債務超過とは~倒産との関係、解消する方法、予防策について解説~

更新日:2024年10月04日

債務超過とは

債務超過とは、企業が所有している資産より負債のほうが多い状態です。債務超過だからといってすぐに倒産するわけではありませんが、会社を守るためには財務状態を確認し改善する必要があるでしょう。この記事では債務超過の基本事項や主な原因、解消法と予防法を解説します。経営状態に不安がある方は、ぜひ参考にしてください。

目次

債務超過とは?

債務超過は、資産負債のバランスが取れていない状態です。資産よりも負債のほうが多く、たとえば店舗の商品や設備といった資産をすべて売り払っても、借金や家賃、固定費の支払いに足りない状況をいいます。債務超過が発生しても即座に倒産するとは考えにくいですが、その状況が長く続けば倒産の可能性は高くなると考えられるでしょう。

債務超過と同じく財政状態の悪化を表す言葉に、赤字と資金ショートがあります。ここではそれぞれの概要を解説します。

債務超過と赤字の違い

赤字とは、支出が収入を上回る状況です。赤字を考えるうえでポイントなのは、あくまで月間や年間など一定期間の収益と支出に注目したものという点です。

たとえば前月は200万円の黒字だったとしても、今月の支出が収益を50万円上回った場合は赤字となります。このように赤字も、すぐに倒産につながるわけではありません。収支が改善し赤字が一時的なものにとどまれば、財政状況は改善されます。

債務超過と資金ショートの違い

債務超過とは手元の資金が不足しており、各種支払いが困難になる状況です。たとえ利益が出ていたとしても、手元に資金がなく仕入代や設備費を支払えなくなると資金ショートとなります。資金ショートが発生する主な要因は以下のとおりです。

  • 売掛金や受取手形が多く手元に現金が入ってこない
  • 売掛金よりも買掛金が多い
  • 借入金の返済期限が短く収入が追いつかない

資金ショートは黒字の会社でも発生し、支払い不能になると黒字倒産する可能性もあります。資金ショートは、赤字や債務超過よりも危機的な状況といえるでしょう。

債務超過がもたらす影響

債務超過が発生すると、以下の影響が出ると考えられます。

  • 金融機関からの融資の借入が難しくなる
  • 信用力の低下により取引先との関係が悪化する
  • 上場廃止リスクが高まる

金融機関から融資を受ける際は、決算書を確認されます。決算書により債務超過が発覚した場合、返済能力が低いとみなされ借入ができないケースがあります。

また、取引先と契約する際も決算書の提出を求められるかもしれません。その際に債務超過だと、取引先との関係が悪化する可能性があるでしょう。

そのほか債務超過が1年解消されないと、上場廃止になります。上場廃止になると資金調達手段が限られるだけでなく、社会的な信用力やブランドイメージを大きく損ねます。将来に渡り会社を続けていきたいと考えているのであれば、万が一債務超過に陥ったとしても、できるだけ早期に解決することが重要です。

債務超過の貸借対照表の見方

企業の財務状況を確認できる決算書は、貸借対照表(バランスシート、B/S)です。貸借対照表は調達した資金がどれくらいか、それらの資金が現在どういう状況にあるかを示します。具体的には「資産」「純資産」「負債」の3つの要素で構成されており、資産の金額は純資産と負債の合計金額に一致します。このバランスが保たれていれば健全な財務体質を維持していることになりますが、負債が資産を上回ると債務超過になります。つまり貸借対照表を見れば、自社が債務超過になっているかを判断できるのです。債務超過の状態の貸借対照表は、以下のようになります。

債務超過に陥る4つのおもな原因

債務超過の発生を防ぐには、債務超過になる要因を知っておくことが重要です。ここでは、債務超過に陥る4つの主な原因を解説します。

1.赤字の常態化

原因の1つめは、赤字の常態化です。先述のとおり赤字とは、収入より支出が多い状態をいいます。仮に赤字が発生しても、一時的なものであれば財政に大きな問題が出ることはないでしょう。

