ROE(自己資本利益率)とは~計算式、目安、ROAとの違いについて解説~

更新日:2024年03月04日

ROEとは

ROE(自己資本利益率)は、企業の経営効率を知る手がかりとなる指標の一つです。株式を発行する企業のROE(自己資本利益率)は、株価に影響を与えることもあるため、投資家にとって重要な指標です。今回は、ROE(自己資本利益率)から分かることや、算出するための計算式、数値を見る際に知っておきたい注意点について解説します。

目次

ROE(自己資本利益率)とは

ROE(自己資本利益率)とは、Return On Equityの頭文字をとった言葉で、自己資本利益率あるいは株主資本利益率を意味します。企業の収益率を知る財務指標の一つで、投資に値するかを判断する際に重要な項目です。そのため、ROE(自己資本利益率)の高低が、株価を左右する場合があり、経営にも影響を与える可能性もあります。

ROE(自己資本利益率)は、「投資家が投資した資本に対して、企業がどれくらいの利益が生み出せるか」を示す財務指標です。「その企業の株に投資すると、どれだけ効率よく利益が得られるか」と言い換えられるため、投資を考える際に目安として確認しておきたい指標です。一般的には、ROE(自己資本利益率)が高いと自己資本をうまく運用できている「経営効率が良い企業」、低いと「経営効率が悪い可能性のある企業」と考えられています。

ROE(自己資本利益率)の計算方法

ROE(自己資本利益率)の計算式は次の通りです。

◆ROE(自己資本利益率)(%)=当期純利益÷自己資本×100

当期純利益とは、一事業年度のすべての収益から費用や税金などの必要な支払いを差し引き、最終的に残る利益です。最終利益とも呼ばれます。また、自己資本(純資産-新株予約権分-少数株主持分)は、返済する必要がない資金を指します。

参考)当期純利益とは

参考)純資産とは

さらに、次の計算式のように項目を分解して表すこともできます。

◆ROE(自己資本利益率)(%)=売上利益率×総資産回転率×財務レバレッジ×100

上記の計算式に用いた各項目の詳細は、以下の通りです。

  • 売上利益率《売上総利益÷売上高》…総利益が売上高の何割かを表す割合。
  • 総資産回転率《売上高÷総資産》…総資産をどれほど効率的に売上に活用できたかを表す割合。
  • 財務レバレッジ《総資産÷自己資本》…負債を活用した総資産は自己資本の何倍かを表す数値。

参考)財務レバレッジとは

参考)総資産回転率とは

参考)売上高営業利益率とは

ROE(自己資本利益率)の数値の目安

ROE(自己資本利益率)の単位はパーセント(%)であり、一般的に10%を超えると良い企業だとされています。また、10%を超えると投資の価値があると考えられます。しかし、日本では5%程度の企業も多いため、5〜10%程度でも投資する価値が無いとは言い切れません。数値は決め手ではなく、あくまで目安として把握し、判断材料の一つと考えましょう。

ROE(自己資本利益率)が高くなる要因

ROE(自己資本利益率)が高くなる要因はさまざまです。どのような場合にROE(自己資本利益率)が高まるかを知ると、企業の財務状況や経営方針などがより深く理解できるようになり、今後の価値を予測する手がかりを得ることにつながります。ROE(自己資本利益率)を数値として捉える段階から一歩踏み込み、数値の変動の理由を考えることは、企業の投資価値を見極める上でとても有効です。それでは、ROE(自己資本利益率)が高まる主な要因を見てみましょう。

利益の増加

ROE(自己資本利益率)の計算式《当期純利益÷自己資本×100》にある当期純利益は、「一事業年度のすべて収益から、費用や税金などの必要なすべての支払いを差し引き最終的に残る利益」です。つまり、収益を増やすか支払いを減らすことにより、当期純利益は大きくなり、ROE(自己資本利益率)の数値も大きくなります。

