当座比率とは?流動比率との違いや目安、計算方法など解説
更新日:2025年04月11日

当座比率とは、企業の短期的な支払能力を示す重要な財務指標の一つです。現金や預金、売掛金などの換金が容易な資産を企業の流動負債と比較することで、即座に支払える資金の水準を評価できます。本記事では、当座比率の計算方法や目安などについて解説し、企業の財務健全性を分析するためのポイントを紹介します。
目次
当座比率とは
当座比率は、現金や預金、売掛金などの「当座資産」を「流動負債」で割って算出した指標です。当座比率が高いほど、企業は短期債務の返済能力が高いと評価されます。当座資産は流動資産の一部であり、現金化が容易な資産です。
以下では、流動性にかかわる当座資産と流動資産について解説します。
当座資産
当座資産は、流動資産の中でも特に現金化しやすい資産を指します。企業の短期的な支払能力を評価する際に重要な役割を果たし、貸借対照表の資産の部に分類されます。
当座資産の主なものは、以下のとおりです。
- 現金
- 普通預金
- 営業債権(売掛金、受取手形など)
- 未収金
- 売買目的の有価証券(長期保有を前提とする有価証券や短期間での売買が困難な有価証券は含まれない)
流動資産は、1年以内に現金化できる資産全般を指します。当座資産は流動資産の一部であり、棚卸資産を含まない点が異なります。
棚卸資産とは、販売を目的として保有する商品や製品、原材料、仕掛品などです。棚卸資産は、販売や生産活動を経て現金化されるため、当座資産よりも現金化に時間がかかります。
この違いにより、当座資産は企業の短期的な支払能力を測る指標として活用されます。
流動資産
流動資産とは、1年以内に現金化できる資産を指します。企業が日々の運営に必要な資金を確保し、資金繰りの安定と財務の健全性を維持するためには、流動資産の適切な管理が不可欠です。
流動資産には、上述の当座資産のほかに、前払費用、未収入金、短期貸付金、仮払金、立替金など、当座資産や棚卸資産に該当しない資産が含まれます。
これらの流動資産は、企業の資産状況を示す貸借対照表の「資産の部」に計上されます。
当座比率の計算式
当座資産の計算式は以下のとおりです。
当座比率(%) = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
※当座資産:流動資産から棚卸資産とその他の流動資産を差し引いた資産。例)現金、売掛金、受取手形、有価証券
※流動負債:1年以内に支払期限が到来する負債。例)買掛金、支払手形、未払金、預り金、前受金
当座比率の目安は90%以上
会社の規模や業種によって異なりますが、一般的に当座比率が90%を上回っていれば短期的に安全であるとされます。逆に、70%を下回っていると支払能力に問題があると判断されます。
当座比率と流動比率の違い
企業の支払能力を評価する際、当座比率と並んで流動比率も重要な指標となります。流動比率は、流動資産が流動負債に対してどの程度の割合を占めているかを示す指標です。
流動比率は以下の計算式で求められます。
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
数値が高いほど短期的な負債の支払余力があると判断されます。流動資産には棚卸資産も含まれますが、これらは売却できなければ現金化が難しく、資金繰りの安定性を正確に把握するには適していません。
一方の当座比率は、現金や預金、営業債権など換金性の高い資産に焦点を当てており、企業の支払能力をより厳密に分析するために用いられます。
ただし、当座比率に含まれる営業債権は、取引先の経営状況によっては回収が困難になる可能性もあるため単に数値だけで判断せず、資産の内訳の慎重な確認が求められます。
当座比率を高めるメリット
当座比率が高い企業は、財務の安全性が確保されており、急な短期債務の支払いにも対応しやすい状態にあります。当座資産は現金や預金、売掛金など換金性の高い資産で構成されるため、近い将来に必要となる支出に備えやすくなるでしょう。
当座比率が100%を超えている場合には、流動負債と同等以上の当座資産があることを意味しています。短期的な資金繰りに困るリスクが低く、事業の継続性を高める要因となるだけでなく、景気変動や取引先の倒産といった不測の事態にも対応しやすくなります。
ただし、比率が高ければよいとは限りません。100%を大幅に超えている場合、資金が経営に十分活用されていない可能性があります。資本を適切に運用するため、成長を見据えた投資などの検討も必要になるでしょう。
当座比率が下がるリスク