しかし赤字が改善されない場合は、資産が減少を続け債務超過に陥る可能性があります。債務超過を未然に防ぐためには赤字が発生した時点で要因を特定し、経費削減や在庫管理の見直しといった対策を速やかにとることが肝心です。

2.資産の評価損・特別損失

資産に評価損や特別損失があると、債務超過を引き起こす可能性があります。評価損とは、会社が所有している商品や有価証券が、購入・取得時よりも値下がりすることです。価格が下落すると、帳簿上に評価損が発生し純資産額が減少するため、債務超過につながります。

特別損失とは、事業活動とは関係がない自然災害や訴訟、感染症の蔓延などによる損失です。特別損失が嵩むと、債務超過になる恐れがあります。

3.投資による負債の増加

投資による負債の増加も、債務超過の要因の1つです。事業の拡大や新規事業への参入、海外展開など、積極的なビジネスを展開する際は、設備投資や人材の確保等のために多額の資金が必要です。場合によっては、金融機関から借り入れをすることもあるでしょう。

大きな資金を投資したとしても、ビジネスが成功ししっかりと回収できれば何ら問題はありません。しかし思うような結果が出ず、想定した利益があがらない場合は債務超過に陥る可能性があります。

4.起業から1年未満である

起業から1年未満の若い会社も、債務超過に陥りやすいといわれます。その理由は、以下のとおりです。

  • 起業時にまとまった初期投資費用がかかる
  • 安定した売上をあげにくい

会社を設立するにあたっては設立費用のほかオフィス賃貸料や備品費、広告費などさまざまな初期投資費用が必要です。加えて、起業直後は一定の利益をあげ続けることが難しく、収入が安定しません。これらの理由から、起業から1年未満の会社は債務超過になりやすいといわれるのです。

起業後2年目以降から収支が安定すれば、経営や財政の状態は悪くないといえるでしょう。しかし2年目を過ぎても債務超過が改善されないときは、ビジネスモデルや経営の見直しが必要かもしれません。

債務超過の状態を解消する方法

債務超過であっても即座には倒産しませんが、銀行からの新規の借り入れが困難になるなどの支障があるため、早期に解消するのが望ましくなります。端的に言うと、債務状態を解消するには「負債を減らす」「純資産を増やす(資本を増やす、利益を増やす)」という観点があります。債務状態を解消するための方法をいくつか紹介します。

債務の株式化(DES:デット・エクイティ・スワップ)

過剰債務になった企業の再建手法に「DES(デッドエクイティスワップ)」という手段があります。DESでは、債権者が債権の現物出資によって債権を株式化したり、債権者が金銭出資して株式を取得し、債務者はその出資金で債務を弁済できます。役員からの借入金を資本金へ振り替える方法もありますが、当該役員の支配力が高まるために、株主総会の議決権についても考慮のうえ、出資比率については検討する方が良いでしょう。

遊休資産を売却して返済に充てる

稼働していない遊休資産があり、それを売却可能であれば処分して現金を確保し、銀行などからの借入金を返済します。ただし、この方法では債務超過を解消はできません。資産と負債の両方が減少するからです。超過額を減らすこと、借入金を返済して倒産を避けることに効果があります。

慢性的な赤字経営から脱却する

この解決策に即効性はありませんが、債務超過の根源的な問題は慢性的な赤字経営にあるため、必ず取り組む必要があります。利益の公式は、売上-コストです。利益を増やすには、売上を伸ばすか、コストを削減する他ありません。コストで考えるべきは、売上原価と販管費(販売費及び一般管理費)です。原価率を下げるために何かできないか、販管費に無駄が無いのかをチェックして対策をとりましょう。

増資をする

増資も、債務超過に効果がある方法の1つです。増資をすることで純資産が増え、会計上の債務超過の軽減を図れます。増資の主な方法には、以下があります。

  • 自己資金の投入
  • 第三者割当増資

自己資金の投入とは、事業者が自らの資金を会社に投入することです。第三者割当増資とは、新たに株式を発行し投資家からの出資を募る方法です。増資は債務超過の改善に即効性があるものの、経営赤字の根本的な改善にはなりません。

