前払金(前渡金)とは~仕訳、具体例、前払費用との違い

2023.01.06

前払金

前払金(前渡金)とは、代金の一部、あるいは総額を納品を待たずに支払ったときに処理するする勘定科目です。前払金は、「商品の受け取り前に代金の一部を支払った」「工事の着工前に手付金を支払った」といったように、お金を事前に支払う取引に用いられます。前払金を支払うことで「将来的に資産を受け取る権利」を入手したとみなされます。前払金は、「前払費用」「貸付金」「仮払金」などの勘定科目と混同しやすくなっているため、正しい仕訳の方法について理解しておく必要があります。この記事では、前払金がどのような取引の処理に使われるのか、実際の仕訳について例を挙げながら解説します。

前払金の仕訳

それでは、前払金(前渡金)の実際の仕訳の方法をみていきましょう。以下の3つのタイミングでの前払金の仕訳方法を解説します。

  1. 納品以前に代金を支払ったとき
  2. 一部の代金を支払いかつ未納であるとき
  3. 一部の代金を支払い既に納品されたとき

前払金の支払い時

前払金は「将来的に購入品を受け取る権利」を購入するものと考えるため、借方に仕訳します。以下、支払い時点での仕訳について、ケース別に解説します。

代金の全額を前払いした場合の仕訳

120,000円の備品を購入する取引において、全額の120,000円を現金で前払いしたときの取引を処理します。このようなケースでは、以下のように仕訳されます。

借方 貸方
前払金 120,000円 現金 120,000円

この仕訳から以下のことが分かります。

  1. 120,000円の資産が増加したこと(借方)
  2. 120,000円の現金が減少したこと(貸方)

ただし、まだ納品されていない状態のため、費用としての計上は未処理です。

代金の一部を前払いして商品を後で受け取る場合の仕訳

120,000円の代金のうち、手付金80,000円を納品より先に支払うときは、以下のような仕訳になります。

借方 貸方
前払金 80,000円 現金 80,000円

この仕訳から分かることは、以下の2点です。

  1. 前払いをした結果、権利である資産が加算されたこと(借方)
  2. 手付金80,000円の支払いにより現金が減少したこと(貸方)

この時点で未払いの代金を「買掛金」と呼びます。これは、納品時に処理します。

商品やサービスの納品時

購入した商品が納品された時には、「購入品を受け取る権利」が消失します。そのため、前払金は現金の減少として貸方へと仕訳し直されます。以下で、詳しくみてみましょう。

代金の全額を前払いした場合の仕訳

代金の総額120,000円のうち、手付金120,000円を支払っていた備品が納品されたときには、以下のように仕訳をします。

借方 貸方
仕入 120,000円 前払金 120,000円

この仕訳から、以下のことが分かります。

  1. 仕入れにより120,000円の資産が増えたこと(借方)
  2. 納品により120,000円の購入品を受け取る権利が消失したこと(貸方)

代金の一部を前払いして商品を後で受け取る場合の仕訳

同じく上記の例で、120,000円の備品を購入する際に20,000円の手付金を支払っていたとします。このようなケースでは、納品時の仕訳は以下のようになります。

借方 貸方
仕入 120,000円 前払金 20,000円
買掛金 100,000円
買掛金 100,000円 現金 100,000円

納品時には買掛金として残額の100,000円が支払われるため、その分の現金が減少します。この表から、以下の3点が分かります。

  1. 仕入れと同時に120,000円の資産を得たこと(借方)
  2. 前払金で得ていた「購入品を受け取る権利」が消失したこと(貸方)
  3. 買掛金として100,000円の現金が減少したこと(貸方)

代金の一部を前払いして商品を先に受け取る場合の仕訳

代金である120,000円のうち、75,000円を前払いして、総額の支払い以前に納品されたときの仕訳は、以下のようになります。

借方 貸方
仕入 120,000円 前払金 75,000円
買掛金 45,000円

前払金は「購入品を受け取る権利」の入手となり、資産としてみなされますが、このケースでは代金の総額が支払われる以前に納品されています。そのため、上記の権利を既に失ったことを示さなくてはなりません。したがって、前払金は貸方に処理されます。また、残りの代金は買掛金として計上します。

前払金と消費税

棚卸資産や事業用資産を購入する「課税仕入れ」は、納品のタイミングで処理します。これは、法人税においても同様です。たとえば、備品を購入する際に、手付金として一部の代金を支払ったとします。このようなときでも、支払いの時期に関わらず、課税仕入れの処理は、備品を実際に受け取ったタイミングであるとされます。特に、前払金の処理が翌月や翌期の処理までまたがるようなときは、課税仕入れの処理について迷いがちです。処理は、購入品を実際に受け取るタイミングであることを覚えておきましょう。ただし、短期前払金については支出時の課税期間が課税仕入れに含まれます。その際は、事前に法人税で損金処理を済ませておくことが必要です。

