事業承継税制とは?制度の内容や要件をわかりやすく解説
更新日:2024年03月05日
事業承継税制とは、事業承継した後継者にかかる税金を猶予したり免除したりする制度です。ただし、適用するためには先代経営者・後継者・会社などがさまざまな要件を満たさなければなりません。
本記事では、事業承継税制とは何かわかるように、概要や要件について詳しく解説します。
目次
事業承継税制とは
事業承継税制とは、事業承継した後継者にかかる税金を猶予する税制のことです。
そもそも、事業承継とは人(経営)・資産・知的資産の3つの要素を後継者に引き継ぐことを指します。主な事業承継の種類は、以下のとおりです。
- 親族内承継
- 社内承継(従業員承継)
- M&A(社外への引き継ぎ)
親族内承継は現経営者の子をはじめとした親族に承継するのに対し、社内承継では親族以外の従業員に承継します。また、M&Aは社外の第三者へ株式譲渡や事業譲渡の手法で承継することです。
ここから、事業承継税制の概要や一般措置と特例措置の違いなどについて解説します。
事業承継税制の概要
事業承継税制は、後継者が非上場会社の株式や事業用資産を先代経営者から贈与・相続で取得した際に、贈与税・相続税の納税が猶予または免除される制度です。適用するためには、経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けなければなりません。
事業承継税制には、非上場会社の株式を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」があります。この記事で主に取り上げるのは、法人版事業承継税制です。
なお、「法人版事業承継税制」の中にも、一般措置と特例措置の区分があります。
事業承継税制が創設された背景
事業承継税制が創設された背景には、後継者にかかる税負担が関係しています。
事業承継のうち、親族内承継を選択する際、贈与税や相続税がかかることが一般的です。後継者が現経営者から生前贈与で事業承継する際に贈与税、相続で事業承継する際に相続税がかかる可能性があります。
相続する際(生前贈与される際)の株式評価額が高いと、その分かかる税金が高くなるでしょう。金額によっては、納税で資金が流出して経営する余裕がなくなることもあります。
負担が大きいと考えれば、事業承継しようとする後継者は現れません。そこで、贈与税や相続税の納税負担を軽減させて、中小企業がスムーズに事業承継できるように事業承継税制が設けられました。
一般措置と特例措置の違い
事業承継税制の一般措置は、2009年4月1日から始まりました。一般措置には期限がないのに対し、2018年4月1日から始まった特例措置には、2027年12月31日までという適用期限があるのが主な違いです。
そのほか、適用対象の株数や納税猶予割合も一般措置と特例措置の違いとして挙げられます。主な違いを以下の表にまとめました。
一般措置 | 特例措置 | |
事前の計画策定 | 不要 | 6年以内の特例承継計画の提出 2018年4月1日〜2024年3月31日 |
適用期限 | なし | 10年以内の贈与・相続等 2018年1月1日〜2027年12月31日 |
対象株数 | 総株式数の最大3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与:100% 相続:80% |
贈与・相続:100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
弾力化 |
経営環境変化に対応した免除 | なし | あり |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与 | 60歳以上の者から18歳以上の者への贈与 |
手続きに手間がかかる分、特例措置は一般措置が抱えるデメリットを一部解消している点がポイントです。
参考:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」
事業承継税制のメリット
事業承継税制のメリットは、以下のとおりです。
- 事業承継にかかる贈与税・相続税が猶予される
- 要件を満たせば猶予から免除に切り替わる
それぞれのメリットを解説します。
事業承継にかかる贈与税・相続税が猶予される
事業承継税制を適用することで、事業承継にかかる贈与税や相続税が猶予される点がメリットです。とくに特例措置を利用する場合は、相続の場合も生前贈与の場合も100%納税を猶予できます。
相続税や贈与税の税率は10〜55%です。いずれも現経営者の財産の金額が大きければ大きいほど、税率が高くなります。
高額な贈与税や相続税の納付を猶予すれば、後継者の負担軽減につながるでしょう。また、納付予定の金額を事業資金に回せば、安定的な経営ができます。
参考:国税庁「No.4155 相続税の税率」
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
要件を満たせば猶予から免除に切り替わる
事業承継税制は、先代経営者の死亡や後継者の死亡などに該当すれば、納税の猶予が免除に切り替わる点もメリットです。猶予中の税額納付が免除される具体的なケースについては、のちほど詳しく解説します。
