為替差益とは~外貨建取引の会計処理や仕訳の方法について解説~

2023.05.10

為替差益

社内の経理を担当しているものの、外貨建取引の為替差益をどのように計上したらよいかと、困っている方もいるのではないでしょうか。この記事では、為替差益とはどのようなものなのか、外貨建取引をする際の会計処理、仕訳の方法などについて解説します。

為替差益とは

為替差益(かわせさえき)とは、外貨建取引における外国為替相場の変動によって生じた利益のことです。会計処理をする場合でも「為替差益」という勘定科目を使います。例えば外貨建取引で売上があった場合、日本円に換算して売掛金を記帳しますが、決済の際に為替レートが変動している場合、入金額との間に差異が生じます。この差異で得られるものが為替差益であり、結果としてマイナスになった場合は「為替差損(かわせさそん)」として記録します。

例:1ドル120円で購入した1万ドルを、1ドル130円で売却すると 130 - 120 = 10万円の為替差益が生じる

外貨建取引とは

外貨建取引(がいかだてとりひき)とは、取引額や売買価額が外国通貨で表示されている取引であり、外国通貨にて取引するものを指します。したがって、外国通貨で表示されていても、支払いが円である債権債務などは「外貨建て円払い」とされ、外貨建取引には該当しません。

日本の会社では円で記帳するため、取引を記録する際には、外国通貨は為替レートを元に換算する必要があります。

為替相場の捉え方

外国為替の売買は銀行主体で行うものであり、為替相場は会社ではなく銀行が決定します。

会社が外貨を円に換える際は外貨を銀行に売り、銀行は外貨を「買う」という扱いです。この際の為替レートをTTB(Telegraphic Transfer Buying Rate)と呼びます。

反対に、会社が外貨建債務を返済する際は、外貨を銀行から買い、銀行は外貨を「売る」という扱いです。この際の為替レートをTTS(Telegraphic Transfer Selling Rate)と呼びます。

為替レートの種類

為替レートは3種類あります。

  • TTB(Telegraphic Transfer Buying Rate)|電信買相場

    外貨を円に換える際に適用。売上・収益・資産に使用可。

  • TTS(Telegraphic Transfer Selling Rate)|電信売相場

    円を外貨に換える際に適用。仕入・費用・負債に使用可。

  • TTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)|電信仲値相場

    TTBとTTSの中間値

外貨建取引は、原則として取引時点でのTTMを使用してレート換算します。

為替差益を計上するタイミング

為替差益は外貨を日本円に換算したタイミングで金額が確定します。

為替差益 =[決済時の為替レートでの換算値]ー[取引時の為替レートでの換算値]

であり、取引時と決済時それぞれの為替レートで換算して計上します。取引と決済の間に決算が行われる場合は、決算時の為替レートでの「換算替え」を行う必要があります。為替は常に変動しているため、計上するタイミングを間違えると為替差益が実情を反映しなくなるため、注意が必要です。

為替差益の仕訳方法

外貨換算の会計処理には「一取引基準」と「二取引基準」がありますが、外貨建取引等会計処理基準では二取引基準を採用しているため、この基準にて記述します。

(例)8月1日に1,000ドルで輸出取引を行った。この売掛金は11月30日にドル建てで入金された。決算日は9月30日である。

この例について取引日・決算日・決済日での仕訳例を示します。

取引日の為替レートによる仕訳

「8月1日に1,000ドルで輸出取引を行った」ことで売上が発生し売掛金として処理しています。

  • 取引日:8月1日
  • 為替レート:120円/ドル(TTM)
  • 金額:1,000ドル × 120円 = 120,000円
借方 貸方
売掛金 120,000 売上 120,000

決算日の為替レートによる仕訳

決算日の為替レートで換算した売掛金と計上済みの売掛金との差額を為替差益として記帳します。

  • 決算日:9月30日
  • 為替レート:125円/ドル(TTM)
  • 金額:1,000ドル × 125円 = 125,000円
  • 為替差益:125,000円 ー 120,000円 = 5,000円
借方 貸方
売掛金 5,000 為替差益 5,000

決済日の為替レートによる仕訳

「売掛金は11月30日にドル建てで入金された」ことによって預金が発生し、売掛金と為替差益として処理しています。

  • 決済日:11月30日
  • 為替レート:130円/ドル(TTM)
  • 金額:1,000ドル × 130円 = 130,000円
  • 為替差益:130,000円 ー(120,000円 + 5,000円)= 5,000円
借方 貸方
普通預金 130,000 売掛金 125,000
為替差益 5,000

