債務とは?意味や債権との違いについてわかりやすく解説

更新日:2025年05月14日

債務

債務とは、ある人が負う支払義務や引渡義務などを指します。権利ではなく、義務を負う点が債権との主な違いです。本記事では、債務とは何かを説明したうえで、具体的にどのような場面で発生するのかや、消滅させる方法などについても解説します。

目次

債務とは

債務(さいむ)とは、ある人が他人に対して何かをする義務のことです。債務を負っている人のことを債務者と呼びます。

お金を借りたときや物・サービスを購入したときに発生する支払義務は、債務の一種です。金融機関や貸金業者などからお金を借りている人は債務者にあたります。

また、金銭の支払いや給付に限らず、品物を引き渡す義務なども債務に該当するため、注意しましょう。債務に関する決まりについては、主に民法で定められています。

債務と債権の違い

債務と債権の主な違いとして、「義務」か「権利」かが挙げられます。

債権(さいけん)とは、ある人が他人に対して何かをさせる権利のことです。債権を持っている人のことを債権者と呼びます。

債務者は義務を負うのに対し、債権者は義務に対して権利を持つ点がポイントです。そのため、債務者が存在する場合は、基本的にそれに対する債権者も存在します。

なお、読み方が同じでも、「債権」と「債券」が異なる言葉である点にも注意しましょう。債券とは、国・自治体や企業が資金調達のために発行する有価証券のことを指します。

債権・債務が発生する具体例

債権や債務は、契約を締結した際に発生することが一般的です。具体例として、以下の契約が挙げられます。

  • 売買契約
  • 労働契約
  • 贈与契約
  • 消費貸借契約

ここから、各契約でどのように債権・債務が生じるのかを確認していきましょう。

なお、上記契約時以外にも、損害賠償責任を負うような不法行為をした際に、債務(相手にとっては債権)が発生します。

売買契約

売買契約とは、一方が財産権を相手に移すことを約束し、その相手は代金を支払うことを約束する契約のことです。AさんがB不動産から500万円の土地を購入する契約を交わしたケースで、債権と債務の関係を説明します。

AさんはB不動産に対して500万円を支払わなければなりません。そのため、Aさんは500万円を支払う債務を負うのに対し、B不動産は500万円を受け取る債権を持ちます。

一方、B不動産もAさんに対して土地を引き渡さなければなりません。B不動産は土地を引き渡す債務を負い、Aさんは土地を受け取る債権を有します。

つまり、金銭の授受ではAさんが債務者でB不動産が債権者である一方で、引渡しについてはAさんが債権者でB不動産が債務者に該当する点が売買契約のポイントです。このように、契約の当事者の両方が債権も債務も負うことを双務契約と呼びます。

労働契約

労働契約とは、一定の労働条件下で労働者が労務を提供することを約束し、事業者(使用者)が対価として賃金を支払うことを約束する契約のことです。CさんがD商店にて時給1,500円で働く契約を交わしたケースで、債権と債務の関係について確認していきましょう。

Cさんには、働いた分について時給1,500円で給与を受け取る債権があります。ただし、受け取る給与に見合った労働を提供する債務も負わなければなりません。

一方、D商店はCさんに対して労働を求める債権を有します。そして、その労働に対して、時給1,500円で給与を支払わなければなりません。

雇われる側にも雇う側にも債権・債務の両方が生じる点が労働契約のポイントです。そのため、労働契約も双務契約に該当します。

なお、雇用契約も基本的には労働契約と同じ意味で使われる言葉です。

贈与契約

贈与契約とは、一方が財産を無償で相手に与える意思を表明し、その相手が受け入れる契約のことです。E代表取締役が、事業承継を念頭に置いて息子であるF専務取締役に無償で株式を譲渡することを約束したケースで、債権と債務の関係を説明します。

