未成工事受入金とは?仕訳、未成工事支出金との違いを解説

更新日:2024年03月28日

未成工事受入金とは

未成工事受入金とは、一般には「前受金」に相当する建設業会計特有の勘定科目を指します。建設業では工事期間が長く、会計期間をまたぐことが多いため用いられている勘定科目です。

本記事では、建設業会計における未成工事受入金と未成工事支出金の位置付けについて詳しく解説します。また、具体的な仕訳方法や注意点についても解説します。

目次

未成工事受入金とは?

未成工事受入金とは、建設業会計で用いられる勘定科目のひとつで、工事が完了する前に受け取る代金を仕訳する際に用います。建設業においては、工事の着手から完成まで工期がかかることにより、費用の発生と売上計上との間にタイムラグが生じます。

そのため建設業界では、着工前に工事代金の一部を受け取るのが一般的です。一般の会計では、先に受け取った旅行の申込料金や予約販売の代金などは「前受金」で会計処理しますが、建設業会計では「未成工事受入金」の勘定科目を用います。

参考)前受金とは

建設業会計の特徴

建設業会計は、売上計上のタイミングや期の途中での処理が一般の会計とは異なる性質を有しています。建設業の特性として、工事の着手から完成までの期間が長くなることもめずらしくないため、完成前における工事代金の受領に関して通常の前受金とは異なる仕訳が必要です。

さらに、建設業会計では「製造会計」を用いるため、建設用資材などは「材料費」として、下請会社への支払いは「外注費」として計上しなければなりません。こうした費用は工事が完成した後に計上し、工事が未完成の間は「未成工事支出金」という勘定科目で仕訳します。

参考)建設業会計の特殊な勘定科目、仕訳のポイントを解説

未成工事受入金は建設業特有の前受金

「未成工事受入金」は、完成前の工事に対する請負代金の一部を発注者から受け取る場合に使用される勘定科目です。建設工事は1件あたりの単価が多額で、工期が期をまたぐことも少なくないため、契約時に一部の代金を受け取ることが一般的です。そのため「未成工事受入金」や「未成工事支出金」など、建設業特有の勘定科目が存在します。

未成工事受入金の消費税の取り扱い方

消費税の取り扱いは、前受金と同様に受け取った時点では課税の対象とはなりません。消費税は売上が発生したタイミングで課税されるため、売上計上の段階で「仮受消費税」として計上します。なお、工事の進捗状況にもとづいて収益や費用を認識する「工事進行基準」の場合には、進捗に応じた売上の計上時に「仮受消費税」としての処理が認められています。

「仕掛品」にあたる未成工事支出金の勘定項目

「未成工事支出金」は、まだ完了していない工事に関連する費用や支出を指し、製造業における「仕掛品」と同義です。建設業界では、年度をまたぐ工事が多く、特別な会計処理が必要です。未完成の工事はまだ顧客へ引き渡しが完了していないため、売上として認識できず工事に投じた経費は計上できません。

売上がない状態で経費だけを先行して計上してしまうと、正確な利益の把握が困難になります。したがって、売上に関連する費用の算出が必要です。未成工事支出金の勘定科目として、以下の4つが挙げられます。

  • 材料費
  • 労務費
  • 外注費
  • 経費

それぞれについて、詳しく解説します。

材料費

材料費は、施工に必要な材料などの購入費用を指し、「直接材料費」と「間接材料費」の大きく2つに分けられます。直接材料費は、特定の工事に直接使用される材料です。たとえばセメントや木材、ガラス、鉄筋、鉄骨などが含まれます。一方の間接材料費は、複数の工事で使用される物品です。接着剤、塗料、固定資産に該当しない工具(ドライバーなど)等が該当します。

材料費は、材料が購入された時点では原価には含まれず、材料が消費された時点ではじめて原価として計上されます。そのため材料の入出庫を管理し、材料の使用状況や在庫を把握することが重要です。また間接材料費は、すぐには工事原価に含めず関連する工事に按分し、特定の工事で消費されると想定される分を各工事の工事原価に振り分けます。

労務費

労務費は、直接建設作業に従事する現場作業員への給与や手当などが該当し、人件費の一部となっています。建設作業と直接関係のない人件費は「一般管理費」などに区分されます。また社長が直接工事現場で作業している場合には、社長が現場で働いた部分についても「役員報酬」から切り離し、労務費として計上することが必要です。

労務費は「直接労務費」と「間接労務費」の2つに分けられます。現場で働く作業員への賃金が直接労務費であり、現場におけるその他の労務費が間接労務費です。直接労務費は、直接雇用された現場の社員や臨時作業員への支払いが該当します。間接労務費は、賞与・退職給付金・法定福利費・現場監督・事務職員への賃金・休業手当などです。

参考)人件費とは

外注費

外注費は、他の企業や個人事業主に工事を委託した際に生じる費用を指します。建設業では、工事原価の中でも外注費が大きな割合を占めており、原価管理の観点から重要性をもちます。そのため工事原価の計算においては、経費の中から外注費を独立して管理することが一般的です。ただし、材料や道具を準備し他社に工事のみを行わせる場合や、他社に人員の応援を依頼した場合は、外注費ではなく労務費の一部としての「労務外注費」に仕訳します。

