為替介入とは?これまでの歴史やメリットをわかりやすく解説
更新日:2024年06月17日
為替介入とは、通貨当局(日本では財務省や日本銀行)が為替レートに影響を与えるために、外国為替市場で通貨を売買する政策手段です。為替介入の目的は、為替レートの急な変動を緩和し、為替の安定をはかることです。具体的には「ドル買い・円売り介入」「ドル売り・円買い介入」の実施により適正な水準に市場を誘導します。
本記事では、為替介入の基礎知識やメリット・デメリットについて、これまで日本が実施してきた主な為替介入の歴史を振り返りながら解説します。
目次
為替介入(外国為替市場介入)とは
為替介入(外国為替市場介入)とは、為替の相場が急激に変動した際に、財務省や日本銀行などの通貨当局が保有する通貨を市場で売買し、急激な変動を緩和するための政策手段を指します。
為替介入についての主なポイントは、以下のとおりです。
- 為替介入の目的
- 介入資金の調達方法
- 為替介入実施までの流れ
- 為替介入の歴史
それぞれについて詳しく解説します。
為替介入の目的
為替介入の目的は、急激な為替変動(円安または円高)を制御し、相場を適切なレベルに誘導することです。円安や円高は、円と他の通貨との相対的な価値を示しています。具体的には、1円で交換できる他通貨の単位が少ない場合は「円安」、多い場合は「円高」です。
円安やドル高の急激な進行がみられる場合には「保有ドルを売り、円を買う」ことで、円安の進行を防ぎます。反対に円高やドル安の急速な進行がみられる場合、「保有円を売り、ドルを買う」ことで円高の進行を防ぎます。こうして為替市場を安定する方向に導くことが為替介入の目的です。
介入資金の調達方法
日本銀行が財務大臣の代理人として為替介入を実施する際、政府の「外為特会」の資金が用いられます。局面ごとの為替介入は以下のとおりです。
ドル買い・円売り介入 | 「政府短期証券(FB)」を発行して円資金を調達し、ドルを買う |
ドル売り・円買い介入 | 外為特会のドル資金を売って円を買う |
外為特会は、政府が外貨取引する際に使われる「特別会計」の一つであり、外為特会が保有する外貨資産は、収益性を追求しつつ流動性と償還確実性が高い国債等で運用されます。
参考:日本銀行「日本銀行における外国為替市場介入事務の概要」
為替介入実施までの流れ
為替市場に対する介入が必要かどうかは、財務省が判断します。介入が必要な場合、財務省の指示により売買を実施するのが日銀です。
通常、介入を実施する前には、通貨当局者が為替の動きに応じて警戒感を示すために慎重な表現を用います。「あらゆる措置を排除しない」「断固たる措置を取る用意」といった表現が当局者から発せられると、市場では為替介入が近いとの警戒感が高まります。
為替介入の歴史
為替介入は、これまで何度も実施されてきました。これまでの代表的な為替介入は以下のとおりです。
介入年 | 介入内容 | 介入の背景 |
1995年 | 円売り・ドル買い | 円高による輸出競争力低下の抑制 |
1998年 | ドル売り・円買い | 円安の是正 |
2001年 | 円売り・ドル買い | 9.11の影響による円高の抑制 |
2003~2004年 | 円売り・ドル買い | デフレの克服・円高の是正 |
2011年 | 円売り・ドル買い | 円高の是正 |
2022年 | ドル売り・円買い | 円安の是正 |
ここでは、それぞれの介入について解説します。
1995年
1973年の変動相場制導入以降、円は1995年4月19日に1ドル79.75円という最高値を記録しました。こうした円の急上昇は、日本の輸出の競争力を低下させ、バブル崩壊後の日本経済の回復を脅かしていました。
この急な円高に対応するため、日本銀行は外為市場での円売り介入を決定。その後、外国の投資家が円を売り、日本銀行が過去最大規模の為替介入を実施した結果、円は急落し1ドル100円台まで戻りました。
1998年
1997年から、日本の大手証券会社や銀行が次々と経営破綻し、金融危機が発生しました。さらにアジア金融危機を背景に1998年にはドルが急騰し、円が急落しました。これには日米間の金利の格差と米国の株価が上昇していたことも関係しています。
この円安状況を収束させるため、政府と日本銀行は為替市場への介入を決定しました。しかし、為替介入にもかかわらず円安の傾向は続き、同年の夏には1ドル=140円台にまで達しました。
2001年
