履歴事項全部証明書とは?取得方法や使用目的について解説
更新日:2024年07月24日
履歴事項全部証明書は、法人の登記情報が記載された書類です。法人設立後の各種手続きや、許認可申請、補助金申請など、さまざまな場面で必要とされます。しかし、その内容や取得方法、似た書類など意外と知らないことも多いのではないでしょうか。
本記事では、履歴事項全部証明書について、役割・特徴・取得方法・手数料・具体的な使用目的などについて詳しく解説します。さらに、履歴事項全部証明書に似た書類についても紹介し、それぞれの特徴や使い分けについて解説します。
目次
履歴事項全部証明書とは
「履歴事項全部証明書」は、企業の詳細な情報を記録した重要な文書です。この証明書には、現在の会社データに加え、請求日の3年前の日が属する年の1月1日以降に抹消・変更された情報も含まれています。これにより、取引先や関係者が企業の状況を把握できるため、スムーズな商取引が可能です。登記された情報は誰でも確認できるため、取引先の実態を調査する際の有効なツールとなっています。
会社設立時には、登記所で必要な手続きをしなければなりません。この過程で、会社名・本社所在地・役員構成・事業目的などの基本情報が公開されます。この情報公開は、企業の信頼性を高め、安全な取引環境を整える上で重要です。
ここでは、履歴事項全部証明書についてさらに掘り下げて解説します。
履歴事項全部証明書でわかること
履歴事項全部証明書には、現在の会社情報とともに、請求日の3年前の日が属する年の1月1日以降に抹消・変更された情報も含まれています。
主な記載事項は以下のとおりです。
- 商号
- 本店所在地
- 会社法人等番号
- 会社設立の年月日
さらに、以下の役員が就任した年月日も記載されています。
また、会社の商号や本店の登記が変更された場合、変更前の情報も確認できます。
登記事項証明書(登記簿謄本)のひとつ
「履歴事項全部証明書」と「登記事項証明書(登記簿謄本)」は、混同されやすい名称です。登記事項証明書(登記簿謄本)は、法務局に登記された会社情報を記載した書類の総称であり、「履歴事項全部証明書」はそのうちの1つを指しています。
かつては「紙の登記簿から複写した登記簿謄本」が主流でしたが、デジタル化に伴い「登記事項証明書」という名称が一般的になりました。
ただし、慣習的に「登記簿謄本」という言葉が今でも使われることがあります。たとえば、「会社の登記簿謄本を提出してください」と言われた場合、多くのケースでは「履歴事項全部証明書」を指しています。このような言葉の使い方の違いは、ビジネスの場面で混乱を招くともあるため注意が必要です。
履歴事項全部証明書は4種類ある登記事項証明書の中の1つにあたります。登記事項証明書(登記簿謄本)の種類と内容は、下表のとおりです。
証明書の種類 | 記載内容 |
履歴事項全部証明書 |
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現在事項証明書 |
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閉鎖事項証明書 |
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代表者事項証明書 |
|
登記事項証明書の提出が求められたときは、4種類の中のどれが必要なのかを確認しておきましょう。
個人事業主は取得できない書類
個人事業主は法人格を持たないため、履歴事項全部証明書のような公的な証明書を取得できません。
個人事業主の場合「自身の経歴書」「所得証明書」「確定申告書」などの書類が、企業の履歴事項全部証明書に相当する役割を果たします。これらの文書は、事業の継続期間や収益状況、さらには顧客からの評価など個人事業主としての実績を示す貴重な情報源です。
法人企業と個人事業主では、信頼性や実績を証明する方法に違いがあるものの、それぞれの立場に応じた適切な書類を用意することによって、取引先や金融機関に対して自身の信用を示せます。
履歴事項全部証明書の取得方法や手数料
履歴事項全部証明書の取得には、次の3つの方法があります。
- 法務局の窓口
- 郵送申請
- オンライン申請
ここでは、それぞれ取得方法と手数料について紹介します。
法務局の窓口
登記事項証明書の取得は、全国の法務局で可能です。取得方法は「窓口での申請」と「証明書発行請求機の利用」の2通りです。
窓口では申請書に記入し、手数料(収入印紙)と共に提出します。一方、証明書発行請求機では必要情報を入力し、整理票と手数料(収入印紙)を提出します。
窓口の受付時間は平日の8:30から17:15までです。事前に最寄りの法務局を確認しておきましょう。
