電子記録債権とは?でんさいと手形の違いや仕訳例もわかりやすく解説

2023.10.20

電子記録債権

電子記録債権(でんさい)とは、電子債権記録機関で電子記録することにより、発生や譲渡の効力が生じる金銭債権のことです。そのため、手形やファクタリングなどとは異なる部分があります。

本記事では、電子記録債権の仕組みを説明したうえで、メリットやデメリットを解説します。

目次

電子記録債権(でんさい)とは?

電子記録債権とは、手形や売掛債権などが抱える問題点を克服した金銭債権のことです。そのうち、でんさいネットが扱う電子記録債権のことを「でんさい」と呼びます。

電子債権記録機関に電子記録することで発生したり譲渡できたりする点が、主な特徴です。ここから、制度ができた背景や仕組み、手形・ファクタリングとの違いを解説します。

電子記録債権制度ができた背景

2007年6月に電子記録債権法が成立し(2008年12月施行)、電子記録債権制度が誕生しました。事業者の資金調達の円滑化などを図ることが、本制度ができた主な目的です。

たとえば、手形は「保管コストがかかる」「紛失のリスクがある」「印紙税が課される」などの理由で、利用が減少傾向にあるという課題を抱えています。また、売掛債権も「存在や発生原因を確認するのにコストがかかる」「二重譲渡のリスクがある」「流動性に乏しいため資金化に時間がかかる」などの点がデメリットです。

新たに誕生した電子記録債権制度は、取引の安全性・流動性の確保や、利用者保護の要請に応えるように整えられています。

参考:でんさいネット「電子記録債権とは」

電子記録債権の仕組み

電子記録債権は、主に以下の流れで成り立つ仕組みです。

  1. 電子記録債権が発生する
  2. 電子記録債権を譲渡する
  3. 電子記録債権を支払う

それぞれの具体的な内容を解説します。

電子記録債権が発生する

電子記録債権は、金融機関を通じて電子債権記録機関(でんさいネット)の記録原簿に「発生記録」を実施することにより発生します。納入企業A社が物品販売・納入し、支払企業B社に支払債務があるケースで考えてみましょう。

債務者であるB社は、金融機関を通じて発生記録の請求をしなければなりません。その後、請求を受けた記録機関が発生記録を実施し、金融機関を通じて債権者であるA社にその旨を通知します。

なお、電子記録債権法によると、本来電子記録債権の発生には債務者・債権者双方からの請求が必要です。ただし、でんさいネットでは、手形の振出実務のように債務者だけで発生手続できる「債務者請求方式」を基本としています。

参考:でんさいネット「債務者からでんさいを発生させる場合のフローを教えてください。」

電子記録債権を譲渡する

電子記録債権は、金融機関窓口経由ででんさいネットの記録原簿に「譲渡記録」を実施することで、譲渡もできます。また、必要に応じて債権を分割した譲渡も可能です。

たとえば、先ほどのA社がC社から物品を購入して支払債務が発生し、B社に対する電子記録債権をC社に対して譲渡する場合、A社はでんさいネットの記録原簿に「譲渡記録」が必要です。

電子記録債権を支払う

支払期日が到来して債務者(支払企業)の口座から債権者(納入企業)の口座に支払いが実施されると、電子記録債権は消滅し、電子債権記録機関に「支払等記録」として記録されます。

なお、今回のように債務者であるB社に対する電子記録債権について、A社がC社に譲渡している場合、金額が払い込まれるのはC社の口座です。

電子記録債権(でんさい)と手形の違い

二者間の取引に利用する約束手形や、三者間の取引に利用する為替手形を一般的に「手形」と呼びます。債権の発生や債権の譲渡の方法が、電子記録債権と手形の主な違いです。

電子記録債権では電子債権記録機関における「発生記録」によって債権が発生するのに対し、手形は振り出すことで債権が発生します。また、電子記録債権は「譲渡記録」で債権を譲渡するのに対し、手形は裏書譲渡が必要です。

そのほか、電子記録債権で可能な債権の分割が、手形ではできない点も異なります。

電子記録債権とファクタリングの違い

ファクタリングとは、売掛債権を専門の業者へ売却することで、期日前に手数料を引いた分の金額を受け取る資金調達方法を指します。電子記録債権とファクタリングの主な違いは、契約手続きの手間や責任の所在です。

電子記録債権をすでに利用していれば、取引先が増えたとしても新たに電子記録債権の口座を開設する必要はありません。一方、ファクタリングの場合、新規取引先の債権に対してファクタリングを実施するには、業者を交えた新たな契約が必要です。

また、対象の債務(債権)が不履行になった場合、電子記録債権では譲渡した企業も支払義務を負いますが、ファクタリングでは業者が責任を負います。

でんさいネットとは?

