純資産とは?総資産との違いや種類をわかりやすく解説
更新日:2024年02月04日
「純資産」とは、企業の資産のうち返済義務がないものです。名前が似ており混同しやすい「総資産」は、すべての資産(流動資産および固定資産)の合計をいいます。純資産を活用すれば、さまざまな経営指標を計算できます。純資産の概要と指標の計算方法を確認し、健全な経営の実現にぜひ役立ててください。
目次
純資産とは?総資産との違い
「純資産」とは、企業の資産のうち返済義務がないものをいいます。純資産は、財務諸表の一つである貸借対照表(バランスシート)で確認できます。貸借対照表は右と左に分かれており、それぞれの合計額が一致する仕組みです。左右に記される内容を、以下で確認しましょう。
左側 | 右側 | |
資産の種類 | 企業が将来的に資金として活用できる資産 | 資産の調達方法 |
項目 |
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科目(一例) |
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【負債】
【純資産】
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純資産と間違えやすいものに、「総資産」があります。総資産とは、左側に記された資産の合計金額のことです。総資産の金額は、負債と純資産の合計額と一致します。純資産と総資産の概要は、以下のとおりです。
- 純資産:返済義務がない資産。企業の資産のうち返済義務がないもの
- 総資産:すべての資産(流動資産および固定資産)の合計
純資産と総資産はよく似た名前ですが、性質が大きく異なります。財務諸表を見たり確定申告をしたりする際には、混同しないよう注意しましょう。
純資産の主な種類
純資産は、「株主資本」と「株主資本以外」で構成されます。株主資本を形成する5つの科目は、以下のとおりです。
- 資本金
- 資本剰余金
- 資本準備金
- 利益剰余金
- 利益準備金
また、株主資本以外には以下の3つが挙げられます。
- 評価・換算差額等
- 新株予約権
- 少数株主持分
ここでは、株主資本と株主資本以外に含まれる科目について、一つずつ詳しく解説します。
株主資本
株主資本は株主が出資した資本および、資本を使って生じた過年度の利益です。返済義務がない資産で事業を行う元手となることから、経営の健全性や株式の投資価値を測るのに用いられます。また株主資本を使えば、1株あたりの利益を算出することも可能です。
自身で会社を経営する場合はもちろん、株式投資をする際にも株主資本は大切な数字となります。ここで解説する5つの科目の概要をしっかりと確認し、財務状況の把握にぜひ役立ててください。
資本金
資本金とは、事業を運営するために株式と引き換えに株主から集めた資金や、経営者が出資した資金を合計したものです。資本金を見れば、株主からどのくらいのお金を集められたかがわかります。資本金額が大きければ、多くの株主からの出資があったと考えられるでしょう。
資本金を見るうえで気を付けたいのは、あくまでも過去に集めたお金の実績である点です。資本金が大きいからといって、現在の事業が順調かまでは測れません。
なお、株主から集めた資金を次項で解説する資本剰余金に組み入れれば、資本金額は減ります。資本金を小さくすると、税制上の優遇が受けられます。節税をしたいと考えるなら、資本金を減らして資本剰余金を増やすのも一つの方法です。
参考)資本金の仕訳
資本剰余金
資本剰余金とは、資本金として株主から集めた資金のうち資本金とされなかった部分です。資本剰余金は、以下の2つで構成されます。
- 資本準備金
- その他の資本剰余金
その他の資本剰余金には、以下が該当します。
- 固定資産評価差益
- 債務免除益
- 保険差益
- 自己株式処分差益
- 資本金減少差益
- 資本準備金減少差益 など
株主から集めた資金は、2分の1を上限として資本剰余金に計上できます。ただし、資本剰余金を取り崩すには、株主総会の特別決議で3分の2以上の株主の賛成が必要な点に注意しましょう。
資本準備金
