経常利益とは~計算方法、分析、活用について解説~

更新日:2023年01月09日

経常利益とは

経常利益とは、その企業が事業で得た利益です。経常利益は1年間の経営で得られた利益を表すため、その会社の経営状況を知るための指標になります。利益には、経常利益の他にも複数の種類に分かれており、それぞれ内容が異なります。本記事では、会社経営によって生まれる利益の種類と経常利益の計算方法について解説します。さらに、経常利益の分析・活用方法や利益率上昇につながるポイントを、わかりやすく紹介します。

経常利益の計算方法

経常利益の求め方について解説します。計算式は以下の通りです。

経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用

経常利益の構成要素

経常利益を算出するためには以下の2つの項目を考慮する必要があります。それぞれの内訳については、以下で解説します。

  • 営業外収益
  • 営業外費用

営業外収益の主な内訳

営業外収益とは、企業が本業以外で得た収益を指します。例えば、本業が販売業である会社が不動産の家賃収入や、株の取引で得た収益を指します。 その他にも、以下のような項目が当てはまります。

  • 受取利息・受取配当金
  • 売買目的の有価証券売却益
  • 為替差益
  • 雑収入

本業の売上高として計上しなければいけない項目を営業外収益として計上すると、本業の収益が少ないと把握されます。そのため、損益計算書に記載する際は、その内容と項目を確認して計算しなければなりません。

営業外費用の主な内訳

営業外費用とは、本業以外で営業活動でかかった費用を指します。例えば、以下の項目が当てはまります。

  • 売上債権売却損
  • 社債利息
  • 有価証券売却損
  • 借入金の支払利息

これらの費用は、企業によって分類方法が異なる項目です。例えば、銀行業は支払い利息が本業であるため、通常の経費として扱われます。このように企業に合わせて、どの項目が営業外費用として計上できるかを見極める必要があります。

経常利益を実際に計算

実際の会社ではどのような計算式になるか、2つのパターンを想定して計算してみましょう。営業利益が黒字の会社と赤字の会社を比べます。理解しやすくするために単純化して計算していますので、ご了承ください。

A社:営業利益が黒字の会社

  • 営業利益:600万円
  • 営業外収益:100万円
  • 営業外費用:300万円
  • 経常利益:400万円(600万円 + 100万円 - 300万円)

B社:営業利益が赤字の会社

  • 営業利益(営業損失):▲100万円
  • 営業外収益:600万円
  • 営業外費用:100万円
  • 経常利益:400万円(-100万円 + 600万円 - 100万円)

すぐに分かるとおり、A社とB社の経常利益の金額は同じです。しかし、その内訳は大きく異なります。A社は、本業の利益(営業利益)で十分に黒字を出しています。一方、B社は営業損失を出しており、それを営業外収益で補って経常利益を黒字にしています。営業利益に損失が出ている会社の経常利益計算です。本業の事業で損失が出ている状況です。しかし、営業外収益で本業の損失を上回る利益が出ているため、経常利益は黒字と判断されます。本業の経営状況が悪かったとしても、経常利益にはこのように表示されることがあります。A社とB社を比べてみて、会社の状況のどちらが良いかは一目瞭然です。

経常利益で分析できること

経常利益は、毎年の損益計算書に記載されます。その経常利益を見て分析できる内容について解説します。経常利益は企業が本業としている事業だけではなく、本業以外の収入があったときにその利益も含みます。そのため、経常利益から企業の経営状態を分析できます。

経常利益には、会社が通常の活動で得られる利益が含まれます。そのため、企業全体で利益を生み出す力があるかどうかが確認できる項目です。当期純利益には、特別利益や特別損失によって、その年のみに発生した損益を含んでいる可能性があります。そのため、この項目だけでは、企業が事業で利益を上げられる力があるかどうかを判断できません。企業の経営状況を知るためには、経常利益を分析してください。

経常利益を分析する3つのポイント

経常利益を分析する際のポイントは3つです。それぞれについては下記で詳しく解説します。

  1. 自社の分析
  2. 幅広い年数での分析
  3. 他社との比較

1.自社の分析

損益計算書の経常利益欄をみて、自社の分析をすることはとても大切です。まずは、損益計算書全体や経常利益から、会社の大まかな経営状態を把握します。つぎに、当期純利益や売上の利益率を確認し、経営状況を分析します。経常利益を売上高で割った値は、売上高経常利益率を表します。これは、営業利益以外の収益内容も含んだ会社の経営状態が掴める値です。このように経常利益を分析することは、会社の現状把握に役立ちます。

