貸倒損失とは何?要件や具体的な仕訳方法についても解説

2023.07.13

貸倒損失

貸倒損失とは、倒産などの理由で売掛金や貸付金を回収できなくなることにより、発生する損失のことです。「回収不能」が確定している点が、貸倒引当金とは異なります。

本記事で、貸倒損失に該当する3要件や仕訳方法について確認していきましょう。

目次

貸倒損失とは?

貸倒損失とは、取引先が倒産するなどの理由で売掛金や貸付金などを回収できなくなることで発生する損失のことです。

要件を満たす場合は、「貸倒損失」として損金に算入できます。損金とは、法人税を計算する際の収益(益金)から引くことのできる費用のことです。

ここから貸倒損失の具体例や、貸倒引当金との違いを解説します。

貸倒損失の具体例

以下の金銭債権を回収できないときが、貸倒損失の具体例です。

  • 売掛金
  • 貸付金
  • 受取手形
  • 前渡金

「売掛金」とは、商品やサービスの代金を後払いで回収することです。「貸付金」は決められた期日の返済を条件に貸したお金を指します。

「受取手形」とは、商品やサービスを提供した際に、販売先から受け取る手形のことです。「前渡金」は商品や原材料などを購入する際、納品前に支払ったお金を指します。

なお、金銭債権を回収できなくなる主な理由は、取引先の負債合計額が資産合計額を上回る(債務超過)状態が長く続き資金繰りが困難になる、取引先が倒産するなどです。

貸倒引当金との違い

貸倒損失と同じく、売掛金の回収不能などに関連する用語として「貸倒引当金」があります。貸倒損失と貸倒引当金の主な違いは、「回収不能」がすでに確定しているか、それとも将来的に「回収不能」になる可能性があると判断したものかという点です。

貸倒損失は損失の確定額を計上するのに対し、貸倒引当金は将来損失になりうる金額をあらかじめ「引当金」として計上します。引当金とは、将来発生する損失のリスクに備えて、あらかじめ当期のうちに設定しておく見積額のことです。

貸倒損失に該当する3要件

「貸倒損失」の勘定科目で損金に算入するためには、以下いずれかの要件に該当しなければなりません。

  1. 法律上の貸倒れ
  2. 事実上の貸倒れ
  3. 形式上の貸倒れ

各要件を解説します。

1. 法律上の貸倒れ

法律上の貸倒れとは、会社法や民事再生法などの法律に基づき金銭債権が切り捨てられることです。以下の事実が発生した場合に貸倒損失として認められます(法令解釈通達9-6-1)。

  • 更生計画認可や再生計画認可の決定があった場合
  • 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合
  • 債務超過が相当期間継続し、該当する金銭債権を弁済できない債務者へ、書面で債権放棄の通知をした場合
  • 法令が規定する整理手続によらない協議において、関係者間で切り捨てる金額を決定した場合

それぞれ、損金として認められる額は異なります。

まず、更生計画認可や特別清算に係る協定の認可の決定などがあった場合、切り捨てられた金額が損金に算入できる額です。

また、債務超過の状態が継続して、金銭債権の弁済を受けられない場合は、債務者に対して書面で明らかにされた債権免除額分が認められます。債権免除とは、債権者が無償で債権を消滅させる行為のことです。

法令が規定する整理手続によらない協議で決定した場合も、切り捨てられた金額が損金として認められます。「法令の規定による整理手続によらない協議」とは、債権者集会の協議や、行政機関・金融機関などのあっせんで当事者間で締結する契約のことです。

なお、いずれも事実が生じた事業年度に損金として算入します。

2. 事実上の貸倒れ

事実上の貸倒れとは、債務者の資産状況や支払能力などを考慮し、金銭債権の全額回収ができないことが明らかになることです(法令解釈通達9-6-2)。回収できないことが明らかになった事業年度に、損金として算入します。

ただし、「全額」とされているため、一部でも回収できる場合は貸倒損失として計上できない点に注意しましょう。また、担保物がある場合は該当する物件を処分、保証債務の場合は現実的に履行するまで貸倒損失として認められません。