加えて、新株の発行により株主の持株比率が変わる可能性もあるため、実施には慎重な判断が必要です。

債務免除を依頼する

債務超過を解消するには、収支の改善が第一です。しかし、コストの削減や売上の向上は、すぐに効果が出るとは限りません。どうしても収支の改善が難しいときは、債務免除を依頼する方法もあります。

債務免除とは、債権者が無償で権利を放棄する行為です。債務免除が成立すると帳簿上の負債が減るため、債務超過が改善されます。債務免除が成立する主なケースは、以下のとおりです。

  • 債務者が破産手続きをし、破産宣告を受ける
  • 債権者と債務者で交渉をし、両者が合意した

債務免除は、債権者にとって負担が大きい方法です。そのため、依頼をしても免除が成立するとは限らない点は押さえておきましょう。

なお債務免除により得た利益は、課税対象となります。債務免除を依頼するのであれば税額を事前に確認し、納税資金を計画的に準備することが肝心です。

会社再生法(民事再生法・会社更生法)を適用する

債務超過の改善が難しいときは、会社再生法を適用し経営を立て直すのも1つの方法です。会社再生法とは事業を廃止せずに経営を立て直すための法律で、以下の2種類があります。

  • 民事再生法:原則として経営陣は交代せず、再生計画案に基づき再建を進める
  • 会社更生法:原則として経営陣を全員退陣させたうえで、裁判所が選任した管財人が再建を進める

会社再生法の適用を受けると、会社の信用力は下がるものの事業の継続を目指せます。会社の存続を最優先させるのであれば、会社再生法を検討してください。なお、会社再生法を適用しても再建が困難と判断されたときには、破産手続きも選択肢となります。

債務超過でも使える資金調達の方法

債務超過の場合、銀行などの金融機関からの融資は受けにくくなります。しかし、資金調達の手法は様々あり、債務超過や赤字決算でも利用できる可能性のある手段はあります。たとえば、次の2つの方法については、審査対象が主として自社の取引先になるため、債務超過でも利用しやすい方法となっています。

ファクタリング
売掛債権担保融資
融資や補助金・助成金

それぞれについては、以下で解説します。

ファクタリング

ファクタリングとは、売掛債権(売掛金や受取手形)をファクタリング会社へ債権譲渡して、資金調達する手法です。債権を売買するイメージが近く、受け取る代金からは買取手数料などが差し引かれます。

売掛債権担保融資(ABL)

売掛債権担保融資とは、売掛債権を担保にした融資のことです。融資の担保といえば不動産が思い出されますが、動産である売掛債権が担保とするABLのひとつが、売掛債権担保融資です。

融資や補助金・助成金

債務超過の場合、銀行等の金融機関から融資を受けることは難しいと考えられます。しかし以下の融資や補助金は、債務超過でも利用できる可能性があります。

融資の種類 概要
地方自治体の制度融資
  • 都道府県や市区町村で用意されている融資
  • 取引先や金融機関の破綻、自然災害など一過性の理由で債務超過に陥っていると認められた場合は、最大2億8,000万円の融資を受けられる
  • 申込は都道府県または市区町村窓口
政府系中小企業金融機関による融資
  • 日本政策金融公庫や商工組合中央金庫による融資
  • 一時的な運転資金や災害復旧資金、経営再建資金等を貸付
新事業活動促進法の経営革新支援
  • 低利融資制度や補助金制度を実施
  • 支援措置を受けるには、新事業活動促進法に基づく経営革新計画の承認が必要
  • 債務超過でも経営革新計画の承認申請は可能

どの融資を利用したら良いかわからない、自社の経営状態について相談したいと考えている方は、商工会議所が設置する経営安定特別相談室や、各都道府県が担当する中小企業再生支援協議会に相談してください。