郵送申請
履歴事項全部証明書は、郵送での取得も可能です。ダウンロードした「登記事項証明書交付申請書」に必要事項を記入し、600円分の収入印紙を貼付します。また、返信用封筒(切手貼付)を同封する必要があります。
申請先の法務局は全国どこでも構いません。急ぐ場合は速達を、安全性を重視する場合は書留や簡易書留の利用をおすすめします。
この郵送方式は、直接法務局に行く時間がない場合や、遠方に住んでいる場合に便利です。ただし、処理に時間がかかる点は考慮しておく必要があります。
オンライン申請
履歴事項全部証明書は、オンラインで申請できます。「登記・供託オンライン申請システム」では、「法務局窓口での受け取り」「郵送での受け取り」のどちらかを選択でき、手数料は窓口受け取りが1通480円、郵送が1通500円です。
システムの利用には事前の申請者情報登録が必要であり、詳細は法務局のウェブサイトで確認できます。
このオンライン申請は、時間や場所の制約なく手続きできる便利な方法ですが、システムの使用方法や手順をよく理解しておく必要があります。
取得に関する手数料
履歴事項全部証明書の取得には手数料が必要であり、金額は申請方法によって異なります。窓口や郵送での手数料600円は、収入印紙で支払います。一方、オンライン申請では料金が安くなり、法務局受け取りなら480円、郵送なら500円です。
取得方法 | 手数料 |
窓口 | 600円 |
郵送 | 600円+郵送費用 |
オンライン請求(窓口交付) | 480円 |
オンライン請求(郵送) | 500円 |
オンライン請求は、インターネットバンキングやATM(Pay-easy対応)が利用可能であり、収入印紙購入の手間を省けるのが利点です。
履歴事項全部証明書の主な使用目的
履歴事項全部証明書は、法人の登記情報を詳細に記録した書類であり、金融機関との取引や行政機関への申請や取引先との契約、不動産取引などさまざまな場面で必要とされます。
履歴事項全部証明書を必要とする場面は、次のとおりです。
- 法人設立後の手続き
- 各種保険への加入手続き
- 不動産や口座の契約
- 許認可申請
- 登記変更
- 補助金や助成金の申請
- 競合調査
以下では、それぞれについて解説します。
法人設立後の手続き
法人を新たに設立した際には、国税である法人税や消費税を納付する目的で、税務署へ「法人設立届出書」を提出しなければなりません。
また、地方税についても都道府県と市町村に「法人設立・設置届出」を提出する必要があり、期限は自治体により異なりますが、おおむね設立後2週間から2か月以内となっています。届出の窓口は市町村であれば役場の法人住民税課、都道府県であれば税事務所です。
税務署に提出する際には履歴事項全部証明書の添付は不要ですが、他の提出先には必要となるため注意しましょう。
各種保険への加入手続き
会社を設立した際、社長1人の会社であっても、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に加入する義務があります。これらの手続きをする際には、履歴事項全部証明書の提出が必要です。
さらに、従業員を雇用する場合には、社会保険に加えて労働保険にも加入しなければなりません。社会保険関連の手続きは年金事務所、労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークです。必要な枚数の履歴事項全部証明書を用意しておきましょう。
不動産や口座の契約
「事務所の賃貸」「法人口座の開設」「法人名義のクレジットカードの申し込み」「法人での車の購入」など、法人名義での契約手続きをする際には、情報確認のために履歴事項全部証明書の提出が必要です。
また、金融機関から新たに融資を受ける場合も同様であり、与信(信用状況)調査の一環として履歴事項全部証明書が求められます。
許認可申請
飲食業・建設業・宿泊業などの業種によっては、事業を開始するために許認可が必要であり、申請の際には履歴事項全部証明書を提出しなければなりません。
履歴事項全部証明書に記載された事業目的が申請する業種の内容と一致しない場合、許認可がおりない可能性もあります。そのため、法人登記の際には目的の記載等に注意が必要です。
許可申請に必要な書類のリストによっては「登記事項証明書」と記載されていることもありますが、自治体によってはこれが「履歴事項全部証明書」を指すこともあるため、事前確認が必要です。
登記変更
会社の登記内容(商号変更・本店移転・目的の変更・役員変更など)を変更する際には、法務局で変更登記手続きを行う必要があり、その際に履歴事項全部証明書が必要です。