担保(物)とは、債務を履行しない場合に備えて、あらかじめ債務者に差し出させるものです。つまり、債務者から差し出された担保(不動産など)を処分して現金化してはじめて、貸倒損失として認められます。

保証債務とは、主債務者が債務を履行しない場合に保証人が代わりに責任を負う契約(債務)のことです。保証債務の場合、債務を弁済しない本来の債務者の代わりに保証人が弁済してはじめて、貸倒損失として認められます。

3. 形式上の貸倒れ

形式上の貸倒れとは、取引停止から一定期間経過して弁済がないことです。以下の事実が発生した場合に貸倒損失として認められます(法令解釈通達9-6-3)。

  • 債務者の資産状況や支払能力などが悪化したことを理由に継続的な取引を停止し、1年以上経過した場合
  • 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

それぞれ、1年以上経過したときや、催促しても弁済がないときの事業年度に貸倒損失として計上します。

「1年以上」とは、取引停止時と最後の弁済時などのうち最も遅い時期から換算します。また、「継続的な取引」が必要なため、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権は、ひとつ目のケースに該当しません。

さらに、形式上の貸倒れの場合、債権額から備忘価額を控除した残額を貸倒損失として損金処理する点がポイントです。備忘価額とは、貸倒れなどの理由で実質的な資産価額がゼロでも忘れないために名目的に1円などで計上した価額を指します。

備忘価額を考慮せずに処理してしまうと、全額損金として認められない点に注意しましょう。

参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
参考:国税庁「第6節 貸倒損失 第1款 金銭債権の貸倒れ」

貸倒損失を計上する際の仕訳(会計)処理方法

ここから、貸倒損失を計上する際の仕訳(会計)処理方法を、倒産した取引先に売掛金がある場合と、長期貸付金がある場合に分けて解説します。

倒産した取引先に売掛金がある

債務超過などの理由で、取引先への債権に対してあらかじめ貸倒引当金を計上していることがあるでしょう。そこで、貸倒引当金を計上していた場合と、計上していない場合に分けて倒産した取引先に売掛金がある場合の処理方法を解説します。

貸倒引当金を計上していた場合

取引先が倒産して、売掛金300万円が法律上消滅するケースを考えてみましょう。貸倒引当金を150万円で計上していたと仮定します。

借方 貸方
貸倒損失 3,000,000 売掛金 3,000,000
貸倒引当金 1,500,000 貸倒損失 1,500,000

まず、売掛金をなくすために、貸方に「売掛金」を記入します。次に、借方で「貸倒損失」を同額計上しましょう。

続いて、貸倒引当金を取り崩すため、「貸倒引当金」150万円を借方に記入します。最後に、回収不能の売掛金のうち、貸倒引当金を上回る額(150万円)を貸倒損失とするため、貸方「貸倒損失」150万円としましょう。

なお、発生した貸倒損失は、決算上「販売費および一般管理費」で処理します。

貸倒引当金を計上していない場合

貸倒引当金を計上していない場合は、よりシンプルに仕訳します。同じく取引先が倒産して、売掛金300万円が法律上消滅するケースの仕訳は以下のとおりです。

借方 貸方
貸倒損失 3,000,000 売掛金 3,000,000

売掛金全額を貸倒損失にするため、借方に「貸倒損失」300万円を計上しています。

倒産した取引先に長期貸付金がある

貸倒引当金を計上していない場合、倒産した取引先に長期貸付金(500万円)がある際の仕訳処理方法は以下のとおりです。

借方 貸方
貸倒損失 5,000,000 長期貸付金 5,000,000

長期貸付金をなくすために貸方「長期貸付金」500万円とし、同額を「貸倒損失」として借方に計上しましょう。長期貸付金は営業に関するものではないため、「貸倒損失」は「営業外費用」か「特別損失」で処理します。

貸倒損失は税務調査でもチェックされやすい

お金を使わず利益を圧縮して節税につながるため、貸倒損失は税務調査でチェックされやすい項目のひとつです。税務調査とは、国税庁が管轄する税務署などが、納税者が正しく税務申告を行っているかを確かめる調査を指します。

