EBOとは?MBOとの違いや実施するメリット、実施手順を解説
更新日:2025年04月01日

EBOは、経営者から社員に事業継承する方法の1つです。この記事では、EBOとMBO、MEBO、LBOとの違いを解説します。また、EBOを実施するメリットデメリット、5つの実施手順とポイントも紹介します。スムーズでトラブルのない事業継承を目指している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
EBO(エンプロイーバイアウト)とは?

EBO(Employee Buy Out:エンプロイーバイアウト)とは、社員が企業を買収することです。対象企業の社員が設立したSPC(特別目的会社)を通して資金調達を実施し、既存株主からの株式譲渡を受け、対象企業の買収を行います。
EBOは主に、経営者から社員へ事業承継する目的で実施されます。自社の社員が会社を買収するため、企業風土や経営方針などを引き継ぎやすい点が特徴です。
買収のための資金は、金融機関からの融資が一般的です。そのほか、ファンドやベンチャーキャピタルからの投資などで資金を調達することもあります。
EBOとMBO、MEBO、LEOとの違い
EBOとよく似た言葉に、MBOとMEBO、LEOがあります。ここでは、それぞれの特徴とEBOとの違いを見ていきましょう。
EBOとMBOの違い
MBO(Management Buy Out:マネジメントバイアウト)とは、企業の現経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する買収方法のことです。
MBOは、経営者がより自由度の高い経営を目指して、上場している株式を非公開にしたい場合などに実施されます。株式を非公開にすれば、株主の意見に左右されることがない、独立した経営を実施できるようになるでしょう。また、敵対的買収から自社を守る効果もあります。
EBOとMBOの大きな違いは、実施後に誰が経営するかです。EBOでは株式を買い取った既存社員に経営が引き継がれます。一方、MBOでは既存経営陣がそのまま経営を続行します。
EBOとMEBOの違い
MEBO(Management and Employee Buyout:マネジメントアンドエンプロイーバイアウト)とは、経営陣と社員が共同で株式を買い取る方法のことです。株主の数が多くなるため、一般的にSPC(特別目的会社)といった受け皿会社が作られます。
MEBOでは、現経営陣と既存社員の両方が株式を取得しますが、多くのケースでは既存経営陣がそのまま経営を継続するようです。株主は直接経営に関わらず、株主の立場で経営に関与する点が、EBOとの大きな違いといえるでしょう。
MBOとLEOの違い
LBO(Leveraged Buy Out:レバレッジドバイアウト)とは、買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保にして、金融機関やファンドなどから融資などの資金調達することです。
借入金は買収対象企業が返済するまたは、買収対象企業の資産を売却して支払うため、大きな資金を持たない買い手でも買収が可能になります。
LBOは資金調達方法を表す言葉のため、買収方法の1つであるEBOやMBO、MEBOとは意味合いが大きく異なるといえるでしょう。EBOやMBOの資金調達手段として、LBOが採用されることも多くあります。
EBOを実施するメリット
EBOを実施するメリットは、以下のとおりです。
- スムーズに事業継承できる
- 企業風土や企業文化を維持できる
- 株式を非公開にできる
ここでは、それぞれの内容を詳しく解説します。
スムーズに事業継承できる
EBOのメリットの1つは、スムーズに事業継承ができる点です。自社の社員が事業を引き継ぐため、経営方針の大幅な変更などが発生しにくいことが要因として挙げられます。
また、敵対的買収とは異なり、その他の既存社員の反発や離職なども抑えられます。経営方針の変更による社内の混乱やトラブルの発生も少なくすむでしょう。
加えて、経営方針を維持できるため取引先との関係を維持しやすいことも、EBOの魅力の1つといえます。
企業風土や企業文化を維持できる
企業風土や企業文化を維持できる点も、EBOのメリットとして挙げられます。第三者による買収が実施されると、場合によっては社風や社内環境が大きく変わるケースがあります。
そうなれば、新たな環境に慣れるまで既存社員に負担を強いることになるでしょう。どうしても馴染めない社員は、離職するかもしれません。
現在の社風と既存社員を重視した買収を希望するのであれば、EBOは有力な選択肢となるでしょう。
株式を非公開にできる
株式を非公開にできる点も、EBOのメリットです。EBOを実施した企業の多くは、株式を非公開にしています。株式を非公開にするメリットには、以下が挙げられます。
- 敵対的買収を防げる
- 経営に関する意思決定をスピーディーにできるようになる
- 財務状況の公開や、決算の実施・報告といった業務負担を減らせる
