仕掛品の意味とは?半製品との違いや計上・仕訳例も解説
更新日:2024年09月19日
仕掛品とは、材料や労力を投入して製造過程にあるもまだ完成していない製品に対して使う勘定科目のことです。製造原価や税金の計算に使うため、正しく管理しなければなりません。本記事では、仕掛品の概要やほかの棚卸資産の勘定科目との違いを説明したうえで、仕訳例などを解説します。
目次
仕掛品とは
仕掛品とは、会計処理の際に用いる勘定科目のことです。
材料や労力を投入して製造過程にあるも、まだ完成していない製品に対して「仕掛品」を使います。作業を仕掛けている品・やりかけの品であり、まだ出荷や販売をできないことが、「仕掛品」と呼ばれる理由です。
まだ販売して売上を出せる状態ではありませんが、仕掛品にはすでに原材料費や製造に携わる従業員の人件費(労務費)などのコストがかかっています。そのため、仕掛品を資産に計上する際の金額は、それまでにかかっている製造原価の値です。
貸借対照表において、仕掛品は資産の部の棚卸資産に含まれます。棚卸資産とは、販売や加工を目的として一時的に保有する資産のことです。そのほか、商品・製品・半製品・原材料なども、棚卸資産のひとつです。
ここから、仕掛品の具体例や仕掛品を扱う主な業種について、確認していきましょう。
仕掛品の具体例
たとえば、お菓子を製造して販売する際に、仕掛品を計上することがあります。
ケーキやクッキーなどのお菓子を製造するためには、費用をかけて卵や小麦粉などの原材料を仕入れなければなりません。また、製造に携わる従業員に支払う人件費もかかります。
お菓子の製造を始めるも製品としての形になっておらず、販売できる状態ではないときが、仕掛品を計上するタイミングです。生地はできていても焼き上げが完了していない、デコレーションを終えていない、などが具体例として挙げられます。
また、製造ラインで組み立て中の車両も仕掛品の具体例です。ただし、一部の半導体が取り付けられていないケースのように、ほとんど完成している場合は半製品に計上することもあります。
さらに、開発中のソフトウェアも仕掛品です。ただし、開発体系によっては「ソフトウェア仮勘定」で計上する場合もあります。
そのほか、液晶パネルが付いておらずまだ売り物にならないテレビや、まだ缶詰に入れていない加工食品なども、仕掛品として計上する具体例です。
仕掛品を扱う主な業種
仕掛品を扱う主な業種は、製造業や加工業です。お菓子や自動車、家電を製造したり、食品を加工したりする場面で、製品が完成する前段階で仕掛品を計上することがあります。
また、建設業や造船業などは、「仕掛品」の代わりに別の勘定科目を使って製造途中のものにかかった費用を資産として計上する業種です。仕掛品以外の勘定科目を使う主な業種と、代わりに使う勘定科目を以下にまとめました。
- 建設業ー未成工事支出金
- 造船業ー半成工事
- 不動産業ー開発事業等支出金
未成工事支出金とは、まだ完成していない工事にかかった費用や支出を資産に計上する際の勘定科目です。建設業では、工事に長い期間がかかるため、未成工事支出金を計上する機会があります。また、造船業において同様の場面で使う勘定科目が、「半成工事」です。
不動産開発の場面においては、まだ販売できない不動産に対して「開発事業等支出金」を使うことがあります。「仕掛販売用不動産」も、同様の場面で用いられる勘定科目です。
仕掛品とほかの勘定科目の違い
仕掛品は、ほかの棚卸資産と混同してしまうことがあります。とくに混同しやすい勘定科目は、以下のとおりです。
- 半製品
- 原材料
- 製品
それぞれの概要や仕掛品との違いについて、詳しく解説します。
半製品との違い
そのもの自体で「販売できるか」「販売できないか」が、仕掛品と半製品の主な違いです。
半製品とは、すでに一定の製造工程を終えており、そのままの状態でも販売できるものに対して用いる勘定科目を指します。加工食品が缶に詰められているけれどもまだラベルが貼られていない缶詰商品、ペットボトルに入れられているけれどもまだラベルが貼られていない緑茶、デザインを印刷していないけれどそのまま使用可能なバッグ、などが半製品の具体例です。
仕掛品は未だ製造過程の段階にあるため、そのままの状態では販売できないのに対し、半製品はひとつの目処がついているため、とりあえず販売はできます。
製品を作るにあたって、4つの工程(A〜D)が必要なケースで違いを考えてみましょう。たとえば、B工程の途中であれば仕掛品の対象です。一方、B工程を終えてC工程に入る前の段階であれば、基本的に半製品の勘定科目を使って計上します。
原材料との違い
何かしらの「加工を施しているか」「何も加工されていないか」が、仕掛品と原材料の主な違いです。
原材料とは、製造目的で外部から購入した原料(素材の原形をとどめていないもの)や、材料(素材の原形をとどめているもの)などに使う勘定科目を指します。お菓子を作る際の小麦粉や、自動車を製造する際の鉄などが原材料の具体例です。
