年末調整の仕訳~還付、徴収、納付時の会計処理~

2020.12.10

年末調整の仕訳

年末調整とは、1年間の給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額を計算し、それまで徴収した税額との過不足を求めて正しい年間の所得税を割り出す業務です。今回は、年末調整時の会計処理と翌年納付時の会計処理について解説します。

年末調整の仕訳

企業は毎月の給料の支払い時に従業員から天引きした源泉所得税を預かり、翌月10日までに税務署に納めなくてはなりません。そして年末になれば年末調整を実施し、毎月従業員から徴収した源泉所得税と確定した源泉所得税の差額を再計算して、従業員の給与に追徴もしくは還付します。

毎月の給与支払い時の源泉所得税を徴収する仕訳

毎月の給料支払い時に天引きされる源泉所得税の金額は、給与の額と扶養人数によって決まります。

例えば、ある従業員の8月の給与30万円から、社会保険料4万円、源泉所得税7千円、住民税2千円、雇用保険1千円を差し引き、差額の25万円を給料として従業員の口座に振り込んだ場合の仕訳は、以下の通りです。

従業員への給与振込時の仕訳

借方 貸方 摘要
給与 300,000円 預金 250,000円 8月給与
40,000円 8月社会保険料
7,000円 8月源泉所得税
2,000円 8月住民税
1,000円 8月雇用保険料

毎月の給与支払い時に徴収した源泉所得税を納付する仕訳

預かった源泉所得税は原則翌月10日までに納付します。ただし、常時雇用する従業員やパートの人数が10人未満の小規模の事業者の場合は、年に2回(7月10日と1月20日)まとめて納付する「源泉所得税の納期の特例」を選択できます。

源泉所得税の納付仕訳

借方 貸方 摘要
預り金 7,000円 預金 7,000 8月源泉所得税納付

今回は勘定科目を預り金としていますが、企業や会計システムによっては「社会保険料預り金」「所得税預り金」「前払保険料」としているところもあります。

年末調整時の仕訳①源泉所得税を多く徴収していて還付になる場合

1年を通じ従業員の給料や扶養の人数が増加した場合や、生命保険料控除の摘要を受けるなどの様々な理由により、天引きした源泉所得税の金額の方が年末調整で計算した所得税の年税額より多くなる場合には、従業員にその分を還付します。

例えば、8,000円を従業員から多く徴収しており、その金額を12月の給与振込み時に還付する場合の仕訳は以下の通りです。

12月の給与支払い時に還付する場合の仕訳

借方 貸方 摘要
給与 300,000円 預金 258,000円 12月給与
預り金 40,000円 12月社会保険料
預り金 7,000円 12月源泉所得税
預り金 2,000円 12月住民税
預り金 1,000円 12月雇用保険料
預り金 8,000円 年末調整還付金

実務では、12月の給与が確定した時点で年末調整をし、12月または1月の給与支給時に年末調整の還付をします。そのため、給料支給の仕訳に年末調整の還付を含めた会計処理をします。

年末調整時の仕訳②源泉所得税を少なく徴収していて追徴になる場合

年末調整で計算した所得税額が毎月の給料から天引きした源泉所得税の金額より多くなる場合は、従業員から不足額を徴収します。

例えば、源泉所得税が6,000円足りないことがわかり、12月の給与振込み時に不足分の徴収をする場合の仕訳は以下の通りです。

12月の給与支払い時に徴収する場合の仕訳

借方 貸方 摘要
給与 300,000円 預金 244,000円 12月給与
預り金 40,000円 12月社会保険料
預り金 7,000円 12月源泉所得税
預り金 2,000円 12月住民税
預り金 1,000円 12月雇用保険料
預り金 6,000円 年末調整不足額

還付の時と同様、12月または1月の給与支給時に年末調整の不足分を徴収します。

年末調整後の源泉所得税の納付と会計処理

年末調整の還付または徴収の処理が確定したら、納付書を作成し、原則翌年の1月10日までに納付します。納付書の書き方と納付時の仕訳をみていきましょう。

年末調整の還付徴収を含めた納付額がプラスの場合

納付書とは「所得税徴収高計算書」のことで、企業が源泉所得税を納付する際に使用します。年末調整での過不足額を反映した納付額がプラスの場合、その内容を記載して納付します。

例えば、複数の従業員に年末調整をし、還付になる従業員と徴収になる従業員がいる場合は、12月の給与と賞与の源泉所得税の額に合算して納付税額を求め、還付と徴収をそれぞれの欄に記載して納付書を作成します。 例として、従業員が5人の下記の例で納付書を作成する場合は、以下の通りです。

  • 12月の給与合計1,500,000円 (源泉所得税35,350円)
  • 12月の賞与合計2,500,000円 (源泉所得税135,000円)
  • 年末調整の還付60,000円
  • 年末調整の徴収20,000円
納付書1

国へ納付する時の仕訳

借方 貸方 摘要
預り金 130,350円 預金 130,350円 12月源泉所得税納付(年末調整を含む)

年末調整の還付徴収を含めた納付金額がマイナスの場合

年末調整での過不足額を反映した納付額がマイナスになる場合、0円の納付書を作成して税務署に提出します。

例えば、従業員が5人の下記の例で納付書を作成する場合は、以下の通りです。

  • 12月の給与合計1,500,000円(源泉所得税35,350円)
  • 12月の賞与合計2,500,000円(源泉所得税が135,000円)
  • 年末調整の還付200,000円

年末調整での過不足額と12月の給与と賞与の源泉所得税合計額の差額(この例であれば、200,000円と170,350円の差額の29,650円)を、納付書の左下に「年末調整還付未済額29,650円」と記載します。年末調整還付金未済額は繰り越し、翌月の源泉所得税の納付額から差し引いて納付します。なお、年末調整の還付が12月の源泉所得税を上回る場合は源 泉所得税の納付がないため、仕訳は必要ありません。

納付書2

まとめ

年末調整はタイトなスケジュールで進めなければならない場合が多く、大変な作業です。また、会計処理を間違えると、源泉所得税の納付漏れなどに繋がる可能性があります。専門家に確認するなどして、正しく処理することを心掛けましょう。

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