建設仮勘定とは?仕訳方法、減価償却、消費税の取り扱い

2023.02.17

建設仮勘定

建設仮勘定は、建設中に発生する費用を計上する勘定科目です。建設仮勘定は日常業務では使用しないため、仕訳や税務上の処理など不明点が多いかもしれません。この記事では、建設仮勘定に計上できる固定資産の種類や仕訳方法、減価償却や税務上の取り扱いについて、分かりやすく解説します。

建設仮勘定に計上できるもの

建設仮勘定は、建設中の建物や設備など有形固定資産に対する支払いを計上する勘定科目です。ここでは、建設仮勘定に計上できる支払いや有形固定資産の種類について解説します。

建設仮勘定に計上するのは未完成な有形固定資産

建設仮勘定に計上できるものは未完成な有形固定資産です。 自社ビルや新規工場など有形固定資産を建設するためには、外部業者へ発注するときには手付金や中間金、自社で施工するときでも設計料や材料費など、完成前に費用の支払いが発生します。 そのような未完成の固定資産に関する支払いは、固定資産勘定に計上するのではなく建設仮勘定へ計上します。 建設仮勘定へ計上することで、有形固定資産の建設が完了したときに、一括して固定資産勘定への振り替えが可能です。

建設仮勘定に計上できる有形固定資産は7種類ある

建設仮勘定に計上できる有形固定資産は、大蔵省省令「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第22条の9で定められた7種類があります。 完成後に顧客へ引き渡すものは対象外で、自社で使用するもののみを計上します。

計上できるもの
建物(付属設備含む) 事務所や工場など
構築物 建物以外の塀や看板など
機械および装置(付属設備含む) 加工設備や自走式作業機械など
船舶(水上運搬具含む) 客船や漁船、貨物船など
車両その他陸上運搬具 自動車や鉄道など
工具や器具、備品 加工や販売、事務などに使用する道具
土地 経営上所有する敷地や用地

出典:e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

建設仮勘定は減損できるのか?

ここでは、建設中の有形固定資産である建設仮勘定の減損会計ができるのかについて解説します。

減損は固定資産の価値が下がったとき

減損会計とは所有する固定資産や株式などの資産価値が大幅に下がったときに行う処理です。 例として、建設当初は1億円だった工場でも、老朽化や需給バランスの変化によって収益性が低下すれば、見込んだ収益を確保できずに資産価値が低下します。 そのようなときは、現状の価値との乖離を避けるために、現在の資産価値に合うよう帳簿価額を見直します。 1億円だった工場が4,000万円の収益しか見込めないのであれば、差額の6,000万円を損失計上する処理が減損です。

建設中でも価値の大幅な低下があれば減損する

建設仮勘定に対する減損会計は、減損の事実が発生した段階で行う必要があります。 建設仮勘定は建設中の固定資産です。ただし、建設中に価値の大幅な低下があれば減損の対象として扱われます。 建設中に起こり得る資産価値の大幅な低下とは、建設スケジュール想定を遥かに超えた工事期間の延期や中止などです。 例として、工場建設が中止になれば、そこから見込んでいた利益を得られません。 そのようなときは、工場建設にかけた費用を回収できないことが予測されるため、減損損失を計上して帳簿価額を引き下げます。

建設仮勘定を固定資産に振り替えるタイミング

建設仮勘定は未完成の有形固定資産に対する支出を計上する科目です。 建設中の建物は、完成して使用できるようになったときに固定資産として扱われます。 そのため、建設が終われば、一時的に計上してあった建設仮勘定から固定資産科目へ振り替えます。 具体的には、建設中だった固定資産の工事が完成し、引き渡しを受けたときが振り替えのタイミングです。 自社で建設をしたときは、完成時に建設仮勘定から固定資産勘定へ振り替えます。

建設仮勘定は減価償却できるのか?

ここでは、建設中の有形固定資産である建設仮勘定が減価償却できるのかについて解説します。

減価償却の対象は時間の経過とともに価値が下がる資産

減価償却の対象は、建物や設備・機械、工具や備品などの固定資産で、時間の経過とともに資産価値が下がるものです。 固定資産でも土地や古美術品、歴史的価値や希少価値があるものなどは、時間の経過とともに資産価値が下がると考えられないため減価償却の対象外です。 減価償却は固定資産を取得した日ではなく、「事業の用に供したときから」つまり使用開始日から起算します。 例として、工場の建設工事をしたときは、工場が完成し引き渡しを受けた日ではなく、工場の稼働を始めた日が減価償却の起算日です。

建設仮勘定は減価償却の対象にならない

建設仮勘定は減価償却の対象外です。 減価償却は取得した固定資産の使用開始日を起算日として計上します。 建設仮勘定に計上されているものは、未完成で固定資産取得や使用開始に至る前の状態です。 建設中の建物が完成し引き渡しを受け、建設仮勘定から固定資産へ振り替えても、建物の使用を開始していなければ、減価償却起算日を迎えていないと見なされます。 建設中の建物が完成して引き渡しを受け、会計年度の途中から使用開始したときは、月割計算して減価償却に計上します。

