貸付金とは?仕訳方法や証書貸付が該当する勘定科目をわかりやすく解説
更新日:2024年12月11日

貸付金とは、期日までに返してもらう約束をして取引先や自社の役員などに貸すお金のことを指します。貸付金が増えると、資金繰りの悪化につながりうる点に注意が必要です。本記事では、貸付金の概要を説明してから、仕訳方法や貸付金を減らす方法などを解説します。
目次
貸付金とは
貸付金とは、期日までに返してもらう約束をして貸し付けるお金のことです。その反対に、期日までに返す約束をして借りるお金を借入金と呼びます。
貸付金は、貸借対照表などに記載する勘定科目としても使われる言葉です。資産のひとつに分類されるため、相手に貸し付けるて貸付金額が増えると資産も増加し、相手から返済を受けて貸付金額が減少すると資産も減少します。
貸付金と借入金の違い
貸付金と借入金の主な違いは、貸し借りをどちらの側から考えているかという点です。また、貸付金に該当するか、借入金に該当するかによって計上する場所も異なります。
ここで、A社がB社に対して、1,000万円を貸すケースを考えてみましょう。
A社は貸す側のため、1,000万円を「貸付金」として「資産」に計上します。それに対し、B社は借りる側のため、「借入金」として「負債」に計上する点がポイントです。
なお、会社が自社の役員に対して貸したお金は「役員貸付金」として計上します。一方、会社設立などのタイミングで役員から会社側がお金を借りる際に計上するのは、「役員借入金」です。
貸付金の勘定科目
貸付金の勘定科目は、以下の2種類に分類できます。
- 短期貸付金
- 長期貸付金
それぞれの概要を確認しておきましょう。
短期貸付金
短期貸付金とは、決算日の翌日から起算して期日が1年以内に設定されている貸付金を指します。計上する場所は、「資産」のうち「流動資産」です。
たとえば、取引先C社に対して3か月後を期日として500万円を貸した場合、「短期貸付金」として500万円を流動資産に計上します。また、当初3年後に返済することを条件に貸し付けたお金でも、月日を経て返済期日まで残り半年になっていれば、「短期貸付金」の対象です。
なお、期日が1年以内に設定されている借入金のことを「短期借入金」と呼びます。
長期貸付金
長期貸付金とは、決算日の翌日から起算して期日までの期間が1年を超える貸付金を指します。
長期貸付金を計上する場所は、「資産」のうちの「固定資産(投資その他の資産)」です。たとえば、子会社に設備資金として1,000万円を返済期間5年で貸した場合、「固定資産(投資その他の資産)」に「長期貸付金」1,000万円を計上します。
なお、銀行などから返済期限まで1年を超える借入金がある際に用いる勘定科目は、「長期借入金」です。
貸付金・借入金の種類
貸し付けや借り入れに用いられる主な手段は、以下のとおりです。
- 手形貸付
- 証書貸付
それぞれ解説します。
手形貸付
手形貸付とは、借りる側が振り出した約束手形を担保にして、お金を借りる手段を指します。会社や個人事業主が金融機関から短期でお金を借りる際(短期借入金)に用いられることが一般的です。
しかし、手形貸付は今後なくなる可能性があります。なぜなら、政府が2026年までに約束手形の利用を廃止する方針を示しているためです。すでに一部の金融機関では、手形貸付の新規実行を停止するまでのスケジュールを発表しています。
証書貸付
証書貸付とは、借りる側と貸す側で金銭消費貸借契約書を取り交わし、契約書内に記入された金額を借りる(貸す)手段のことです。契約書には、金額以外にも返済方法や利息、返済期間などが記載されます。
会社が設備資金や長期運転資金などとして銀行からお金を借りる際に用いられるのが、証書貸付です。1年を超える証書貸付で融資を受ける際には、長期借入金として計上します。
また、会社が自社の役員や取引先などに貸し付ける際にも、証書貸付を用いることもあるでしょう。1年を超える証書貸付で貸し出す際の勘定科目は、長期貸付金です。
なお、会社によっては、契約書を取り交わさずに役員に貸し付けしているケースもあります。
貸付金が発生する場面
貸付金が発生する主な場面のひとつが、資金繰りに困っている取引先を支援するために貸し付けるケースです。同様の理由で、自社の子会社や関連会社に貸し付けることもあります。