ここから、税務調査で確認される主な項目や、貸倒損失を証明するために必要な書類を確認していきましょう。

税務調査で確認される主な項目

一般的に、税務調査で確認される主な項目は、以下のとおりです。

  • 貸倒れの事実があるか
  • 貸倒れの要件に該当するか
  • 貸倒損失の計上時期は確かか

「貸倒損失」に該当するものが、事実で3要件いずれかに該当するものでなければなりません。また、各要件によって計上すべき時期が異なるため、適切なタイミングで処理しているかも確認されるでしょう。

税務調査では、関係書類から税法上適切に処理されているかをチェックされます。

貸倒損失を証明できる書類

貸倒損失を証明できる書類は、主に以下のとおりです。

  • 請求書や納品書
  • 相手の決算書
  • 債務者の支払い能力を調査した資料(信用調査会社のレポートなど)

そのほか、要件によって用意すべき資料もあります。たとえば、「法律上の貸倒れ」の場合、認可や協議などに基づく切捨額の決定書を用意しておきましょう。

また、「事実上の貸倒れ」や「形式上の貸倒れ」の場合、取引先から戻ってきた宛先不明郵便や督促の記録などを保存しておきます。内容証明郵便や催告書の写しなども、回収しようとした努力を証明する書類のひとつです。

「貸倒損失」として計上したにもかかわらず、税務調査で否定されることがないように、証明できる書類は必ず保存しておくようにしましょう。証明できる紙が残っていない場合は、経緯や事実をまとめておくことが大切です。

貸倒れを回避する策を講じることも大切

貸倒損失を計上しなくてすむように、あらかじめ貸倒れを回避する策を講じることが大切です。主な対策として、以下の点が挙げられます。

  • 回収期日の管理を徹底する
  • 取引先の情報収集につとめる
  • 支払いが滞ったら早めに対応する

貸倒れが発生すれば、自社の資金繰りにまで影響を及ぼすでしょう。貸倒引当金の計上でリスクの軽減は図れますが、回収不能になった金額が戻るわけではありません。

ここから、貸倒れを回避する策をそれぞれ解説します。

回収期日の管理を徹底する

貸倒れを回避するために、回収期日の管理を徹底しましょう。適切な経理処理や、取引の流れを理解しておくことが必要です。

たとえば、売掛金がある場合の管理の流れが以下のとおりです。

  1. 請求書を発行する
  2. 回収期日や振込方法を管理する
  3. 入金を確認する
  4. 取引先名と振込名義人、売掛金額と入金額の一致を確認して入金消し込みをする

管理には、エクセルなどの表計算ソフトを使います。会計システムや会計ソフトを利用すれば、よりスムーズに期日管理できるでしょう。

取引先の情報収集につとめる

取引先の情報収集につとめることも、貸倒れを回避するために大切です。取引開始にあたって、相手先に懸念がないか確認しておきましょう。

相手が上場会社の場合、公開されている財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)からある程度の財務内容を確認できます。規模の小さい会社の場合は財務諸表の入手が困難なため、信用会社の調査を依頼するとよいでしょう。

なお、取引開始後に財務体質や経営体質が変わることもあるため、定期的に情報収集につとめなければなりません。

支払いが滞ったら早めに対応する

取引先の支払いが滞ったら、早めに対応することも貸倒れを防ぐ対策のひとつです。

たとえ関係性から催促しにくかったとしても、期日を経過したら早めに連絡して確認しましょう。入金が遅れることが多い場合は、取引の見直しを検討することも必要です。

また、支払いが滞った状態が続いているときは、内容証明を発送しましょう。内容証明とは、いつ、どのような文書を誰が誰に差し出したかを、日本郵便が証明する制度です。

内容証明を発送しておけば、貸倒損失を計上する際にエビデンスとしての役割を果たします。

貸倒損失のまとめ

貸倒損失とは、取引先が倒産するなどの理由で売掛金や貸付金などを回収できなくなることで発生する損失です。損失の確定額を計上する点が、将来損失になりうる金額をあらかじめ計上する貸倒引当金と異なります。

税務調査で指摘されないように、必ず要件を満たしていることを確認した上で、貸倒損失を計上するようにしましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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