不渡りとは?意味や不渡手形の影響をわかりやすく解説
更新日:2025年04月25日

経営者にとって恐れるべきことの1つが「不渡り」でしょう。もし不渡りを起こしてしまった場合、会社の信用は大きく損なわれ、最悪の場合、倒産に追い込まれる可能性もあります。本記事では、不渡りの仕組みから、万が一不渡りを起こしてしまった場合の対処法まで、経営者なら知っておきたい情報を解説します。
目次
「不渡り」とは手形や小切手が決済できない状況のこと
不渡りとは、小切手や手形による支払いができなくなる状態を指します。小切手や手形とは、会社間の取引に使用する、現金に代わる有価証券の一種。企業間取引では、直接現金をやり取りするのではなく、小切手や手形を介して支払うのが一般的です。
代金を支払う者(振出人)が代金を受け取る者(受取人)に小切手や手形を発行することで、決済が完了します。小切手や手形は、以下の流れで決済、現金化されます。
- 振出:振出人が必要事項を書き込み、受取人に渡す
- 支払いのための呈示:受取人が手形や小切手を銀行に持ち込む
- 決済:銀行が振出人の当座預金の口座から現金を支払う
上記3.の決済の段階で現金化できず、受取人が代金を受領できないのが不渡りです。不渡りになった手形は「不渡手形」、小切手は「不渡小切手」と呼ばれます。
なお、小切手も手形も役割は同じですが、小切手がすぐに現金化できるのに対し、手形は記入された期日が到来しなければ現金化できません。
また、当座預金は、企業や個人事業主が業務上の支払いに使う預金で、利息がつかない点、もし銀行が破綻しても全額が元本保証されるなどの点で普通預金とは異なります。当座預金を開設すると、小切手帳や手形帳が発行され、振出が可能となります。
不渡りの種類は3種類
不渡りは、原因と内容によって次の3つに分けられます。
- 0号不渡り:振出人の信用に起因しない(形式上の不備など)
- 1号不渡り:振出人の信用に起因する(当座預金残高不足など)
- 2号不渡り:上記以外(契約不履行、盗難・偽造など)
不渡りは一概に残高不足で起こるわけではありません。どの種類の不渡りに当てはまるかで、処分の有無やその後の対応が異なります。
1.0号不渡り
0号不渡りは、振出人の信用に起因しない、形式上の不備によって起こる不渡りです。具体的には、次のようなケースが当てはまります。
- 記載ミス、押印がないなどの形式的な不備がある
- 受取人が呈示期間を過ぎて小切手や手形を持ち込んだ
- 決済日前に換金しようとした
このようなケースは不渡りではあるものの、銀行取引停止や不渡届の作成などの処分はありません。とはいえ、受取人が現金化できずに困ってしまうため、振出人は不備のないよう小切手や手形を振出しなければなりません。
なお、呈示期間とは支払いを請求できる期間のことで、小切手は振出の翌日から10日間、手形は支払期日を含め3営業日以内です。
2.1号不渡り
1号不渡りは、当座預金の残高不足、口座解約などで支払いできなくなった場合が該当します。単に「不渡り」というと1号不渡りを指すのが一般的です。
これは振出人の信用にかかわるため、処分を受けます。たとえば、全国の加盟銀行へ通知される、6か月以内に2回目の不渡りを出すと銀行から取引停止処分を受ける、など処分の内容は決して軽くありません。
3.2号不渡り
0号不渡り、1号不渡りどちらにも当てはまらない不渡りは、2号不渡りです。これも0号不渡りと同じく、振出人の信用にはかかわりません。該当するのは、次のような場合です。
- 契約不履行(購入した商品が納入されない、依頼した工事が完了しないなど)
- 盗まれたり偽造されたりした手形・小切手
- 詐欺によって振り出された手形・小切手
振出人の信用には起因しないものの、銀行から不渡届が提出されます。しかし、振出人は異議申し立てができ、処分を回避できます。異議申し立てをしなければ、1号不渡りと同じように扱われ、重大な結果を招くおそれがあるため、必ず適切に対処しましょう。
1号不渡りになるまでの流れ