株式を非公開にする大きなメリットは、敵対的買収を防ぎ自社を守れる点です。また、株主の意見に左右されなくなることから、経営に関するスピーディーな意思決定が可能になります。
そのほか、株主に向けた財務状況の公開や決算報告などの業務がなくなるため、経営に注力できるようになることも大きな魅力です。
EBOを実施するデメリット
次に、EBOを実施する以下のデメリットを解説します。
- 多額の資金が必要
- 企業が成長しにくくなる
メリットと併せてデメリットもあらかじめ確認することで、トラブルや後悔のないEBOを目指しましょう。
多額の資金が必要
デメリットの1つ目は、多額の資金が必要になる点です。既存社員が会社を買収するEBOでは、株式を購入する社員が多額の資金を用意しなければなりません。
会社の規模や株価によっては、個人の資金では足りないケースもあるでしょう。不足した金額は、金融機関からの融資などで調達することになります。
金融機関から融資を受けるには、審査に通過する必要があります。審査結果によっては、必要な資金を集められないかもしれません。資金を用意できなければ、EBOはできなくなります。
EBOを実施する際は、事前に資金調達方法を考え見込みを付けておくことが肝心です。
企業が成長しにくくなる
デメリットの2つ目は、企業が成長しにくくなる点です。EBOには、経営方針や企業風土を引き継げるメリットがある一方で、社内イノベーションが起こりにくいといったデメリットがあります。EBOを経て会社を成長させたいと考えているのであれば、新たな経営戦略を打ち出す必要があるでしょう。
なお、社員として優秀な人材であっても、経営者としての才覚があるとは限りません。EBO実施後も継続的な会社の成長を目指すのであれば、担当者として実績があるだけでなく、経営者としても期待できる人材を見極めることが重要です。
EBOを実施する5つの手順
ここからは、EBOを実施する以下の5つの手順を解説します。
- 譲渡する社員の選定
- 現在の株主状況の確認
- 株式の評価
- 株主との譲渡交渉
- 譲渡手続き
手順をあらかじめ確認し十分な準備をすることで、トラブルのないスムーズなEBOを目指しましょう。
1.譲渡する社員の選定
EBOを実施するにはまず、株式を譲渡する社員を選定しましょう。社員選定時に確認するべきポイントは、以下の通りです。
- 本人の意思
- これまでの実績
- 経営経験や資質
- 周りの社員からの評判
- 資金力
いくら経営者としての資質がある人材でも、本人に引き受ける意思がなければ、株式の譲渡はできません。そのため、何よりもまず本人の意思を確認することが重要です。
実際に譲渡するかは、担当者としての実績や経営者としての資質を精査したうえで決定します。経営者になった後に社員から盛り立ててもらえるよう、周囲からの評判も確認してください。併せて資金力についても、ここでチェックしておきましょう。
EBOは、会社の経営に関わる重大事項です。適任者を見つけたら、秘密保持契約を結ぶことが肝心です。
2.現在の株主状況の確認
適任者を選定したら、次に現在の株主の状況を確認します。確認する主な項目は、以下のとおりです。
- 株主の名前
- 住所
- 保有割合
EBOを実施する際に重要なのは、経営権を握れるだけの株数を買い取ることです。具体的には、普通決議と特別決議の両方を単独で通したいのであれば、持株比率3分の2以上を達成する必要があります。経営権を握れるだけの株式を集められないと、EBOは成功しません。
十分な株式を確保するためにも、株主状況の確認は非常に重要です。株主名簿と実態が合っていないといったトラブルが発生したときは、弁護士など専門家に相談し、慎重に進めましょう。
3.株式の評価
株式を譲渡するには、企業価値を評価し株価を算出しましょう。株価がいくらになるかでEBOに必要な資金額が決まるため、重要な作業となります。
株式の評価は、市場の状況や収益を基に算出します。専門知識がない方には難しいため、公認会計士や税理士などの専門家に依頼しましょう。第三者が合理的かつ客観的な株価を算出することは、既存株主の合意を得るためにも重要なポイントです。
4.株主との譲渡交渉
株価が決まったら、既存株主と株式の譲渡交渉を実施します。交渉方法の種類は、以下のとおりです。
交渉の種類 | 概要 |
直接交渉 |
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間接交渉 |
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メディアション |
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アドバイザリーサービス |
|
どの交渉方法を選ぶべきかは、会社の規模や株主の数によって変わります。自社に合った交渉方法を選択し、スムーズでトラブルの少ない株式譲渡を目指しましょう。
5.譲渡手続き
