MBOとは?TOBとの違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説

更新日:2025年01月11日

MBOとは

MBOとは、「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略称であり、経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を掌握するための手法を指します。近年、企業の競争激化や後継者不足などを背景に、注目を集めている手法です。本記事では、MBOの基本的な仕組みや混同しがちな類似用語との違い、メリット・デメリット、さらに具体的な手順や成功のポイントまでわかりやすく解説します。

目次

MBO(マネジメント・バイアウト)とは

MBO(Management Buyout)は、経営陣が自社株を買収し、経営権を掌握するM&Aの手法です。主に経営体制の見直しや上場廃止を目的として利用されることが多く、オーナー社長や親会社から株式を取得することで独立した経営が可能になります。

中小企業では、後継者不足を解消する事業承継手段として注目されています。現経営陣が株式を買い取る形となるため、所有と経営の分離という問題を解決しやすい点が特徴です。

さらに、親会社が実質的に経営権を掌握している場合にも、MBOの活用により経営権を経営陣に集中できます。このように、MBOは安定した経営体制の構築に役立つ手段といえるでしょう。

次に、こうしたMBOが注目される背景や間違いやすいM&Aに関する用語について解説します。

MBOが注目される背景

MBOが注目される背景には、東京証券取引所の市場再編や上場における審査基準の厳格化が挙げられます。

さらに、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業が増加しており、株式公開によるメリットが薄れつつあるのが現状です。また、アクティビスト(物言う株主)による要求の強まりや社外取締役の増加が、経営への外部圧力を強めています。

こうした要因が相まって、上場を維持するためのコストや情報開示義務の負担を軽減し、柔軟な経営を実現する手段として、MBOが選ばれるケースも増えています。

MBOとM&Aの違い

MBOとM&Aの主な違いは、「買収者が誰であるか」にあります。M&Aは、「外部の企業や投資家」が対象企業を買収する一方、MBOは、「経営陣自ら」が会社の株式を取得し、経営権を得る手法であり、「M&Aの一形態」です。

両者とも企業の支配権移転を伴いますが、MBOは経営陣が投資ファンドや金融機関から資金を調達し、既存株主から株式を買い取る手法です。そのため、これまでの経営ノウハウや企業文化を維持しながら、安定的な経営を継続できる特徴があります。

一方、M&Aは外部企業や投資家による買収のため、新たな経営戦略の導入や事業シナジーの創出が期待できるでしょう。

このように、MBOはM&Aの一形態ではあるものの、買収主体や期待される効果に違いがあります。

MBOとTOBの違い

MBO(マネジメント・バイアウト)とTOB(株式公開買付け)は、企業の買収に関連する手法ですが、対象や目的が異なります。

MBOは経営陣が自社の株式を買収して経営権を掌握する手法です。この方法は上場企業だけでなく非上場企業にも適用可能であり、中小企業の事業承継や経営体制の再編を目的に活用されることが多いです。

一方、TOBは主に上場企業を対象に行われる買収手段であり、買付価格や期間を公表して株式を取得します。TOBはMBOを実行する際にも使用されますが、投資家を保護するために定められた条件に従い、公正な手続きを踏む必要があります。

このように、MBOは「誰が株式を買収するか」に焦点を当てた手法であり、TOBは「どのような方法で買収するか」に重点を置いた手法といえるでしょう。

MBOを実施する目的

MBOを実施する目的として、次のものが挙げられます。

  • 経営権の完全取得
  • 情報管理の厳格化
  • 事業承継におけるスムーズな資金調達

以下で、それぞれについて見ていきましょう。

経営権の完全取得

MBOの目的の一つに「経営権の完全取得」が挙げられます。MBOは、株主からの経営への干渉を排除し、経営陣が自由に意思決定をするための手段の一つです。短期的な利益を重視する株主の影響が強まるなかで、長期的な戦略を実現するためにMBOを実施するケースが増えています。

現状の経営体制が適切ではない場合、MBOを通じて体制を立て直し、経営の機動性を向上させることが可能です。さらに、上場企業では株式を非公開化することで、経営に関わる情報開示の負担を軽減し、効率的な運営を目指せます。

