資本金の仕訳~会社設立時の会計処理について徹底解説!具体的な例や注意点のまとめ~

更新日:2023年02月07日

資本金

会社を起業するためには「資本金」が必要です。資本金とは、会社を設立するための元手になる資金です。経営者が持っている手元資金はもちろん、株主や投資家から調達した資金も資本金に含まれます。ただし、資本金はあくまでも過去に出資を受けた額の合計を指すもので、会社の売上高や業績には直結しません。ここからは資本金を中心に、会社設立時の仕訳方法について、いくつかの例とともに解説します。

資本金が発生した時の仕訳方法

会社を設立するために資本金が発生します。この場合、会社にとって100万円の現預金が入ることになるため、借方には「現預金」が、貸方には「資本金」が入ります。具体的な仕訳は下記の通りです。

例)現預金100万円を資本金にした。

借方 金額 貸方 金額
現預金 1,000,000 資本金 1,000,000

会社設立時に費用の仕訳

会社設立時にかかる費用は、開業費と創立費の2つがあります。ここからは、開業費と創立費の概要と、かかる費用の例及び仕訳方法を紹介します。

開業費の例と仕訳方法

開業費とは会社設立後に開業準備のため営業開始までに、特別に支出した費用です。主に下記のものを指します。

  • 会社のホームページの作成費用
  • 事務所の敷金礼金、エアコンなどの備品
  • 事務所の椅子や机などの消耗品

開業費には事務所の家賃や水道光熱費など、毎月一定額の支払いが生じるものは該当しません。開業費は「繰延資産」という勘定科目を用いて仕訳します。繰延資産とは、支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものです。ここで仕訳例をご紹介します。

例)1年度に事務所の椅子・机の購入費用として30万円を支払った。

借方 金額 貸方 金額
開業費 300,000 現金 300,000

例)1年度決算仕訳として開業費10万円を償却した。

借方 金額 貸方 金額
開業費償却 100,000 開業費 100,000

創立費の例と仕訳方法

創立費とは、会社を設立する前に設立にかかった費用です。創立費には主に下記の費用が含まれます。

  • 定款の作成のための代行手数料や認証手数料
  • 印鑑証明書の発行手数料
  • 設立前の事務所賃借費用
  • 設立事務に携わる社員給料
  • 設立のために要した交通費など

創立費も開業費同様、繰延資産として扱われます。ここからは、例を挙げて実際に仕訳してみましょう。

例)定款作成費用として10万円を行政書士に支払った。

借方 金額 貸方 金額
創立費 100,000 現金 100,000

例)決算仕訳として創立費5万円を償却した。

借方 金額 貸方 金額
創立費償却 50,000 創立費 50,000

資本準備金の例と仕訳方法

資本金と混同されがちな項目が資本準備金です。資本準備金とは、資本金の1/2を超えない額を準備金として積み立てておけるものです。会社法第445条第3項により、「資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない」と定められています。このことからも分かる通り、資本金と資本準備金は別物として考えなければなりません。

例)出資者から集めた1,000万円のうち500万円を資本準備金として計上し、残りを資本金に計上することにした。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 10,000,000 資本金 5,000,000
資本準備金 5,000,000

法人口座開設前の経費の仕訳

会社を設立したばかりの頃は、法人口座を開設しておらず個人口座から資本金を支出するケースがあります。この場合の仕訳方法をご紹介します。

資本準備金の例と仕訳方法

会社を設立した直後は、会社と個人の資金が明確に分かれておらず、個人が経費を立て替える場合があります。この場合は下記のように仕訳します。

例)会社の役員が消耗品費10万円を立て替えた

借方 金額 貸方 金額
消耗品等 100,000 役員借入金 100,000

法人口座開設前に資本金を個人が使った場合の仕訳方法

会社個人の資金が明確に分かれていないと、個人の支出をしてしまう場合があります。この場合は、下記のように仕訳します。

例)役員が預け金として払い込んだ資本金から、10万円を個人支出した。

借方 金額 貸方 金額
役員貸付金 100,000 預け金 100,000

増資した時の仕訳方法

会社が資本金を増やすことを「増資」といいます。増資には、実際に資金の払込みを受けるか否かで「有償増資」と「無償増資」の2種類に分けられます。ここからは、有償増資と無償増資について、仕訳例とともに詳しく解説します。

