企業価値とは?計算方法や高める方法について解説

更新日:2025年04月08日

企業価値

企業価値とは、企業の総合的な価値を示す指標です。企業の将来性や収益性、ブランド力など、さまざまな要素を考慮して算出されます。企業価値を把握することは、経営戦略の策定や投資判断においてきわめて重要です。本記事では、企業価値の計算方法や、企業価値を高めるための具体的な方法について詳しく解説します。

目次

企業価値とは

企業価値とは、会社の経済的価値を総合的に示す指標であり、単なる財務数値にとどまらず企業が社会において持つ魅力や潜在能力を金額で表現するものです。事業から生み出される価値、保有する資産、そして将来的な収益力などを包括的に評価します。

M&Aや投資における判断基準として重要な役割を果たし、投資家や株主にとって意思決定の重要な指標となります。近年では、財務的価値だけでなく、無形資産や知的財産、超過収益力(潜在的な企業価値)といった非財務的な要素も企業価値に組み込まれるようになってきました。

企業の本質的な価値を理解するためには、貸借対照表に記載されていない資産や将来的な成長可能性にも考慮する必要があります。

企業価値の種類「継続価値」と「清算価値」

企業価値とは、企業の持つ総合的な価値を指し、その評価には「継続価値」と「清算価値」の2種類があります。これらの価値を適切に評価することで、企業の収益性や成長性、リスクを客観的に把握できます。以下で、それぞれの価値について見ていきましょう。

継続価値

継続価値とは、企業が将来にわたって事業を継続することを前提とした企業価値のことです。将来のキャッシュフローや利益、配当などをもとに算出されます。継続価値は、企業の収益性や成長性を反映し、企業価値を測るうえでの重要な指標です。

継続価値の算出には、企業の将来的な収益を現在価値に換算する「インカム・アプローチ」が用いられます。加えて、「マーケット・アプローチ」により上場企業や類似取引事例と比較し、利益を基準とした評価をする場合もあります。

近年、企業の倒産やM&Aが増加しており、事業継続の見通しを明確にする重要性が今後も高まるでしょう。そのため、企業価値算定においては、継続価値の適切な評価が不可欠といえます。

清算価値

清算価値とは、企業が営業活動を停止し、保有資産を売却することを前提とした企業価値です。清算価値は、企業の純資産をもとに算出される静的な価値であり、ネットアセット・アプローチという手法を用いて評価されます。

清算価値には、売却期間の長短によって「強制処分価値」と「非強制処分価値」の2種類があります。

  • 強制処分価値

    短期間での売却を想定するため、大幅な値引きや迅速な処分に伴う追加コストが発生し、通常は低い評価額となります。

  • 非強制処分価値

    売却に時間的な余裕があるため、価格交渉が可能となり、強制処分価値よりも高い価格で売却できる可能性があります。

ただし、非強制処分価値を評価する際も従業員の退職金や取引コストなどを考慮し、適切に評価する必要があります。

企業価値と時価総額、その他の価値との違い

企業価値を評価する指標は、「時価総額」「事業価値」「株主価値」など多岐にわたります。それぞれ計算方法や目的が異なるため、ここでは、これらの違いを明確にし、企業価値をより深く理解するためのポイントを解説します。

企業価値と時価総額の違い

企業価値と時価総額は、どちらも企業の評価に使われる指標ですが、計算方法や目的が異なります。時価総額は、発行済株式数に現在の株価を掛けたもので、投資家が企業を評価する際の重要な指標です。

一方、企業価値は時価総額に有利子負債を加えたもので、投資家だけでなく金融機関や買収先企業など幅広いステークホルダーに向けた指標として用いられます。

自己資本比率が100%で、有利子負債がない場合は、企業価値と時価総額は一致します。時価総額は企業価値を構成する要素の一つとして理解することが重要です。

企業価値と事業価値の違い

事業価値とは、企業の事業活動からもたらされる価値のことです。その事業が将来どれだけのキャッシュフローを生み出すかによって算出するもので、貸借対照表には計上されない「のれん」や特許権、商標権などの無形資産も含まれます。「企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産」という公式が成り立ちます。

企業価値と株主価値の違い

株主価値とは、株主に帰属する価値のことであり、企業価値から有利子負債などの他人資本(負債)を差し引いたものです。「企業価値 = 株主価値 + 負債価値」という公式が成り立ちます。

企業価値の計算方法

企業価値の計算方法には、大きく分けて「コスト・アプローチ」「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」の3つがあります。それぞれ評価の基準や算出方法が異なり、目的に応じて適切な手法を選ぶことが重要です。ここでは、各計算方法について解説します。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、評価対象となる企業が保有している純資産をもとに企業価値を算出する方法です。コスト・アプローチの代表的な方式には、帳簿純資産方式や時価純資産方式があります。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、評価対象企業が将来獲得するであろう利益・キャッシュフローをもとに企業価値を算出する方法です。インカム・アプローチの代表的な方式には、配当割引方式や収益還元方式、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)があります。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、評価対象企業が上場会社の場合は市場株価を基礎として、非上場会社の場合は、同業他社や類似取引事例などをもとに企業価値を算出する方法です。マーケット・アプローチの代表的な方式には、市場株価方式や類似会社比準方式、取引事例方式などがあります。

企業価値が融資の担保になる?