このように、MBOは経営の安定と自由度の確保に有効な手段といえるでしょう。

情報管理の厳格化

上場企業には、株主に対して経営状態を公開・報告する義務があります。これは、株主が会社の所有者であり投資家でもあるためです。

しかし、経営状態を公開・報告する内容には、企業秘密の開示も含まれるため、情報漏えいのリスクを高める要因となります。株主数が多いほど、その懸念は大きくなるでしょう。

上場を廃止すれば、企業は経営状態の開示義務から解放されます。上場廃止は、独自の製品やサービスを展開したい企業にとって、大きなメリットです。そのため、情報管理の厳格化を目指す企業が、MBOを選択する例も少なくありません。

事業承継におけるスムーズな資金調達

事業承継において、後継者が株式取得のための資金調達に苦労することがあります。そうした際に役立つのが、SPC(特別目的会社)を活用したMBOスキームです。

後継者はSPCを設立し、SPCで資金を調達します。SPCはその資金を使って既存株主から株式を取得し、最終的にSPCと元の会社が合併することにより、後継者が会社の株式を入手できる仕組みです。

SPCを通じた資金調達では、倒産隔離(企業が倒産した場合でも、その企業が保有している資産に影響を与えないようにする仕組み)されるため、金融機関はリスクを抑えつつ融資を実行しやすくなります。

SPCにより、後継者個人では調達が難しい大きな資金でも、円滑に調達できる可能性が高まります。

MBOの類似手法

MBOには、目的や主体によって異なるバリエーションが存在します。ここでは、EBOやMEBO、MBIといったMBOの類似手法について解説します。

EBO

「EBO(Employee Buyout)」は、従業員が自社の株式を買収し、経営権を取得するM&A手法です。EBOは、主に後継者不在の企業で事業承継を目的として活用されます。

従業員が経営に参加することで、企業の経営方針や社風が維持されやすく、業務の円滑な引き継ぎを望める点が特徴です。一方で、多額の資金調達が必要となり、金融機関からの融資審査が厳しいため、資金調達が難航するリスクもあります。

EBOは、経営陣が主体となるMBOと異なり、従業員が新たな経営者となる点が特徴です。

MEBO

MEBO(Management Employee Buyout)は、経営陣と従業員が共同で出資し、自社を買収するスキームです。

この手法は、MBOとEBOを組み合わせたものであり、経営権を企業内に留めつつ、従業員の士気向上や企業への帰属意識の強化を図れる点が特徴です。

また、従業員を経営に巻き込むことで、企業価値の持続的な向上を目指す手法として注目を集めています。ただし、経営陣と従業員が株主となることにより経営方針が偏るリスクもあるため、透明性の高い情報共有や中長期的な経営視点が求められるでしょう。

MBI

MBIとは、「Management Buy In」の略称であり、外部の投資家やファンド、金融機関などが企業を買収し、経営権を獲得する手法です。MBIの特徴は、買収後に外部から経営のプロを送り込み、経営の立て直しを図る点にあります。MBOと比較して、MBIは経営陣が外部になる点で異なります。

MBIは、企業価値が高いにもかかわらず経営状態がかんばしくない企業にとって有効な戦略です。例えば、優れた技術やブランド力を有しながらも、経営不振により業績が低迷している企業などが該当します。

MBIのメリットは、外部の経営のプロフェッショナルを活用することで、企業価値の向上やマネジメント力の強化が期待できる点です。デメリットとしては、新しい経営方針が既存の組織文化と対立するリスクや、外部から来た経営陣が内部情報に乏しいために業務遂行が滞る可能性などが挙げられます。

MBOを行うメリット

MBOを行うメリットは、主に以下の点です。

  • 長期的な視点で経営できる
  • 意思決定のスピードが向上する
  • 従業員からの反発が抑えられる
  • 上場廃止に伴うメリットが得られる

ここでは、それぞれのメリットについて解説します。

長期的な視点で経営できる

MBOのメリットの一つは、長期的な視点で経営に取り組める点です。株主が多数存在する場合、経営陣は短期的な利益を求めるさまざまな声に応える必要があり、成長戦略が制約されることもあります。

MBOによって経営権を経営陣に集中させることで、株主の短期的な要求に左右されることなく、長期的な経営戦略を立てやすくなるでしょう。その結果、持続的な成長を目指す経営が可能となります。

意思決定のスピードが向上する

MBOの実施により、経営陣が株式の大部分を保有するため、会社に対する支配権を強化できます。その結果、従来は株主総会での承認が必要だった意思決定も、経営陣の判断による迅速な決定が可能です。

