事業所得とは?雑所得との違いや確定申告のメリットをわかりやすく解説
更新日:2024年02月21日
事業所得とは、事業で得た収入から必要経費を引いたものです。個人事業主の所得税は、主に事業所得をもとに計算します。今回は、事業所得の基本的な考え方と申告方法、事業所得で申告するメリットについて解説していきます。
目次
事業所得とは
事業所得とは、事業を営むことで得られる所得を指します。国税庁によると、事業所得に該当する事業は以下のとおりです。
- 農業
- 漁業
- 製造業
- 卸売業
- 小売業
- サービス業
- その他の事業
事業所得以外に以下のような所得があり、それぞれ金額の計算方法が異なります。
とくに、事業所得と雑所得は混同しやすいため、注意しましょう。
参考)国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」
事業所得と雑所得の違い
雑所得と事業所得の主な違いは、青色申告の適用可否です。
青色申告とは、日々の取引を所定の帳簿に記載し、正しく申告すれば税金面でさまざまな特典を受けられる制度を指します。青色申告対象外の場合は、白色申告の対象です。事業所得・不動産所得・山林所得は青色申告できるのに対し、雑所得ではできません。
なお、会社員が副業をした際の所得は、原則として雑所得か事業所得です。ただし、事業所得にはさまざまな要件があるため、副業による収入を事業所得で申告しても税務署から認められない可能性があります。
参考)青色申告とは
事業所得で確定申告(青色申告)するメリット
事業所得として青色申告で確定申告するメリットは、以下のとおりです。
- 青色申告特別控除を受けられる
- 純損失の繰越ができる
- 他の所得と損益通算できる
- 30万円未満の少額減価償却資産の特例を利用できる
- 青色事業専従者給与で経費にできる
各メリットを解説します。
青色申告特別控除を受けられる
青色申告特別控除を受けられる点が、確定申告時に青色申告で事業所得として申告するメリットです。青色申告特別控除を受けると、55万円(65万円・10万円)を所得から控除できるため、節税につながります。
事業所得で55万円の青色申告特別控除を受けるための要件は、以下のとおりです。
- 事業所得を生ずべき事業を営んでいる
- 所得にかかる取引を正規の簿記の原則で記帳している
- 記帳に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付し、期限までに提出している
また、65万円の控除を受けるためには、上記に加えて「電子帳簿保存に対応している」「期限までにe-Taxで確定申告書などを提出している」のいずれかを満たしていなければなりません。
65万円の要件も55万円の要件も満たしていない場合は、10万円が適用されます。
他の所得と損益通算できる
青色申告・白色申告問わず、事業所得は損益通算できる点がメリットです。
損益通算とは、一定の順序にしたがって総所得金額などを計算する際に、各種所得金額の計算上生じた損失のうち対象部分を、他の各種所得の金額から控除できる制度を指します。事業所得と異なり、雑所得は損益通算ができません。
会社員が事業所得に該当する副業をする場合、副業で赤字になった金額を給与所得から引いて、所得税を計算できます。
純損失の繰越ができる
事業所得で青色申告する場合、純損失の繰越をできる点もメリットです。事業所得に損失(赤字)がある場合、損益通算の規定を適用しても控除しきれない金額を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できます。
また、前年も青色申告していれば、純損失を繰り越さずに前年(損失が生じていた場合)に繰り戻して所得税還付を受けられます(純損失の繰り戻し)。
30万円未満の少額減価償却資産の特例を利用できる
事業所得として青色申告すれば、30万円未満の少額減価償却資産の特例を利用できます。この特例は、30万円未満の減価償却資産を取得した際に、減価償却資産合計額300万円を限度として損金算入できる制度です。
つまり、数年に分けて減価償却しなければならない資産を取得した場合でも、その年の利益を考慮して一括で経費として計上できます。ただし、特例の適用期間には期限が設けられているため、注意しましょう。
青色事業専従者給与で経費にできる
事業所得を青色申告で申告すれば、一緒に働く家族に支払う給与を青色事業専従者給与で経費にできる可能性がある点もメリットです。ただし、青色事業専従者給与として認められるためには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 青色申告者と生計を一にしている配偶者やその他の親族