3種類の不渡りのうち、経営者として避けなければならないのは、重い処分が待っている1号不渡りです。1号不渡りが起こる流れを把握し、最悪の事態を未然に防ぎましょう。
ここでは、振出人A社が、2025年4月1日に取引先B社に対し50万円の約束手形を振出するケースを想定し、不渡りが起こるまでの流れを簡単に説明します。
1.取引先に手形を振り出す
まず、A社はB社から商品を受け取ったら、その代金として現金の代わりに50万円の約束手形を振り出します。
手形には、金額はもちろん、支払期日、受取人、その他必要事項を記載します。支払期日を2か月後の末日として契約するなら、この場合は2025年6月30日です。B社は、6月30日を含め3営業日以内に銀行に持ち込み、支払いを請求します。
2.自社の当座預金残高が不足する
B社が銀行に手形を呈示したときに、A社の当座預金残高が50万円を1円でも下回る場合、またはそもそも当座預金を解約していた場合、B社は代金全額を受け取れません。これが不渡りです。
手形の振出時点で残高が50万円に満たないことは問題ありません。A社は、支払期日までに50万円を口座に準備しておく必要があります。
3.不渡りが発生する
銀行に手形を持ち込んだB社が代金を受け取れないとただちに不渡りとなり、不渡付箋の貼られた手形がB社に返却されます。この手形は回収不能の有価証券、つまり不良債権となります。不渡付箋に記載された不渡宣言には、不渡事由が記載され、残高不足が原因で起きた場合は1号です。
同時に、銀行は電子交換所(手形交換所)に不渡届を提出します。
不渡りが企業に与える影響
不渡りは、企業の信用を根底から揺るがす事態です。1度でも発生すれば、周囲へ与える影響は計り知れません。以降の企業活動が困難になるほか、受取人はもちろん、他の取引先にも甚大な影響を及ぼすでしょう。
ここでは、不渡りが企業に与える具体的な影響3つを解説し、企業の経営者にとっての重要なリスクを明らかにします。
金融機関からの信用力が低下する
不渡りが発生すると、銀行はただちに電子交換所に不渡届を提出します。そして、不渡り情報は全国の参加金融機関に共有されます。
これは、返済能力が低下している企業が、他行からの融資を受けてさらに負債を増やすことを防ぐための措置です。不渡り情報を知った金融機関は、その企業との新規取引を極端に避ける傾向にあります。
1度でも不渡りを出すことは、企業の信用力を著しく低下させ、資金調達の選択肢を狭めるだけでなく、既存の取引にも悪影響を及ぼし、事業継続そのものを危うくする可能性があります。
金融機関からの信用低下は、資金調達の機会損失だけでなく、取引条件の悪化、取引先からの信用不安など、連鎖的な悪影響をもたらす可能性があるためです。
2回目の不渡りで「銀行取引停止処分」を受ける
6か月以内に2度不渡りを出すと、企業は銀行取引停止処分という極めて重い制裁を受けます。この処分により、その後2年間、当該銀行および電子交換所参加金融機関との間で、当座預金取引、貸出取引が一切できなくなります。
これは、企業にとって事実上の倒産宣告に等しい状況です。通常の資金繰りが不可能になり、取引先への支払い、従業員への給与支払いなどが滞り、事業継続が極めて困難になります。
とくに融資を受けている企業は、一括返済を求められる可能性が高く、資金繰りがさらに悪化します。銀行取引停止処分は、企業の命運を左右する極めて深刻な事態といえるでしょう。
手形の受取人に悪影響を及ぼす
不渡りは、振出人の信用が失墜するだけでなく、手形の受取人にも深刻な金銭的被害をもたらします。回収不能な債権を抱えることになるため当然です。受取人は本来受け取るはずだった代金を受け取れず、資金繰りが悪化し、最悪の場合、連鎖倒産を引き起こす可能性もあります。
受取人は、法的に手形金額の回収を請求できますが、訴訟を起こしても振出人に支払い能力がなければ、回収は極めて困難です。