債務超過を予防するには

債務超過になる前には、必ず何かしらの兆候があります。赤字続きであったり、財務的な安全性(健全性)が徐々に悪化していたり。安全性を分析できる経営指標には、以下のようなものがありますので、参考までに紹介します。これらの指標に問題があれば改善策をとり、日常的に債務超過の予兆を察知して予防策をとることも重要だと思います。

短期安全性(短期の支払能力)

短期的な財務健全性を測る主な指標には、以下の3つがあります。

流動比率
当座比率
手元流動性比率

流動比率

流動比率は、貸借対照表の流動負債に対する流動資産の割合を示しています。100%を下回ると、短期の支払能力に懸念があると考えられます。計算式は以下のとおりです。

流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

当座比率

当座比率とは、流動負債に対する当座資産の割合を示しています。流動比率よりも厳密に、短期的な安全性を分析したいときに用いる指標です。流動資産と違って、当座資産には棚卸資産(いわゆる在庫)が含まれません。当座比率が70%を下回っていると問題があると考えられます。計算式は以下のとおりです。

当座比率(%) = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

手元流動性比率

手元流動性比率
手元流動性とは、流動資産の中でも「すぐに使える現金、取り崩してすぐに現金化できる資産」を指します。手元流動性比率は、月商に占める手元流動性の割合です。大企業なら1ヶ月、中小企業なら1.5ヶ月分あれば安全性があると判断できます。計算式は以下のとおりです。

手元流動性比率 = 手元流動性 ÷ 月商(年間売上高÷12)

長期安全性(長期の支払能力)

長期的な財務の健全性の主な指標には、次の2つがあります。

固定比率
固定長期適合率

固定比率

固定比率とは、貸借対照表の自己資本に対する固定資産の割合であり、固定資産に投資した資金が、どのくらい自己資本でまかなわれているかを表しています。固定資産は長期的に事業に利用するため、返済義務のない自己資本でまかなうことが理想とされるため、固定比率が100%未満であれば安心です。計算式は以下のとおりです。

固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100

固定長期適合率

固定長期適合率
固定長期適合率とは、固定資産の調達を長期資金(自己資本+固定負債)でまかなえている 割合を示しています。固定長期適合率の目安は100%以下であることです。固定比率が100%未満でなくとも、この固定長期適合率が100%以下であれば健全であるとされます。計算式は以下のとおりです。

固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷( 固定負債 + 自己資本 ) × 100

財務体質

自己資本比率
負債比率(DEレシオ、レバレッジ比率、ギアリング比率)

自己資本比率

自己資本比率は、貸借対照表の総資本のうち、返済義務のない自己資本(純資産)でまかなわれている割合を示しています。自己資本比率の目安は業種などによって異なりますが、一般的には50%を超えるのが理想とされます。計算式は以下のとおりです。

自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本(自己資本 + 他人資本) × 100

負債比率

負債比率は、自己資本に対する他人資本(負債)の割合を示しており、DEレシオ、レバレッジ比率、ギアリング比率とも呼ばれます。負債の返済能力を測る指標であり、自己資本比率とは反比例の関係です。100%を下回っていれば、中長期的な安全性が高いとされます。計算式は以下のとおりです。

負債比率(%) = 負債 ÷ 自己資本 × 100

債務超過のまとめ

債務超過とは、企業が所有している資産より負債のほうが多い常態です。すぐに倒産の危険性があるわけではありませんが、債務超過が長期化すると倒産につながる恐れがあります。

債務超過が発生したときは、遊休資産の売却や増資などにより収支の改善を図りましょう。自力での収支の改善が難しいときは、債務免除の依頼や会社再生法の適用も選択肢となります。

債務超過でも利用できる資金調達方法には、ファクタリングや売掛債権担保融資、融資や補助金・助成金があります。どの調達方法を選べば良いかわからない、融資や補助金について詳しく相談をしたいと閑雅ている方は、商工会議所または都道府県の相談窓口で相談してみてください。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
本社所在地 〒103-0006
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所属団体 一般社団法人Fintech協会
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