仕掛品も原材料も、そのままの状態では販売できない点が共通しています。一方、仕掛品はすでに製造工程に入っているのに対し、原材料はまだ何も手を加えていない点が、両者の違いです。
たとえば、小麦粉を仕入れて保管している段階では「原材料」で、小麦粉に牛乳などを加えてお菓子の製造を始めた段階で「仕掛品」となります。
製品との違い
「まだ完成していないか」「すでに完成しているか」が、仕掛品と製品の主な違いです。
製品とは、製造工程を完全に終えて販売できる状態にあるものに対して用いる勘定科目を指します。外部から調達したものに使う「商品」と異なり、「製品」は自社で製造したり加工を施したりするものに対して使う勘定科目です。
製品の具体例として、自社で製造したクッキーやケーキなどのお菓子、自動車などが挙げられます。仕掛品は製造途中の段階にあり、販売はまだできないのに対し、製品は製造工程を終えておりすぐに販売できる点が違いです。
なお、貸借対照表は現金化しやすい勘定科目を上から順に記載します。そのため、貸借対照表の棚卸資産には、製品・原材料・半製品・仕掛品の順番に記載することが一般的です。
仕掛品を正しく管理する必要がある理由
企業は、仕掛品を正しく管理しなければなりません。管理の必要がある主な理由は、以下のとおりです。
- 製造原価や税金の計算に使う
- キャッシュフローの改善につながる
それぞれ解説します。
製造原価や税金の計算に使う
製造原価の計算に使うため、仕掛品を正しく管理しなければなりません。
売上原価が期中に売れた商品の仕入や製造にかかった費用を指すのに対し、製造原価は在庫として残っているものにかかっている費用のことです。製造原価は、以下の計算式で求められます。
当期製品製造原価 = 当期総製造費用 + 期首仕掛品棚卸高 − 期末仕掛品棚卸高
製造原価を求める際には、期首・期末の仕掛品棚卸高を使います。そのため、仕掛品を正しく把握しておかなければなりません。
税金の計算に関連することも、仕掛品を正しく管理する必要がある理由です。製造が期をまたぐ場合でも、そこまでにかかった費用を仕掛品として計上しておくことで、正しい税金の計算ができます。
キャッシュフローの改善につながる
キャッシュフローの改善につながる点も、仕掛品の管理が必要な理由として挙げられます。キャッシュフローとは、事業におけるお金の流れのことです。
展開する事業に対して仕掛品が過大だと、キャッシュフローは悪化します。なぜなら、材料費や労務費を多くかけているにもかかわらず、まだ販売できる状態ではないことを意味するためです。
仕掛品はすぐに確認できるものではありません。そこで、こまめに仕掛品の在庫をチェックして、対象の事業に対して過大なのか不足しているのか把握しておけば、適切な量に調整するための対策を検討できるでしょう。
仕掛品を計上するタイミング
仕掛品を計上するタイミングは、企業によってさまざまです。一般的には、出納帳をはじめとする帳簿を作成する際に計上します。
タイミングが毎回異なると、製造原価や税金を適切に把握できないでしょう。計算ミスにもつながる可能性があるため、あらかじめ決めた日に仕掛品を計上することが大切です。
また、年に1回しか計上しない場合も、ミスにつながることがあります。毎月計上することを意識しましょう。
仕掛品計上に関する仕訳例
主に以下のケースで、仕掛品に関する仕訳が必要になることがあります。
- 製造のため原材料を出庫したとき
- 製造に必要な労務費と製造経費を使ったとき
- 製品が完成したとき
ケース別に、仕訳例を確認していきましょう。
製造のため原材料を出庫したときの仕訳
製造工程に入るため、取引先から仕入れて保管していた原材料を倉庫から出す(出庫する)際に、「仕掛品」を計上します。菓子製造のため、15万円分の小麦粉を倉庫から出して製造に入る際の仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
仕掛品 | 150,000円 | 原材料 | 150,000円 | 菓子製造用に原材料の小麦粉を出庫 |
すでに資産(棚卸資産)に「原材料」を計上しているため、貸方で「原材料」15万円分を計上、借方で新たに「仕掛品」15万円分を計上しています。
製造に必要な労務費と製造経費を使ったときの仕訳
借方 | 貸方 | 備考 | ||
仕掛品 | 2,200,000円 | 労務費 | 1,850,000円 | 製造工程にかかる労務費および製造経費 |
製造経費 | 350,000円 |
労務費とは、人件費のうち製品を生産する際にかかった部分の費用を指します。また、製造経費とは、工場の光熱費のように原材料費や労務費以外で製造にかかる費用のことです。
貸方に労務費や製造経費を計上する分、両者を合計した金額(220万円)を「仕掛品」として借方に計上しています。
製品が完成したときの仕訳
