前受収益とは?仕訳方法や前受金との違いをわかりやすく解説

2023.08.18

前受収益

前受収益とは、ある契約にしたがって継続的にサービスなどを提供するにあたって、提供前に受け取った代金を処理するための勘定科目を指します。「継続的である」点が前受金との主な違いです。

前受収益とは何か説明してから、仕訳例について詳しく解説します。

目次

前受収益とは?

前受収益とは、ある契約にしたがって継続的にサービスなどを提供するにあたって、提供前に受け取った代金を処理するための勘定科目のことです。

決算日から1年以内に収益になるものが「前受収益」、1年超で収益になるものが「長期前受収益」です。前受収益は、基本的に流動負債に分類されます。

ここから、前受収益の例や、前受収益が出やすい業種などについて確認していきましょう。

前受収益の例

前受収益の具体例は、以下のとおりです。

  • 大家として、来月分の賃料を当月に受け取った場合
  • これから提供するサービスの手数料を事前に受け取った場合
  • 利息を受け取るも、まだ期限が到来していない場合

たとえば、サブスクリプションサービスを提供する会社が、サービス提供開始前に顧客から3万6千円の年間契約代金を口座振込で受け付けた場合に、以下のように仕訳します。

日付 借方 金額 貸方 金額 摘要
□月□日 預金 36,000円 売上 36,000円 年間契約〇〇様

決算時点ですでに3か月分のサービスを提供している場合の仕訳は、以下のとおりです。

日付 借方 金額 貸方 金額 摘要
△月△日 売上 9,000円 前受収益 9,000円 年間契約〇〇様

仕訳の詳しい流れや、翌期に繰り延べる際の処理については、後ほど詳しく説明します。

前受収益が出やすい業種

業種によって、前受収益が出やすい場合と出にくい場合があります。前受収益が出やすい業種は以下のとおりです。

  • 金融業
  • 不動産業
  • 保険業

顧客に融資して借入金に対する利息を受け取る金融業は、前受収益が出やすい業種のひとつに挙げられます。なぜなら、融資は商品によって利息前払いのことがあるためです。

また、家賃も前払いすることが一般的なため、賃料を受け取る不動産業も前受収益が出やすいでしょう。近年では、サブスクリプションサービスを提供する会社も前受収益がでやすいです。サブスクリプションとは、商品やサービスを一定期間利用するために、顧客が月単位や年単位で料金を支払う仕組みを指します。

長期前受収益は固定負債となる

前受収益は貸借対照表で「流動負債」に区分されるのに対し、長期前受収益は固定負債に分類されます。なぜなら、流動負債と固定負債を区分する際の基準(ワン・イヤー・ルール)が使われるためです。

ワン・イヤー・ルールとは、決算から1年以内に支払期限が到来するものを流動負債、1年を超えるものを固定負債とする決まりのことです。そもそも長期前受収益は期限までに1年を超えるものを指すため、固定負債に分類されます。

前受収益の財務諸表上の記載

前受収益は、財務諸表の記載内容が少し異なります。財務諸表とは、決算まで会社の一定期間の財政状況や経営成績をまとめた書類のことです。

中でも、以下の3つが財務諸表の中で重要な「財務3表」として知られています。

  • 貸借対照表
  • キャッシュフロー計算書
  • 損益計算書

ここから、財務3表における前受収益の記載内容を確認していきましょう。

貸借対照表

貸借対照表とは、対象となる会社の決算日時点の財務状況を示したものです。左側に会社が持っている「資産」、右側に会社が支払う義務のある「負債」や資産から負債を引いた「純資産」が記載されています。

前受収益を受け取るにあたって、貸借対照表で記載する項目は「資産」と「負債」です。顧客から事前に受け取った現預金が「資産(流動資産)」、まだ収益として認識していない前受収益を「負債(流動負債)」に計上します。

前受収益が収益であるにもかかわらず、資産ではなく負債に計上されるのは、サービス提供という義務が残っているためです。

キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書とは、対象となる会社の中で、お金がどのように動いたかを示したものです。キャッシュフロー計算書には、「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3種類が記載されています。

前受収益が影響を与えるのは、営業活動によるキャッシュフローの部分です。「前受収益の増減額」などとし、事前に顧客から受け取った金額(前受収益)を正の数で示します。なぜなら、キャッシュフロー計算書では、実際に会社に入ってきた金額が重要なためです。

