修繕費とは?勘定科目、資本的支出との区別や仕訳方法を解説

更新日:2025年03月28日

修繕費とは

修繕費とは、ビジネスで使用している固定資産を修理したり改良したりした際にかかる費用を計上する際の勘定科目を指します。経費として計上するにあたっては、他の勘定科目と混同しないことが大切です。本記事では、資本的支出との見分け方や、仕訳・会計処理について詳しく解説します。

目次

修繕費とは

修繕費とは、事業で使う固定資産に対して修理や改良をした際にかかる費用を計上する際に用いる勘定科目のことです。

国税庁の法令解釈通達7-8-1によると、固定資産の修理や改良などに支出した金額のうち、通常の維持管理や毀損(きそん)した部分の原状回復にかかった費用を修繕費として計上できます。

ここから、修繕費の具体例や消耗品費との違いについて確認していきましょう。

参考)国税庁「法令解釈通達 第8節 資本的支出と修繕費」

修繕費の具体例

以下にかかった費用が、修繕費の具体例として挙げられます。

  • オフィスの屋根塗装が剥がれてきたため、修理した
  • 工場の排水設備が壊れたため修繕した
  • オフィスのコピー機が故障したため、修理した
  • 会議室のエアコンが故障したため、部品交換した
  • 営業課が持ち出しているノートパソコンのバッテリーに不具合が生じたため、修理した
  • 運営するレストランのコンロが壊れたため、修理した

一方、パソコンに入れているソフトウェアをバージョンアップするためにかかった費用や、建物の増築費などは修繕費に該当しません。

修繕費と消耗品費の違い

修繕費と消耗品費の主な違いは、すでに購入しているものを修理するか、新たに購入するのかという点です。

消耗品費とは、事業に用いる事務用品などの備品を購入する際に用いる勘定科目を指します。具体例は、以下のとおりです。

  • 人員が増えた総務課で使用するペンやノート、ホチキスなどの事務用品を購入した
  • コピー機のインクやコピー用紙が減ってきたため、新たに購入した
  • 会議中に使用する紙コップを購入した

取得価額が10万円未満もしくは使用可能期間が1年未満の備品を購入する際は、一般的に消耗品費として計上します。一方、事務室の蛍光灯の取替費用を消耗品費として計上していても、蛍光灯型LEDランプに取り替える場合は、修繕費の対象です。

参考)国税庁「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱いについて」

修繕費を経費計上する際は資本的支出に注意する

修繕費として計上しようとした項目が、実は「資本的支出」にあたる場合もあるため注意しましょう。資本的支出の意味を説明してから、減価償却との関係について解説します。

資本的支出とは

資本的支出とは、建物や備品などの固定資産を修理することで、価値や機能を向上させた部分にかかった費用のことです。そのため、「修理」で改良を加えている場合は、修繕費ではなく資本的支出とみなすことがあります。

具体例は、以下のとおりです。

  • 建物に避難階段を取り付ける際にかかった費用(物理的に付加しているケース)
  • 模様替えのためにリフォームした際にかかった費用(用途を変えているケース)
  • 機械の部品を性能の高いものに交換する際にかかった費用(通常取り替えるときよりも高いケース)

なお、修繕費や消耗品費と異なり、資本的支出は修理した時点で全額を経費にできません。修理のなかに通常の維持管理や原状回復も含まれている場合は、その部分に対してのみ修繕費として支出した年の必要経費に算入が可能です。

資本的支出と減価償却の関係

資本的支出は、支出年に全額を必要経費として計上しない代わりに、減価償却の方法で各年にわたって計上します。

減価償却とは、設備投資などにかかった費用について定額法や定率法を使って一定期間に配分し、処理するやり方のことです。減価償却時には、対象資産の使用可能期間で分割し、経費として算入します。

資本的支出を実施する場合も、対象の減価償却資産と種類や耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却していくことが原則です。

修繕費か資本的支出か判断する方法

事業に関する支出が修繕費に該当するのか、資本的支出に該当するのか迷った場合の判断方法は、以下のとおりです。

  • 一般原則に従う
  • 判断が難しい場合はフロー図をたどる

それぞれ解説します。

一般原則に従う

修繕費か資本的支出か判断する際は、まず一般原則に従いましょう。

固定資産を修理したり改良したりする際にかかった金額のうち、維持・管理や原状回復に当たる部分は修繕費で計上できます。一方、修理・改良が「使用可能期間を延長させるもの」「価値を増加させるもの」に該当する部分については、資本的支出の対象です。

