LBO(レバレッジドバイアウト)とは?仕組みやメリットを解説

更新日:2024年07月04日

LBO

LBO(レバレッジドバイアウト)とは、主にM&Aにおいて売り手企業の信用力を担保にして金融機関から資金調達する手法を指します。買い手の手元資金が潤沢でなくても、M&Aを実施できる点が主なメリットです。

本記事では、LBOの概要を説明した上で、M&Aを成功させるためのポイントを紹介します。

目次

LBO(レバレッジドバイアウト)の意味とは

LBOとは、英語のLeveraged Buyout(レバレッジドバイアウト)を略した言葉です。「leveraged」は「借入で資金調達をした状況」、「buyout」は「買収」や「株式の買い占め」を指します。

M&A(企業の合併や買収のこと)の場面において、LBOは借入金を活用した企業買収を意味することが一般的です。また、買い手ではなく、買収対象の会社の資産やキャッシュフローを活用して調達した借入金を返済していく点も、LBOの特徴として挙げられます。

LBOを用いる目的

M&A対象となる会社の価値を向上することが、LBOを用いる目的のひとつです。

とくにPEファンドは、LBOで資金を調達してから対象会社を買収したのち、企業価値を向上させてから上場するか、第三者への譲渡を図ることによりリターンを得ることを目指します。PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)とは、非上場会社の株式に投資し、その後売却益(キャピタルゲイン)を得ることを目的とする投資ファンドのことです。

一方、事業会社(営利目的で経済活動する会社)の場合は、シナジー効果を期待してLBOを活用したM&Aを実施することもあります。

LBO(レバレッジドバイアウト)の仕組み

LBOの仕組みは、M&Aにあたって借入した資金を対象会社自身に負わせるというものです。

本来、M&Aを実施するために銀行から借入した資金は、買い手が返済していきます。そのため、買い手の社会的信用力や収益力、借入実績などが、銀行の審査時における判断材料になることが一般的です。

それに対し、LBOを利用する場合はまず特別目的会社(SPC)が資金を調達します。その後、SPCは合併するため、結果的に対象会社が返済することになるのです。

なお、LBOでは、対象会社のキャッシュフローが審査において重視される傾向にあります。

LBOを活用する際の流れ

LBOを活用する際の主な流れは、以下のとおりです。

  1. 金融機関と条件を交渉する
  2. 特別目的会社(SPC)を設立する
  3. 資金を調達する
  4. 買収を実施する
  5. 買収した会社とSPCを合併する
  6. 借入金を返済する

各手順について、詳しく解説します。

1. 金融機関と条件を交渉する

LBOを活用したM&Aを実施するにあたって、まず金融機関との条件交渉が必要です。

LBOローンは、他のローンと比べて基本的に金利が高い傾向にあります。そのため、複数の金融機関と交渉して、できる限り条件のよいところを探すことが一般的です。

金融機関は、審査の可否や融資条件を「M&A対象会社が安定したキャッシュフローを生み出せるか」などから判断します。そのため、審査にあたって買い手はさまざまな資料を金融機関に提出しなければなりません。

必要な資料は、買い手が対象会社のデューデリジェンスを実施するタイミングなどで入手します。デューデリジェンスとは、対象会社や事業の価値・リスクを専門家が分析することです。

2. 特別目的会社(SPC)を設立する

金融機関と条件交渉する前後で、買い手は対象会社の株式を取得するための受け皿となるSPCを設立します。SPCとは、Special Purpose Companyを略した言葉で、特別目的会社のことです。

SPCの主な役割として、親会社の一部の資産を切り離し、特定事業の運営のみを担うことが挙げられます。資金調達しやすくなることや、親会社と分散することでリスクを回避することなどがSPCを設立する主な目的です。

なお、設立以降はSPCが主体となってLBOの手続きを進めていきます。

3. 資金を調達する

金融機関との条件がまとまったら、ローン契約を締結して資金調達します。

契約時には、コベナンツが設定されることが一般的です。コベナンツとは、借り手に対して一定の制限や義務を課す条項のことを指します。

LBOローンでコベナンツとして設定される具体例は、以下のとおりです。

  • 設備投資制限条項(設備投資可能な金額を制限する)
  • M&A制限条項(M&A実施にあたって、貸し手の事前承認を必要とする)
  • 配当制限条項(借り手による株主への配当を制限する)

コベナンツは、貸し手が負うリスクを軽減するために設けられます。

4. 買収を実施する

SPCが資金を調達したら、対象会社に対して買収を実施します。SPCが対象会社の株式を取得することが、買収を実施する際の具体的な方法です。

株式取得にあたって、特別目的会社と対象会社の間であらかじめ株式譲渡契約を締結しておかなければなりません。株式譲渡契約を締結する段階では、まだ資金調達が完了していないため、一般的にSPCから対象会社に対してコミットメントレターを提示して資金調達の確実性を担保します。コミットメントレターとは、一定の条件が満たされればローンを実行する旨を貸し手が証明した書類です。