ROE(自己資本利益率)が高まる最も理想的な条件は、収益の増加です。事業の成長や、新規事業の成功、企業の買収(M&A)による事業規模の拡大などにより、収益が増加するとROE(自己資本利益率)は上昇します。また、コスト削減で支払いが減ることにより収益が増加し、ROE(自己資本利益率)が高まる場合もありますが、コスト削減には限界があるため、持続は難しいと考えられます。

参考)M&Aとは

参考)事業譲渡とは

自己資本の減少

ROE(自己資本利益率)の計算式にある当期純利益に対し、もう片方の項目、自己資本の値の縮小もROE(自己資本利益率)の数値を大きくします。

自己資本とは、銀行など他社からの借り入れではなく、企業が自社で出資者などから集めた資本で、返済する必要がない資本です。自己資本の計算式は、《純資産-新株予約権分-少数株主持分》です。

新株予約権とは、多くは一般より安い価格で株を入手でき、行使により企業に新株を発行させる権利で、少数株主持分は親会社に対し低い割合の議決権を持つ子会社の株主が所有する株式を表します。

自己資本を減少させる主な要因は以下の通りです。

配当

配当を増やしたり、配当を開始したりする場合の資金は自己資本から支払われます。投資家には好印象を与えるため、その結果企業の評価を高める可能性もあります。

自社株の購入

過去に発行した市場で取引されている自社の株を、自社の資金で買い戻すことを自社株買いと呼び、買い戻すための資金は自己資本から支出されます。市場に出回る自社株の数を減らすため、一株あたりの価値を高める効果があります。

設備投資

設備投資などの支出も自己資本から支払われます。過度な設備投資は経営に悪影響を与える可能性がありますが、必要な設備投資は事業の成長に繋がる可能性もあります。

ROE(自己資本利益率)が低くなる要因

一般的に、ROE(自己資本利益率)が高い場合は「効率的に資金を運用し、利益を生み出す良い企業」、低い場合は「経営効率が悪い企業」と考えられています。ですが、理由によってはその限りではありません。ROE(自己資本利益率)が低下する主な要因を見てみましょう。

利益の減少

当期純利益が減少すると、分子の部分が減少するため、ROE(自己資本利益率)は低下します。当期純利益が減少する主な原因は、主に二つあります。

一つ目は、事業不振などの原因で売上が減少し、さらに必要な経費削減がうまく進まないなどの状況が重なり、収益が減少する場合です。これは、企業の事業内容にもよりますが、競合他社の出現による顧客の分散や流行の終わり、新規事業の不振など懸念材料を抱えた場合に起こりやすくなります。

二つ目は、必要経費が増加し、その結果利として益が減少する場合です。売上が増加していないにもかかわらず、原材料費や人件費、輸送費など必要経費が上昇するなどの要因のほか、事業拡大のための人材増員や育成、研究や開発などへの先行投資など、将来の増収に結びつく可能性のある積極的な要因もあります。

参考)人件費とは

参考)経費とは

自己資本の増加

自己資本が増加すると、分母の部分が増加するため、ROE(自己資本利益率)は低下します。自己資本が増加する主な原因は、主に二つあります。

一つ目は、内部留保の増加です。内部留保とは、配当されず積み上がった過去の利益です。内部留保が増加すれば、自己資本も増加します。

二つ目は、企業の資本を増やすために新株を発行し、増資する場合です。これは企業が資金を集める際一般的に行われる方法の一つです。新株を発行すれば、発行株式の総数が増加します。相場の状態次第では、株価下落の可能性があるため注意が必要です。

ROE(自己資本利益率)だけでなく総合的な判断が必要

前述の通り、一般的に「ROE(自己資本利益率)は高い方が良い」とされていますが、ROE(自己資本利益率)の数値が変動する要因について理解すると、数値の増減の要因は良し悪しどちらもあると解ります。特に、自己資本が少ない中小企業では、借り入れが多いが収入も多いなどさまざまな資金状況で経営する企業があるため、ROE(自己資本利益率)だけではなく経営状態を示す他の数値と合わせて参照する必要があります。