E代表取締役は、F専務取締役に無償で株式を譲る債務を負わなければなりません。一方、F専務取締役は、無償で株式を受け取る債権を持ちます。

売買契約や労働契約と異なり、贈与契約は財産を渡すことを約束した側のみに債務が生じる点がポイントです。今回のケースでは、F専務取締役は債務を負いません。そのため、贈与契約は一方だけが相手に対して債務を負う片務契約と呼ばれます。

ただし、受け取る側にも何かしらの債務を負担させる負担付贈与の場合には注意が必要です。負担付贈与の場合は、原則として双務契約に関する規定を準用することとされています(民法第553条)。

参考)e-Gov 法令検索「民法第第五百五十三条」

消費貸借契約

消費貸借契約とは、一方が種類・品質・数量が同じもので返還することを約束したうえで、相手から金銭などを受け取る契約のことです。G株式会社がH銀行から2,000万円を借りる金銭消費貸借契約を交わしたケースで、債権と債務を考えていきましょう。

G株式会社は契約時に決めた期日までに2,000万円を返済する債務を負い、H銀行は期日までに2,000万円を受け取る債権を持ちます。それに対し、G株式会社には債権を持たず、H銀行は債務を負わない点が消費貸借契約のポイントです。そのため、消費貸借契約は片務契約に該当します。

なお、金銭消費貸借契約とは、消費貸借契約のうち受け取る対象が金銭に限定する契約のことです。

「債務」の関連用語の意味

債務にはさまざまな関連用語があります。以下は、債務に関する用語の例です。

  • 債務不履行
  • 債務整理
  • 債務引受

債務不履行(デフォルト)とは、債務者が約束した義務を果たさないことです。債務を履行できなくなる「履行不能」、履行が遅れる「履行遅延・履行遅滞」、履行が不十分な「不完全履行」、あえて履行を拒絶する「履行拒絶」などがあります。

債務整理とは、任意整理・民事再生・会社更生・破産などにより、支払いが困難な借金を整理することです。自分でもできますが、専門知識が求められるため、弁護士が介入することがあります。

債務引受とは、同一性を失わせずに債務引受人に債務を移転することです。債務者と債務引受人が連帯して債務を負う併存的債務引受と、債務者の債務が免除される免責的債務引受があります。

債務を果たさないことのリスク

債務を果たさないことによる主なリスクは、以下のとおりです。

  • 損害賠償責任を負う
  • 契約を解除される
  • 訴訟を起こされる

ここで各リスクを理解し、期日管理の徹底を心がけましょう。

損害賠償責任を負う

債務を果たさないことにより債権者に損害を与えた場合、損害が債務者の責任と言えない場合を除き、債務者はその損害を賠償する責任を負わなければなりません(民法第415条)。

債権者から請求されうる損害賠償額の対象は、債務不履行により通常生じるであろう損害です。損害について特別な事情がある場合でも、当事者が事情を予見すべきであれば債務者が賠償責任を負います(民法第416条)。

たとえば、生麺の製造を営む会社が自社の都合で麺をラーメン屋に納品できずに開店を遅らせるなどの損害を与えた場合、損害賠償責任を負うことがあります。

参考)e-Gov 法令検索「民法第四百十五条、第四百十六条」

契約を解除される

債務を果たさないことにより、債権者側から契約を解除されることもあります。

契約の解除とは、解除権を持つ当事者が意思表示することにより、締結した契約関係を締結時点に遡って失効させることです。契約前の状態に遡る点で、契約の終了や解約と異なります。

本来、契約書で定めた解除事由に該当しない限り一方的な契約の解除はできませんが、債務不履行がある場合など特定のケースについては民法が契約の解除を認めています。たとえば、取引先からボールペンの発注を受けたにもかかわらず納入を先延ばししていると、契約を解除されてビジネスチャンスを逃してしまうでしょう。また、すでに代金を受け取っている場合は、返還しなければなりません。

なお、債務の不履行が社会通念に照らして軽微であるとき(民法第541条ただし書き)や債権者側に責任があるとき(民法第543条)は、契約の解除が認められないことがあります。