たとえば、冒頭に紹介した「営業課が持ち出しているノートパソコンのバッテリーに不具合が生じたため、修理した」ケースの費用は、修繕費に該当します。なぜなら、パソコンの原状回復にかかった費用であるためです。

一方、「パソコンに入れているソフトウェアをバージョンアップする」ケースの費用は、新たな機能(価値)を追加するものであるため、資本的支出に該当します(金額が少額の場合を除く)。

判断が難しい場合はフロー図をたどる

判断が難しい場合は、以下のフロー図(*)をたどりましょう。

  1. 費用・周期を確認する
  2. 価値を高めるもの・耐久性を増すものか確認する
  3. 維持管理・原状回復に該当するか確認する
  4. 費用を前年末の取得価額などと比較する
  5. 災害に伴って支出したものか確認する

各手順を説明していきます。

*判定に使うフローチャートの図は、国税庁のサイトで確認できます。

参考)国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」

費用・周期を確認する

修繕費に該当するか判断する際に、まずは対象の支出の費用や周期を確認します。

対象の支出が20万円未満であれば、修繕費の対象です。たとえば、運営するレストランのキッチンを快適にするために修理をしたとしても、金額が18万円であれば20万円未満のため基本的に修繕費として計上します。

費用が20万円以上の場合は、周期を確認しましょう。周期とは、対象の固定資産に対して修理・改良する期間のことです。

周期がおおむね3年以内に収まっていれば、修繕費として計上できます。たとえば、約2年半ごとにオフィスの照明を交換している場合は、修繕費の対象です。

価値を高めるもの・耐久性を増すものか確認する

対象の支出が20万円以上で周期が3年超の場合は、「明らかに価値を高めるもの」や「耐久性を増すもの」に該当するのかを確認しましょう。

今までできなかった機能を付帯するなど、対象の固定資産がグレードアップする場合は資本的支出に該当します。また、大規模改修工事のように価値を高めたり、耐久性を増して使用可能期間を長くしたりする場合にも、修繕費ではなく資本的支出の対象です。

なお、先ほど「修繕費と消耗品費の違い」で紹介した「蛍光灯型LEDランプに取り替える」ケースでは、部品の価値が高まっていますが、建物付属設備としての価値自体が高まったとまではいえません。そのため、国税庁は修繕費として処理することが相当と回答しています。

維持管理・原状回復に該当するか確認する

「明らかに価値を高めるもの」「原状回復に耐久性を増すもの」に該当するとはいえない場合、維持管理・原状回復にあたるかをチェックしましょう。

剥がれてきた床の張り替えのように、対象の固定資産が今までと同様の機能で使用(維持管理)するためのものであれば、修繕費の対象です。また、災害などで対象の固定資産が毀損した場合に元の状態に戻す(原状回復)場合も、修繕費と判断できます。

費用を前年末の取得価額などと比較する

維持管理・原状回復いずれにも該当しない場合は、再度対象の費用を確認しましょう。

かかった費用が60万円未満の場合、修繕費に該当します。また、前年末の取得価額の10%以下の場合も、修繕費の対象です。

たとえば、前期末の取得価額が1,500万円の建物を修理し、115万円支出したケースで考えてみましょう。支出額は115万円のため、かかった費用が60万円を超えています。一方で、115万円は前年末の取得価額の10%(150万円)を下回っているため、修繕費として計上可能です。

また、その反対に前年末の取得価額500万円の固定資産を修理して55万円かかった(前年末の取得価額の10%を超えている)場合でも、支出額が60万円未満のため修繕費として計上します。

災害に伴って支出したものか確認する

かかった費用が60万円以上かつ前期末取得価格の10%超の場合は、災害に伴って支出したものかを確認しましょう。

災害に伴って支出したもので、割合区分による方法を採用している場合、費用の70%相当額が資本的支出、30%相当が修繕費にあたります。割合区分を採用していない場合は、実質により資本的支出と修繕費を区分しなければなりません。

また、災害に伴って支出したものでない場合も、割合区分による方法を用いているかがポイントです。

割合区分による方法を採用している場合は、「支出金額の30%」か「前年末取得価額の10%」のうち少ない方が修繕費、「支出額 − 修繕費」の計算結果が資本的支出に該当します。