財務レバレッジとは

レバレッジ(Leverage)は直訳すると、てこの原理(てこを利用して小さい力で大きなものを動かすこと)を意味します。財務レバレッジとは、借り入れが「てこ」となり他人資本の力を借りて収益が増加し、ROE(自己資本利益率)が大きくなることを意味します。言い換えると、自己資本に占める借り入れの割合が高いほど、ROE(自己資本利益率)が増加することを意味します。信用取引などの保証金を担保にレバレッジを利かせた取引を行い、大きな収益を得る可能性もありますが、リスクも大きいため資産状況に注意が必要です。

企業の健全性を見極めよう

それでは例を見ながら企業の健全性を考えてみましょう。 A社、B社、C社3つの会社があり、同業種で同じ環境で営業しているとします。そして、財務状況は次の通りとします。

  • A社(総資産:110億円、当期純利益:10億円、負債:10億円)
  • B社(総資産:100億円、当期純利益:10億円、負債:0円)
  • C社(総資産:100億円、当期純利益:10億円、負債:70億円)

これをROE(自己資本利益率)の計算式《当期純利益÷自己資本×100》に当てはめてみるとそれぞれ以下の通りになります。

  • A社:当期純利益10億円÷(総資産110億円-負債10億円)×100=10%
  • B社:当期純利益10億円÷(総資産100億円-負債0円)×100=10%
  • C社:当期純利益10億円÷(総資産100億円ー負債70億円)×100=33%

極端な例ではありますがC社は総資産に対し借り入れが7割もあるにもかかわらず、あたかも優良企業のような数値になります。そしてA社、B社は数値からでは違いが無いかのように見えます。このようにROE(自己資本利益率)だけで判断することは難しいため、ROAの値や、財務レバレッジ活用の可能性、進めている事業内容なども考慮しながら、投資価値を見極める必要があります。

ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)との違い

ROAとは、Return On Assetの頭文字を取った言葉で、総資産利益率を意味し、「資産がどれほど効率よく利用されているか」を表すROE(自己資本利益率)とよく似た内容の指標です。計算式は以下の通りです。

◆ROA(%)=当期純利益÷総資産(総資本)×100

ROE(自己資本利益率)と異なる点は、分母が自己資本ではなく、総資産である点です。総資産は《負債+純資産》であり、銀行などからの借り入れを含みます。ROE(自己資本利益率)とROAは、どちらも利益率を表し、特にROAは企業が使えるすべて資金の活用度、ROE(自己資本利益率)は株主から集めた資本の活用度を知ることができる指標だとされています。

ROAは、収益が増加すると数値も大きくなり、一般的に5%以上が望ましいとされています。しかし、業種によって基準は異なり、設備の規模なども考慮して数字を見る必要があります。事業の拡大やリニューアル、設備投資など積極的な理由で資金の借り入れをした場合にも数値は低下し、例えばレジャー施設や工場、運輸会社など大きな設備投資が必要な企業ほど、借り入れの一時的な増加でROAが下がりやすくなります。しかし、経営効率が悪いとは言えない場合があります。そのため、借り入れの大きさに加え、その投資内容の理解も重要です。

参考)ROAとは

参考)負債とは

ROE(自己資本利益率)まとめ

ROE(自己資本利益率)は、積極的要因と懸念要因両方のさまざまな理由で一時的に変動することがあります。そのため、基本的には安定して高い水準を保っている企業が、優良だと考えられます。また、ROE(自己資本利益率)単独では企業の実際の財務状況を知ることは難しく、事業内容や固定資産の規模など条件による影響などにも注意が必要です。企業の健全性を見極めるには、様々な情報を組み合わせて判断する必要があります。ROE(自己資本利益率)もその情報の一つと考え、総合的に判断しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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