なお、買収が実施されたことにより、SPCが親会社、対象会社が完全子会社の関係になります。

5. 買収した会社とSPCを合併する

買収完了後、SPCと買収した完全子会社(対象会社)を合併させることが一般的です。対象会社を存続会社、SPCを消滅会社とする吸収合併のため、合併に伴いSPCの負債は買収した会社に移ります。以降、対象会社が借入金を返済する責任を負わなければなりません。

なお、買収した会社が持つ許認可などを考慮し、SPCとの合併を避けるケースもあります。合併しない場合は、SPC自身で借入金を返済しなければなりません。SPCは事業を営んでキャッシュフローを生み出す会社ではないため、返済原資は買収した子会社から得る配当や、経営指導料などに限定されます。

6. 借入金を返済する

合併後、買収した会社(対象会社)が借入金の返済を開始します。返済にあたっては、コベナンツに抵触しないよう十分な配慮が必要です。

また、LBOに伴う借入の金利は高い傾向にあることを考慮し、対象会社の資金繰りが悪化しないよう管理することが求められます。そのため、返済開始当初は得た利益の多くを返済にあてることになり、経営の自由度が下がる傾向にあるでしょう。

M&AでLBOを用いるメリット

M&AにおいてLBOを用いる主なメリットは、以下のとおりです。

  • 自己資金が少なくても買収できる
  • リスクを軽減できる

それぞれ詳しく解説します。

自己資金が少なくても買収できる

LBOを活用すれば、自己資金が少ない会社でも買収できる点がメリットです。

M&Aで株式を取得する場合、一般的に多額の資金が必要になります。その点、LBOは金融機関などの借入で資金を調達するため、必要な資金を用意できない会社でもM&Aを実施できる可能性が高まるでしょう。

なお、レバレッジ(leverage)は本来「てこの原理」を意味する言葉です。手元に十分な資金がなくても、多額の借入を利用してM&Aを実施することで将来的に高い売却益を狙えるため、LBOは「てこの原理」を利用したハイリスク・ハイリターンの手法ともいえます。

リスクを軽減できる

M&AでLBOを利用する場合、買い手のリスクを軽減できる点もメリットです。

本来、M&Aにあたって金融機関から借入をした場合、買い手が負債を抱え、返済する必要があります。負債が増加することで借入過多になると、信用力の低下や資金繰りの悪化につながることがあるでしょう。また、万が一返済が滞った場合に遅延損害金が発生したり、担保物件が強制売却されたりする可能性があります。

その点、LBOは買い手が借入に対して責任を負わないノンリコースローン(非遡及型融資)です。借入金の返済義務は、基本的にSPC(合併後は対象会社)が負います。

なお、買い手もSPCの出資金部分についてはリスクがある点に注意が必要です。

M&AでLBOを用いるデメリット

以下のデメリットも考慮した上で、M&AでLBOを用いるべきか判断しなければなりません。

  • 期待したシナジー効果が得られるとは限らない
  • 返済負担が重くなる
  • 経営の自由度が低下する(買い手)
  • すぐに転売される可能性がある(売り手)

各デメリットについて、詳しく解説します。

期待したシナジー効果が得られるとは限らない

期待したシナジー効果が得られるとは限らない点が、買い手・売り手双方にとってのデメリットです。

シナジー効果とは、複数の部署や会社が協力することにより、単独で活動していたときにはない新たな価値を生み出せることを指します。ファンド会社と異なり、事業会社がLBOを活用してM&Aを実施する際は、シナジー効果の発揮を主目的とすることが一般的です。

対象会社との統合作業が難航すると、シナジー効果を十分に発揮できません。その結果、SPC設立などの労力をかけたにもかかわらず、本来の目的を達成できないことがあるでしょう。

なお、シナジー効果とは反対に売り手・買い手の従業員間で衝突が発生したり、意思決定スピードが遅くなったりしてかえってM&Aがマイナスに作用する、アナジー効果が生じる可能性にも注意が必要です。

返済負担が重くなる

LBOで借入すると、一般的に、返済負担が重くなる点もデメリットです。

LBOローンは、金融機関も一定のリスクを抱える分、通常のローンや融資に比べて金利が高い傾向にあります。また、買い手は専門家への報酬や契約書の作成費用、融資の事務手数料なども負担しなければなりません。

LBOで調達した資金を返済するのは、対象会社(もしくはSPC)です。しかし、対象会社に返済負担が重くのしかかり、利益が圧迫されるようになると、買い手側もM&Aを実施したメリットが薄れるでしょう。

そのため、低金利で資金を調達できる場合や、自己資金が潤沢な場合は、M&AにあたってLBOを活用しない方がよい場合もあります。

経営の自由度が低下する(買い手)

経営の自由度が低下する点も、LBOを活用してM&Aを実施する際のデメリットです。

金融機関とLBOローンの契約を締結するにあたって、さまざまな制約(コベナンツ)が設けられます。そのため、M&Aで対象会社を子会社にしたにもかかわらず、買い手は自由に経営できない可能性があるでしょう。

金融機関から目標として設定されることがある指標のひとつが、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)です。EBITDAは会社の収益力を把握するために欠かせない指標ですが、数字を気にしすぎると経営環境の変化に柔軟に対応できなくなる可能性があります。