前払金と「手付金」「内金」の関係

このような支払いについては「手付金」や「内金」と呼ばれることもありますが、手付金は契約を解除できる性質を持つのに対して、内金は一部代金の支払いを指します。手付金と内金で取引内容が異なるため、処理の仕方にも違いが出る点には注意が必要です。

前払金が資産に計上される理由

前払金(前渡金)は、貸借対照表においては「流動資産」に区分されます。では、なぜ前払金は「費用」ではなく「資産」として計上されるのでしょうか。会計上における資産の定義には、「収益力」が含まれます。前払金を支払う取引では、「将来的に資産を受け取る権利を購入した」と言い換えられるため、資産として処理する必要があります。また、会計制度では、通常の営業サイクルの取引で発生した資産を流動資産とする「正常営業循環基準」があります。この決まりがあることで、1年以上の未回収が見込まれるものであっても、「流動資産」として扱われることになります。なお、前払金は、購入品や成果物を実際に受け取った時点で、資産を受け取る権利が消失するため、資産ではなく「費用」として借方に仕訳をする必要があります。

前払金の具体例5つ

前払金(前渡金)の勘定科目に該当する取引には、以下が挙げられます。

  • 原料や既製品を仕入れる際の手付金及び内金
  • 不動産を売買する取引で支払われる手付金
  • 他社に外注する取引で支払われる前渡金
  • 出張における宿泊費の予約金
  • 航空チケットの事前購入費

前払金として経費計上する際は、ほかの勘定科目に該当するものはないか、取引内容を確認することが重要です。

前払金と「前払費用」との違い

前払金(前渡金)と混同しやすい勘定科目に「前払費用」があります。前払費用とは、取引が継続されることによって繰り返し発生した前払いかつ、役務やサービスの提供が翌期になる取引を処理するときに使用されます。たとえば、以下のような費用を支払うケースが挙げられます。

  1. 事業として借りている土地の代金
  2. 各種保険料
  3. 家賃や駐車場の代金

これらとは異なり、単発で取引される際の納品以前の支払いが「前払金」にあたります。いずれも、「将来的に資産を受け取る権利の入手」であるとみなされる点では同じです。また、より正確な処理が必要なときには、「前払家賃」「前払火災保険料」のように科目を詳しく仕訳する方法もあります。

前払金と混同しやすいその他の勘定科目

商品や成果物の受け取り前に発生した支出を処理する勘定科目は、前払金(前渡金)の他にもあります。ここからは、以下の4つの勘定科目について解説します。

  1. 未完成のものに用いられる「建設仮勘定」
  2. 未確定な取引に用いられる「仮払金」
  3. 返済期日を決める「貸付金」
  4. 内金と区別するための「支払手付金」

建設仮勘定|建設中の建物や製造過程の設備など

建設仮勘定は、未完成の有形固定資産への支払いを処理するときに使われる勘定科目です。通常、建築物や機械設備などの建設には、長期間が費やされます。そのため、手付金や内金のほか、完成を待つ期間中にさまざまな支払いが発生することがあります。このようなときに、建設仮勘定の勘定科目を用いて処理します。ただし、建設仮勘定は仮の処理となるため、完成した時点で固定資産の勘定科目へと移行させる必要があります。前払金としての仕訳は、未完成の有形固定資産には用いません。その点をしっかり押さえておく必要があります。

仮払金|内容や金額が未定

仮払金もまた、納品を待たずに支払われるお金です。前払金と異なる点は、「仮払金は取引内容や金額が未確定であるときに使われる勘定科目」であることです。たとえば、以下のような場合が挙げられます。

  1. 社員の出張に応じて宿泊費や交通費などを概算して渡したとき
  2. 取引先との接待にかかる飲食費を概算で処理するとき

仮払金については仮の処理となるため、のちに支払い内容や金額が確定すれば、その時点で正しい勘定科目へ改める必要があります。

貸付金|返済請求できる権利

貸付金は、返済期日を決めて貸し付けた金銭の処理に使われる勘定科目です。金銭を貸し付けた側は、返済を請求する権利を有するため、「権利の入手」として扱われることになり、前払金と同じく資産の増加であると考えて処理します。なお、貸付金は以下の2種類に分けられます。

  1. 短期貸付金|1年以内に返済される金銭
  2. 長期貸付金|1年以内に返済されない金銭

利息が発生した際には、原則として発生時点で収益として処理します。

支払手付金|便宜上の区別

内金や手付金は、いずれも前払金として仕訳されます。ただし、内金と手付金を区別して仕訳する必要があるときには、便宜上「支払手付金」という科目で処理することも可能です。支払手付金は、以下の場合において契約を解除できるという性質をもちます。

  1. 買主が手付金を放棄した場合
  2. 売主が手付金の倍額を支払う場合

前払金であることに変わりはないため、資産の増加であると考える点は同じです。

前払金まとめ

前払金(前渡金)とは、商品の購入や工事の依頼などをする際に、一部の代金を先に支払うときに使用する勘定科目です。仮払金や貸付金など混同しやすい勘定科目のため、正しい仕訳の知識を身に付けておきましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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