担保とは?意味や種類、手続きに関する注意点について解説
更新日:2025年04月23日

金融機関から融資を受ける際、債務不履行に備えるため担保を求められることがあります。担保は物的担保と人的担保の2つに大別できますが、どのような違いがあるのでしょうか。この記事では、融資を受ける場合に求められる担保について詳しく解説します。
目次
担保とは?意味や目的
担保とは、融資を受ける際に、債務の履行を確実にするため、債務者が債権者に保証として提供する財産や人を指します。債権者は、競売などにより担保となる財産を換金して債権を回収、または保証人が債務者に代わって弁済します。
担保の目的は、債務不履行の場合に備えることです。たとえば、1,000万円の融資を受けたい場合、債権者は、債務者が返済できなくなる可能性を考慮します。しかし、債務者が不動産を担保として提供すれば、貸す側は「もし返済できなくなっても、この不動産を売って回収できる(=不良債権にならない)」と考え、安心して融資できます。これが、担保の役割です。
担保は債権を保全し、債権者の安心感を高めるだけでなく、債務者の信用力を補強する役割も果たします。
なお、融資には、担保のある有担保ローンと担保のない無担保ローンがあります。無担保ローンは、有担保ローンに比べ融資額が小さく、金利が高めに設定されるのが一般的です。
そのため、事業資金などまとまった金額の融資を受けたい場合には、担保を差し出す有担保ローンが選択肢にあがるでしょう。
担保の種類「物的担保」と「人的担保」
担保は、法律上大きく2つに分けられます。
- 物的担保:特定の財産を担保として提供する
- 人的担保:債務者以外の第三者の財産全体を担保とする
いずれも主たる債務者が返済不能に陥ったときに実行される点は共通していますが、責任を負う範囲などが異なります。適切な担保を選択するためにも、それぞれの違いを確認しましょう。
物的担保
物的担保とは、債権を担保するために、特定の財産を担保として提供することを指します。平たく言えば、「もし返済できなくなったら、この財産を代わりに返済に使ってください」と約束することです。
担保として設定できる財産には、以下のようなものがあります。
- 不動産(土地、建物など)
- 有価証券
- 金銭債権(預金、受取手形など)
- 車両、製造機械設備、在庫商品
債務不履行の場合には、債権者は担保権に基づいて担保財産を売却することにより、その代金から優先的に債権の弁済を受けられます。担保物権が設定された財産には、他の債権者に優先して債権を回収できる優先弁債権が認められるためです。
担保権者にとって、物的担保は、債権回収の確実性が高まるメリットがあります。
人的担保
人的担保は、債務者以外の第三者の財産全体を担保とすることを指し、民法では「保証」とも呼ばれます。債務者が債務を履行しない場合、債権者は保証人に対して代わりに弁済するよう請求できます。
人的担保の典型例は、連帯保証人です。たとえば、AさんがBさんから100万円借りる際に、Cさんが連帯保証人になったケースを考えてみましょう。もしAさんが破産し、返済できなくなれば、BさんはCさんに100万円の返済を請求できます。
物的担保が特定の財産の価値によって担保されるのに対し、人的担保は保証人の返済能力に依存します。そのため、保証人の資産状態が悪化するリスクが伴うのです。
物的担保の主な種類
民法上の物的担保には、次の4種類があります。物的担保から債権回収を図るためのさまざまな権利は、総称して担保物権とも呼ばれます。
- 留置権
- 先取特権
- 質権
- 抵当権(根抵当権)
上記以外にも、民法では認められていないものの、慣習上で認められている非典型担保もあります。たとえば、譲渡担保や所有権留保です。
それぞれの概要や、どのような場合に認められる権利なのかを解説します。
留置権
留置権とは、他人のものを占有している者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまでそのものを留置(占有)できる権利です。
たとえば、携帯電話の修理会社は、修理を依頼した人から修理費を受け取るまで、預かった携帯電話を留置できます。「後日に修理費を支払うから先に携帯電話を渡してほしい」という要望に対して、修理業者は留置権に基づき、携帯電話の引渡しを拒否し、先に支払いを求められるということです。
留置権は、動産だけでなく不動産にも設定できます。ただし、留置権を主張するためには、債権が目的物に関して生じたものでなければなりません。
先取特権
先取特権とは、債権者が複数いる場合に、債務者の特定の財産について、他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける権利を指します。
たとえば、AさんがBさんに100万円貸し、BさんはAさん以外にも借金を抱えていたとします。この時、担保を設定していれば、Bさんの財産が100万円しかない場合も、Aさんは他の債権者よりも優先的に100万円を回収できるのです。
抵当権が当事者同士の契約によって設定されるのに対し、先取特権は法律の規定によって当然に発生します。つまり、契約締結の手続きは不要です。
先取特権は、債務者の特定の財産から債権回収を実行するための手段の一つとして用いられます。先取特権には、一般の先取特権と特別の先取特権の2種類があります。
一般の先取特権