経費

工事原価において、材料費・労務費・外注費を除くすべての費用は「経費」として扱われます。経費には、工事に関係する光熱費・重機のレンタル料・保険料・警備費用などが含まれます。経費には、資材の運搬費用や足場の設置費用などの「間接工事費」も含まれるため、工事現場ごとの原価管理を行う際には、間接工事費を按分し各工事現場の原価に振り分ける作業が必要です。また工事現場に関する経費は、一般管理費に仕訳されやすいため注意が必要です。

参考)経費とは

未成工事受入金が負債に分類される理由

未成工事受入金は、工事が完了し発注者に引き渡されるまでの間は「代金の一部を預かっている」状態であり、貸借対照表では負債として扱われます。もし引き渡し前に発注がキャンセルされた場合、未成工事受入金を返却する義務が生じます。つまり未完の工事に対して受け取った金額は、発注者からの借金と同じ性質をもつため、売上としては計上できず流動負債として処理されるのです。

参考)負債とは

参考)貸借対照表とは

【会計基準別】未成工事受入金の仕訳方法

請負工事の売上や原価を計上するタイミングは次の2つの方法があります。

  • 「工事完成基準」による仕訳
  • 「工事進行基準」による仕訳

売上高の計上に際しては「工事完成基準」か「工事進行基準」のどちらで対応するかにより仕訳が異なります。ここでは、工事完成基準と工事進行基準それぞれについて、未成工事受入金の仕訳方法を解説します。

【工事完成基準】未成工事受入金の仕訳方法

工事完成基準では、工事が完了し、引き渡しが行われた時点で完成工事高と工事原価を計上します。

(例)

  • 甲社とビル建設の請負契約(請負代金は税抜4,000万円、税込4,400万円)を締結
  • 手付金:400万円
  • 中間金:1,600万円
  • 残金(2,400万円):工事が完成・引き渡し後に受領

【手付金の受領時】

借方 貸方
現預金 4,000,000 未成工事受入金 4,000,000

【中間金の受領時】

借方 貸方
現預金 16,000,000 未成工事受入金 16,000,000

【工事完成・引き渡し時】

借方 貸方
完成工事未収入金 24,000,000 完成工事高 40,000,000
未成工事受入金 20,000,000 仮受消費税 4,000,000

【工事進行基準】未成工事受入金の仕訳方法

工事進行基準は、工事が完了する前でも工事の収益総額と工事原価総額の基準日における進捗状況を見積もり、完成工事高を計上する手法です。工事進行基準は主に、1年以上の工期または総額が10億円以上の工事に適用されます。

(例)

  • 甲社とビル建設の請負契約(請負代金は税抜4,000万円、税込4,400万円)を締結
  • 手付金:400万円
  • 中間金:1,600万円
  • 決算時の工事進捗度:70%

【手付金の受領時】

借方 貸方
現預金 4,000,000 未成工事受入金 4,000,000

【中間金の受領時】

借方 貸方
現預金 16,000,000 未成工事受入金 16,000,000

【決算時】

決算時の完成工事高は、税抜きの請負金額に工事進行度を掛けて求めます。今回の例では、40,000,000の70%は28,000,000となり、初年度の完成工事高は2,800万円です。消費税は、各年度の完成工事高を計上するタイミングで認識します。

借方 貸方
完成工事未収入金 10,800,000 完成工事高 28,000,000
未成工事受入金 20,000,000 仮受消費税 2,800,000

建設業会計の仕訳における注意点

建設業はその性質上、多くの取引と複雑な仕訳を伴います。これらの仕訳は、企業の財務状況を正確に反映するために適切に行われるべきです。未成工事支出金の計上漏れや不適切な取引の経費計上など、会計処理における誤りは企業の財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、工事の進行状況に応じて適切な会計基準を選択することも重要です。ここでは、建設業会計の仕訳における注意点について解説します。

取引内容は正確に記録する

未成工事支出金が抜けていたり、経費計上するべきでない取引を計上してしまったりすることのないよう、取引内容は正確に記録することを心がけましょう。また工事完成基準を採用しているにもかかわらず、決算時に業績を良く見せるために、未完成工事にかかわる売上計上や材料費・外注費を経費計上することは誤った決算報告になります。完成工事と未完成工事の計上が決算時に正しく行われているかどうかは、税務調査で詳しくチェックされるポイントです。

ケースに応じた会計基準を選択する

「工事完成基準」は、工事が完了するまで利益が明らかにならないという問題点があります。一方の「工事進行基準」は、追加の注文があるたびに請求できるため、工事完了後になってはじめて大きな損失が明るみに出ることを防ぐことが可能です。ただし、工事の進行状況を把握するのは難しく、客観性やシンプルさに欠けるといったデメリットがあります。どちらの基準を適用するかを判断するには、それぞれの基準についてメリット・デメリットを正確に把握しておくことが重要です。

未成工事受入金まとめ

未成工事受入金には「工事完成基準」と「工事進行基準」の2つの基準が存在し、選択する基準によって仕訳の方法が異なります。建設業では一つの工事の完成までに時間がかかることも多く、工事完成前に決算期が訪れることもめずらしくありません。さらに、工事によっては大きな金額がかかわるため、少しのミスが大きな損失につながる可能性もあります。建設業会計特有の勘定科目や仕訳の方法をしっかりと理解し、建設業においての正確に会計処理をしましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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