譲渡交渉がまとまったら、譲渡手続きを進めます。譲渡手続きの主な手順は、以下のとおりです。
- 株式譲渡契約を締結
- 株主総会での承認
- 株式譲渡の手形書作成
- 株式譲渡登記
譲渡交渉がまとまったら、買収する社員と既存株主の間で株主譲渡契約を締結し、弁護士による契約書の作成を実施します。株主総会による譲渡承認の請求手続きが必要な場合は、株主総会を開催し普通決議をとりましょう。
株式の譲渡が決まったら、株式譲渡の手形書を作成します。取得する株式数や後継者の名前など、不備がないよう作成してください。
譲渡手続きが完了したら、法務局で登記します。役員の変更や後継者の就任などを、速やかに登記しましょう。
このように、EBOの実施にあたっては作成する書類が多く、専門的な知識が必要です。トラブルのない手続きを進めるには、弁護士やM&A仲介業者といった専門家のサポートを受けることが重要です。
EBOをスムーズに実施するためのポイント
最後に、EBOをスムーズに実施するための以下のポイントには以下が挙げられます。
- 正確な企業価値を算出する
- 株主が納得する株価を設定する
- 事業計画書を作成する
- 専門家に相談する
それぞれを、詳しく確認しましょう。
正確な企業価値を算出する
ポイントの1つ目は、正確な企業価値の算出です。
EBOでは、株式の譲渡にあたり企業価値を算出し、株価を決めなければなりません。その際、社員が企業価値を判断すると、どうしても主観が入るケースがあます。特に、市場で株価が決まる上場企業ではなく非上場企業がEBOを実施する場合には、企業価値をいかに客観的に算出できるかが重要となります。
企業価値の算出には、高い専門知識が必要です。スムーズにEBOを進めるためにも、あらかじめ公認会計士や税理士など専門家に依頼しましょう。
株主が納得する株価を設定する
ポイントの2つ目は、株主が納得する株価を設定することです。EBOを成功させるには、既存株主が株式の譲渡に応じてくれる必要があります。株式の譲渡が実現しなければ、どれだけEBOの準備を進めても、買収は成立しません。
株式の譲渡に応じてもらうために重要なのが、株価です。特に、既存株主の株式取得価格よりも低い株価を提示した場合は、譲渡に応じてもらえない可能性が高いことは覚えておきましょう。
経営権を得るためには、最低でも株式発行数の過半数、可能であれば3分の2を超える株式の取得が必要です。この株式数の取得が難しい場合は、譲渡条件を検討し直し、再交渉を進めるしかないでしょう。
事業計画書を作成する
ポイントの3つ目は、事業計画書の作成です。EBOにあたり金融機関からの融資を受けるのであれば、事業計画書の作成は必須です。
融資で実施される審査では、事業計画書の内容が確認されます。事業計画書には、主に以下の内容を記載しましょう。
- 事業を継承する社員のプロフィール
- 企業理念
- 事業の概要
- 市場環境や競合
- 自社のサービス・商品の強みや特徴
- マーケティング戦略
- 取引先情報
- 人員計画
- 売上計画
- 資金調達計画
- 実施スケジュール
今後の事業計画や売上予測を、しっかりとした根拠と共に示せれば、返済能力のアピールにつながります。綿密に作られた事業計画を提出し、ぜひ融資審査のプラス材料として活用しましょう。
自分での作成が難しい、作成したものの内容に不安があるという方は、事前に専門家に相談すると安心です。
専門家に相談する
ポイントの4つ目は、専門家に相談することです。EBOは、さまざまな専門知識が必要とされます。書類の内容に不備があったり、手続きが間違っていたりすると、後で問題が発生するかもしれません。
買収をスムーズに進めることはもちろん、トラブルが発生するリスクを抑えた手続きを実行するには、M&A仲介会社や弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントなど、専門家に相談しサポートを受けることが重要です。
EBOまとめ
EBOとは、社員が所属する企業を買収することです。現経営陣が選定した社員が資金を用意し、既存株主から株式を買い取ることで、経営権の取得を目指します。
EBOを実施するメリットは、企業風土や経営方針が大きく変わらないスムーズな事業継承ができる点です。また、買収と併せて株式を非公開にすれば、敵対的買収から自社を守る効果も得られます。
EBOを実施するデメリットは、多額の資金が必要な点です。EBOを検討しているのであれば、事前に資金調達の目処を立てておきましょう。
EBOを実施するには、企業の評価や契約書作成など専門的な知識が必要です。スムーズでトラブルのないEBOを目指すのであれば、ぜひ一度、M&A仲介会社や弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントといった専門家に相談しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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