- 15歳以上
- 青色申告者の事業に専ら従事している
なお、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、控除対象配偶者や扶養親族の対象外です。
参考)青色申告のメリット
事業所得と雑所得の見極め方
事業所得か雑所得かという点については、実は明確な区切りがありません。そのため判断がつかずに事業所得として申告し、税務署から修正を求められることもあります。
事業所得の定義は以下のとおりです。
- 営利性・有償性の有無
- 継続性・反復性の有無
- 自己の危険と計算における事業遂行性の有無
- その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度
- 人的・物的設備の有無
- その取引の目的
- その者の職歴・社会的地位・生活状況
上記の点を基準とし、社会的に事業といえるのかどうかが、それぞれのケース別に判断されます。ここでは、事業所得に該当するケースと、雑所得に該当するケースを確認していきましょう。
事業所得に該当するケース
基本的に、個人事業主が事業を営んで得た収入は、事業所得に該当します。ただし、原則として、不動産の貸付けは不動産所得、山林の譲渡による所得は山林所得の対象です。
なお、会社員の副業でも、独立・継続・反復が認められ、継続的な収入があると予測されれば、事業所得に該当することがあるでしょう。副業というだけで、安易に「雑所得」と決めつけないことが大切です。
参考)国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」
雑所得に該当するケース
雑所得に該当する主なケースは、以下のとおりです。
- 原稿料(副業)
- シェアリングエコノミーにかかる所得(副業)
- 公的年金
- 非営業用貸金の利子
また、休日や休憩時間などの空いた時間で運営しているサイトのアフィリエイト収入も一般的に雑所得に該当します。休日にデリバリー業務で得た収入も基本的に雑所得に該当するでしょう。
参考)雑所得とは
事業所得の確定申告時の注意点
事業所得で確定申告する際の主な注意点は、以下のとおりです。
- 計上漏れがないようにする
- 事業収入の計上時期を意識する
- 家事関連費を理解しておく
- 減価償却の制度を把握しておく
それぞれ解説します。
計上漏れがないようにする
事業所得として確定申告をする際、計上漏れに注意しましょう。
棚卸資産の損害で発生した保険金は、売上の補てんとしての性格を有するため、収入として計上します。また、休廃業に伴う補償金も、収益の補償として受け取るため収入での計上が必要です。
さらに、事務所の火事などで下りた事業用固定資産の保険金は、対象資産の損失額(必要経費)から控除しなければなりません。
事業収入の計上時期を意識する
事業収入の計上時期を意識しましょう。なぜなら、収入金額によって計上すべき時期が異なるためです。
事業所得の主な計上時期を以下にまとめました。
収入の区分 | 収入の計上時期 |
棚卸資産の販売 | 引き渡し日 |
棚卸資産の試用販売 | 相手方による購入意思の表示日 |
棚卸資産の委託販売 | 受託者による委託品の販売日 |
物の引き渡しを要する請負契約 | 目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日 |
物の引き渡しを要さない請負契約 | 約束した役務の提供完了日 |
人的役務の提供 | 人的役務の提供完了日 |
上記はあくまで原則です。細かな決まりについては、国税庁のサイトを参考にしてください。
参考)国税庁「第2款 所得金額の計算の通則 法第36条《収入金額》関係(事業所得の総収入金額の収入すべき時期)」
家事関連費を理解しておく
家事関連費を理解しておくことも大切です。家事関連費とは、個人事業主が支払う費用のうち、事業の支出とプライベートの支出が混ざっている項目のことです。
家事関連費で経費として計上できるのは事業用の部分のみで、プライベートで使用した部分の金額は計上できません。家事関連費のうち事業用として認められる金額を必要経費に計上することを「家事按分」と呼びます。
家事関連費の代表例は、家賃・光熱費・インターネットプロバイダー料金などです。
減価償却の制度を把握しておく
