労務費とは?内訳や人件費との違い・計算方法などをわかりやすく解説

更新日:2024年07月17日

労務費とは

労務費とは、企業が製品やサービスの生産に従事する従業員に対して支払う人件費のことを指します。人件費の一部ではありますが、販売費及び一般管理費とは区別される原価項目です。

本記事では、労務費の基本的な概念や人件費との違い・種類・内訳・計算方法、さらには会計処理における仕訳の流れまでを詳しく解説します。

目次

労務費とは

「労務費」とは、人件費のうち製品の生産に直接関係する費用を指し、製品製造に不可欠なコストです。製造部門の従業員に支払われる賃金や給料などが該当し、製造原価として計上されます。同じ賃金や給料(賃金や給料は、法律上の呼称の違い)であっても、営業や管理部門の従業員に支給されるものは販売費及び一般管理費としての分類です。

労務費には、「直接労務費」と「間接労務費」の2種類があります。特定の製品を生産するためにかかった費用が明確な場合は「直接労務費」として計算し、明確でない場合は「間接労務費」として処理します。

労務費と人件費の違い

製造業に直接携わる従業員に支払われる経費が「労務費」であり「人件費」の一部です。「人件費」は、企業が従業員に支払う給料や賞与などの総称であり「労務費」以外にも「販売費」や「一般管理費」が含まれています。

「販売費」は営業や販売部門の従業員にかかわる経費を指し、「一般管理費」は会社全体の管理業務にかかる費用を意味しているため「販売費及び一般管理費」として計上しなければなりません。一方の「労務費」は「製品原価」の要素として適切に算出する必要があります。

労務費の種類

労務費は、製品の製造や業務の遂行に必要な人件費を指し、大きく「直接労務費」と「間接労務費」に分類されます。直接労務費は製造に直接携わる作業者に支払われる賃金であり、間接労務費は生産活動を支援する従業員の賃金や福利費などです。ここでは、それぞれについて解説します。

直接労務費

直接労務費とは、製造に直接かかわった人に支払われる費用を指します。製造業では、製品の製造や組み立て担当の従業員を「直接工」と呼び、彼らに支払われる賃金や手当が直接労務費です。建設業では「現場で働く職人への賃金」が該当し、システム開発では「エンジニアがシステム開発に直接従事している時間」に対して発生する費用が直接労務費に該当します。

間接労務費

生産にかかわったことが明確に特定できない費用は「間接労務費」として分類されます。これは、直接労務費に該当しない間接的な労務費を指します。具体的な間接労務費の例は以下のとおりです。

間接労務費
間接作業賃金 エンジニアなどの直接工が生産以外の業務をした時間に対する賃金
間接工賃金 製造部門の管理職など、直接生産には関与せず、生産を支援する従業員の賃金
従業員賞与 固定給とは別に支払われる臨時の給料
手待ち賃金 設備の故障などで作業ができずに待機している時間に対する賃金
法定福利費 社会保険料や労働保険料のうち、会社が負担する部分
休業賃金 会社の都合で休業させた従業員に支払う賃金
退職給与引当金繰入額 将来の退職給付に備えて当期に計上する費用

このように、直接給料として支払われるもの以外はすべて間接労務費に分類されます。

労務費の内訳

労務費の内訳は、次の5つです。

  • 賃金
  • 雑給
  • 法定福利費
  • 従業員賞与手当
  • 退職給付費用

以下では、それぞれについて詳しく解説します。

賃金

賃金とは作業に対する報酬を意味し、たとえば建設業では現場で工事をする直接雇用の職人に支払われる給料を指します。正社員や契約社員など、常時雇用されている従業員に支払われる給料であり、基本給に加え、時間外労働・深夜労働・休日労働に対する割増手当なども含まれます。ただし、フリーランスや個人事業主への外注報酬やパート・アルバイトへの給料は賃金に該当しません。

雑給

雑給とは、パート・アルバイトなどの臨時的に働く従業員に支払われる給料や諸手当を指します。これには通勤手当や割増手当などが含まれ、時給や日給で支払われることが一般的です。

具体的には、パートタイム労働者・アルバイト労働者・日雇いの職人・期間工など、直接雇用の職人とは異なる臨時職員に対して支払われるものです。日雇いや月雇いにかかわらず、これらの従業員に対する支払いは雑給として計上されます。

法定福利費

法定福利費とは、社会保険料や雇用保険などのうち、雇用主が負担する分を指します。具体的には「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」「子ども・子育て拠出金」「労働者災害補償保険料」などが含まれます。

