総資産回転率とは?計算方法や活用方法を解説

更新日:2022年03月24日

総資産回転率

総資産回転率とは、会社の資産を有効に活用できているか確認するための経営指標です。今回は、総資産回転率とは何か、計算方法や総資産回転率を高める方法などについて詳しく解説します。

総資産回転率の概要

総資産回転率とは、会社の総資産を使ってどれほどの売上高を生み出したかを示す指標で「総資本回転率」と呼ばれることもあります。単位が明確にされていない場合は、1年間の総資産回転率を示すことが一般的です。少ない総資産で大きな売上高を生み出せば、総資産回転率が高まり、効率的に資産を運用できている状況と判断できます。また、総資産回転率は「貸借対照表」「損益計算書」の情報を用いて算出します。それぞれの概要について、以下で解説します。

貸借対照表とは

貸借対照表とは決算書の一つで、決算日時点の財政状態を明確化した書類です。表の左側に「資産の部」、右側に「負債の部」と「純資産の部」が記載されます。なお、「資産の部」は資産の運用形態を示しており、「負債の部」と「純資産の部」は資本の調達源泉を示しています。

損益計算書とは

損益計算書とは、決算に欠かせない書類の一つで、会社の利益を確認できる書類です。 英語では「Profit and Loss Statement」と翻訳できるため、略して「P/L」と呼ばれることもあります。損益計算書には収益・費用・利益が記載されており、表の左側に利益の科目、右側に金額が記載されます。

総資産回転率の計算方法

総資産回転率は、下記の計算式によって算出できます。

総資産回転率(回)=売上高/総資産

この計算式を用いて、実際に架空の2社の総資産回転率を比較してみましょう。

A社 B社
売上高 20億円 60億円
総資産 50億円 50億円
総資産回転率 0.4回 1.2回

上の表からも分かる通り、A社の総資産回転率は0.4回、B社の総資産回転率は1.2回です。総資産回転率はB社の方が高くなっているため、B社の方が効率良く売り上げを生み出していることが分かります。

総資産回転期間について

総資産回転率と関係性のある指標に「総資産回転期間」があります。総資産回転期間とは、総資産を売上高として回収するまでにかかった期間を示す指標です。下記の計算式で算出します。

総資産回転期間(年)=総資産/売上高

先ほど総資産回転率の計算で例に挙げた2社を比較して、総資産回転期間を算出してみましょう。

A社 B社
売上高 20億円 60億円
総資産 50億円 50億円
総資産回転期間 2.5年 約0.8年

まず、1年間の総資産回転期間を比較すると、A社が「2.5年」、B社は「0.8年」となっています。つまり、B社の方が、現状の売上高のペースで総資産に到達するまでの期間が短いことが分かります。さらに、総資産回転期間を日数で確認したい場合には、下記の計算式で算出します。

総資産回転期間(日)=総資産/1日あたりの売上高

なお、1日あたりの売上高は「年間の売上高/365日」で計算します。上記の例を用いて、A社とB社を比較してみましょう。

A社 B社
1日あたりの売上高 約5479452円 約16438356円
総資産 50億円 50億円
総資産回転期間 約912日 約304日

現状の売上高のペースで総資産に到達するまで、A社は約912日かかりますが、B社は約304日で到達します。つまり、B社の方がA社よりも約3倍、効率良く売り上げを出していると判断できます。このように、総資産回転期間は年単位や日単位で算出します。

総資産回転率の業種別平均値

総資産回転率の平均値は、業種によって異なります。総資産回転率を算出した後は、その数値が平均よりも高いのか、あるいは低いのかを判断することが重要です。令和元年度における総資産回転率の業種別平均値は、下記の表の通りです。

▼業種別 総資産回転率の平均値

業種 1.26
建設業 0.99
製造業 1.04
情報通信業 1.04
運輸業、郵便業 1.19
卸売業 1.78
小売業 1.85
不動産業、物品賃貸業 0.33
学術研究、専門・技術サービス業 0.24
宿泊業、飲食サービス業 1.04
生活関連サービス業、娯楽業 1.00
サービス業(他に分類されないもの) 1.23

出典:e-Stat「中小企業実態基本調査 令和2年確報(令和元年度決算実績) 確報

一般的に、総資産回転率の目安は1.0回とされています。「不動産業・物品賃貸業」については、総資産が大きく、賃貸経営による収益が少ないため、平均値が低くなる傾向があります。一方「小売業」では、仕入れと販売を短期間で繰り返すため、高い回転率を示しやすくなります。このように、回転率の平均は業種ごとに異なるため、それぞれの平均値と比較することが重要です。

総資産回転率と類似する指標

総資産回転率のほかにも、企業の収益性を測るための指標があります。ここからは、総資産回転率と一緒に覚えておきたい指標についてご紹介します。

流動資産回転率|流動資産の効率

流動資産回転率とは、流動資産の効率を示す指標です。「流動資産」とは、一年以内に現金化できる資産のことで、現金や預金、売掛金、受取手形などが該当します。流動資産回転率を算出すれば、総資本回転率に変動があった際に、その原因を細かく分析できるようになります。流動資産回転率の計算式は、以下のとおりです。