すぐに転売される可能性がある(売り手)

売り手(対象会社)にとっては、すぐに転売される可能性がある点がLBOによるM&Aのデメリットです。

とくにPEファンドがLBOを活用する場合、一般的に対象会社の企業価値を向上させ、その後すぐに転売することを主な目的としてM&Aを進めていきます。売り手は会社の存続や従業員の雇用維持などを重視しているのであれば、売却先や手法を十分に吟味した上でM&Aを決断することが大切です。

LBOを用いたM&Aを成功させるためのポイント

LBOのメリットやデメリットを踏まえ、M&Aを成功させるためのポイントは主に以下のとおりです。

  • シナジー効果を考慮した上で決断する
  • 対象会社の経営の安全性を考慮する
  • 売買金額の妥当性を見極める

ここから、各ポイントについて詳しく解説します。

シナジー効果を考慮した上で決断する

LBOを用いたM&Aで後悔しないために、あらかじめシナジー効果を十分に考慮した上で決断することが大切です。シナジー効果には、以下のようにさまざまな種類があります。

  • 売上シナジー:流通網を共同で利用して販売チャネルを広げたり、M&A相手の顧客に自社商品・サービスを提案したりすることで売上の増加を図ること
  • コストシナジー:共同で仕入れることにより、コストダウンを図ること
  • 投資シナジー:互いのノウハウや研究成果を活用して新たな価値を生み出すこと
  • マネジメントシナジー:双方の人脈をいかして事業を発展させること
  • 財務シナジー:M&Aにより信用力や資金調達力を上げること

候補先とM&Aを実施することで、どのようなシナジー効果がどれくらい見込めるのか、分析しましょう。

対象会社 の経営の安全性を考慮する

対象会社の経営の安全性を考慮することもポイントです。

LBOによるM&Aを実施する場合、基本的に対象会社が負債を抱えます。そのため、対象会社の経営状態が不安定であれば、M&A後に返済することが難しいでしょう。

経営の安全性を見極める際は、対象会社の負債が少なく、現預金にある程度余裕があることなどを確認するのが大切です。財務諸表を読み解き、自己資本比率流動比率などを把握しておきましょう。

売買金額の妥当性を見極める

売買金額の妥当性を見極めることも、LBOでM&Aを実施する際に必要です。対象会社を過大評価して高額でM&Aを実施してしまうと、投資回収できない可能性があります。

売買価格は、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチといった手法で、算出した金額を参考にすることが一般的です。それぞれ、メリットとデメリットがあるため、対象会社の状況に適した手法を用いて金額を計算しましょう。

なお、売買金額の算出には専門知識も必要となるため、専門家への相談を検討することも大切です。

LBOと混同しやすい用語

LBOと混同しやすい用語として、以下が挙げられます。

  • MBO
  • EBO

それぞれの用語の意味を説明した上で、LBOとの違いを解説します。

MBOとの違い

MBOとは、Management Buyout(マネジメント・バイアウト)を略した言葉で、「経営陣による買収」などを意味します。買収の主体や資金の調達方法などが、LBOとMBOの主な違いです。

LBOの主体は、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)や事業会社といったさまざまなケースが考えられるのに対し、MBOの主体は対象会社の経営陣に限定されます。また、LBOの資金調達方法は借入金によるのに対し、MBOでは経営陣の自己資金で実施することもあるでしょう。

なお、経営陣が現在の株式から自社株を買い取るにあたって多額の資金が必要になるため、MBOを実施する際もLBOの手法を用いることが一般的です。

EBOとの違い

EBOとは、Employee Buyout(エンプロイー・バイアウト)を略した言葉で、「従業員による買収」などを意味します。対象会社に後継者がいない場合に、会社を存続させるための事業承継対策として用いられることが一般的です。

EBOは、MBOにおける経営陣の代わりに、従業員が株式を譲り受けるスキームを指します。そのため、MBOの場合と同様に、買収の主体や資金の調達方法などが、LBOとEBOの主な違いです。

EBOでは、対象会社の従業員が主体となって株式を取得し、M&Aを実施します。また、従業員の自己資金やファンドからの投資に加え、LBOもEBOにおけるM&Aの資金調達方法のひとつです。

なお、経営陣と従業員が共同で株式を譲り受けることをMEBO(Management and Employee Buyout)と呼ぶことがあります。

LBOまとめ

LBO(レバレッジドバイアウト)とは、借入金を活用したM&Aを指すことが一般的です。また、M&Aに伴う負債を買い手ではなく対象会社が抱える点が、LBOの主な特徴として挙げられます。

LBOでM&Aを実施する際のメリットは、買い手の自己資金が少なくても買収できる点や、買い手のリスクを軽減できる点です。一方で、対象会社の返済負担が重くなる点や、コベナンツにより経営の自由度が低下する点などがデメリットとして挙げられます。

LBOでM&Aを成功させるためのポイントは、シナジー効果を考慮する点、売買金額の妥当性を見極める点などです。M&Aにあたって対象会社のことを分析した上で、LBOを用いるか判断しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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