参考)e-Gov 法令検索「第五百四十一条、第五百四十三条」

訴訟を起こされる

債務を履行しないことにより、債権者から請求された損害賠償や契約解除に伴う代金の返還を拒否した場合、訴訟を提起されることがあります。

取引先から訴えられたことが世間に知られると、企業イメージの低下につながることがあるでしょう。また、弁護士報酬などの費用が発生したり、訴訟の手続きに手間がかかったりします。

さらに、訴訟で債権者の言い分が認められた判決が確定すると、命じられた債務を履行しなければなりません。履行できずに強制執行を受けると、所有する不動産や有価証券・商品などの動産、取引先に対して有する債権などを差し押さえられます。

債務を消滅させる7つの方法

民法によると、債務を消滅させるための方法は、以下の7つです。

  • 弁済
  • 代物弁済
  • 相殺
  • 供託
  • 更改
  • 免除
  • 混同

具体例を交えつつ、それぞれの概要を解説します。

弁済

弁済(べんさい)とは、債務者が本来の目的に従って債務を履行することにより、債権と債務を消滅させることです。

1年後に金銭で返済する約束で、2,000万円を借りるケースで考えてみましょう。契約で決められた手段で、1年後までに2,000万円を返済することが、弁済にあたります。このケースでは、2,000万円分を金銭以外で給付することは弁済とみなされません。

なお、債権者以外の第三者でも、弁済は可能です。ただし、第三者が弁済することに債権者や債務者が同意していない場合は、認められません。

代物弁済

代物弁済(だいぶつべんさい)とは、本来の目的物による弁済の代わりに別のものを給付し、債権と債務を消滅させることです。

たとえば、銀行から借りていたお金を現金で返せない場合に、所有する不動産を譲渡して弁済にあてることが代物弁済にあたります。ただし、代物弁済が通常の弁済と同様の効力を有するためには、弁済者と債権者の間で本来の目的物の代わりに他の給付で債務を消滅させる契約を締結していることが必要です。

なお、代物弁済で譲渡する資産が債権額に及ばない場合でも、債務の弁済は実行されます。

相殺

相殺(そうさい)とは、2人がそれぞれ相手に対して同じ種類の債権を持っている場合に、意思表示することで自らの債務を相手に対する債権の対等額で消滅させることです。

X社が取引先のY社から100万円を借りる一方で、納品した品物の代金100万円を受け取っていないケースで考えてみましょう。X社はY社に対して借金で100万円の債務を負っている一方で、代金100万円を受け取る債権も有しています。そのため、意思表示することで相殺により対象債権・債務の消滅が可能です。

ただし、対象の債権が弁済期を迎えるまで、相殺できない点に注意しましょう。たとえば、X社が受け取る100万円について、まだ支払期限が到来していない場合は、相殺の対象外です。

供託

供託(きょうたく)とは、金銭や有価証券などを供託所に提出して管理を委ね、最終的にある人(被供託者)に対象の財産を取得させて法律上の目的を達成するための制度です。供託所は国の機関で、法務局や地方法務局などがその役割を担っています。

弁済にあたって供託を利用できるのは、債権者が受領を拒むとき・債権者が弁済を受領できないとき・弁済者が債権者を認知できないときです。たとえば、オフィスの賃料値上げに反対し、従来と同じ額を支払うも家主に受け取りを拒絶された場合に供託することがあります。

供託する額が相当であれば、賃料分の債務の消滅が可能です。ただし、裁判所で賃料値上げが相当と判断された場合は、値上げ分との差額を支払わなければなりません。

なお、供託は弁済供託以外にも、担保供託・保証供託・執行供託などさまざまな種類があります。

更改

更改(こうかい)とは、当事者が今までの債務の代わりに新たな債務を発生させることです。以下に関する契約を締結する際に、今までの債務は更改により消滅します。

  • 今までの内容について重要な変更をする
  • 今までの債務者が第三者と交代する
  • 今までの債権者が第三者と交代する

なお、「重要な変更」については判断が難しいです。借金の利率を変更したり期日を変更したりする場合は、一般的に更改にはあたらないとされています。

免除

免除(めんじょ)とは、債権者が意思表示して債務者に対して対象の債権を消滅させることです。債権者が自身の有する債権を放棄するため、債権放棄と呼ばれることもあります。債権者は、債権放棄の意思表示にあたって、内容証明や配達証明を債務者に送付することが一般的です。

