売上債権とは?リスクや管理・回収方法をわかりやすく解説

更新日:2025年04月30日

売上債権

売上債権とは、売掛金のように取引先に商品やサービスを提供した際に発生する、代金を後日に受け取る権利を指します。自社の資金繰りにも関係するため、正しく管理することが大切です。本記事では、売上債権とは何か説明したうえで、回収できない場合の対策についても解説します。

目次

売上債権とは

売上債権とは、取引先へ商品やサービスを提供したことに伴い発生する、代金を後日に受け取る権利を指します。具体例は、売掛金・受取手形・電子記録債権などです。

現金でつど決済すると手間がかかります。なぜなら、取引の請求書・領収書を発行したり、現金を手元に置いておいたりしなければならないためです。そこで、ビジネスでは売上債権を扱う掛け取引が採用されることがあります。

売上債権は、掛け取引の度に計上し、取引先から入金があると減少していく点がポイントです。ここから、事業を営むなかで売上債権が増えていく要因や増えることに伴うリスクについて解説します。

売上債権が増える要因

売上債権が増えていく要因のひとつに、現金決済の割合が減ることが挙げられます。たとえば、今まで現金決済のみで商品を販売していた事業者が掛け取引をはじめたり、キャッシュレス決済を導入したりすると、従来よりも売上債権が占める割合が増えるでしょう。

また、債権の回収が遅れることも、売上債権が増加する要因です。基本的に売上債権を減らすには代金の回収が必要なため、代金未回収のまま商品の販売やサービスの提供を続けると売上債権は一方的に増えていきます。

売上債権が増えることのリスク

売上債権が増えると、資金繰りが悪化するリスクが高まります。

事業者は、仕入代金や人件費・賃料・水道光熱費などの諸経費を支払わなければなりません。そのためには、資金が必要です。

代金の回収が遅れて売上債権だけが増えていく場合、一定の売上高を計上していたとしても現預金が増えないため、自分で諸経費の資金をまかなわなければなりません。最初のうちは手元資金で対応できても、そのうち支払いが苦しくなるでしょう。

最悪のケースでは、黒字倒産に至ることもあります。黒字倒産とは、商品の売上が好調で利益を計上できているのにもかかわらず、支払いに必要な資金が足りずに倒産してしまうことです。

売上債権増加に伴う資金繰り悪化の改善策

事業者は、売上債権が増加して資金繰りが悪化することを防ぐために、あらかじめさまざまな対策を検討しなければなりません。

たとえば、取引先と交渉して販売から代金回収までの期間(売上債権の回収サイト)を短くしたり、現金決済の割合を増やしたりする方法があります。その反対に、仕入先とは買掛金の支払いまでの期間(支払サイト)を長くできないか交渉することも、資金繰り悪化を防ぐ手段のひとつです。

また、資金不足が悪化する前に取引金融機関に融資を申し込む方法もあります。ただし、審査には一定の期間を要するため、事態が深刻になる前に早めに相談することが大切です。

そのほか、ファクタリングを実施して資金繰り悪化を防ぐ方法もあります。ファクタリングとは、保有する売掛金をファクタリング事業者に売却することで、代金回収前に資金を得る手法です。

参考)ファクタリングとは?仕組み、種類、注意点

売上債権に関する勘定科目の仕訳例

売上債権の仕訳の例について、3つの勘定科目(売掛金・受取手形・電子記録債権)ごとに紹介します。

売掛金の仕訳

売掛金とは、商品を販売したりサービスを提供したりして、代金を後日に受け取る権利が発生した場合に用いる勘定科目のことです。取引先A社に25万円の商品を販売し、翌月末に振込で代金を受け取る場合、以下のように仕訳をします。

借方 貸方 備考
売掛金 250,000円 売上 250,000円 A社に販売

その後、A社から代金が振り込まれた場合の仕訳例が以下のとおりです。

借方 貸方 備考
普通預金 250,000円 売掛金 250,000円 A社より振込

商品を販売した時点で借方に計上した25万円の「売掛金」を、回収した段階では貸方に計上しています。

受取手形の仕訳

受取手形とは、商品を販売したりサービスを提供したりした際、期日に支払うことを約束した手形を受け取る場合に使う勘定科目のことです。取引先B社に60万円の商品を販売し、翌月末に支払うことを約束した手形を受け取った場合は、以下のように仕訳をします。