迅速な決定は、競争環境の激しい近年において企業が変化に柔軟に対応し、成長戦略を迅速に実行するうえで非常に大きなメリットといえます。

従業員からの反発が抑えられる

MBOは、従業員からの反発を抑えられる点もメリットとして挙げられます。

通常のM&Aでは、外部の第三者による経営権取得により、従業員が雇用条件の変更や人員整理に不安を覚えることが少なくありません。一方、MBOにおける組織変更は、既存の経営体制を基本的に維持したまま進められるため、従業員の反発やモチベーション低下を防げます。

また、社内の業務プロセスや企業文化も大きく変わらないことから、事業の継続性も確保しやすいといった特徴があります。

上場廃止に伴うメリットが得られる

企業経営において、上場を維持するためには監査法人への報酬や証券代行費用など、多額のコストがかかります。これに対し、MBOを活用して上場廃止をすることで、上場維持に必要なコストの大幅な削減が可能です。

上場企業は、資金調達の容易さやブランド力の向上といったメリットを享受できますが、情報開示に伴うIR活動や、社内体制の整備に多大な労力と費用が求められる点はデメリットともいえるでしょう。

そのため、上場のメリットがコストに見合わないと判断された場合、MBOによる非上場化が有効な選択肢となります。非上場化により、上場維持のコストやコンプライアンス対応の負担を軽減できるだけでなく、敵対的買収のリスクを回避する効果も期待できます。

MBOのデメリットや注意点

MBOのデメリットや注意点は、主に以下のとおりです。

  • 株主と対立する可能性がある
  • 市場から資金調達できなくなる
  • 経営に変化が生まれにくい

ここでは、それぞれのデメリットについて解説します。

株主と対立する可能性がある

MBOには、経営陣と株主との対立リスクがあります。

売り手側である株主は、保有株式をより高値で売却しようとする一方、買収側の経営陣は、できるだけ安価な価格での買い取りを目指すでしょう。この価格設定をめぐる両者の利害対立により、MBOが失敗に終わるリスクも存在します。

さらに、MBOに反対する株主が敵対的TOBを仕掛ける可能性もあるため、経営陣は株主が納得できる適正な価格を提示し、円滑に買収プロセスを進めることが求められます。

市場から資金調達できなくなる

MBOを実施すると、企業は上場廃止になります。上場廃止となった場合には、株式市場を通して不特定多数の投資家から資金調達できなくなります。これは、これまで資金調達手段として株式発行を活用していた企業にとっては、大きなデメリットです。

MBO後は、銀行からの融資や経営陣による自己資金の投入など、限られた方法でしか資金調達ができなくなります。安定的な事業成長には資金調達が不可欠であるため、MBOの実施前に、資金調達の目途を明確化しておく必要があります。

経営に変化が生まれにくい

MBOでは、既存経営陣による株式の集中保有が進むため、経営体質の変革が起きにくいといった状況が生まれます。

株式が分散している場合は、株主からの意見や提案が経営改革のきっかけになることもあるでしょう。しかし、全株式を経営陣が保有している場合には、外部からの指摘や改善の機会が減少し、従来の経営体質が固定化してしまうリスクもあります。

さらに、市場環境や業界構造の変化に適応する力が低下すると、業績悪化や競争力の低下を招きやすくなるでしょう。そうなると、MBOに伴い金融機関から調達した資金の返済が重荷となり、経営に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

柔軟な経営体制を構築し、外部の視点を取り入れるなどの仕組みを整えることが、長期的な企業価値の向上には欠かせません。

MBOの手順

MBOを実施する際の手順は、主に以下のステップで進められます。

  1. SPC(特別目的会社)の設立

    まず、株式と事業の受け皿となるSPCを設立します。このSPCは経営陣が新規に設立し、対象企業の株式を譲り受けるための器となります。

  2. 資金調達

    SPCが資金を調達します。この資金は通常、金融機関や投資ファンドなどからの借入が一般的です。

  3. 株式の買い取り

    資金調達が完了した後、MBO対象企業の株主からSPCへ株式を売却してもらいます。

  4. 子会社化と合併

    すべての株式移転が完了後、SPCが対象企業を子会社化し、SPCと子会社を合併させることでMBOが完了します。

MBOを成功させるためのポイント

MBOを成功させるためには、計画段階からさまざまな準備を整えておくことが重要です。既存株主との交渉や経営体制の強化など、円滑な実施を支える基盤作りが求められます。