流動資産回転率 = 売上高 / 流動資産

固定資産回転率|固定資産の効率

固定資産回転率とは、固定資産の効率を示す指標です。「固定資産」とは、会社が長期的に保有する資産のことで、設備・機械などの減価償却の対象となる資産や、回収に一年以上を要する貸付金などが該当します。固定資産回転率も流動資産回転率と同様、総資本回転率に変動があった際の原因究明に役立ちます。固定資産回転率の計算式は、以下のとおりです。

固定資産回転率 = 売上高 / 固定資産

経営資本回転率|経営資本の効率

経営資本回転率とは、資本の運用効率を把握するための総合的な指標です。経営資本回転率には、企業活動に無関係な資本は含まないため、より正確に経営効率の実態を把握できます。経営資本回転率の計算式は、以下のとおりです。

経営資本回転率 = 売上高/経営資本

棚卸回転率|棚卸資産の効率

棚卸回転率とは、棚卸資産を効率的に運用できているかを示す指標で、「在庫回転率」とも呼ばれます。とくに、商品・製品の在庫を抱えている卸売業や小売業において重要な指標といえます。棚卸回転率は、下記の計算式で算出できます。

棚卸回転率=売上高/棚卸資産額

売上債権回転率|売上の回収効率

売上債権回転率とは、売上高と売上債権の比率を示す指標です。「売上債権」とは、顧客との取引で生じた債権を指し、売掛金や受取手形などが該当します。売上債権回転率の数値が大きいほど、売上債権の回収にかかる期間が短いと判断できます。売上債権回転率は、下記の計算式で算出できます。

売上債権回転率=売上高/売上債権

総資産回転率が影響を与える指標

企業経営において重要な指標は、他にも数多くあります。ここからは、総資産回転率が影響しやすい「総資産利益率」と「自己資本利益率」について解説します。

総資産利益率(ROA)

総資産利益率(ROA)とは、企業の収益性を測る財務指標の一つで、総資産を利用してどれだけの利益を得られたかを示す指標です。総資産利益率の数値が高いほど、効率的に収益を得られていると判断できます。総資産利益率は、下記の計算式で算出できます。

総資産利益率(%)=当期純利益/総資産

また、上記の計算式に売上高を含めると、「売上利益率」「総資産回転率」に分解することが可能です。

総資産利益率=当期純利益/総資産

総資産利益率=(利益額/売上高)×(売上高/総資産額)

総資産利益率=売上利益率×総資産回転率

売上利益率と総資産回転率に分解して計算することで、総資産によって生み出される売上高の効率性をより深く理解できるようになります。

自己資本利益率(ROE)

自己資本利益率(ROE)とは、会社の自己資本を使ってどれくらいの利益を生み出したかを示す指標です。自己資本利益率が高いほど業績が良好と判断できます。株式投資の収益性を測る指標とされることもあります。自己資本利益率は、下記の計算式で算出できます。

自己資本利益率(%)=当期純利益/自己資本額×100

また、上記の計算式に売上高を含めると、売上利益率・総資産回転率・自己資本比率に分解でき、収益性をより詳しく分析できます。

自己資本利益率=利益額/自己資本額

自己資本利益率 =(利益額÷売上高)×(売上高÷自己資本額)

自己資本利益率=(利益額÷売上高)×((売上高÷総資産額)×(総資産額÷自己資本額))

自己資本利益率 =売上利益率×総資産回転率×自己資本比率

総資産回転率を高める方法

総資産回転率は、高ければ高いほど効率的な経営ができていると判断できます。では、どのようにすれば総資産回転率は高くなるのでしょうか。最後に、総資産回転率を高める方法についてご紹介します。

売り上げを増やす

一つ目の方法は、売り上げを増やすことです。売上高を増やせば、総資産の値が同じでも総資産回転率は高くなります。売り上げを増やす方法としては、業務効率の向上によって時間単位の売り上げを伸ばすなどがあります。ITツールやシステムを導入して、定型業務の効率化を図ることで、人件費の削減、生産性向上につながり、売り上げがアップすることもあります。

不要な資産を売却する

二つ目は、売り上げに貢献していない不要な資産を売却する方法です。会社が保有する総資産を減らせば、売上高が同じでも総資産回転率が高くなります。売却する資産については、売り上げに貢献していない資産のみにすることが重要です。

総資産回転率を分析して経営に役立てよう

総資産回転率を分析することで、総資産でどれほど効率的に売上高を生み出しているかを把握できるようになります。分析結果をもとに、固定資産や棚卸在庫を削減する、業務方法や工程を見直すなどの改善策を講じることで、経営の効率化を図れます。業種によって目安となる総資産回転率は異なるため、平均値を把握しつつ、自社の経営効率が良好かどうか確認することをおすすめします。総資産回転率の意味や計算方法を正しく把握して、業績の向上に役立てましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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