でんさいネットとは、日本国内の銀行を会員とする、一般社団法人全国銀行協会が設立した電子債権記録機関のことです。正式な組織名を、株式会社全銀電子債権ネットワークといいます。

主な特徴は、以下のとおりです。

  • 手形的利用
  • 全銀行参加型
  • 間接アクセス方式

手形的利用とは、「取引停止処分」など手形と似た方法を採用していることです。また、「全銀行参加型」により、既存の銀行間決済システムを利用しています。間接アクセス方式とは、窓口金融機関を通じて利用する仕組みのことです。

なお、電子債権記録機関は、でんさいネット以外にもいくつか存在します。

参考:でんさいネット「でんさいと他の電子記録債権の違いを教えて下さい。」

電子記録債権のメリット

電子記録債権のメリットは、主に以下のとおりです。

  • 事務負担やリスクを軽減できる
  • コストを削減できる

各メリットを解説します。

事務負担やリスクを軽減できる

電子記録債権を利用することで、事務負担を軽減できる点がメリットです。手形を振り出す場合と異なり、取引先へ郵送する手間がかかりません。手形を受け取った側も、金融機関で取り立て手続きをする手間を省けます。

また、盗難リスクの軽減につながる点もメリットです。それに対して手形を利用する場合は、保管している間に盗難の被害にあったり、紛失したりする可能性があります。

コストを削減できる

振り出す際に額面に従った収入印紙を貼付しなければならない手形と異なり、電子記録債権は印紙税が課されないため、コストを削減できる点がメリットです。

また、手続きにあたって郵送が不要なため郵送にかかる費用も削減できます。さらに、手形のように保管する必要がないため、管理コストも削減できるでしょう。

そのほか、支払期日の当日に自動で入金される点もメリットとして挙げられます。支払期日当日から資金を利用できるため、債権者側の資金繰りを改善できるでしょう。

電子記録債権のデメリット

電子記録債権のデメリットは、以下のとおりです。

  • 取引先も加入していなければ利用できない
  • 会計処理を変更しなければならない

それぞれのデメリットを解説します。

取引先も加入していなければ利用できない

取引先も利用を開始していなければ、電子記録債権を利用できない点がデメリットです。そのため、電子記録債権を利用するにあたってあらかじめ取引先に利用可否を確認しておかなければなりません。

また、電子記録債権を利用するために金融機関で事前の申し込みが必要です。さらに、各金融機関で電子記録債権の手数料が定められています。

会計処理を変更しなければならない

電子記録債権を主な決済手段にした場合、会計処理の変更も必要な点がデメリットです。会計処理を変更するためには、自社のシステムが対応しているか確認しておかなければなりません。

また、会計の担当者が担う処理・作業も変わるため、混乱が生じないように事前に研修を実施したり、マニュアルを作成したりすることも重要です。

電子記録債権の始め方

電子記録債権には、さまざまな種類があります。電子記録債権のうち、でんさいを始めるまでの主な流れは以下のとおりです。

  1. 窓口金融機関に利用を申し込む
  2. 金融機関で一定の審査が実施される
  3. 利用契約を締結する
  4. でんさいの初期設定を実施する
  5. でんさい利用を開始する

金融機関によって手続きの流れが異なる場合があるため、詳しい内容は取引銀行にお問い合わせください。

電子記録債権の仕訳例

電子記録債権を利用する際の仕訳例は、債権者(納入企業)と債務者(支払企業)で異なります。ここでは、200万円の商品の売買で電子記録債権を利用したケースで、債権者が仕訳する場合と債務者が仕訳する場合を確認していきましょう。

債権者(納入企業)が仕訳する場合

商品を納入した債権者は、まず売掛金として商品代金を計上します。

借方 貸方 摘要
売掛金 2,000,000円 売上 2,000,000円 ◯社へ販売分

続いて、電子記録債権が発生した際に、売掛金の振替作業が必要です。

借方 貸方 摘要
電子記録債権 2,000,000円 売掛金 2,000,000円 電子記録債権発生分

最後に、電子記録債権が消滅した際に以下のような仕訳をします。

借方 貸方 摘要
現金 2,000,000円 電子記録債権 2,000,000円 電子記録債権消滅分

債務者(支払企業)が仕訳する場合

商品を仕入れた債務者は、まず買掛金として商品代金を計上します。

借方 貸方 摘要
仕入 2,000,000円 買掛金 2,000,000円 □社から仕入分

続いて、電子記録債権が発生した際に、買掛金の電子記録債務への振替作業が必要です。

借方 貸方 摘要
買掛金 2,000,000円 電子記録債務 2,000,000円 電子記録債権発生分

最後に、電子記録債権が消滅した際に以下のような仕訳をします。

借方 貸方 摘要
電子記録債務 2,000,000円 現金 2,000,000円 電子記録債権消滅分

電子記録債権まとめ

電子記録債権とは、電子債権記録機関に電子記録することで発生したり譲渡できたりする金銭債権です。そのうち、でんさいネットで利用できる電子記録債権を「でんさい」と呼びます。

事務負担・リスク・コストを軽減できる点が電子記録債権のメリットです。ただし、取引先も導入していなければ利用できない点がデメリットとして挙げられます。

メリットとデメリットを比較したうえで、自社で導入すべきか判断しましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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