企業の将来を見据えた長期的な視点も重要です。事前にリスクを最小限に抑え、企業価値向上を目指した戦略策定がカギとなります。ここでは、MBOを成功させるためのポイントについて詳しく見ていきましょう。

既存株主とのトラブルを避ける

MBOでは、既存株主とのトラブルが計画の不成立を招く大きなリスクとなります。そのため、公正な交渉と準備が不可欠です。

経営陣が株式を安く買い取りたい一方で、株主は高値で売却を希望するため、利害が対立しやすい傾向にあります。トラブルを防ぐには、適切な企業価値の算定が重要です。その際、複数の評価手法を活用し、全関係者が納得できる価格を設定する必要があります。

また、株価の算定方法や交渉内容を株主に透明性をもって説明することも大切です。必要に応じて外部の専門家の支援を受け、MBOの成功率を高めるようにしましょう。

MBO後を見据えた長期的な計画を立てる

MBO後の持続的な経営を実現するには、事前に具体的な課題を洗い出し、将来像を明確に描くことが重要です。借入金の調達方法や返済計画、上場廃止後の財務管理といった実務面での準備が欠かせません。

MBOの本来の目的は、企業価値の向上にあります。そのため、上場廃止に伴う信用低下リスクや、株主による経営監視機能の喪失を見越したうえで、長期的な経営戦略を練る必要があります。

計画を立案する際には、MBOの完了をゴールとせず、その先の企業の存続と成長に向けたビジョンを具体化することが重要です。こうしたアプローチにより、経営の安定と発展を両立させる道筋が見えてくるでしょう。

経営体制を強化しておく

MBOを成功させるためには、経営体制の強化が不可欠です。特に事業承継を目的としたMBOでは、オーナー経営者の退任を見据え、経営陣が独立して意思決定できる仕組みを構築する必要があります。

経営者が段階的に業務から離れ、後継者に経営を移譲することで、円滑な事業承継が可能になります。そのためには、業務の標準化を進めることが重要です。

具体的には、業務マニュアルの整備や社員研修の実施、人事評価システムの導入などにより、経営が特定の個人に依存しない体制を整える必要があります。

こうした取り組みにより、後継経営陣は安心して意思決定ができるようになり、MBO後も企業の安定的な存続が期待できます。結果として、事業承継がよりスムーズに実現するでしょう。

専門家のサポートを得る

MBOを成功させるためには、専門家のサポートが不可欠です。株式の買い取り、資金繰り計画、価格設定などには専門的な知識が必要であり、経営陣だけでは対応が難しい場合もあります。そのため、コンサルタントやM&Aの専門家にアドバイスを求めることが重要です。

また、株主との交渉や意見の対立が生じる可能性もありますが、外部の専門家を交えることで対立を回避しやすくなるでしょう。予期せぬリスクに備え、専門的な知見を活用してMBOを円滑に進めることが求められます。

MBOの企業事例

大正製薬ホールディングス株式会社のMBO事例は、2023年当時の日本企業における過去最大規模のMBOとして注目を集めました。

総額約7,100億円にのぼるTOBが実施され、SPCである大手門株式会社が株式の約73%を取得しました。このMBOの目的は、非上場化による柔軟な経営基盤の確立と、インターネット販売体制の構築や海外ブランド買収を通じた中長期的な成長戦略の実現にあるとされています。その後、2024年4月に上場廃止となりました。

MBOまとめ

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣が自社の株式を買い取って経営権を掌握する手法です。主に経営権の完全取得、情報管理の厳格化、事業承継におけるスムーズな資金調達などが目的として挙げられます。

MBOの利点には、長期的な視野で経営を行えることや、意思決定の迅速化があります。また、従業員の支持を得やすくなることもメリットです。しかし、株主との対立や資金調達の困難さなどの課題もあります。

MBOの実施は、資金調達や株式の買収プロセスなど課題が多いものの、企業の長期的な成長を支える有効な手段です。専門家の助言を得ながら、自社の状況や目的に合わせて適切な手法を選び、成功に向けた準備を進めましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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