一般の先取特権とは、債務者の総財産について、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利です。
次の4つの費用に関する債権が、一般の先取特権の対象として認められています。
- 共有の財産等の管理により生じた共益の費用
- 給料等の雇用関係の費用
- 葬式の費用
- 日用品の購入に関する費用
共益の費用とは、たとえば、マンションの管理費に関する債権が該当します。
また、労働者の給料や退職金が未払いの場合、債権者は雇用主から優先的に弁済を受けられるなど、雇用関係の費用も一般の先取特権の対象です。
特別の先取特権
特別の先取特権とは、特定の財産に対してのみに認められる先取特権で、さらに2つに分けられます。
- 動産の先取特権:特定の動産にのみ認められる先取特権
- 不動産の先取特権:特定の不動産にのみ認められる先取特権
動産の先取特権は、次の8つです。
- 不動産の賃貸借
- 旅館の宿泊
- 旅客または荷物の運輸
- 動産の保存
- 動産の売買
- 種苗または肥料の供給
- 農業の労務
- 工業の労務
たとえば、旅館の宿泊客が宿泊代を支払わない場合、旅館側は宿泊者が旅館に持ち込んだ手荷物に対して先取特権があります。ただし、宿泊者が持ち込まなかった財産で弁済を受けることは認められません。
不動産の先取特権は3つです。
- 不動産の保存
- 不動産の工事
- 不動産の売買
たとえば不動産の修繕費を負担した場合、その旨を登記すれば、先取特権が認められます。
質権
質権とは、債権者が担保目的物を債務者から受け取って占有し、債務不履行時にはその担保として預かったものを処分して弁済を受けられる権利のことです。
質権は、債務者(質権設定者)と質権者の間で質権設定契約を交わすことで、効力が発生します。
質屋でお金を借りるケースは、質権設定の典型的な例です。ブランド品やスマートフォンなどの換金性の高いものを質屋に預け、その評価額に基づいてお金を借りられます。
質権は、動産だけでなく、不動産や貸金債権にも設定できます。
抵当権(根抵当権)
抵当権とは、債務者が担保として提供した不動産を債権者が占有することなく、債務不履行の場合にその不動産の売却代金で債権の弁済を受けられる権利を指します。主に住宅ローンで利用される担保権です。
留置権や質権と異なり、債務者が担保物を占有したまま設定できる点が大きな特徴です。住宅ローンの返済が滞った場合、債権者は抵当権を登記した不動産を差し押さえて競売にかけ、債権を回収します。
抵当権には、住宅ローンで設定される一般的な抵当権のほかに、根抵当権というものもあります。住宅ローンは完済すると抵当権を抹消できますが、根抵当権は、債権の範囲で極度額を決定し、その範囲内で何度も借り入れできるのが異なる点です。
非典型担保
留置権、先取特権、質権、抵当権など民法で認められている物的担保のほかに、以下のような慣習上認められている物的担保もあります。
- 仮登記担保
- 譲渡担保
- 所有権留保
民法に規定のある物的担保を典型担保、民法に規定のない物的担保を非典型担保といいます。非典型担保は、民法に定めこそないものの、判例から認められています。
3種類の非典型担保の概要を確認しましょう。
仮登記担保
仮登記担保とは、債務者が債務を弁済できなくなった場合に、担保として提供した財産の所有権を移転することをあらかじめ契約し、その旨の仮登記をすることによって設定される担保権です。
たとえば、AがBから不動産を担保に1,000万円借り入れたとします。この時、もしAが借金を返済できなくなったら、この不動産の所有権をBに移すことを約束し、その旨を法務局に仮登記します。
仮登記担保は、債務不履行の場合に、債権者が担保物をスムーズに処分できるようにするためのものです。
譲渡担保
譲渡担保とは、債務が不履行となった場合に、担保として提供した財産の所有権を債権者に形式的に譲渡するものです。
たとえば、CがDから所有する車を担保に100万円借りたケースで考えてみましょう。この時、もしCが借金を返済できなくなったら、この車の所有権をDに譲渡します。
仮登記担保と似ていますが、仮登記担保では、所有権は債務者に残ったまま、債権者は優先的に弁済を受ける権利を仮登記として設定します。
所有権留保
所有権留保とは、割賦販売で購入した商品や不動産の所有権が、支払い代金が残っている間は、たとえ売主が買主に物品を引き渡した後であっても売主に留保されることです。
たとえば、自動車をローンで購入した場合、ローンを完済するまでは、自動車の所有権は販売会社にあります。債務不履行の場合、自動車販売会社は自動車を引き上げ、弁済に充てます。
人的担保の主な種類
人的担保には、次の3種類があります。
- 連帯保証
- 単純保証
- 根保証
どの保証も、債務者が債務を履行しない場合に、保証人が代わりに債務を支払う責任を負う点は共通しています。また、いずれも債権者と保証人の間で、書面または電磁的記録による保証契約の締結が必要です。
しかし、認められている権利などに大きな違いがあります。3つの違いを確認しておきましょう。
連帯保証
連帯保証とは、本来の債務者とともに債務を負担することで、保証人は債務者と連帯して債務の履行責任を負います。
通常の保証契約と異なり、連帯保証人には以下の3つの権利が認められていません。
- 催告の抗弁権
- 検索の抗弁権
- 分別の利益
これらの権利は、保証人の負担を軽減し、責任を限定するためのものです。裏を返せば、連帯保証人は債権者と同等の責任を負います。