2001年9月11日の米国における同時多発テロ事件の後、米国景気の先行きに対する不透明感が強まったことなどにより、ドルは急落して円高ドル安が進みました。これに対応するため日本と米国を含む複数の国が協調して為替介入を実施しました。
通常、有事の際にはドル買い傾向がみられるものの、この時は米国がテロの対象となったため、「有事のドル買い」は発生しなかったと考えられています。
2003~2004年
2003年3月に始まったイラク戦争の後、米国の「双子の赤字問題」が主な要因となり、円高・ドル安が急速に進みました。日本の輸出主導の経済に悪影響を及ぼすおそれから、日本銀行は大きな規模で持続的な介入を実施します。
この期間の介入は円安の維持によって、「失われた10年」からの日本経済復活を目指すものでした。
2011年
東日本大震災の影響で日本経済が打撃を受けていたにもかかわらず、円高の圧力が高まり2011年10月31日には、1ドル=75円32銭を記録しました。
当時の財務相は「納得がいくまで介入する」と述べ、円高を抑制するために政府と日本銀行は覆面介入(介入を公表せずに秘密裏に行うこと)を実施。日本銀行による大量の円売却は、円高の流れを逆転させて経済の復興を促すのが目的でした。
2022年
2022年は円安とドル高が急速に進行していたため、同年の9月に政府と日本銀行が合わせて約2.8兆円を投じて円買いの為替介入を実施しました。
しかしながら円安の流れは止まらず、10月には1ドル=150円台という円安レベルに達しました。
その後、10月の下旬にも政府と日本銀行は再び為替介入を実施します。結果として介入は合計3回にわたり、総額は9.2兆円規模でした。
為替介入の効果やメリット
為替介入の実施は、極端な円安または円高からの回復を可能にし、政策・経済・家計の安定に寄与するといったメリットがあります。
極端な円安または円高が続くと、各方面に影響を及ぼしかねません。たとえば円安が深刻化すると、輸入品の価格が上昇し、家計に悪影響を与えるおそれがあります。一方で円高が進行している局面では、日本の輸出企業の国際的な競争力が低下します。
各局面における為替介入の効果を再確認すると、以下のとおりです。
局面 | 介入内容 | 効果 |
円安が進行 | ドル売り・円買い | 円安の値動きは抑制され、一時的に円高の値動き |
円高が進行 | 円売り・ドル買い | 円高の値動きは抑制され、一時的に円安の値動き |
このように国の経済運営においては、ある程度通貨当局の思惑どおりに動かせることがメリットとして挙げられます。
為替介入のデメリットや注意点
為替介入は、急激な為替の変動の抑制や安定化をはかれますが、その効果は限定的であるという見方も存在します。それは、為替介入には資金が必要であり、頻繁に行うことは困難なためです。
また、為替介入の範囲には限界があり、十分な資金(円やドルなど)がなければ対応できません。円安や円高への対応は、「ドル売り・円買い介入」や「円売り・ドル買い介入」を実施することで可能ですが、これには財務省の外為特会が保有するドル資金の売却や政府短期証券の発行による円資金の調達が必要です。
さらに、為替介入は他国への配慮を必要とし、とくに米国との関係を意識しなければなりません。米国の理解を得ずに為替介入を進めると、日米関係に影響を及ぼす可能性があります。また、日本だけでは為替介入の効果は長続きせず、欧米との協調が必要になることもデメリットといえます。
為替介入まとめ
為替介入とは、通貨当局が外国為替市場での通貨取引を通じて、為替レートの急な変動を緩和する政策です。為替介入の目的は、急激な為替変動を抑制しつつ為替レートを適切な水準に誘導することにあります。日本銀行が財務大臣の指示に基づいて政府の外国為替資金特別会計(外為特会)の資金を使用することにより、極端な円安や円高の是正が可能です。
為替介入の歴史をみると、過去には1995年の円高抑制や2011年の東日本大震災後の円高是正など、複数の介入が実施されてきました。これらの介入は、それぞれの時期の経済状況に対応するための重要な措置でした。
為替介入のメリットとデメリットについては、極端な円安や円高の是正を可能にする一方で、効果は限定的であり、他国との協調が必要となるという点が挙げられます。為替介入は国際的な経済状況に影響を与えるため、他国との協力が不可欠です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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