履歴事項全部証明書は会社の変更履歴を記録するものであり、書類自体を直接変更することはできません。各項目に変更が生じた場合、変更登記を通じてその内容を反映させます。
補助金や助成金の申請
国や自治体の補助金・助成金を申し込む際にも、履歴事項全部証明書が必要です。この履歴事項全部証明書は、事業目的や会社の状況を確認するために用いられます。
補助金や助成金の申請に必要な書類はさまざまですが、他に必要な書類としては、確定申告書・売上台帳・振込先の通帳・同意書・取引の請求書や領収書などがあります。申請先の自治体などで必要書類を確認し、不足がないように準備しましょう。
競合調査
新規の取引先や競合他社を調査する際には、履歴事項全部証明書が役立ちます。履歴事項全部証明書の内容から、その企業の業容(事業の内容)について、ある程度の把握が可能です。
履歴事項全部証明書は誰でも取得できますが、新規取引を始める際には相手から提出を求められることもあります。トラブルを未然に防ぎ、不適切な取引先を避けるためです。
履歴事項全部証明書に似たその他の書類
登記事項証明書(登記簿謄本)のうち、履歴事項全部証明書は次の中の1つに該当します。
- 履歴事項全部証明書
- 代表者事項証明書
- 現在事項証明書
- 閉鎖事項証明書
ここでは、履歴事項全部証明書以外の証明書の内容と役割について解説します。
代表者事項証明書
「代表者事項証明書」は、会社の代表者を証明する書類であり、複数の代表者がいる場合には、どの代表者なのかの証明が可能です。履歴事項全部証明書に比べて情報が簡素であり、記載情報をそれほど必要とせず、情報を整理して把握を進める際や、特定の情報を開示したくない場合にも利用されます。
代表者事項証明書には、現在の代表者の氏名・住所・役職・商号(会社名)・本店所在地・法人番号が記載されています。訴訟や特定の法的手続きにおいて被告を証明するために使用されることもありますが、具体的な書類指定がない場合は履歴事項全部証明書を用意する方が無難です。
現在事項証明書
「現在事項全部証明書」は、企業の現在の登記情報が記載されている証明書です。この証明書が必要となるのは、現在の会社の状況を証明するだけでよい場合です。
たとえば、自らが現在の代表者であることを証明するため、資格証明書として提出する際や、できれば古い情報を開示したくない場合には現在事項全部証明書を使用します。
また、変更履歴が多岐にわたる企業では、証明書の枚数が膨大になり扱いにくくなるため、現在事項全部証明書を選択するケースもあります。
閉鎖事項証明書
「閉鎖事項証明書」とは、会社の過去に抹消または閉鎖された登記事項を記録している証明書のことを指します。履歴事項全部証明書には過去約3年間の変更履歴しか記載がなく、それ以前の古い情報については閉鎖事項全部証明書で確かめる必要があります。
たとえば、清算手続きを終えた会社や合併で消滅した法人の旧役員名や変更前の商号など、過去の登記内容を調査したい場合に有用です。役員の就任期間や本社の移転履歴など、詳しい過去の事実関係を知りたいのであれば、この証明書を入手しましょう。
なお、閉鎖事項証明書には「全部」と「一部」の2種類があり、「全部」のほうが収録情報も多岐にわたります。特段の事情がない限りは「閉鎖事項全部証明書」を取り寄せるのが一般的です。
履歴事項全部証明書まとめ
履歴事項全部証明書は、法人の登記情報を詳細に記録した書類です。この証明書には、会社の設立から現在までの変更履歴が記載されており、企業の信頼性や経営状況を確認するために利用されます。履歴事項全部証明書は登記事項証明書(登記簿謄本)の一種であり、個人事業主では登記できない証明書です。
履歴事項全部証明書の主な使用目的としては「法人設立後の手続き」「各種保険への加入」「不動産や口座の契約」「許認可申請」「登記変更」「補助金や助成金の申請」「競合調査」などがあげられます。
また、履歴事項全部証明書に似たその他の書類として「代表者事項証明書」「現在事項証明書」「閉鎖事項証明書」があります。代表者事項証明書は、会社の代表者に関する情報を記載した書類であり、現在事項証明書は現在有効な登記情報を記載した書類です。閉鎖事項証明書は、過去に閉鎖された登記情報を記載した書類です。
以上のように、履歴事項全部証明書は企業活動において非常に重要な役割を果たします。求めに応じた取得や必要な場面における活用によって、ビジネスを推進する潤滑油ともいえる役割を果たしています。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
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