借方 貸方 備考
受取手形 600,000円 売上 600,000円 B社に販売

その後、B社から現金で代金を回収した場合の仕訳例は以下のとおりです。

借方 貸方 備考
現金 600,000円 受取手形 600,000円 B社より代金回収

なお、政府は2026年までに約束手形の利用廃止を進める方針を示しています。そのため今後、受取手形の仕訳をする機会は減るでしょう。

電子記録債権の仕訳

電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿へ電子記録することを発生・譲渡などの要件とする債権のことです。そのうち、全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が扱うものを「でんさい」と呼びます。

ここで、取引先C社へ20万円の商品を販売する際に、電子記録債権を発生させるケースで仕訳例を確認しましょう。まず、売掛金の仕訳例と同様に、取引の段階で売上と売掛金を計上します。

借方 貸方 備考
売掛金 200,000円 売上 200,000円 C社に販売

続いて、電子記録債権が発生したタイミングにおける仕訳例が以下のとおりです。

借方 貸方 備考
電子記録債権 200,000円 売掛金 200,000円 電子記録債権の発生

最後に、代金を現金で回収した際に以下のように仕訳をします。

借方 貸方 備考
現金 200,000円 電子記録債権 200,000円 電子記録債権の消滅

売上債権の管理方法

リスクを軽減するために必要な売上債権の管理方法は、主に以下のとおりです。

  • 取引前に信用調査を実施する
  • 社内で情報共有する
  • 定期的に売上債権に関する指標を確認する
  • 会計ソフトを導入する

各管理方法について、詳しく解説します。

取引前に信用調査を実施する

掛け取引は与信取引になるため、新規取引を開始する際や高額の取引をする際は、リスク軽減のために相手の信用調査(与信調査)を実施しましょう。与信とは、文字通り相手に信用を与えることで、個人のクレジットカード申込、ローン申込、企業や個人事業主との掛け取引にあたって実施されます。

信用調査とは、相手の経営状況や資産、評判などを把握し、取引の是非を判断する際の参考にすることです。具体的には、自社の資料やデータを参考にする社内調査や実際に相手にヒアリングする直接調査、官公庁のデータベースやインターネットなどを活用する外部調査、専門機関に調査やレポートの作成を依頼する依頼調査があります。

信用調査の結果に基づき、信用の低い会社との取引を見送ったり、取引額を当初より下げたりすることにより、代金回収が遅れる可能性を軽減できるでしょう。

社内で情報共有する

社内で取引先に関する情報を共有することも、売上債権を管理する方法のひとつです。

従業員の退職が続いている、社内の雰囲気が以前より悪いといった情報から、取引先の経営状況や資金繰りが悪化していることを推測できる場合もあります。そのため、取引先を直接訪問する機会が多い営業課の職員が気づいたことを都度債権管理の部署に伝えておけば、取引の是非を判断する際に役立つでしょう。

定期的に売上債権に関する指標を確認する

定期的に売上債権に関連する指標をチェックして自社の状況を把握することも、売上債権の管理方法です。数値が悪化している場合は、取引方法や回収期間の見直しを検討しなければなりません。

参考になる主な指標は、売上債権回転期間や売上債権回転率です。それぞれ紹介します。

売上債権回転期間

売上債権回転期間とは、商品を販売したりサービスを提供したりしてから、代金を回収するまでにかかる期間を示した指標です。短ければ、それだけ早く代金を回収できていることを意味します。

計算式は、以下のとおりです。

売上債権回転期間(月) = 売上債権 ÷ 売上高 × 12
*月数ではなく日数を求めたい場合は、「売上債権 ÷ 売上高 × 365」

たとえば、売上債権が500万円で売上高が8,000万円の場合、売上債権回転期間は0.75か月です(500万円 ÷ 8,000万円 × 12)。

売上債権回転率

売上債権回転率とは、売上債権をどれだけ回収できているかを示した指標です。数値が大きいほど、効率的に代金を回収できていることを意味します。

計算式は、以下のとおりです。

売上債権回転率(回) = 売上高 ÷ 売上債権

売上債権が500万円で売上高が8,000万円のケースでは、売上債権回転率は16回と計算できます(8,000万円 ÷ 500万円)。

なお、業種によって平均値や目安が異なるため注意しましょう。

会計ソフトを導入する

会計ソフトを導入すれば、売上債権を効率よく管理できます。

売上債権を適切に管理するためには、現在の額はいくらなのか、どの企業で回収の遅れが発生しているのかなどを把握しておかなければなりません。そのためには、細かなデータ入力や仕訳作業が必要です。

