ROA(総資産利益率)とは~計算式、目安、ROEとの違い~

更新日:2024年06月17日

ROAとは

ROA(総資産利益率:Return On Assets)とは、総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す指標です。企業の収益性を知る手がかりとして、主に財務分析の指標に用いられています。本記事では、ROAの概要をはじめ、計算方法や目安、ROEとの違いについて解説します。

目次

ROA(総資産利益率)は収益性の指標

ROAとは、Return On Assetsの頭文字をとった言葉で、「総資産利益率」を意味します。これまで事業に投資した資産が、効率よく収益に貢献できているかを測るための指標です。ここでいう総資産には、現金・店舗・在庫といった自己資本以外に、借入金などの他人資本(負債)も含まれます。

ROAの数値が高い企業は、資産をうまく活用できている企業であることを意味します。反対に、ROAの数値が低い企業は、資産の投資効率が悪いことを指しています。ROAの数値が低い場合には、経営を見直す必要があります。

ROA(総資産利益率)の計算方法

ROAの計算式は次の通りです。

◆ROAの計算式

ROA(%)=当期純利益 ÷ 総資産 × 100

損益計算書の区分において、利益は、売上総利益営業利益経常利益・税引前当期純利益・当期純利益の5つの種類がありますが、ROAの算出には当期純利益を用います。

総資産は、企業が運用するすべての資産を指します。返済義務の有無にかかわらず、現金・預金・投資信託・株式・不動産などを含んで算出します。

当期純利益の算出方法

当期純利益は、一会計期間(当期)の全ての収益から全ての費用を差し引いた利益のことです。当期純利益の計算式は、以下のとおりです。

◆当期純利益の計算式

当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税等 ± 法人税等調整額

算出した金額がプラスであれば当期純利益、マイナスであれば当期純損失になり、会社における純粋な利益の額を把握することが可能です。

総資産の算出方法

総資産とは、以下の3つの資産を合計した金額を指します。

①流動資産 現預金、売掛金、製品など短期間に現金化できる、もしくは現金化の予定がある資産
②固定資産 土地や運搬具、特許権など長期間にわたって所有する資産
繰延資産 開業費や開発費など、本来経費として処理される項目だが、一時的に資産として計上できる費用

総資産と混同されやすい用語として「純資産」がありますが、純資産とは「総資産から負債(他人資本)を除いた金額」のことを指します。

ROAとROEの違い

ROAと似ている指標に「ROE」があります。ROEは、Return On Equityの頭文字をとった言葉で、日本では「自己資本利益率」を意味します。他人資本は含めず、株主から募った自己資本を使ってどれだけ効率良く利益を上げられたかを測る指標です。株式投資の際に参考にされる指標にもなります。ROEの計算式は次の通りです。

◆ROEの計算式

ROE(%)=当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

ROAの場合、分母には自己資本と他人資本を合わせた総資産を用いますが、ROEの分母には他人資本は含みません。純資産のなかから、新株予約権分と少数株主持分を差し引いた「自己資本」のみが用いられます。企業を分析するうえで、ROEとROAのどちらを重要視するかではなく、総合的に判断して評価することが重要です。

ROAはROEよりも新しい指標

日本では、従来よりROEが重要視されていましたが、近年ではROAを用いた経営改善が推奨されています。日本政府は、成長戦略として『未来投資戦略2017』を2017年6月に公表しました。その中に盛り込まれたKPI(※)に関する項目に、ROAについての記載があります。

▼未来投資戦略2017(一部抜粋)

大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す。

引用:「未来投資戦略2017

日本政府が従来より重視してきたROEではなく、ROAをKPIに選んだ理由のひとつとして、「資本を調整してROEを上昇させる」企業が目立つようになったことが挙げられます。

ROEは、「当期純利益 ÷ 自己資本」で算出するため、分母部分の自己資本を減らせば、分子部分の当期純利益を増やすことなく、ROEの数値を上昇させることが可能です。例えば、借り入れた資金で自社株を購入すれば自己資本は減少し、表向きにはROEが改善されたように見えます。