当座比率の低下は、財務の安全性を損ない、資金繰りの悪化を招く可能性があります。当座資産よりも流動負債が多い状態では、短期的な負債の返済に必要な現金が不足し、支払遅延や信用低下のリスクが高まります。さらに、営業債権の回収が困難になれば、資金繰りはいっそう厳しくなるでしょう。
また、買掛金や短期借入金が増加している場合は、注意が必要です。買掛金の急な増加は仕入先からの信用上の懸念を招き、取引条件の悪化につながる可能性があります。一方、短期借入金の増加は利払い負担を増やし、資金の枯渇を引き起こすリスクもあります。
当座比率を高めるためのポイント
当座比率を高めるためには、「当座資産を増やす」または「流動負債を減らす」のいずれかの方法があります。特に「当座資産を増やす」ことが効果的です。
まず、稼働していない固定資産の売却や棚卸資産の現金化を検討します。ただし、固定資産の売却は経営活動に影響を与える可能性があるため、慎重に判断する必要があります。
次に、営業債権の回収サイクルを早めることが重要です。売掛金の早期回収により、現金預金を増やし、当座資産を強化できます。
さらに、根本的な解決策として、事業で利益を上げて現金預金を増やすこともポイントです。営業利益率を高め、販管費の無駄を省くことで、持続的に当座比率を改善できます。
当座比率以外の安全分析の指標
企業の安全性分析は、当座比率だけでなく、さまざまな指標を総合的に見ることが重要です。当座比率は短期的な支払い能力を示しますが、長期的な視点や資本構成の健全性などを評価するには不十分です。
ここでは、当座比率以外に重要視される次の5つの指標を紹介します。
- 固定比率
- 固定長期適合率
- 自己資本比率
- 負債比率
- 手元流動性比率
それぞれの計算式と基本的な解釈や注意点、企業の安全性を多角的に分析する方法を解説します。
固定比率
固定比率は、自己資本に対する固定資産の割合を示す指標で、企業の長期的な財務安定性を分析するために重要です。計算式は以下のとおりです。
固定比率(%)= 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
固定資産は長期にわたって使用される資産であるため、短期間で返済が必要な借入金で購入すると、資金繰りが厳しくなるリスクもあります。
そのため、固定資産の購入には、返済義務のない自己資本を使用することが望ましいでしょう。固定比率が100%未満であれば、すべての固定資産が自己資本でまかなわれていると判断できます。
ただし、固定比率が極端に低い場合、業種によっては十分な投資が行われていない可能性もあるため、業界の特性や企業の戦略を考慮しながらバランスを取ることが重要です。
固定長期適合率
固定長期適合率は、会社の長期的な安全性を分析する指標です。固定長期適合率は、固定資産が自己資本と固定負債の合計額でどの程度まかなわれているかを示します。計算式は、以下のとおりです。
固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷(自己資本+固定負債) × 100
100%を下回っていれば、長期的な視点での財務の安全性に問題はないと判断できます。
固定長期適合率が100%を超える場合は、固定資産の購入に流動負債も使用していることを意味します。流動負債は短期間で返済しなければならない負債であるため、固定長期適合率が100%を大きく超える場合は注意が必要です。
自己資本比率
自己資本比率は、総資本に対する自己資本の割合を示す指標です。計算式は以下のとおりです。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本(自己資本+他人資本) × 100
自己資本比率が高い企業は、借入金が少なく自己資金で経営を支えているため、外部資金への依存度が低く、財務リスクも小さいと評価されます。
ただし、自己資本比率が極端に高い場合は、成長に向けた投資が不足している可能性もあるため、業種や企業の状況に応じた分析が必要です。
負債比率
負債比率は、企業の財務分析に用いられる指標の一つです。自己資本に対する負債(他人資本)の割合を示します。計算式は次のとおりです。
負債比率(%) = 他人資本(負債)÷ 自己資本 × 100
負債比率は、返済を要する他人資本と返済義務のない自己資本から算出されるため、会社の返済能力や経営の安定性を評価する際に参考となります。一般的に、負債比率が低いほど経営状態は安定していると判断できるでしょう。
手元流動性比率
手元流動性比率は、企業の短期的な支払能力を測る指標です。計算式は以下のとおりです。
手元流動性比率(月) =(現金 + 預金 + 短期保有の有価証券)÷(売上高 ÷ 12ヶ月)