2.幅広い年数での比較

経常利益を分析する際、幅広い年数のデータを比較する必要があります。新事業の発足や営業外収益の増減によって、経常利益は大幅に変化する可能性があるためです。特に、長期計画の事業や新製品の販売に取り組んでいる場合、短期間のデータだけで判断すると、判断材料としては不十分です。その事業が上向き傾向であれば、数年分のデータを分析し、収益性を見込んだ判断が必要です。会社の変革に合わせた分析ができるように、過去のデータを活用することをおすすめします。

3.他社との比較

経常利益は、他社との比較にも役立つ情報です。同じ業種を営んでいる企業や、上場企業の決算と自社データを比較する方法がおすすめです。競合企業の状況と比較すると、自社の現状や課題点を客観的に分析できます。それにより、明確な目標設定や費用設定が可能で、次年度の経営に生かせます。さらに、社員へのモチベーション維持にもつながります。自社と業種や業務内容が類似する会社と比較すると、より細かい分析が可能です。

経常利益の活用方法

経常利益の活用方法は、主に3つあります。

  • 社内外へのアピール
  • 賞与原資の指標
  • 次年度の経営成績予測

それぞれの活用方法について詳しく解説します。

社内外へのアピール

経常利益を発表することは、社内外へのアピールにつながります。社外に対して会社の経営がうまくいっていることを報告でき、今後の資金援助や事業拡大の手助けにつながる可能性があります。また、社内に対しては、事業がうまくいっていることで、社員のモチベーション維持や意識づけの役割を果たします。しかしながら、本業以外の利益で経常利益を賄っている場合、社員へのモチベーション維持にはつながらないという側面もあります。

賞与原資の指標

賞与原資の決定方法は、企業によってさまざまです。日本経済連合会の調査では、以下のように表記されています。業績連動の基準とする指標(複数回答)としては、「営業利益」(60.2%) が最も多く、次いで「経常利益」(34.3%)となっています。引用:日本経済連合会「2021 年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要」

会社全体の利益を計上するため、社員は会社の経営状況から賞与内容を判断できます。しかし、本業が傾いており副業で補っている可能性があるため、納得性に欠ける一面もある判断材料です。

次年度の経営成績予測

その年の経常利益を分析すると、次年度の成績予測に活かせます。経常利益には、その年のみに限定的に影響する特別利益・特別損失は含まれません。会社が本業・副業で継続的に出した支出が反映されます。また、他の利益は種類によって税金や特別損益が含まれるため、事業の成績を表すには情報が不十分だといえます。そのため、事業の経営力を判断するには、経常利益の分析が欠かせません。

経常利益率を上げる施策

経常利益率とは、売上高に対して経常利益がどの程度あるかの割合を示します。

♢経常利益率の算出方法

売上高経常利益率 = 経常利益 ÷売上高 × 100

経常利益率は本業以外の利益や費用も含まれているため、本業に限定した利益率を求める計算式ではありません。会社の経営状況を知るための手段として使われる数値です。経常利益率を上げるための施策を紹介します。

売上高の増加

売上高を伸ばす方法は、多くの会社が取り組んでいる施策です。販売業であれば、製品の単価は上げず顧客数を増やすことで販売数を伸ばせば、売上高が上がります。そのためには、顧客数を増やす方法や、販売数を伸ばす方法を考え実践しなければなりません。製品の単価を上げると顧客離れが起こる可能性があるため、広告費や製造数を増やし利益を生み出す方法を模索しましょう。

営業外収益の増加

本業以外の収益である営業外収益を増やす方法です。営業外収益に当てはまる項目は、以下のようにいくつか挙げられます。自社で対応可能な項目を探し、収入を増やすことをおすすめします。

  • 有価証券評価益
  • 不動産賃貸料
  • 為替差益

営業外収益を増やす上で気をつけるポイントは、本業の売上高に含まれる項目を営業外利益として計上しないことです。本業の売上として計上できる収益を営業外収益で計上すると、営業利益が低下してしまいます。そのため、計上する際にはどの項目に当てはまる収益かを確認しておきましょう。

売上原価の削減

商品の原価を下げて、粗利益を増やす方法です。具体的な原価を下げる方法は、以下の通りです。

  • 外注していた部品の内製化
  • 仕入単価・外注単価の交渉
  • 技術力の向上

原価を下げることで、利益が上がります。しかし、顧客離れを防ぐためには、商品の品質維持や技術の向上が欠かせません。さらに、事業の現状を把握して、もし仕入過多であればその項目を削減しましょう。