ROAではこのような資本の調整がROEに比べて難しく、数値を上昇させるためには利益を向上させなればなりません。このように、企業における根本的な収益性を高めるためにも、ROEだけでなくROAの改善に目を向ける必要があります。

※KPI…重要業績評価指標。企業が目標達成に向かっているかを測る業績評価に利用される重要な指標。

ROAの目安は5%

ROAの目安は業種によって異なりますが、一般的には「10%を越えれば優良」「5%程度であれば良好」「2%未満であれば普通」とされています。ROAが毎年1%を切るようであれば、経営の見直しが必要です。

ただし、ROAは業界全体の景気や社会情勢などさまざまな要因で変化するため、低い数値だからといって、経営にすべての原因があるとは限りません。

では、世界から見て、日本企業の平均ROAはどの程度なのでしょうか。下記は日本と米国、欧州のROAを2015年〜2019年まで比較した表です。

▼日本・米国・欧州における平均ROAの比較

日本 米国 欧州
2015年 3.2% 5.3% 3.5%
2016年 3.6% 5.6% 3.9%
2017年 4.3% 5.9% 6.4%
2018年 3.9% 6.5% 5.7%
2019年 2.6% 6.3% 4.4%

引用:経済産業省『事務局説明資料

日本企業の平均ROAは、2008年の世界金融危機(リーマンショック)以降、上昇傾向にあります。とはいえ、欧米の上場企業に比べれば低水準です。特に2019年は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてROAが急落している状況のため、今後の動向に注視していく必要があります。

ROAは業界によって異なる

業種ごとのROAの平均値は、以下のようになっています。

▼業種別のROA平均値(2020年3月31日時点)

ROA
鉱業、採石業、砂利採取業 -7.3
製造業 3.4
電気・ガス業 0.8
情報通信業 6.1
卸売業 3.4
小売業 2.6
クレジットカード業、割賦金融業 0.8
物品賃貸業 1
学術研究、専門・技術サービス業 3.7
飲食サービス業 -4.9
生活関連サービス業、娯楽業 -4.6

データ引用:経済産業省『2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-

設備投資費や施設の維持費、人件費が他の企業に比べて高い採掘業や飲食業、娯楽業については、総じてROAが低い傾向にあります。一方、製造設備・在庫・人件費などを低く抑えられる「情報通信業」のROAは高い傾向にあります。

このように、業種ごとに目安となるROAの数値は異なります。そのため、異なる業種のROAを比較して、優位性を調べるような使い方は適切ではありません。ROAを用いて収益性を測る際は、同じ業種の数値を指標とすることが重要です。

ROAの数値を高くする方法

ROAの数値を改善するには、「売上高利益率を上げる」「資産回転率を上げる」といった2つの方法があります。ここでは、その2つの方法について詳しく解説します。

売上高利益率を上げる(収益性を高める)

ROAを改善する手段のひとつとして、売上高利益率を上げる方法があります。売上高利益率とは、売上に占める利益の割合のことを指します。売上高利益率を高めることによって、ROAの数値を改善できます。売上高利益率の計算式は、以下の通りです。売上高営業利益率を例に説明します。

◆売上高利益率の計算式

売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

営業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額です。売上総利益と営業利益を上げて、収益性を高めることで、売上高利益率を向上できます。

収益性を高める手段には、以下の方法が挙げられます。

  • 売上数の多い商品を中心に販売して、売れない商品の販売を止める
  • 商品の付加価値を高めて、価格に反映させる
  • 費用の安い宣伝媒体を利用して、広告宣伝費を下げる
  • 販売数を増やして、売上原価を下げる

ROAを改善させるためには、売上を伸ばして経費を削減する経営努力が欠かせません。

資産回転率を上げる(効率性を上げる)

ROAの数値を改善するために、資産回転率を上げる方法があります。資産回転率とは、総資産が効率よく利益に活用されたかを判断する指標です。資産回転率の計算式は、以下のとおりです。

◆資産回転率の計算式

資産回転率(回)= 売上高 ÷ 総資産

資産回転率の単位は「回」です。同じ売上高でも、投資額(総資産)が小さければ回転率は高くなります。回転率が高いほど、効率良く総資産を運用できていることが分かります。資産回転率を上げるためには、売上高を増やす、あるいは総資産を減らすことが必要です。