連帯保証人に認められない3つの権利の内容を把握しておきましょう。
催告の抗弁権
催告の抗弁権とは、債権者が保証人に債務の履行を請求した場合、保証人が「まず主たる債務者に返済を求めてください」と主張できる権利です。
連帯保証人は、この権利がありません。つまり、債務者より先に「返済してください」と言われた場合も、それを拒めません。
検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、主たる債務者が返済できる財産を持っている場合、保証人が「債務者に強制執行してください」と主張し、弁済を拒める権利のことをいいます。
連帯保証人は、たとえ債務者が十分な資力を持っていても、弁済を拒めません。
分別の利益
分別の利益とは、保証人が複数いる場合には、保証人の人数で按分した金額のみを負担すればよいとする権利です。
たとえば100万円の債務に2名の保証人がいる場合、それぞれ50万円ずつ債務を負担しますが、連帯保証人には全額の負担を求められることがあります。分別の利益がないため、債権者はそれぞれの連帯保証人に100万円の弁済を求められるのです。
単純保証
単純保証も本来の債務者とともに債務を負担しますが、催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益が認められています。
たとえば、AさんがBさんから100万円借りる際に、Cさんが単純保証人になったと仮定します。この場合、CさんはBさんが借金を返済できない場合に、「まずBさんに請求してください」「先にBさんの財産から回収してください」と主張することが認められるのです。
さらに、保証人が複数いる場合には、Cさんは自分の負担割合に応じた金額のみを支払えば済みます。
根保証
根保証は、継続的な取引関係から生じる、一定の範囲に属する複数の債務を包括した保証を指します。たとえば、金融機関から継続的に事業資金を借り入れる際、将来の借り入れ分まで保証するのが根保証契約です。
一方、通常の保証契約では、特定の債務のみを保証します。根保証契約は、継続的な取引において、保証契約を毎回むすぶ手間を省くために利用されます。
ただし、根保証契約は保証人の責任が大きくなる可能性に留意しなければなりません。たとえば、将来に借り入れ額が増えた場合、保証人は当初想定していたよりも多額の債務を保証しなければならないおそれがあります。
物的担保の手続きと注意点
物的担保には、契約の手続きをせずとも担保物権となる「法定担保物権」と、契約手続きによって担保物権となる「約定担保物権」があります。
物的担保の種類 | 概要 | 例 |
法定担保物権 | 契約がなくても法律の規定により当然に担保物権となるもの | 先取特権(一般の先取特権と特別の先取特権) |
留置権 | ||
約定担保物権 | 債権者と担保目的物の所有者間の契約により発生する担保物権 | 質権 |
抵当権 |
法定担保物権は、法律の規定により当然に成立するため、特別な手続きは不要です。一方、約定担保物権は、債権者と債務者の間で担保権設定契約を締結する必要があります。
担保権設定契約書には、一般的に次のような情報が記載されます。
- 担保目的物の情報(所在地、種類など)
- 担保権の内容(抵当権、質権など)
- 被担保債権の特定(債務者の氏名、借入金額、返済期日など)
- 債権の回収方法(競売、任意売却など)
なお、担保権の実行は、原則として強制執行の手続きにより行われます。具体的には、担保物が差し押さえられ、競売にかけられます。
人的担保の手続きと注意点
人的担保は、債権者と保証人の間で保証契約の締結を結ぶことで成立します。この契約は、書面または電磁的記録で交わさなければなりません。
保証契約書には、一般的に次のような情報が記載されます。
- 元金額または極度額(根保証の際の上限額)
- 保証期間
- 金利および利息の支払い方法
- 遅延損害金利率
- 催告の抗弁と検索の抗弁の確認
- 期限の利益喪失
- 主債務の履行状況に関する債権者の情報提供義務
人的担保の実行は、債権者が保証人に対して債務の履行を請求する形で行われます。請求は、内容証明郵便で請求書を送付する方法や、訴訟を提起する方法などさまざまあります。
担保まとめ
担保は、債務不履行に備え、債権者が損失を回避する保証の仕組みです。担保を設定することで、債権者は損失を最小に抑え、債務者はより有利な条件で融資を受けられる可能性が高まります。
担保は物的担保と人的担保に大別でき、不動産や動産などの特定の財産を担保とする物的担保は、債権回収の確実性が高いことが特徴です。
一方、人的担保は、保証人の返済能力に左右されます。物的担保と比べると、債権回収の実現性を不安視される可能性がある点に注意が必要です。
物的担保と人的担保は、それぞれ認められる権利、手続き方法などが異なります。
希望に沿った融資を受け、その契約の安全性を高めるためにも、適切な担保を設定しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
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当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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