有償増資の場合

有償増資とは、株式会社における資金調達の一種で以下の3種類があります。

  • 公募増資:不特定多数の一般投資家から投資を受けること
  • 株主割当増資:従来からの株主に対して新株を取得できる権利を与えること
  • 第三者割当増資:特定の第三者に株主を引き受ける権利を与えること

ほとんどの有償増資では払込期間を設けます。払込期間後に資本金へ振り替える仕訳が必要です。仕訳例は下記の通りです。

例)株式100株を1株あたり3,000円で発行することとなり、払込期日までに全額の払込みを受けた。

借方 金額 貸方 金額
別段預金 300,000 新株式申込証拠金 300,000

例)払込日を迎えたため資本金に振り替えた。

借方 金額 貸方 金額
新株式申込証拠金 300,000 資本金 300,000
現金預金 300,000 別段預金 300,000

無償増資の場合

無償増資とは、実際に資金の払込みを受けずに、会社の他の資本を資本金に振り替え、株主に新株を割り当てることです。なお、他の資本とは資本剰余金や利益剰余金を指します。株主からの払込はないため、資本金が増えるわけではありませんが、会社の資本構成の是正や、株主への利益還元を目的に実施されます。仕訳例は下記の通りです。

例)資本準備金10万円を資本金に組み入れた。

借方 金額 貸方 金額
資本準備金 100,000 資本金 100,000

減資した時の仕訳方法

増資に対して資本金の額を減少させることを「減資」といいます。減資も実際に資金を払戻すか否かで「有償減資」と「無償減資」に分けられます。ここからはそれぞれの解説と、仕訳例をご紹介します。

有償減資の場合

有償減資とは、実際に会社の資金を株主に払戻すことによって資本金を減少させることをいいます。有償減資の仕訳例をご紹介します。

例)株主総会において資本金の額を100万円減少し、その他資本剰余金とすることとした。さらに増加した剰余金100万円を配当することも併せて決議し配当した。

借方 金額 貸方 金額
資本金 1,000,000 その他資本剰余金 1,000,000
その他資本剰余金 1,000,000 現金預金 1,000,000

無償減資の場合

無償減資とは、資本金を額面上で減少させるだけの減資で「形式的減資」とも呼ばれています。会社の財産減少に伴うものが有償減資に対し、無償減資は会社の財産を減少させるものではありません。無償減資は、資本金を少なくして税金の優遇を得ることを目的に実施されることが多くあります。また、減資によって増加した「その他資本剰余金」を、欠損補てんに充てて欠損金額を減らすことを目的に実施する場合もあります。無償減資の仕訳例は下記の通りです。

例)資本金の額を100万円減少し、その他資本剰余金とすることを決議した。

借方 金額 貸方 金額
資本金 1,000,000 その他資本剰余金 1,000,000

仕訳をするときに注意すること

資本金における仕訳には、勘定科目の使い方などが複雑でさまざまな注意点があります。そこでここからは、仕訳の際に特に注意すべき点を2つご紹介します。

資本金の中に開業費と創立費を含めない

会社設立時に生じた資本金と、開業費・創立費は別物のため別の取引として経理する必要があります。会社設立時に払い込まれる資金を資本金といいます。一方で、創立費とは会社を設立するために支出した費用、開業費とは会社を設立した後、営業を開始するまでにかかった費用です。開業費と創立費は、それぞれ発生するタイミングが資本金とは異なるため、別物として扱わなければなりません。
開業費と創立費を、資本金に含めて仕訳しないように気を付けましょう。