総資産を減らす方法には、以下が考えられます。

  • 長い間利用していない保養所や手付かずの土地を処分する
  • 回収困難と思われる債権を整理し、貸倒損失として処理する

このように、不動産や債権など、総資産に大きく影響する資産を見直すことがROAの改善につながります。

参考)総資産回転率とは

ROAが高い企業の実例

ROAの数値が高いとは、効率よく資産を回して、高い収益を得ていることを意味します。実際にROAが高い企業を調べることで、経営上の共通点や傾向が見えてくるかもしれません。以下の表では、ROAが高い企業の上位5社をまとめました

業種 ROA
ホープ サービス業 215.06%
ロイヤルホテル サービス業 41.47%
バンク・オブ・イノベーション 情報・通信業 40.69%
ドリームインキュベータ サービス業 36.90%
ANYCOLOR 情報・通信業 36.26%

※2024年2月27日時点

引用:みんかぶ『ROAランキング【株式ランキング】 - みんかぶ(旧みんなの株式)

この表をみると、ROAが高い企業の3位と5位は「情報・通信業」が占めています。情報・通信業は、他の業種に比べて設備や倉庫など、資産を所有する負担が少なくすみます。さらに、情報・プラットフォームといった商材は、実物の製品に比べて模倣しにくく、市場における優位性を確保しやすいため、ROAが高い傾向にあります。

ROAが低くても悪いとは言い切れない

ROAは経営分析に用いられる指標のひとつですが、これだけで企業の経営状態を測ることはできません。より正確な経営状態を知るためには、ほかの指標や今後の経営計画と組み合わせて判断することが重要です。

例えば、以下のような理由でROAが低い企業については、今後数値が大きく上昇する可能性があります。

  • 新しい事業を立ち上げるために多額の融資を受けた
  • 表に出ていない開発中の技術がある

具体的な事例として、大手自動車メーカーのテスラモーターズは、2017年末のROAが-6.84%でしたが、2021年末には8.88%まで上昇しています。その要因として、環境問題が取り上げられたことによる「EV自動車の拡大」、米国や欧州の「CO2の排出権取引」の導入が挙げられます。

このように、EVの開発費として多くの資金投入を行ったことで、当初はROAの数値が低くなりましたが、開発を続けた結果、企業価値が大きく向上してROAの上昇につながりました。

ROAが高くても優良とは言い切れない

これまで、ROAが高い企業は、「総資産を効率よく活用できており、収益に貢献している企業である」と説明しました。しかし、ROAの数値が高くても、優良であるとは言えない企業も存在します。例えば、以下のような企業は、経営に少なからず問題を抱えているといえます。

  • 当期純利益に比べて経常利益や営業利益が少ない
  • 利益は出ているが、負債の比率が大きい

ひとつ目は、企業の所有している土地や建物を売却して総資産を小さくして、特別利益として計上することで、ROAの数値を上げているケースです。本業で赤字を出しているにもかかわらず、固定資産を売ることで資金を確保しているため、将来的に経営が回復する見込みは少ないといえます。

ふたつ目は、高い利益を上げていても、借入金や買掛金、未払金に充てる金額が多くなっているケースです。負債の返済が多い企業は、営業努力や製品開発などで利益向上につなげていないことが分かります。

どちらも、本業で十分な利益を上げていないという共通点があります。ROAの数値だけで判断せず、「なぜROAが高いのか」といった点に注目することも重要です。

ROAは経営の改善点を見つけるヒントになる

ROAは、企業の総資産を活用して、いかに利益を生み出しているかを把握するための指標です。ROAの数値が高ければ、資産をうまく活用できている収益性の高い企業と判断できます。ただし、業種によってROAの目安となる数値が異なるほか、営業利益ではなく負債の比率や初期投資がROAの数値に影響を与えている可能性もあります。ROAを活用する際は、数値だけに着目するのではなく、その要因についても分析することが重要です。ROAが低くなっている課題を見つけて、経営改善につなげましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
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所属団体 一般社団法人Fintech協会
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