損益計算書

損益計算書とは、収益から費用を引いた売上高や利益などを示す書類です。損益計算書に記載される利益には、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期利益」「当期利益」があります。

サービス提供前に前受収益を受け取った段階では、損益計算書に記載することはありません。なぜなら、サービスを提供するまでは、基本的に売上として認識されないためです。

ただし、契約の一部を履行し、収益勘定に振り替えた場合は、その金額が損益計算書の売上高の中に含まれます。

前受収益と似ている科目との違い

前受収益には、いくつか混同しやすい勘定科目が存在します。とくに混同しやすいのが、以下の2つです。

  • 前受金
  • 仮受金

前受収益とそれぞれの勘定科目との違いを解説します。

前受金との違い

前受金とは、商品を引き渡す前やサービスを提供する前に、代金をあらかじめ受け取ったときに用いる勘定科目です。商品やサービスの提供前に代金を受け取った際に使う点は、前受収益と共通しています。

前受金と前受収益の主な違いは、「継続的であるか否か」という点です。前受金は一度の提供に対して、前受収益は一定期間の提供に対して使われます。

前受金の具体例は、手付金や工事代金の前受けなどです。

仮受金との違い

仮受金とは、自社の口座に入金や送金があるも、使途などの内容が不明な際に一時的に使う勘定科目です。相手からお金を受け取った際に使う勘定科目である点は、前受収益と共通しています。

仮受金と前受収益の主な違いは、代金の内容が不明である点です。仮受金は入金理由が不明な場合などに使われるのに対し、前受収益は誰がなぜ入金したかがはっきりしています。

仮受金を計上する具体例は、自社に取引先から振込されるも、該当する請求書を発行した覚えがない場合です。

前受収益の仕訳方法

ここから、前受収益の仕訳方法を「入金時の仕訳」「決算時の仕訳」「翌期の仕訳」に分けて解説します。今回紹介するのは、月20万円の事務所家賃をあらかじめ半年分(120万円)受け取る例です。

入金時の仕訳

1月1日に賃貸している事務所の家賃の半年分を同日に受け取ったと仮定します。仕訳の例は以下のとおりです。

日付 借方 金額 貸方 金額 摘要
1月1日 現金 1,200,000円 受取家賃 1,200,000円 株式会社〇〇

120万円を現金で受け取った場合、左の借方に「現金」として記入します。また、右の貸方に前受収益として同額分(120万円)の記載が必要です。

決算時の仕訳

事例の会社が3月の決算(3月31日)と仮定します。決算時の仕訳例は以下のとおりです。

日付 借方 金額 貸方 金額 摘要
3月31日 受取家賃 600,000円 前受収益 600,000円 株式会社〇〇

入居してからすでに3か月経っているため、60万円(20万円 × 3か月分)を前受家賃として右の貸方に記載します。また、役務を提供した分は収益として計上できるため、左の借方に受取家賃の記載が必要です。

翌期の仕訳

決算時に計上した前受収益は、翌期首に再振替仕訳することが一般的です。決算時に仕訳した前受収益を戻すため、左の借方に計上しましょう。あわせて、受取家賃も右の貸方に計上します。

日付 借方 金額 貸方 金額 摘要
4月1日 前受収益 600,000円 受取家賃 600,000円 株式会社〇〇

なお、再振替仕訳は、決算時の仕訳のプラスとマイナスを入れ替えて元に戻す(反対仕訳)ことです。

前受収益まとめ

ある契約にしたがって継続的にサービスなどを提供する際、提供前に受け取った代金を処理するために前受収益という勘定科目を使います。一度の提供に使う前受金に対し、前受収益は一定期間にわたる商品やサービスの提供に使用する勘定科目です。

前受収益がある場合、貸借対照表では資産ではなく負債に計上します。なぜなら、前受収益を資産ではなく負債に計上する理由として、商品やサービスを提供する「義務」が残っているためです。

また、決算日から収益になるまでの期間が、1年以内か1年超であるかによって、貸借対照表上の扱いが異なる点に注意しましょう。1年以内の「前受収益」は流動負債、1年超の「長期前受収益」は固定負債に分類されます。

前受収益の特徴を理解した上で、財務や経理に関する業務を進めていきましょう。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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