為替差益で損失(為替差損)が出た場合の処理

前述の例について、為替レートが円高に振れて為替差損が発生した場合の決算日と決済日の仕訳です。

  • 取引日レート:130円/ドル(TTM)
  • 決算日レート:125円/ドル(TTM)
借方 貸方
為替差損 5,000 売掛金 5,000
  • 決済日レート:120円/ドル(TTM)
借方 貸方
普通預金 120,000 売掛金 125,000
為替差損 5,000

なお、期中に為替差益と為替差損が両方残った場合、単なる為替の変動で生じた損益であるため、決算時は相殺し純額とします。

期末時点の残高が以下の場合

  • 為替差益:10,000円
  • 為替差損: 5,000円
借方 貸方
為替差益 5,000 為替差損 5,000

為替差益の法人税での扱い

法人税法上、外貨建取引を行った際の換算レートは、取引を行ったときのレートと定められています。(発生時換算法)

期末換算における外貨建資産の扱いは、勘定科目ごとに為替レートが定められています。外貨建取引に関して、勘定科目「外貨建債権債務」は「期末時換算法または発生時換算法」で扱います。ただし、会計上の扱いとしては発生時換算法を用いるため、期末時換算法を用いる際には換算しなおす必要があることには注意が必要です。期末換算時に発生時換算法として扱うためには、税務署に対して換算方法を届けておく必要があります。(届け出なかった場合は法定換算法に従う)外貨建債券債務に発生時換算法を採用している場合は、決算時の換算替えは行いません。

為替差益の消費税での扱い

為替差益は消費税の課税対象としては扱われません。消費税は、国内における取引のうち

  1. 事業者が事業として行う取引
  2. 対価を得て行う取引
  3. 資産の譲渡等

が課税対象として扱われます。参考)国税庁「No.6105 課税の対象

為替差益は、単に為替の変動によって生じた利益であるため「資産の譲渡等」の要件を満たさず、不課税として扱われます。

個人の確定申告における為替差益の扱い

為替差益は所得とみなされるため、所得税の課税対象になり確定申告は必要です。一時的であっても外貨預金の運用で為替差益が発生した場合など、確定申告が必要な条件(後述)を満たしている場合は、申告を忘れないようにしましょう。

為替差益を申告しなかったことが判明した場合は、本来納めるべき納税額を満たすための追徴課税があります。その他にも、延滞税・利子税・状況に応じた加算税(過少申告加算税・無申告加算税など)が課され、悪質な場合は刑事罰が課される場合もあります。

確定申告の対象となる為替差益

個人が輸出や海外へのサービス提供を行った代金を外貨で受け取った場合、すぐに日本円に交換すれば為替差益は発生せず、日本円で収入があった場合と同じ扱いになります。

為替差益が見込まれる場合でも、外貨のまま置いている含み益の状態では、日本円として確定していない(未実現)ため、確定申告の対象になりません。

事業所得として申告する場合は、売掛・買掛から為替差益が発生し、未実現でも確定申告の対象になります。

為替差益の所得区分

為替差益の所得区分は次の通りです。

  1. 事業所得:個人事業での商品の販売やサービスの提供に伴う為替差益
  2. 雑所得:外貨預金や副業で生じる為替差益
  3. 一時所得:外貨の積立保険の払戻金に含まれる為替差益

なお、継続的に資産運用を外貨預金を行う場合、為替差益は事業所得に分類される場合があるため注意が必要です。

所得税として課税されない場合でも、住民税として課税される場合があるため、為替差益の扱いに迷う場合は確定申告をしておくことが望ましいでしょう。

為替差益で確定申告が必要となる条件

為替差益の確定申告が必要となる条件は次の通りです。

  1. 事業所得である場合
  2. 雑所得として確定した為替差益が年間20万円を超える場合

なお、会社員で給与以外の所得(一時所得を含む)が年間20万円以下の場合、申告不要です。

一時所得については50万円の控除があり、超えた金額の1/2を課税所得とします。したがって、給与以外が一時所得だけの場合、90万円までは上記の条件に当てはまるため、申告は不要です。

為替差益まとめ

為替差益は外貨建取引における外国為替相場の変動によって生じた利益であり、外貨の売買・外貨預金の交換においても発生する勘定科目です。また、外国為替相場は銀行から見た取引の種類に応じて、TTB・TTS・TTMという3つの為替レートがあります。

為替差益を計上するタイミングは外貨を日本円に換算したときです。つまり、取引日と決済日に換算した金額の差で利益が確定し、決算日を挟む場合は換算替えの必要があります。なお、為替差益は消費税の課税対象としては扱われません。

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