2024年6月7日に新法「事業性融資の推進等に関する法律案」が成立し「企業価値担保権」という新しい担保制度の創設が決まりました。同法は2年半以内に施行され、従来の有形資産(不動産など)のみならず、無形資産(ノウハウ、知的財産など)が担保権の対象となります。企業価値担保権という名称ですが、実際には事業価値を担保として設定できる制度のようです。

開業したてのスタートアップ企業などの場合、従来の担保となる有形資産を保有していないことで、銀行融資を受けにくい場面がありました。企業価値担保権の制度により、無形資産も担保として認められることで、融資での資金調達の可能性が広がることが期待されます。

企業価値に影響する5つの要因

企業価値に影響する要因は、以下の5つです。

  1. 一般的要因
  2. 目的要因
  3. 業界要因
  4. 企業要因
  5. 株主要因

それぞれについて、見ていきましょう。

1.一般的要因

企業価値は、社会的要因や景気動向といったマクロ環境に大きく影響されますが、これらは企業側で直接管理することはできません。それでも、評価時には無視できない重要な要素です。企業は、こうした要因を把握しつつ柔軟な戦略を立てることで、リスクを抑えながら企業価値を維持・向上させることが求められます。

【一般的要因】

  • 社会的要因
  • 政治状況
  • 経済政策・景気対策
  • 法令
  • 景気動向

2.目的要因

企業価値は、算出の目的によって影響を受ける要因が異なります。企業価値をどのような目的で評価するかで、評価基準や重要視すべき要素が変わるためです。そのため、まずは評価の目的を明確にし、目的に適した評価方法の選定が不可欠となります。

【目的要因】

  • 取引目的
  • 裁判目的
  • その他(処分目的、課税目的、PPA目的など)

3.業界要因

企業が属する業界の動向は、企業価値に大きな影響を与えます。業界の市場環境を反映させることにより、客観的な企業評価が可能です。企業には、自社の業界動向を踏まえた戦略が求められます。

【業界要因】

  • 属する業界のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期、成長期、安定期または衰退期)
  • 業界の組織再編の動向
  • 類似上場会社の株価動向
  • 同業他社の経営戦略転換
  • 同業他社の業績変化

4.企業要因

企業要因は、企業内部の状況や特性に基づく要素で構成されています。業種や業態、収益性、財務状況などがこれに該当し、企業側がコントロール可能な部分です。そのため、5つの要因の中でも改善しやすい要因といえるでしょう。

【企業要因】

  • 業種、業態および取引規模
  • 評価対象会社のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期、成長期、安定期または衰退期)
  • 経営戦略や経営計画とそれらの達成状況
  • 収益性
  • 財政状態
  • 配当政策
  • 経営、営業、技術、研究等の特異性

5.株主要因

企業価値に影響を与える株主要因は、株式の分散や取引状況です。上場企業では株価が企業評価に直結しますが、非上場企業では株主構成や株式の流動性が重要な要素となります。中小企業では、譲渡制限株式が設定されていることも多く、このことが企業価値に影響をおよぼします。

【株主要因】

  • 株主構成(株主の集中、分散の状況)
  • 株主関係(同族関係、支配株主関係、一定の株主グループの形成状況)
  • 株式の種類と発行状況(普通株式、種類株式)
  • 取引後の株主構成の変化
  • 取引数量(全量、大量、中量または少量)
  • 過去における売買の事例(株式の流動性の状況)
  • 株式譲渡制限の有無

参考)日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」

企業価値を向上させるメリット

企業価値を向上させることは、資金調達やM&A交渉、信用力の強化など、さまざまな面で企業にとって大きなメリットをもたらします。それでは、具体的なメリットについて見ていきましょう。

融資を受けやすくなる

企業価値の向上は、資金調達において重要な役割を果たします。金融機関は融資審査の際に、企業の返済能力と将来性を綿密に評価します。企業価値が高いことは、未回収リスクが低く、事業の成長可能性が高いと判断されるため、融資審査で有利に働くでしょう。具体的には、事業計画書や決算書類を通じて企業の潜在力が評価され、高い企業価値は好条件での資金調達につながります。

さらに、調達した資金を戦略的に事業投資することで、企業成長と企業価値の向上という好循環を生み出すでしょう。このように、企業価値を高めることは、資金調達の面で大きなメリットをもたらします。