他の純資産と混同しない

資本金は「純資産」として経理します。純資産とは元手として出した資本です。つまり資本金と同様の意味を持ちます。貸借対照表において、純資産、すなわち資本金は右側の貸方に記入しなければなりません。「純資産」に区分されるのは資本金だけではありません。他の純資産に区分される項目と資本金を混同してはいけません。他の純資産と資本金の違いを明確にし、仕訳ミスが起きないように注意しましょう。

資本剰余金とは何か

資本剰余金とは、資本取引の際に余った額です。会社設立時や、新株発行時に発生する点においては資本金と同じです。しかし、資本剰余金は株主に分配する配当金の原資であるため、資本金とは異なります。資本剰余金を原資とした場合の仕訳は下記の通りです。

例)5,000万円を配当するにあたり資本準備金を原資とした。

借方 金額 貸方 金額
その他資本剰余金 50,000,000 未払配当金 50,000,000

例)その後、実際に株主に配当金を支払った。

借方 金額 貸方 金額
未払配当金 50,000,000 現金預金 50,000,000

利益剰余金とは

利益剰余金とは、純資産である株式資本のうち資本金・資本剰余金・自己株式の3つを除いたものです。利益剰余金が増加すれば自己資本額も増加するため、利益剰余金が多ければ優良な企業であると判断されます。逆に、利益剰余金が少なければ厳しい経営状況であると判断され、融資などを受けにくくなります。利益剰余金の内訳は下記の通りです。

  • 利益準備金:会社法で積み立てが義務付けられている利益剰余金。
  • 任意積立金:利益処分対象でない利益剰余金。
  • 繰越利剰余備金:利益処分対象の利益剰余金。

利益準備金とは

会社法の規定により、配当金額における10分の1を積み立てることが義務付けられています。なお、限度額は資本準備金とあわせた法定準備金が資本金における4分の1に達するまでです。会社法が定められた背景として、以下の目的が挙げられます。

  • 社債を有している債権者が「一定の利息を要求する権利」を保護する
  • 株式を購入し出資している株主が「配当をもらう権利」を保護する
  • 無制限な配当を防ぎ、会社に一定の財産を留保する。

また、利益準備金の計算方法としては以下にある両者のいずれか小さい額です。

  • (資本金)× 1/4 ー (法定準備金)
  • 配当金額 × 1/10

任意積立金とは

株主総会の決議により積み立てることになったものを「任意積立金」といいます。その名の通り、株主総会の決議があれば任意で積み立てられ、会社法による規定はなく金額の制限もありません。任意積立金には以下の2種類があります。

  • 目的積立金:目的を定めて積み立てる任意積立金。
  • 無目的積立金:特定の目的を定めずに、配当余力または余裕資金として積み立てる任意積立金。

なお、多くの企業は無目的積立金を別途積立金の勘定で処理しています。無目的積立金は一般的ではありませんが、経理を担当する場合には覚えておくとよいでしょう。

任意積立金の種類として主に以下があります。

  • 退職給付積立金:目的積立金の一種。退職給付債務(引当金)とは別で計上します。
  • 新築積立金:目的積立金の一種。社屋や工場といった会社の建造物を新築するために用いられる積立金です。
  • 別途積立金:無目的積立金の一種。利益の内部留保を指し、使用用途を限定しません。そのため、株主総会で切り崩しの決議がなされれば、自由に使用できます。
  • 圧縮積立金:税法上の特例の目的で積み立てるもの。国からの補助金で固定資産の取得・交換差益を会計処理する際、積立金方式を採用したものを指します。

繰越利益剰余金とは

繰越利益剰余金とは、下記の計算式で算出される金額です。

(当期純利益+繰越利益+任意積立金の取り崩し額)ー(期中配当額)ー(配当に伴う利益準備金積立額)

当期純利益とは、会計期間中に得た売上から費用などを差し引いた金額です。また、繰越利益とは、前期に利益処分されずに繰り越された利益です。繰越利益剰余金は任意積立金とセットで「その他利益剰余金」に計上されます。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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