不渡りによる連鎖倒産は、取引先だけでなく、その取引先の取引先、さらにその先へと影響が広がり、地域経済全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
不渡りによる倒産を回避するための方法
不渡り=即倒産ではありませんが、経営者にとってまさに「赤信号」と呼べる事態です。日頃から資金繰りに気を配り、不渡りを起こさないように注意する必要があります。もし、支払期日までに資金が不足するおそれがある場合は、早めに取引銀行に相談し、適切な対策を講じましょう。
ここでは、不渡りを出さないために日々意識すべきことや、いざというときの対処法を紹介します。
無理のない資金計画を立てる
まずは無理のない資金計画を立てることが大前提です。預金、売掛金などの資産と、借入金や未払金などの負債を正確に把握し、キャッシュフローを分析、将来の事業計画を立て、必要な資金を予測しましょう。
万一の支払い忘れを防ぐため、決済期日を統一する方法も効果的です。また、予期せぬ事態に備え、常に一定の余裕資金を確保することも大切です。
過振り(かぶり)
支払期日までに当座預金に約束の代金を準備できる見込みがない場合、取引銀行に貸越を依頼する「過振り(かぶり)」という方法があります。金融機関に過振りを依頼すると、当座預金残高以上の小切手や手形でも一時的に立て替え払いしてもらえます。
ただし、不渡りほどではないものの、過振りも金融機関の信用にかかわることです。また、金額があまりに大きい場合や、もともと信用力が低い企業の場合、適用されないおそれもあります。
手形のジャンプ
受取人に支払期日の延長を依頼する「手形のジャンプ」も選択肢の1つです。手形のジャンプは、一時的な資金繰りの悪化を回避する手段です。
交渉は振出人と受取人の間で個別に行われ、公表されません。周囲や金融機関に知られずに支払いを延期でき、前述の不渡届の提出や銀行取引停止処分などを避けられます。
ただし、受取人がこの要請を承諾しなければ手形のジャンプは成立しません。資金繰りが危うい状況を相手に知らせることになるため、今後の取引に悪影響を及ぼす可能性は十分に考えられます。
交渉のポイントは、誠意をもって事情を説明し、相手の理解を得ることです。会社の現状、資金繰りの見通し、返済計画などを具体的に説明し、相手に安心感を与えながら交渉しましょう。
ファクタリング
臨時に資金を確保する方法には、売掛債権をファクタリング事業者に売却する「ファクタリング」もあります。
支払期日の到来していない手形が手元にある場合、これをファクタリング事業者に売却することで、早期に現金化でき、自らが振り出した手形・小切手の支払いに充てられます。
債権者とファクタリング事業者の間で契約する2社間ファクタリングなら、売掛先にファクタリングが知られることもありません。
ただし、近年ファクタリングを装った高金利の貸付けをするヤミ金融業者もいます。ファクタリング事業者は慎重に選び、契約内容をよく確認しましょう。ファクタリング手数料、契約期間、売掛債権の買い取り条件などを比較検討することが大切です。
不渡りまとめ
不渡りは、企業の信用を大きく揺るがす深刻な問題です。日頃から資金繰りの管理を徹底し、取引先との信頼関係を築いて不渡りを回避することは、取引先や取引銀行、ひいては地域経済全体に対する経営者としての責任といえるでしょう。
もしも不渡りを起こしそうな場合は、過振りや手形のジャンプ、ファクタリングなどの方法で、早めに資金を確保しましょう。それでも万が一不渡りを起こしてしまった場合は、落ち着いて対応し、早期の解決を目指すことが大切です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
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当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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