M&Aの交渉が有利に進む

企業価値の向上は、M&A交渉を有利に進めるうえで不可欠です。買収価格は企業価値に基づいて決定されるため、企業価値が高いほど有利な条件での交渉が期待できます。自己資本が多い企業は、株式交換による吸収合併において、交換比率で優位に立てる可能性が高まります。

また、高い企業価値を維持することは、敵対的買収に対する防衛策としても有効です。M&Aに明確な相場は存在しないため、企業価値は売り手と買い手が合意できる価格設定の基準として機能します。

企業の信用度が高まる

企業価値が高い企業は、投資家や金融機関、取引先からの信頼を得やすくなります。

企業価値の高さは、優れたビジネス戦略や安定した収益基盤を有していることの証と評価され、金融機関からの融資や取引先との契約において有利に働きます。結果として、資金調達が円滑になり、倒産リスクの低減にもつながるでしょう。

また、従業員にとっても企業価値が高い企業は魅力的な職場に映ります。成長が期待できる企業で働く安心感が得られるため、新規採用の強化や離職防止にもつながります。

企業価値を高める4つの方法

企業価値の向上は、企業の成長と持続可能性に不可欠です。ここでは、「収益性向上」「投資効率の最適化」「財務状況の見直し」「エンゲージメント強化」といった企業価値を高めるための4つの方法を解説します。

これらの戦略を総合的に実践することで競争力を高め、長期的な成功を築きましょう。

1.収益性を向上させる

企業価値を高めるためには、収益性の向上が効果的です。収益性を向上させるには、中長期的な経営戦略を策定し、売上高の増加と経費の削減を同時に進める必要があります。

まず、売上高を増やすためには、効果的な営業活動や広報戦略が不可欠です。新規顧客の獲得や既存顧客のリピート率向上に焦点を当て、収益力のある商品・サービスの開発を進めます。

一方で、経費削減も収益性向上の鍵です。原材料費や人件費の見直し、販売体制の効率化を通じて無駄を省きます。生産コストを最適化することで、利益率の向上を見込めるでしょう。

事業モデルの再検討や生産性の向上も検討すべき点です。日々の業務で生産性が低下している部分を見直し、必要に応じて事業構造を変革することで、さらなる収益性の向上が期待できます。

2.投資効率の最適化を図る

企業価値を高めるためには、投資効率の最適化が重要です。遊休資産や過剰在庫など、無駄な資産を削減し、資金や資産を有効活用することで企業価値の向上が期待できます。

遊休資産、例えば事業に活用されていない土地や建物は、固定資産税がかかるだけで収益を生みません。これらの資産を売却するか、事業に関連する形で再活用することにより、資産の有効活用が可能です。

また、過剰在庫は資金を圧迫し、管理コストを増加させます。適正な在庫水準を維持することで資金の流動性を高め、効率的な運用を図ります。

3.財務状況を見直す

企業価値を高めるためには、財務状況の見直しが有効です。負債を減らすことで、企業全体の安定性が増すため企業価値の向上が期待できます。

負債を削減することで自己資本比率が高まります。自己資本比率が50%以上ある場合には、財務的に健全と見られるため融資を受けやすくなるでしょう。

また、負債が減少することで、利息支払いの負担が軽減されます。負債の減少により、キャッシュフローが改善され、事業に再投資する余力が生まれます。

4.エンゲージメントを強化する

企業価値を高めるためには、エンゲージメントの強化が有効です。エンゲージメントとは、企業と従業員のつながりの強さを指し、エンゲージメントが高い企業では従業員の信頼感や貢献意欲が向上します。

そのためには、まず労働環境や給与制度の見直しが重要です。従業員のストレスケアや福利厚生を改善することで、働きやすい環境を整えられます。これらの見直しにより、従業員の満足度が高まれば、離職率の低下が期待できます。

次に、キャリアパスの再構築も効果的です。従業員が、自身の成長を実感できる環境にいることにより、モチベーションが向上するため生産性も高まるでしょう。教育や研修への投資も、エンゲージメント強化には役立ちます。

エンゲージメントが高い企業は、優秀な人材の流出が少なく、生産効率も向上します。エンゲージメントを意識した取り組みが、企業の競争力向上にもつながるでしょう。

企業価値まとめ

企業価値は、単なる数値ではなく、企業の総合的な魅力と成長可能性を示す重要な指標です。収益性や効率性、財務健全性、人的資本などを多角的に高めることで企業価値の向上を目指せます。

経営者は常に自社の価値を冷静に分析し、戦略的な改善に取り組んでいくことが求められます。企業価値向上への不断の努力が、持続的な成長と競争力強化につながることを意識して行動しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
本社所在地 〒160-0022
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所属団体 一般社団法人Fintech協会
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