また、福利厚生の一環として従業員に比較的低金利でお金を貸すケースも、貸付金が発生する場面です。さらに、手持ち資金が不足しているなどの個人的な事情を勘案して、社長や役員にお金を貸すこともあります。
そのほか、個人事業主から株式会社などの法人になる(法人成りする)場合にも、貸付金が発生しやすいです。たとえば、個人事業主として事業を営んでいるときの債務超過を抱えたまま法人成りするケースでは、貸借対照表上の帳尻を合わせるために(役員)貸付金を発生させることがあります。
貸付金の仕訳方法
貸付金に関して仕訳をする主なタイミングは、以下のとおりです。
- お金を貸した際
- 貸付金元本を回収した際
- 貸付金元本と利息を回収した際
ここから役員貸付金のケースで、それぞれの仕訳方法を紹介します。
役員にお金を貸した際の仕訳
普通預金から出金し、自社の役員に6か月後を期日として200万円を貸す際の仕訳方法は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
短期貸付金 | 2,000,000円 | 普通預金 | 2,000,000円 | 役員貸付金 (〇〇常務取締役宛) |
貸付金は資産に該当するため、「借方」に計上しています。また、1年以内を期日としているため、勘定科目は「短期貸付金」です。
一方、役員へ貸すことによって普通預金が減少するため、「普通預金」は「貸方」に計上しています。
役員から貸付金元本を回収した際の仕訳
役員に貸していた200万円(元本)が期日に現金で返済された際の仕訳は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
短期貸付金 | 2,000,000円 | 普通預金 | 2,000,000円 | 役員貸付金元本返済 (〇〇常務取締役より) |
現金回収により資産が増加するため、「現金」200万円を「借方」に計上します。一方、資産である短期貸付金は減少するため、「短期貸付金」を計上するのは「貸方」です。
役員から貸付金元本と利息を回収した際の仕訳
役員から貸付金元本200万円を回収する際、同時に貸付金利息3万円を回収する場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
現金 | 2,030,000円 | 短期貸付金 | 2,000,000円 | 役員貸付金元本・ 利息△%返済 (〇〇常務取締役より) |
受取利息 | 30,000円 |
合計203万円を受け取るため、「現金」203万円を「借方」に計上します。また、貸付金利息を回収することにより収益が増加するため、「受取利息」として「貸方」への計上も必要です。
利息については、貸し出す際に貸し手と借り手の間で決めておきます。利息の計算方法は、以下のとおりです。
貸付金利息 = 貸付金額(元本) × 年利率 × 貸付日数 ÷ 365日(12か月)
貸付金に関する注意点
事業を営む際、貸付金に関して以下の点に注意が必要です。
- 権利を行使しないと時効で消滅する可能性がある
- 利息に税金がかかる
- 増えると資金繰りの悪化につながる
- 金融機関の審査に悪影響を及ぼしうる
- 「貸付金」として計上できない場合がある
ここから、各注意点について詳しく解説します。
権利を行使しないと時効で消滅する可能性がある
貸付金は「資産」として計上しますが、権利を行使しないままでいると時効で消滅する可能性がある点に注意しましょう。
債権が時効によって消滅するのは、以下いずれか早いほうのタイミングです。
- 債権者が権利を行使できると知ってから5年間
- 権利を行使できるときから10年間
貸し手側は、時効を消滅させないための主な方法として、以下が挙げられます。
- 少額でも払ってもらう
- 借金を認める書類を作成して記名・捺印してもらう
- 「返済を待ってほしい」など、返済猶予の申し出を受け、記録に残す
なお、時効が消滅しても時効援用の手続きを取るまでは、借り手に支払い義務があります。時効援用とは、借り手が貸し手に対して時効になったため返済の意思がないことを伝える手続きのことです。
利息に税金がかかる
貸付金を回収する際に受け取る元本と異なり、受取利息は利益が増える要因のため、支払う税金額に影響を与える点に注意が必要です。貸し出しの利率が高いと、その分税金も高くなる可能性があります。
