劣後ローンは償還期間が5年超であることが原則であるのに対し、一般的な融資の返済期間は制度や金融機関との交渉次第でさまざまです。
資本性劣後ローンを活用する場面
資本性劣後ローンは、主に以下の場面で活用できるローンです。
- スタートアップが資金調達する場面
- 財政状況が悪化して企業再建に取り組む場面
各場面について、詳しく解説します。
スタートアップが資金調達する場面
スタートアップのように、業歴が浅い企業が資金調達を試みる場面で資本性劣後ローンを利用することがあります。
スタートアップは、ビジネスを始めたばかりの段階では安定した売上を確保できず、資金調達が困難になることが一般的です。当初は金融機関から融資を受けていても、そのうち負債が増加して新たな借入が難しくなるでしょう。
その点、資本性劣後ローンを利用すれば、借入金ではなく自己資本とみなされるため、追加の融資を受けやすくなります。
財政状況が悪化して企業再建に取り組む場面
自社の財政状況が悪化して企業再建に取り組まなければならないケースも、資本性劣後ローンを利用する場面のひとつです。
業績が好調でも、予期せぬ災害の影響で売上が急減してキャッシュフローが悪化することがあります。その際、一般的な融資を受けられなくても、政府系金融機関や民間金融機関の制度を活用して資本性劣後ローンで資金を調達できる場合があるでしょう。
たとえば、今までに日本政策金融公庫では、東日本大震災の被害を受けた企業に対する「震災対応型資本性劣後ローン」や、新型コロナウイルス感染症により深刻な影響を受けた企業に対する「新型コロナ対策資本性劣後ローン」などの資本性劣後ローンを取り扱っています。
資本性劣後ローンのメリット
資本性劣後ローンの主なメリットは、以下のとおりです。
- 資金繰りを安定させる
- 自己資本とみなされるため追加の融資に影響する
- 倒産時に返済の優先度を下げられる
ここから、各メリットについて詳しく解説します。
資金繰りを安定させる
自社の資金繰りを安定させられる点が、資本性劣後ローンを活用するメリットです。
基本的に、資本性劣後ローンは償還期間が5年超で元金を期日一括で返済します。毎月返済するのは利息分のみのため、元金均等で返済する一般的な融資と比べて期間中の返済額を抑えられるでしょう。
また、無担保・無保証人で調達できる可能性があるため、資金繰りが苦しくすぐに資金が必要な場面において、スムーズに借入を申し込めます。
自己資本とみなされるため追加の融資に影響する
資本性劣後ローンは金融機関の審査で自己資本とみなされるため、追加の融資に影響する点もメリットです。
企業の財務基盤を確認する指標のひとつに「自己資本比率」があります。自己資本比率の計算式は、以下のとおりです。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
ここで、総資本2億円・自己資本5千万円で自己資本比率が25%の企業について考えてみましょう。
仮に一般の融資で5千万円調達した場合、総資本は2億5千万円に増える一方で自己資本は5千万円のままです。そのため、自己資本比率は20%まで下がります(5千万円 ÷ 2億5千万円 × 100)。
一方、資本性劣後ローンで5千万円調達した場合は、総資本が2億5千万円に増えるだけでなく、自己資本も1億円に増える点がポイントです。それに伴い、自己資本比率は40%まで上昇します(1億円 ÷ 2億5千万円 × 100)。
自己資本比率が改善する分、一般の融資を受けた場合に比べて、新たに銀行で融資を受けやすくなるでしょう。
倒産時に返済の優先度を下げられる
企業が倒産した際に、返済の優先度を下げられる点もメリットです。
資本性劣後ローンの優先順位が低いため、万が一企業が倒産した場合はほかの支払いが優先されます。返済すべき債務の優先順位をあらかじめ把握することで、返済計画を立てやすいでしょう。
なお、倒産した場合に資本性劣後ローンの返済自体が不要なわけではない点には注意が必要です。
資本性劣後ローンのデメリット
資本性劣後ローンのデメリットは、主に以下のとおりです。
- 一般的に金利負担が重い
- 期日に一括で返済が必要
- 審査に通るとは限らない
各デメリットについて解説します。
一般的に金利負担が重い