これらの費用は法律により支払うことが義務付けられているため、雇用主は負担しなければなりません。法定福利費は従業員の福利厚生を支える重要な要素であり、企業の経費として計上されます。

従業員賞与手当

賞与とは、給料とは別に支給される給料全般を指します。ボーナスを連想しますが、ここにいう賞与はボーナスだけではなく、さまざまな諸手当を含んだものです。

具体的には「家賃補助」「通勤手当」「扶養手当」などが該当します。これらの手当は賃金としてではなく、賞与として計上される点に注意が必要です。

賞与は従業員の生活支援や福利厚生の一環として支給されるものであり、賃金と混同しないように管理することが重要です。

退職給付費用

退職給付金とは、従業員の退職時に支払われる金銭を指し、その支払いに備えて積み立てられている費用や退職給付引当金繰入額のことをいいます。

従業員が退職する際に受け取る退職金(退職一時金)に加えて、確定給付企業年金や厚生年金基金なども退職給付金に含まれます。これらの給付金は、従業員の将来の退職に備えて企業が事前に積み立てることにより、退職時に支給できるようにするためのものです。

労務費を計算する方法

ここでは、「直接労務費」「間接労務費」それぞれの具体的な計算方法について詳しく説明します。

直接労務費を計算する方法

直接労務費を計算する際には、まず「賃率」という時給相当額を算出します。直接工が存在しない業種や職種では、製品やサービスの製造に必要な時間を基に計算します。

賃率=(基本給+各種割増手当)÷ 総労働時間

直接工として従事する従業員がいる場合、賃率にその従業員が製造に費やした時間を掛けて直接労務費を計算します。

直接労務費=賃率 × 製造にかかわった時間

正確な直接労務費を算出するには、従業員の勤務時間と生産に関する情報を正確に把握することが重要です。とくにプロジェクト型ビジネスなどでは、労務費の占める割合が多いため、正確な把握が不可欠です。

間接労務費を計算する方法

間接労務費の計算方法には、2つの方法があります。

1つ目は、間接労務費に該当する項目の金額を集計していく方法です。

2つ目の方法は、総労務費からあらかじめ算出した直接労務費を控除する方法であり、計算式は次のとおりです。

間接労務費=労務費-直接労務費

従業員全体の労務費総額から、製品製造に直接かかわる従業員の労務費を差し引いた残りが間接労務費です。

労務費の仕訳の流れと例

労務費の仕訳には「賃金の支払い」と「労働力の消費」、2つのパターンがあります。ここでは、以下のケースにおける仕訳について解説します。

  1. 製造部の作業員に賃金25万円を普通預金から支払った
  2. 賃金25万円の内訳は、直接労務費が20万円、間接労務費が5万円であった

「賃金の支払い」「労働力の消費」それぞれについて仕訳方法を解説します。

1.賃金の支払い

製品の製造にかかわる作業員に賃金を払っているため、借方の勘定科目を「労務費」にします。これは、消費されて振替処理をするまでの一時的な勘定としての機能を果たします。

借方 貸方
労務費 250,000 普通預金 250,000

工業簿記では、労務費は「資産」の勘定科目として計上されます。なお、製造業以外の企業においては「費用」として扱われるため、労務費としての勘定科目は使用しません。

2.労働力の消費

計上された労務費のうち、直接労務費20万円と間接労務費5万円を消費した場合の仕訳例は以下のとおりです。

直接労務費は、製品の製造にどれだけ費用がかかったかを直接的に把握できる費用です。製品の完成が未確定な場合、これを一度、仕掛品の勘定に振り替えます。

一方の間接労務費は、製品の製造にどれだけ費用がかかったかを直接的に把握できない費用です。したがって、仕掛品勘定は使用できません。間接労務費が消費された場合、その振替は「製造間接費」勘定で処理されます。

借方 貸方
仕掛品 200,000 労務費 250,000
製造間接費 50,000

労務費まとめ

製造活動に直接関与する従業員に支払われる経費を「労務費」と呼びます。これは人件費の一部を構成しますが、販売費や一般管理費とは区別しなければなりません。

労務費は大きく「直接労務費」と「間接労務費」に分類され、前者は製品製造に直接かかわる費用、後者はそれ以外の管理・支援業務に関する費用のことです。

算出方法としては、直接労務費は実際の作業時間と時給を基に計算し、間接労務費は全体の労務費から直接労務費を除いて計算します。

会計処理では、まず給料の支払いを記録し、次に労働力の利用を費用として計上する二段階の仕訳をします。

労務費について理解し、効率的な経営と正確な財務報告につなげていきましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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