販管費の削減

販管費とは、販売費や一般管理費の総称です。営業利益を算出するとき、売上総利益より差し引かれます。この販管費を削減することも、利益を上げる方法のひとつです。販管費は商品を販売するために必要な項目であり、一般管理費は企業運営のために必要な項目です。そのため、販管費・一般管理費から削れる主な項目は以下の通りです。業務に支障が出ない範囲で削減可能な項目を探すことをおすすめします。

  • 代理店へ支払う販売手数料の交渉
  • 配送料の削減
  • 広告費用の削減
  • 社内消耗品費の削減
  • 社内の水道光熱費を節約

営業外費用の削減

営業外費用は、企業の本業以外で出る費用です。主な営業外費用は、以下のとおりです。営業外費用に該当する項目は、業種によって異なります。自社で削減できる項目を検討しましょう。

  • 支払利息
  • 売上割引
  • 支払手数料

損益計算書に記載される5つの利益

損益計算書とは、会社の決算時に作成される書類です。 事業で得られた利益から経費を差し引いて、残った利益を確認するための書類です。この損益計算書から分かる利益は、5種類あります。それぞれについて、詳しく解説します。

1.経常利益

経常利益とは、企業が運用している事業全体で得られた利益です。複数の事業を展開している会社は、すべての事業利益がその対象に含まれます。 企業全体の利益が把握できるため、経営状態の指標として活用されています。経常利益を算出するために必要な項目は、以下の3つです。

  • 営業利益…企業が本業で得た利益
  • 営業外収益…本業以外で得た収益
  • 営業外費用…本業以外の費用又は金融費用

この3つの数値を計算することで、経常利益が分かります。

売上総利益

売上総利益は、その事業で得た売上高から売上原価を差し引いた金額です。売上原価は、販売業であれば商品の原価を指し、製造業であれば製造原価(人件費を含む)を意味し、それぞれ売上高から差し引かれます。人件費が売上原価に含まれる業種は、製造業のみです。小売・販売業では販売費に分類されるため、売上総利益にも、人件費が含まれます。売上総利益は粗利とも呼ばれており、事業の大まかな利益を確認できます。

営業利益

営業利益は、企業が本業で得た利益です。営業利益を算出するためには、売上総利益・販売費・一般管理費の項目が必要です。販売費とは、その商品を販売するために必要な広告費や通信費、販売促進費が当てはまります。一般管理費とは、会社を運営するために必要な経費です。例えば、社員の給与・会社の光熱費・事務所の家賃代が挙げられます。営業利益とは、本業から得た利益のことを指すため、本業以外の事業から得た利益は含まれません。

税引前当期純利益

税引前当期純利益とは、税引前利益と呼ばれ、会社にかかる税金を差し引く前の利益です。経常利益と特別利益を合算し、特別損失を引くと計算できます。特別利益とは、臨時に発生した利益です。例えば、固定資産の売却や株式・証券の売却が当てはまります。特別損失とは、事業の内容には関係なく発生した損失を指します。自然災害の被害や火災・盗難が当てはまります。納税前の利益額が算出されるため、企業の利益実態を把握できます。特別利益・損失があることで、年度によっては金額が大幅に変動する可能性があります。

当期純利益

当期純利益とは、その会社が1年間で得た純粋な利益です。税引前当期純利益から税金を引き、調整額があれば足し引きして算出されます。納税義務のある企業では、法人税・事業税・住民税などを税引前当期純利益から税金として引きます。この当期純利益がマイナスであると、赤字と呼ばれる状態を表します。事業で利益が十分に出ていたとしても、特別損失によって一時的に損失が利益を上回る可能性はあります。企業が1年でどの程度成長できているかが分かる重要な項目です。

経常利益のまとめ

経常利益は、会社の経営状態や利益を把握するために必要不可欠な指標です。決算は記録として残すだけではなく、企業分析を行うためにも活用しましょう。分析により、自社の現状や今後の目標が明確になります。また、経常利益を算出するためには、他の利益についても理解を深める必要があります。それぞれの利益が示す内容や含まれる項目を知れば、より詳細な企業分析へと役立てられます。経常利益により会社全体の利益を把握し、利益を上げる施策を講じることに役立てましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

無料の会計ソフト「フリーウェイ」

このエントリーをはてなブックマークに追加