なお、特例措置を適用する場合、相続や贈与から5年経過以降に事業継続が困難となり非上場株式を譲渡などした際も、納税額の一部免除を受けられることがあります。一部免除を受けられる主なケースは、以下のとおりです。
- 過去3年間のうち2年以上赤字
- 過去3年間のうち2年以上売上減
- 有利子負債≧売上の6か月分
- 類似業種の上場企業の株価が前年の株価を下回る
- 心身の故障等により後継者による事業の継続が困難(譲渡・合併のみ)
上記に該当する場合に、非上場株式等の譲渡対価額をもとに再算出した税額と直前配当などの金額との合計額を当初の納税猶予税額と比較し、下回る分の差額が免除されます。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制のデメリットは、以下のとおりです。
- 取消事由に該当した場合に利子税も支払う必要がある
- 申請手続きが煩雑である
- 適用要件が細かい
3つのデメリットについて、詳しく解説します。
取消事由に該当した場合に利子税も支払う必要がある
取消事由に該当した場合に、猶予中の税金と期間分の利子税をあわせて払わなければならない点がデメリットです。基本的に、利子税は申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間(日数)に応じて年3.6%の割合でかかります。
取消事由に該当する主な例は、以下のとおりです。
- 年次報告書や継続届出書を未提出の場合や、虚偽の報告をした場合
- 雇用条件を下回った場合
- 株式を譲渡した場合
- 会社が資産管理会社に該当した場合
なお、経営承継期間(5年間)経過後に取消事由に該当するケースでは、利子税はかかりません。
参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定 1.申請マニュアル 第4章 認定の取消について」
参考:国税庁「No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予」
申請手続きが煩雑である
申請する際の手続きが煩雑である点も、事業承継税制を利用するデメリットです。申請時に必要な書類がいくつもある上に、申請後も定期的に報告書などを提出しなければなりません。
事業承継自体にも関係者への周知や株式の譲渡など、しなければならないことがいくつもある上に、事業承継税制まで手間がかかると後継者にかかる負担が重く、経営に支障をきたします。また、手続きにあたって専門知識を問われる場面もあるため、事業承継税制をスムーズに適用するには、専門家への相談を検討した方がよいでしょう。
適用要件が細かい
事業承継税制は、適用要件が細かい点もデメリットです。事業承継税制を適用するためには、先代経営者・後継者・会社がいずれも適用要件を満たしていなければなりません。
また、事業承継税制を適用した後も、守らなければならない適用要件がいくつか存在します。要件を満たさなくなると課税されるため、今後のことを考慮した上で事業承継税制を適用するべきかの判断が必要です。
事業承継税制の4つの適用要件
ここから、事業承継税制を適用するための4つ(先代経営者・後継者・会社・事業承継後)の適用要件について、それぞれ解説します。
先代経営者の要件
贈与で事業承継税制を適用する場合、先代経営者(贈与者)の要件は以下のとおりです。
- 会社の代表権を有していた
- 贈与の直前に贈与者・贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、後継者を除いた者の中で最も多くの議決権数を保有していた
- 贈与の時に会社の代表権を有していない
また、相続の場合、先代経営者(被相続人)に以下の要件が設けられています。
- 会社の代表権を有していた
- 相続開始直前に、被相続人と被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していた
なお、贈与や相続の直前に、すでに法人版事業承継税制の適用を受けていれば、いずれのケースも1と2の要件が不要です。
後継者の要件
贈与で事業承継税制を適用する場合、後継者(受贈者)の要件は以下のとおりです。
- 贈与時に、会社の代表権を有している
- 贈与日に18歳以上である
- 贈与日まで、引き続き3年以上会社の役員である
- 贈与時に、後継者・後継者と特別の関係がある者で、総議決権数の50%超の議決権数を保有することになる
また、相続の場合、後継者に以下の要件が設けられています。
- 相続開始日の翌日から5か月を経過する日に、会社の代表権を有している
- 相続開始時に、後継者・後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することになる
なお、贈与の場合も相続の場合も、後継者の人数によって議決権数に定めがあります。
後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者の中で、最も多くの議決権数を保有することとなることが要件です。後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、後継者と特別の関係がある者の中で、最も多くの議決権数を保有することになることが要件として定められています。