会計ソフトを導入すれば、ほかの会計情報と一緒に売上債権を管理できるため、従業員の手間を軽減できるでしょう。

売上債権を回収する際の流れ

売上債権を回収するまでの一般的な流れは、以下のとおりです。

  1. 商品を販売・サービスを提供する際に、取引先と決済方法や期日を決める
  2. 代金を回収し、会計処理をする
  3. 期日になっても回収できない場合は、取引先に連絡して再度入金を依頼する

取引先に連絡する際は、強い口調や高圧的な表現を用いないようにしましょう。意図的に支払わないのではなく、システムエラーや担当者の不在などの理由によることがあるためです。丁寧な言葉遣いで未入金であることを伝えることで、相手に不快な思いをさせず今後も良好な関係を続けられます。

なお、連絡を試みても回収できない場合は、別の対策を講じなければなりません。

売上債権を回収できない場合の対策

取引先から売上債権を回収できない場合は、以下の対策を検討しましょう。

  • 連絡をとれない場合は内容証明を発送する
  • 対象の会社との取引を中止する

それぞれ解説します。

連絡をとれない場合は内容証明を発送する

取引先との連絡がとれない場合は、まず督促状を発送し、次に内容証明をつけた郵便を発送しましょう。

内容証明とは、郵便局が一般書留郵便の内容文書について証明するサービスです。基本料金と加算料金を払い、郵便局で取引先への郵送分とあわせて、差出人保管分1通、郵便局保管分1通の合計3通の文書を提出することで、いつどのような内容の文書を誰が誰に差し出したかを証明できます。

内容証明を発送しても入金がない場合、金額によっては弁護士に相談して法的訴訟を起こすことの検討も必要です。

参考)郵便局「内容証明」

対象の会社との取引を中止する

回収の目処が立たない場合は、滞納している会社との取引を中止することも検討しましょう。なぜなら、新たな取引で発生した売上債権も回収できず、自社の資金繰り悪化につながる可能性があるためです。

ただし、深刻なトラブルにつながることを回避するために、突然取引をやめるのではなく、事前に理由などを含めて丁寧に伝えたほうがよいでしょう。

売上債権の管理・回収に必要なこと

売上債権の管理や回収には、以下の点が重要です。

  • 社内ルールを明確にする
  • 時効期間を把握しておく

正しく処理できるように、それぞれのポイントを確認しておきましょう。

社内ルールを明確にする

売上債権の管理や回収について、社内ルールを明確にしましょう。

取引の是非を判断する際や、取引先に入金の案内をする際の基準を決めておくことで、回収漏れを防ぎます。取引先ごとに回収予定表を作っておけば、よりわかりやすいです。

また、営業担当者向けにチェックポイントなどを伝えておけば、取引先の経営状態や資金繰り状況を共有しやすくなります。

時効期間を把握しておく

売上債権が発生する場合は、それぞれの時効期間を把握しておきましょう。民法第166条によると、権利行使できることを知ってから5年間行使しない場合(同条第1項)、権利行使できるときから10年間行使しない場合に債権は消滅します。

時効が到来すると権利を主張できなくなるため、スケジュールを管理して早めに回収の手続きを進めましょう。

参考)e-Gov 法令検索「民法第百六十六条」

売上債権まとめ

売上債権とは、取引先へ商品やサービスを提供したことに伴い発生する、後日代金を受け取る権利のことです。仕訳の際は、売掛金や受取手形などの勘定科目を使います。

売上債権が増え続けることのリスクは、自社の資金繰りが悪化しかねない点です。取引先からの代金回収が遅れて売上債権が増え続けることがないよう、取引前に信用調査を実施することや、社内でこまめに情報共有することなどを心がけましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
本社所在地 〒160-0022
東京都新宿区新宿3-5-6 キュープラザ新宿三丁目5階
所属団体 一般社団法人Fintech協会
顧問弁護士 AZX総合法律事務所

弊社では、正確かつ有益な情報発信を実践しており、そのために様々な機関の情報も参照しています。

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