ローンの金利負担が重くなる可能性がある点が資本性劣後ローンで資金を調達することのデメリットです。一般的な融資と比べて返済の優先度が下がる分、金融機関が資本性劣後ローンの利率を高めに設定することがあります。
ただし、企業の財政状況や業績が悪い場合は、低めの金利で資本性劣後ローンを利用できることもあるでしょう。たとえば、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」では、融資後1年ごとの税引後当期純利益額が「0円以上」であれば高め、「0円未満」であれば低めの金利が設定されています。
参考)日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」
期日に一括で返済が必要
期日に一括で返済しなければならない点も、資本性劣後ローンを利用するデメリットです。
資本性劣後ローンを利用する場合、毎月利息の返済のみで支出を抑えられる分、期日が到来するまでにまとまったお金を用意しておかなければなりません。資本性劣後ローンの返済期間中は資金繰りを安定化させられたとしても、返済後また資金繰りが悪化する可能性があるため、計画をしっかりと立てることが必要です。
審査に通るとは限らない
資本性劣後ローンを利用するにあたって、審査に通るとは限らない点も理解しておかなければなりません。
資本性劣後ローンの返済における優先順位が低いため、万が一貸出先が倒産すると貸し出した金額が戻らない可能性があります。そのため、一般の融資以上に厳しく審査するでしょう。
また、審査にあたって事業計画書の提出が求められるため、資金調達するまでに労力もかかります。
資本性劣後ローンを利用する流れ
一般的に、資本性劣後ローンを利用する際は以下の流れで進められます。
- 必要書類を準備する
- 金融機関に申請する
- 審査で承認になればローンが実行される
各手順を確認していきましょう。
1. 必要書類を準備する
資本性劣後ローンを用いて資金調達することを決めたら、まず必要書類を準備します。申し込む資本性劣後ローンの種類によっても異なりますが、一般的に必要となる書類は以下のとおりです。
また、事業計画書も提出しなければなりません。事業計画書とは、事業内容や今後の戦略、収益の見通しなどをまとめた書類のことです。商品によって、制定の事業計画書で提出しなければならないことがあります。
2. 金融機関に申請する
必要書類を準備し終えたら、資本性劣後ローンを取り扱っている金融機関の相談窓口に申請します。取り扱いのある主な金融機関は、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫(商工中金)などです。
各金融機関のホームページで資本性劣後ローンの取り扱いがあるのか確認し、自社が借入の条件を満たしているのかチェックしておきましょう。
3. 審査で承認になればローンが実行される
資本性劣後ローンを申請したら、金融機関で審査が進められます。もし追加で書類の提出を依頼された場合は、迅速に対応しましょう。
審査で承認されたら、金融機関と契約を締結します。また、一般的な融資と異なり、資本性劣後ローンを利用する際は、毎期の経営状況を報告することを約束した特約も締結しなければなりません。
さらに、資本性劣後ローンの商品によって、期限前返済ができないケースがあるため注意が必要です。あらかじめ契約内容をしっかりと確認しておきましょう。
契約を終えたら、指定日にローンが実行されます。
資本性劣後ローンまとめ
資本性劣後ローンとは、ほかの債権よりも元利金の返済順位が低いローンのことです。また、調達した資金が銀行の審査で「資本」とみなされる点が、一般的な融資と異なります。
資本性劣後ローンの主なメリットは、資金繰りを安定化できる点や、銀行で追加の融資を受けやすくなる可能性がある点などです。一方、期日に一括で返済が必要である点や、申し込んでも審査に通るとは限らない点などがデメリットとして挙げられます。
資本性劣後ローンは、取り扱いのある金融機関でのみ申請可能です。スタートアップが資金調達する際や、急に財政状況が悪化して企業再建に取り組まなければならない際は、対象の金融機関に資本性劣後ローンについて相談しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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