手元流動性比率は、すぐに現金化できる資産である現預金や短期保有の有価証券が、どれだけ月間の平均売上高に対して支払いに充てられるかを示します。
手元流動性比率が高いほど、企業は短期的な支払いに対応できる能力が高いと判断されます。
一方、比率が低い場合は、即時に利用できる資産が不足している可能性もあるため、注意が必要です。
企業の「収益性」や「成長性」を示す指標
ここまで見てきた安全性の指標のほかに、企業の「収益性」や「成長性」を示す指標があります。代表的な指標は、以下のとおりです。
- 売上高営業利益率
- ROA(総資産利益率)
- 売上高成長率
- 経常利益成長率
以下で、解説します。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、企業の収益性を示す重要な指標であり、売上高に対する営業利益の割合を表します。営業利益は、売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた金額です。計算式は以下のとおりです。
営業利益 =売上高-売上原価-販売費及び一般管理費
売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率が高い企業は、本業の事業活動で効率的に利益を生み出していると判断できます。一方、比率が低い場合は、コストの増加や販売効率の低下が影響している可能性もあるため、経営改善が求められます。
ROA(総資産利益率)
ROA(総資産利益率)は、企業が総資産を活用して、どれだけの利益(営業利益・経常利益・当期純利益など)を生み出しているかを示す指標です。数値が高いほど、効率的に資産を運用していると判断されます。計算方法は、以下のとおりです。
ROA(%)= 利益 ÷ 総資産
総資産には純資産と負債が含まれ、企業全体の資金をどれだけ有効活用できているかがわかります。
ROAが高い場合は、少ない資産で高い利益を上げていると考えられ、収益性の高い企業といえます。一方で、ROAが低い場合は、資産の使い方を見直す必要があるでしょう。
売上高成長率
売上高成長率は、企業の成長性を示す指標です。前期と比較して、どの程度売上が増加したかを割合で表します。数値が高いほど、事業が拡大していると判断できます。計算方法は、以下のとおりです。
売上高成長率(%)= (当期売上高 - 前期売上高)÷ 前期売上高 × 100
売上高成長率を活用することで、売上の増加要因を把握しつつ、事業戦略の妥当性の検討ができます。一方で、売上が伸びていたとしても、利益率が低下している場合は健全な成長とはいえないため、ほかの財務指標とあわせた分析が必要です。
経常利益成長率
経常利益成長率は、企業の経常利益が平均してどの程度成長しているかを示し、企業の成長性を評価する際に活用される指標です。計算には複利を加味したCAGR(年平均成長率)などが用いられます。
経常利益成長率(%)= (当期経常利益-前期経常利益)÷ 前期経常利益 × 100
経常利益成長率が高い企業は、売上の拡大やコスト削減による利益向上を実現している可能性があります。売上の増加とともに経常利益成長率が上昇している場合は、事業が順調に拡大している状態といえるでしょう。
一方、売上が減少しているにもかかわらず経常利益成長率が向上している場合は、コスト削減による影響が大きいと考えられます。また、売上と利益がともに減少する状況は、経営に課題があることを示唆しています。
当座比率まとめ
当座比率は、企業の短期的な支払能力を示す重要な指標であり、理解を深めることで企業の財務状況を効果的に分析できるようになります。具体的な計算方法や目安を把握し、当座比率と流動比率の違いを理解することで、企業の財務健全性の評価に役立ちます。
当座比率が高いほど、急な支出にも対応しやすく、企業の持続可能な成長を支える安定性が増すでしょう。一方で、比率が低下するリスクを認識しつつ、財務の安全性の確保にも努めなければなりません。
当座比率以外にもさまざまな財務指標があり、それらを組み合わせることで、より正確な企業分析が可能となります。自社の財務状況を多角的に分析し、持続可能な経営を実現しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
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当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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