たとえば、オーナー経営者が自社に対してお金を貸しているケースで、会社の財務状況が深刻な場合に債務を免除することがあります。ただし、債務免除により会社側に利益が発生し、法人税が増加することがあるため注意が必要です。

混同

混同(こんどう)とは、債権と債務が同一の人に帰属することをいい、債権と債務はそれぞれ消滅します。本来、債権者と債務者は別に存在していますが、相続や合併などの事情により、一人(または一社)が両方を有する場合があります。

息子が父親から借金をしていたケースで考えてみましょう。息子は父親に対して借金を返済する債務を負っているのに対し、父親は長男に対して貸したお金を返してもらう債権を有しています。そこで、万が一父親が亡くなり相続人が長男だけであった場合は、父親の有する債権も相続するため混同の対象です。

なお、対象債権が第三者の権利の目的になっている場合は、混同のケースでも消滅しません。

債権を譲渡された場合の債務の扱い

債権は、当初の債権者から債権譲受人(さいけんゆずりうけにん)に譲渡されることがあります。債権の譲渡方法はさまざまです。

主な方法として、以下が挙げられます。

  • 債権者が約束手形を裏書する
  • 債権者が電子記録債権を譲渡する
  • 債権者がファクタリングを利用する

各ケース別に、債権を譲渡された場合の債務の扱いについて解説します。

債権者が約束手形を裏書した場合

約束手形の裏書とは、契約時に手形を受け取った人(債権者)が裏面に署名・押印して別の人に譲渡することです。裏書により、債務者は裏書した手形を受け取った人に対して、期日までに額面と同額の債務を支払わなければなりません。債務者以外に支払うことを避けたい場合は、約束手形に裏書禁止や指図禁止の文言をあらかじめ記載しておく方法があります。

なお、政府は2026年までに約束手形の利用を廃止する方針を示しているため、今後は約束手形の裏書を想定することが減る見込みです。

参考)手形の裏書き(譲渡)とは

債権者が電子記録債権を譲渡した場合

電子記録債権とは、「でんさい」のように電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することで発生・譲渡・消滅させる金銭債権のことです。債権者が譲渡記録請求した場合、債務者はその通知を受けた譲受人に対して債務を支払います。ただし、支払期日になると引き落とし口座への送金が自動で進められるため、債務者に手間はかかりません。

また、電子記録債権が債権者により分割譲渡された場合は、複数の第三者に対して債務を支払います。

債権者がファクタリングを利用した場合

ファクタリングとは、事業者が保有する売掛債権をファクタリング業者に売却することで、資金を調達する手段のことです。債権者が2者間ファクタリングを利用するか、3者間ファクタリングを利用するかによって、債務の扱いが異なります。

2者間ファクタリングでは、債権者がファクタリング事業者と契約する点が特徴です。そのため、債務者は通常どおり債権者に対して債務を支払います。

一方、3者間ファクタリングでは、債権者・ファクタリング事業者・債務者で契約する点が特徴です。債務者は債権者に対して債権譲渡の承諾をし、期日が到来したら債務をファクタリング事業者に対して支払います。

参考)ファクタリング会社おすすめ比較10選

債務まとめ

債務とは、ある人が他人に対して何かをする義務のことです。売買契約・労働契約・贈与契約・消費貸借契約などを締結する際に、債務が発生します。

債務を消滅させるための方法は、弁済・代物弁済・相殺などです。期日までに履行しないと損害賠償責任を負ったり、契約を解除されたりする可能性があるため、債務がある場合は期日管理を徹底しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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