一方で、無利息や低い利息で貸し出す際にも注意しなければなりません。役員や使用人に貸し付けた金銭の利息には、利息相当額が定められています。無利息や低い利息で貸し付けた場合、一部例外を除き利息相当額と実際の利息の差額分が役員・従業員の給与として課税されます。
増えると資金繰りの悪化につながる
貸付金が増えると、資金繰りの悪化につながりうる点にも注意が必要です。
役員や取引先などにお金を貸すにあたって、現金や預金残高が減少します。そのため、貸付金を回収できないままでいたり回収不能に陥ったりすると、手元資金が不足して資金繰りが悪化し、経費や買掛金の支払いなどに間に合わせられなくなることがあるでしょう。
金融機関の審査に悪影響を及ぼしうる
貸付金が存在することで、金融機関の審査に悪影響を及ぼしうる点も理解しておかなければなりません。回収の見込みが立たずに貸付金を計上したままでいると、金融機関が「資産」とみなさない可能性があります。
また、役員貸付金が過大であれば、役員が簡単に会社のお金を借りられる仕組みになっていてガバナンスが整っていない会社と判断されかねません。「お金に困っている」「お金の使い方に問題がある」など、役員個人も金融機関に悪い印象を与えるでしょう。
その結果、設備投資や運転資金などでお金が必要なときに、金融機関から融資を受けられなくなる可能性があります。
「貸付金」として計上できない場合がある
本来貸付金としての性格を持つものであっても、「貸付金」として計上できなくなる場合がある点にも注意が必要です。
たとえば、役員貸付金が長期にわたって未回収のままでいると、税務調査から指摘を受けることがあります。役員から利息も回収していなければ、役員賞与として計上するよう指示される可能性もあるでしょう。状況によっては、今まで「役員賞与」として計上していなかったことに対してペナルティが発生することも覚悟しなければなりません。
ここまで説明してきたことを踏まえ、役員貸付金は極力発生させないようにしましょう。
役員貸付金を減らす方法
金融機関の審査に悪影響を及ぼすなどのデメリットを考慮し、役員貸付金を減らしたい場合は、以下の方法を検討するとよいでしょう。
- 役員借入金と相殺する
- 役員報酬の一部を返済にあてる
- 証書貸付にして役員から少しずつ返済してもらう
ここから、各方法について詳しく解説します。
役員借入金と相殺する
対象の役員からの借入もある場合は、相殺して減らす方法も検討しましょう。相殺とは、同じ種類の債権・債務を同額で消し合うことです。
たとえば、役員貸付金を200万円計上する一方で同じ相手からの役員借入金が300万円ある場合、相殺することで役員貸付金を消滅可能です。その場合、役員借入金は100万円(300万円 − 200万円)残ります。
役員報酬の一部を返済にあてる
対象の役員の役員借入金が存在しない場合、役員報酬の一部を役員貸付金の返済にあてる方法もひとつです。ただし、返済にあてるため役員報酬から多額を天引きすると、役員の手取りが減り生活に支障をきたす可能性があります。
一方、生活に影響を及ばさないよう返済にあてる分を役員報酬に上乗せすると、対象の役員にかかる税金や社会保険料などが上がりかねない点にも注意が必要です。
証書貸付にして役員から少しずつ返済してもらう
役員がどうしても資金が必要で、会社から貸さざるを得ない場合には、証書貸付にして少しずつ返済してもらう方法を検討しましょう。
貸付期間・金額・利息などを明記した金銭消費貸借契約書を取り交わすことで、役員に対して返済のプレッシャーを与えられます。取り交わした契約書は、税務調査を実施された場合にも、役員貸付であることを示すエビデンスとして役に立つでしょう。
貸付金まとめ
貸付金とは、期日までに返してもらう約束をして貸し付けるお金のことです。資金繰りに困っている取引先・関連会社や、個人的事情で資金が必要な役員・従業員にお金を貸す際に、「貸付金」として計上します。
貸付金があると、金融機関の審査に悪影響を及ぼす可能性がある点に注意が必要です。そのため、役員借入金と相殺する、役員報酬の一部を返済にあてるなどで、貸付金を減らす方法を検討しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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