割合区分による方法を採用していない場合は、実質で判定しなければなりません。

なお、割合区分とは修繕費と資本的支出を割合で区分することです。国税庁の通達では、資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合に、法人が費用の「30%相当額」と「対象固定資産の前期末取得価額の10%相当額」のいずれか少ない金額を修繕費、残りを資本的支出として継続して経理することを認めています。

参考)国税庁「法令解釈通達 第8節 資本的支出と修繕費」

修繕費を仕訳・会計処理する際のポイント

修繕費を仕訳や会計処理する際のポイントは、以下のとおりです。

  • 翌年度にまたがる場合は金額に注意する
  • 場合によっては「修繕引当金」の計上が必要
  • 他の勘定科目と混同しないようにする

各ポイントについて解説します。

翌年度にまたがる場合は金額に注意する

修繕費の対象となる支出が翌年度にまたがる場合は、金額に注意が必要です。

規模やタイミングによっては、今年度に工事を開始しても完成が翌年度になることがあるでしょう。費用は、工事が完成して発注者に引き渡した段階で費用を計上することが一般的です(工事完成基準)。

そのため、今期150万円、来期150万円と分割して支払う場合でも、工事完成基準に基づく場合は、来期に300万円(今期150万円 + 来期150万円)を修繕費として計上しなければなりません。

場合によっては「修繕引当金」の計上が必要

場合によっては、「修繕引当金」の計上が必要になる点もポイントです。修繕引当金とは、事業に用いる有形固定資産に対して毎年実施している修繕を何かしらの理由でしなかった場合に、次回の修繕に備えて計上する引当金を指します。

たとえば、資材の都合などで定期的なリフォーム(費用20万円)が実施できない年には、20万円分の修繕引当金の計上が必要です。

他の勘定科目と混同しないようにする

他の勘定科目と混同しないようにすることも、修繕費を計上する際のポイントです。

すでに紹介したように、修繕費は消耗品費や資本的支出との区別を間違えることがあります。また、企業によっては維持管理費や整備費など異なる勘定科目を使うこともあるでしょう。

勘定科目が曖昧だとトラブルの原因になるため、社内で明確な計上ルールを定め、ばらつきがないようにすることが大切です。

勘定科目に修繕費を使う場合の仕訳例

ここでは、実際に勘定科目に修繕費を使う場合の仕訳例を紹介しましょう。オフィスの屋根塗装が剥がれてきたため部分的に修理した際に、普通預金から出金して20万円を業者に振り込む場合の仕訳例は以下のとおりです。

借方 貸方 備考
修繕費 200,000円 普通預金 200,000円 屋根塗装の補修、A社へ振り込み

また、何かしらの理由で当期に15万円のリフォームを実施できなかった場合は、以下のように修繕引当金を計上します。

借方 貸方 備考
修繕引当金繰入 150,000円 修繕引当金 150,000円 翌期に繰越

さらに、翌期に実際に20万円で修繕して、業者に普通預金から振り込んだ際の仕訳例が以下のとおりです。

借方 貸方 備考
修繕引当金 150,000円 普通預金 200,000円 リフォーム代金B社へ振り込み
修繕費 50,000円

今回のケースでは、「修繕引当金」だけでは不足しているため、新たに「修繕費」を5万円計上しています。

修繕費まとめ

修繕費とは、事業で使う固定資産に対して修理や改良をした際にかかる費用を計上する際に用いる勘定科目のことです。ただし、修繕により機能や価値が向上する部分については、資本的支出として計上する点に注意しなければなりません。

修繕費と資本的支出の区別が難しい場合は、国税庁の定めるフロー図をたどることがポイントです。また、社内で計上の基準が曖昧にならないように、統一したルールを作成しておきましょう。

このメディアの監修者

元吉 孝子

元吉 孝子 元吉孝子税理士事務所 代表
大学卒業後、一般事業会社の経理部門にてキャリアをスタート。その後、大手会計事務所にて15年間、医療機関に特化した会計・税務支援に従事し、開業から法人化、事業承継、相続対策まで、クライアントに寄り添う伴走者として経験を積む。
その後、千代田区の税理士法人に勤務し、EC事業や個人の相続案件に携わる。平成30年11月20日に税理士登録後も同法人でパートナー税理士を務め、通算16年間の勤務を通じて幅広い分野の専門知識を習得。
これまでの30年以上の経験を活かし、現在は自身の会計事務所を開設。お客様一人ひとりの視点に立ち、共に課題を解決していくことを目指している。

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
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  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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