会社の要件
贈与の場合も相続の場合も、以下に該当しないことが事業承継税制を適用するための会社の要件です。
- 上場会社
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)第2条によると、「中小企業者」の定義は以下のとおりです。
業種 | 資本金 | 従業員数 | |
製造業その他 | ゴム製品製造業 (自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
上記以外 | 300人以下 | ||
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 | |
サービス業 | ソフトウェア・情報処理・サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5千万円以下 | 200人以下 | |
上記以外 | 100人以下 |
また、「資産管理会社」とは、資産保有型会社や資産運用型会社のことをいいます。
資産保有型会社とは、有価証券・自ら使用していない不動産、現金・預金などの特定の資産の保有割合が総資産の総額の70%以上の会社です。また、資産運用型会社は、有価証券・自ら使用していない不動産、現金・預金などの特定の資産からの運用収入が総収入金額の75%以上の会社を指します。
参考:e-Gov「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第二条」
事業承継後の要件
事業承継後の要件は、経営承継期間中(贈与税・相続税の申告期限翌日から、同日以後5年を経過する日)と、経営承継期間経過後で異なります。
経営承継期間中の要件は、以下のとおりです。
- 後継者が会社の代表者で筆頭株主
- 後継者が猶予対象株式の保有を継続
- 雇用の8割以上を5年間平均で維持(一般措置)
また、経営承継期間後は、後継者が猶予対象株式の保有を継続することが要件として設けられています。
参考:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」
特別な理由で猶予中の税額納付が免除される場合
特別な理由で、猶予中の税額納付が免除される場合があります。猶予中の贈与税が免除されるケースは、以下のとおりです。
- 先代経営者が死亡した場合
- 後継者が死亡した場合
- 後継者がさらにその次の後継者へ贈与した場合
また、以下のケースで、猶予中の相続税が免除されます。
- 事業承継した相続人が死亡した場合
- 事業承継した相続人が、さらに次の後継者へ事業承継税制で贈与をした場合
なお、先代経営者が死亡した際に、猶予から免除に切り替わった贈与税額が相続税の計算に組み込まれる点に注意しましょう。その結果、免除された贈与税額が、相続税の猶予に切り替わります。
事業承継税制を利用した方がよい会社
以下に当てはまる会社は、一般的に事業承継税制を利用した方がよいでしょう。
- 親族内承継で3代目までの継承が見込める会社
- 自社株評価額が高い会社
それぞれ詳しく解説します。
親族内承継で3代目までの継承が見込める会社
将来的に免除できる見込みがあるため、親族内承継で3代目までの継承が見込める会社は、事業承継税制を利用した方がよいでしょう。
事業承継税制を活用して事業承継した相続人が、さらに次の後継者へ事業承継税制で贈与をした場合、猶予中の相続税が免除されます。そのため、3代目まで継承する予定であれば、事業承継税制で税額の免除を見込めるでしょう。
自社株評価額が高い会社
税額が猶予・免除された際のメリットが大きいため、自社株の評価額が高い会社も事業承継税制の利用を検討した方がよいでしょう。自社株の評価額が高い会社は、それだけ多くの税金を猶予・免除できることになります。
一方、自社株評価額が低い会社の場合、手間をかけてまで事業承継税制を利用するメリットはありません。なぜなら、金額次第で贈与税や相続税がかからない可能性があるためです。
相続税を計算する際、課税価格の合計額から基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を引きます。たとえば法定相続人が2人であれば、事業承継する株式を含む現経営者の財産が、4,200万円(3,000万円 + 600万円 × 2人)を下回る場合に、相続税は課されません。
事業承継税制まとめ
事業承継税制とは、事業承継した後継者にかかる贈与税や相続税を猶予する制度を指します。要件を満たせば、後継者が猶予中の税額分を免除されることもあります。
ただし、申請手続きが煩雑である点や、先代経営者・後継者・会社に対してさまざまな要件が定められている点に注意が必要です。税金を猶予・免除するメリットと手続きにかかる負担を比較して、事業承継税制の適用を受けるべきか判断しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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