資本準備金はその他の資本剰余金とともに資本剰余金を構成するもので、多額の支出や赤字の発生に備えて、資本金とは別に取っておくお金をいいます。資本準備金額を確認すれば、その企業が将来の支出にどの程度備えているかを知ることができます。
資本準備金は、株主総会の普通決議で資本金に移すことが可能です。資本準備金を活用することで、新規事業の拡大など多額のお金が必要な場合にも出資者を募ることなく、自力で資金を調達できます。
利益剰余金
利益剰余金とは、設立から現在まで企業が事業で生み出した利益を積み立てたお金です。会社の長期的な収益力を知りたいなら、利益剰余金を参考にしてください。
利益剰余金は、次項で述べる「利益準備金」と「その他利益剰余金」で構成されます。その他利益剰余金は、企業が自主的に積み立ててきた「任意積立金」と企業内に留保されている「繰越利益剰余金」の2つに分けられます。
任意積立金とは、企業が獲得した留保利益のうち任意で積み立てたものです。繰越利益剰余金は、会社が獲得した利益のうち会社内に留保されている金額で、利益準備金や任意積立金に計上されないものをいいます。
利益準備金
利益準備金は、企業の財務基盤強化と債権者保護のため会社法によって積立が義務付けられている資本です。具体的には、株主に配当する金額の10分の1を積み立てなければならないと規定されています。
利益準備金には限度額があり、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達した場合は、それ以上の積立はできません。
株主資本以外
株主資本以外とは、純資産の中で株主に帰属しない資産です。株主資本以外に該当する主な資産は、以下の3つです。
- 評価・換算差額等
- 新株予約権
- 少数株主持分
評価・換算差額等
評価・換算差額等には、資産および負債、株主資本のいずれにも含まれなかった項目が入ります。具体的には、不動産や有価証券を購入したときの価額と現在の価額との差額(評価損益)で、以下のいずれかで表記されます。
- その他有価証券評価差額金
- 土地再評価差額金
- 繰延ヘッジ損益
評価・換算差額等で重要なのは、流動資産として扱われない点です。そのため、売買が目的または満期日が1年以内に到来する有価証券は、評価・換算差額等として記載できません。評価・換算差額等に該当するのは、満期日の到来が1年超の有価証券や関連会社の支配を目的としているものなど、流動資産にあたらない「投資有価証券」に限られます。
新株予約権
新株予約権とは、今後発行される株式を購入できる権利です。権利を行使した投資家は、あらかじめ決められた価格や条件で新しい株式の交付を受けられます。新株予約権は、株主ではなく投資家に帰属します。そのため、株主資本とはいえません。投資家が将来権利を行使し、株式が交付されたときには、資本となります。権利行使時には、新しい株式の発行もしくは企業の自己株式の移行によって、投資家に株式を交付します。
少数株主持分
少数株主持分とは、連結企業において親会社以外の株主が保有する持分です。一般的に少数株主持分は、グループ企業の純資産に親企業を除いた株主の持分比率を掛けて算出します。多くの場合、連結親会社以外の株主の所有割合は半数を超えません。仮に半数を超えたとしても連結親会社が支配を持つことが多いため、非支配株主持分とも呼ばれます。
純資産からわかる経営指標
純資産は、企業の財政状態を分析するために用いられます。企業の収益性や安全性を確認したいなら、ぜひ積極的に活用したいところです。純資産からわかる主な経営指標は、以下の7つです。
- 自己資本利益率(ROE)
- 自己資本比率
- 総資本利益率(ROA)
- 固定比率
- 固定長期適合率
- 利益剰余金比率
- 借入金依存度
ここでは、それぞれの指標を詳しく解説します。
自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率(ROE)とは、自己資本のうち当期純利益が占める割合です。自己資本利益率は、以下の式で計算します。
自己資本利益率(ROE)=当期純利益÷自己資本(純資産)×100(%)
自己資本利益率は、株主が出資した金額に対してどれぐらいの利益を出したかを示す指標です。自己資本をどれだけ有効に活用し利益を上げたかがわかるため、企業の収益力と成長性を測れます。
自己資本利益率の一般的な目安は10%です。15%を超えると、投資価値のある優良企業といえます。