減価償却に関する制度も把握しておきましょう。減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を、一定の方法で各年分の必要経費として配分していく手続きのことです。
減価償却資産に該当(建物・機械装置・器具備品・車両運搬具など)する場合、原則として一度に経費計上できません。ただし、「30万円未満の少額減価償却資産の特例」のように、一部例外はあります。
事業所得にかかる税金を計算する流れ
事業所得にかかる税金を計算する流れは、以下のとおりです。
- 総収入金額を把握する
- 事業収入から必要経費を引く
- 事業所得を計算する
- 事業所得に税率をかけて控除額を引く
それぞれ確認していきましょう。
1. 総収入金額を把握する
事業によって得られた売上や雑収入などを確認し、総収入金額を把握しましょう。雑収入に該当する例は、以下のとおりです。
- 金銭以外の物や権利その他の経済的利益の価額
- 商品を自家用に消費した場合や贈与した場合のその商品の価額
- 商品などの棚卸資産について損失を受けたことにより支払を受ける保険金や損害賠償金
- 空箱や作業くずなどの売却代金
- 仕入割引やリベート収入
事業に関するものに限定される点が、ポイントです。
2. 事業収入から必要経費を引く
1で計算した総収入金額から、必要経費を引きます。必要経費とは、収入を得るために直接必要な売上原価や販売費、管理費その他費用のことです。給与や家賃、業務上の移動にかかった旅費交通費、減価償却費なども必要経費に該当します。
なお、すでに紹介したように、家事関連費は事業に関連する部分のみ必要経費の対象です。
参考)売上原価とは
参考)減価償却とは
3. 事業所得を計算する
2の計算結果から青色申告特別控除を引けば、事業所得を計算できます。事業所得の金額を計算する式は、以下のとおりです。
事業所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費 - 青色申告特別控除
青色申告特別控除は、青色申告しなければ受けられません。また、要件次第で適用できる金額が10万円・55万円・65万円と異なる点に注意しましょう。
4. 事業所得に税率をかけて控除額を引く
3まで計算したら、最後に事業所得に所定の税率をかけて、控除額を引きます。2023年4月1日時点における所得税の税率は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
たとえば、事業所得の金額が300万円の場合、税率が10%かかり、97,500円の控除が適用されます。
なお、今回は事業所得のみ所得がある前提で説明しています。
参考)国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」
参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」
事業所得で確定申告する方法
事業所得で確定申告する具体的な方法を紹介します。確定申告の必要書類や、申告の流れを確認していきましょう。
確定申告の必要書類
確定申告で必要な書類は、以下のとおりです。
- 本人確認書類
- 所得を確認する資料
- 所得控除を証明する資料
- 還付がある場合に銀行口座番号などを確認できる資料(通帳など)
- マイナンバー
また、事業所得の確定申告で提出する書類は白色申告と青色申告で異なります。
白色申告の場合、確定申告書と収支内訳書の作成が必要です。また、青色申告の場合、確定申告書と青色申告決算書を作成しなければなりません。
確定申告の流れ
確定申告の流れ(青色申告者)は、以下のとおりです。
- 青色申告決算書(貸借対照表・損益計算書)を作成
- 1で作成・計算した結果を確定申告書(第一表・第二表)に転記
- 作成した書類を提出
提出先は、所轄の税務署です。税務署への持参・郵送のほか、e-Taxで自宅から提出することもできます。
なお、確定申告の期限は、原則として対象年の翌年2月16日から3月15日まで です。
参考)確定申告とは
事業所得とはまとめ
事業所得とは、事業で得た収入から必要経費を引いたものです。事業所得として認められれば青色申告の優遇が受けられますが、副業は雑所得に該当することが一般的です。
収入がどの所得にあたるのか自分で判断が難しい場合は、最寄の税務署に相談しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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