建設仮勘定の仕訳方法と流れ

建設中の固定資産に対する支出を計上する建設仮勘定は、どのように仕訳するのでしょうか。 ここでは、建設仮勘定の仕訳方法と流れについて解説します。

建設費用を支払ったときは建設仮勘定へ計上する

自社ビルの建設が決まり、発注して費用が発生したときは、以下のように建設仮勘定へ計上します。

例:自社ビルを総工費10億円で発注、手付金1億円を当座預金から支払った。

借方 貸方
建設仮勘定 100,000,000円 当座預金 100,000,000円

発注金額の大きな工事では、手付金支払い後に中間金として建設に関連する費用の支払いが発生することもあります。 自社ビルが完成して引き渡しを受ける前に、追加の支払いが発生したときは、同じように建設仮勘定へ計上します。

完成引き渡しを受けたときは固定資産勘定へ振り替える

自社ビルが完成して引き渡しを受け、残額を支払ったときは、支払った金額を固定資産勘定へ計上します。 同時に、建設仮勘定に計上されていた手付金額を固定資産勘定へ振り替えます。

例:建物の引き渡しを受け、総工費10億円の内、残額9億円を当座預金から支払った

借方 貸方
建物 1,000,000,000円 当座預金 900,000,000円
建設仮勘定 100,000,000円

建設仮勘定で年度またぎはどう処理するのか?

規模の大きな建設工事では、工期が数年にわたることも考えられます。 ここでは、年度をまたいで建設仮勘定に計上したものは、どのように処理すればよいのかについて解説します。

完成引き渡し時点で全額を建設仮勘定から固定資産勘定へ振り替える

建設仮勘定の状態で工期が会計年度をまたいでも、完成して引き渡しを受けるまでは建設仮勘定に計上しておきます。

例:昨年度に工場新設を総工費2億円で発注、手付金2千万円を当座預金から支払った。

借方 貸方
建設仮勘定 20,000,000円 当座預金 20,000,000円

年度をまたいで工場が完成して引き渡しを受け、残額を支払ったときに、支払った金額を固定資産勘定へ計上します。 同時に、建設仮勘定に計上されていた手付金額を固定資産勘定へ振り替えます。

例:本年度、工場が完成して引き渡しを受けた。 総工費2億円の内、未払いだった残額1億8千万円を当座預金から支払った。

借方 貸方
建物 200,000,000円 当座預金 180,000,000円
建設仮勘定 20,000,000円

建設仮勘定でよくある質問

ここでは、税務上の取り扱いや英語表現など、建設仮勘定でよくある質問について解説します。

土地購入時は建設仮勘定で計上するのか?

建設仮勘定に計上できる有形固定資産として挙げられているものに土地があります。 土地を建設仮勘定へ計上するときはどのようなときでしょうか。 土地を購入するために手付金を支払ったときは建設仮勘定で計上します。

例:5億円の土地を契約、手付金5千万円を当座預金から支払った。

借方 貸方
建設仮勘定 50,000,000円 当座預金 50,000,000円

残額を決済して土地の引き渡しを受けたときは、建設仮勘定から固定資産勘定へ振り替えます。

例:残額を決済し、土地の引き渡しを受けた。 5億円の内、未払いだった残額4億5千万円を当座預金から支払った。

借方 貸方
建物 500,000,000円 当座預金 450,000,000円
建設仮勘定 50,000,000円

建設仮勘定に固定資産税がかかるのか?

建設仮勘定は固定資産税の対象外です。 固定資産税とは、所有する土地建物、飛行機や船、車両など固定資産に課税される地方税です。 土地や建物については、毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている固定資産に対して課税されます。 建設工事では、完成引き渡しで登記を申請し、建設仮勘定から固定資産勘定へ振り替えます。 建設仮勘定に計上されているものは未完成であるため登記されておらず、固定資産課税台帳に登録されていない状態です。 固定資産税は、登記が済み固定資産課税台帳に登録されてから課税されます。

建設仮勘定に償却資産税がかかるのか?

建設仮勘定は償却資産税の対象外です。 償却資産税とは、固定資産税で土地建物以外の償却資産に課税される地方税です。 固定資産税の内、土地建物に課税されるものと区別する実務上の通称として、償却資産税と呼ばれます。

償却資産税は、毎年1月1日時点の状況を償却資産申告書で申告した償却資産に課税されます。 固定資産の内、自動車税や軽自動車税の対象になるものは償却資産税の課税対象外です。

建設仮勘定の消費税はどう処理するのか?

建設仮勘定へ計上する支払であっても、物の引渡しや役務の提供があれば、課税仕入れとして消費税を支払っています。 課税事業者であれば、課税仕入れに対する消費税額は仕入税額控除します。 仕入税額控除は、支払日が属する課税期間に行うことが原則です。 ただし、建設工事は長期に及ぶことがあるため、完成引き渡しを受けた日が属する課税期間に一括処理する方法を選ぶことが認められています。

出典:国税庁「No.6483 建設仮勘定の仕入税額控除の時期

建設仮勘定のまとめ

建設仮勘定は、建設中の有形固定資産に対する支出を計上する勘定科目です。 建物や構築物、機械や船舶、車両などを含む7種類が、建設仮勘定に計上できます。年度をまたいで建設中の支出をまとめておけるため、自社ビルや工場、機械などの建設に総額でどの程度の費用が掛かっているかを、一目瞭然で確認できます。建設中の建物でも大幅に資産価値の低下があったときは減損できる一方、登記や使用開始がなされていないため、減価償却や固定資産税の対象としては扱われないことを覚えておきましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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