参考)ROEとは
自己資本比率
自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合です。自己資本比率は、以下の式で計算します。
自己資本比率=自己資本(純資産)÷総資本(負債+純資産)×100(%)
自己資本比率が高い企業は、借入金が少なく倒産しにくいと考えられるでしょう。どのくらいの比率だと経営が安定しているかは、業種によっても異なるため一概にはいえませんが、上場会社なら一般的に自己資本比率が30%を超えているかが目安とされます。また、50%を超えると、経営はかなり安定していると考えられます。
参考)自己資本比率とは
総資本利益率(ROA)
総資本利益率(ROA)は、資産に対し利益が占める割合です。総資本利益率は、以下の式で計算します。
総資本利益率(ROA)=経常利益÷純資本×100(%)
総資本利益率は、元手に対しどのくらいの利益を上げたのかを測る指標です。日本では規模拡大を重視する企業が多く、純資産が大きくなる傾向にあります。そのため、総資本利益率は小さくなるケースが多く、20%を超えるとかなり優秀な企業といえます。
参考)ROAとは
固定比率
固定比率とは、企業が保有する建物や設備といった固定資産を、どのくらい自己資本で賄っているかを見る指標です。固定比率は以下の式で計算します。
固定比率=固定資産÷自己資本(純資産)×100(%)
固定比率が100%を下回っているなら固定資産をすべて自己資本で賄っているため、財務状況が安定しているといえるでしょう。しかし100%を超えていたとしても、即座に経営状態が悪いとはいえません。事業内容などによっては、固定資産をすべて自己資金で賄うのは難しいケースもあることは押さえておきましょう。
参考)固定比率とは
固定長期適合率
固定長期適合率とは、自己資本と固定負債に対し固定資産が占める割合です。固定長期適合率は以下の式で計算します。
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本(純資産)+固定負債)×100(%)
固定長期適合率は、長期的な財務分析に適した指標です。先述のとおり固定資産の調達費をすべて自己資本で賄うのは、簡単ではありません。固定比率が100%を超えていたとしても、固定長期適合率が100%を下回っていれば、財務状況にはそれほど問題はないと考えられます。
一方、固定比率および固定長期適合率ともに100%を超えている場合は、短期借入金への依存度が高く資金繰りが悪化している可能性があります。
参考)固定長期適合率とは
利益剰余金比率
利益剰余金比率とは、総資本に対し会社が今までに積み上げてきた利益が占める割合です。利益剰余金比率は、以下の式で計算します。
利益剰余金比率=利益剰余金÷総資本(負債+純資産)×100(%)
利益剰余金比率が高いほど、これまでの利益が使われることなく内部に蓄積されており、安全性が高い企業だといえるでしょう。
借入金依存度
借入金依存度とは、総資産に占める借入金の割合を示す指標です。借入金依存度が低ければ低いほど、健全な経営が行われているといえます。借入金依存度は以下の式で計算します。
借入金依存度=借入金総額(短期借入金+長期借入金+受取手形割引高)÷総資産×100(%)
借入金依存度が高いと、借入金が多く資金繰りが良くないと考えられるでしょう。また、金利上昇によっては将来の支払利息が増え、返済負担がさらに上がるケースも考えられます。
純資産まとめ
純資産とは企業の資産のうち返済義務がないもののことで、負債とともに貸借対照表の右側(総資本)を構成します。一方、総資産とはすべての資産(流動資産および固定資産)の合計をいい、貸借対照表の左側に記載されます。
純資産が多いほど、企業の財政状態は安定していると考えられるでしょう。しかし実際の経営では、自己資本のみですべてを賄うことは簡単ではありません。健全な経営を目指すなら、純資産を活用した複数の指標を把握し、多方面から経営状況を把握することが重要です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
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