製品が完成した段階で、これまで棚卸資産に計上していた「仕掛品」を「製品」に振り替えなければなりません。製造に180万円かけて製品が完成した場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
製品 | 1,800,000円 | 仕掛品 | 1,800,000円 | 製造完了に伴い、仕掛品から製品に振替 |
貸方に「仕掛品」を180万円分計上することによりこれまで仕掛品として計上していた額を減少させ、借方で「製品」を180万円分計上しています。
仕掛品の主な評価方法
仕掛品を含む棚卸資産の評価方法は、主に以下のとおりです。
- 平均法
- 先入先出法
- 後入先出法
平均法とは、製造工程に投入した時期を考慮せず、すべての仕掛品を合計して計算する方法です。計算はしやすいですが、月途中の原価を把握しにくいことを理解しておかなければなりません。
先入先出法とは、まず月初時点で残っていた仕掛品を完成させたうえで、新たに原材料を投入すると考える評価方法です。期末時点では、直近に購入した原材料が残っていることになります。
後入先出法とは、直近に投入した原材料を先に使って完成させると考える評価方法です。期末時点では、先に仕入れた原材料が残っていることになります。
なお、評価方法を変更する際には別途届出を提出しなければなりません。
仕掛品の管理に手間がかかる理由
仕掛品の管理には手間がかかります。主な理由は、以下のとおりです。
- 一般的に目視で確認しなければならない
- 保管場所を把握しにくい
それぞれ解説します。
一般的に目視で確認しなければならない
一般的に、目視による確認で管理している点が、仕掛品に手間がかかる理由です。
仕掛品は、未完成の状態で貼る面がなかったり、表面が不安定だったりして、バーコードやラベルのように目安になるものを付けられません。そのため、数え間違いなどの人的ミスが発生しやすくなるでしょう。
また、都度内容が更新されるため、紙やエクセルなどでの管理には限界があります。
保管場所を把握しにくい
保管場所を把握しにくいことも、仕掛品の管理に手間がかかる理由です。
たとえば、A〜C工程を経て完成する製品の場合、仕掛品はA工程・B工程・C工程のいずれでも発生しえます。そのため、現在の保管場所がどこにあるのかを把握しにくいです。
製造工程を社内で共有する仕組みができていない場合、仕掛品を把握するにあたって担当者が各工程をまわって直に確認しなければならないでしょう。結果として、余計な時間や費用がかかる可能性があります。
仕掛品がある場合に気をつけること
自社で仕掛品を計上する機会がある場合は、以下の点に気をつけましょう。
- 処理のタイミングに注意する
- 計上漏れがないようにする
各注意点について、詳しく解説します。
処理のタイミングに注意する
仕掛品がある場合は、処理のタイミングに注意しましょう。仕掛品を計上するタイミングが年度や担当者によって異なると、計算ミスにつながります。
タイミングのずれを防ぐ方法のひとつが、計上するタイミングについて社内ルールを設け、明確な基準を定めることです。ルールを決めておけば、人事異動があった際にも変わらず同じタイミングで会計処理できます。
計上漏れがないようにする
仕掛品の計上漏れや、二重計上がないようにすることも重要です。万が一誤りがあると、のちに税務調査などで指摘されて、ペナルティを課される可能性があります。
しかし、すでに説明したとおり仕掛品の管理には手間がかかるうえ、目視でミスも発生しやすいです。そこで、単独で作業をせず複数人でチェックできるような体制を整えることも検討しましょう。
また、仕掛品などの棚卸資産をシステムで管理することも、対策のひとつです。システムを活用すれば、スムーズに在庫を把握したり、管理の手間を省いたりできる可能性があります。
仕掛品まとめ
仕掛品とは、材料や労力を投入して製造過程にあるも、まだ完成していない製品に対して使う勘定科目です。どちらも棚卸資産で計上する勘定科目ですが、半製品がそのままの状態でも販売できるのに対し、仕掛品は製造過程の段階にあるもので、そのまま販売できない点が異なります。
仕掛品は、製造原価や税金の計算に用いるため、正しく管理しなければなりません。自社の仕掛品が過大であるかチェックし、問題がある場合は対策を講じることによりキャッシュフローを改善できる場合もあります。
仕掛品を計上するタイミングは決まっていません。ただし、ミスを防ぐために社内で統一したタイミングで実施することが大切です。
また、仕掛品はラベルやバーコードの貼り付けが難しく、管理に手間がかかったり、数え間違えたりする可能性があります。ミスをして税務調査などで指摘されることを防ぐため、システムの導入も検討しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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