売上高営業利益率とは?計算方法、分析方法、目安を解説

更新日:2024年02月29日

売上高営業利益率とは

売上高営業利益率とは、企業が本業で稼ぐ力を表す収益性の経営指標です。財務の状況を分析する時に「営業利益率」と言えば、この売上高営業利益率を指します。今回は、売上高営業利益率の求め方や、業種別平均値、売上高営業利益率を向上させる方法について解説します。

売上高営業利益率の計算方法

売上高営業利益率の計算式は、以下のとおりです。売上高営業利益率は、営業利益を売上高で割り、最後に100をかけて算出できます。営業利益がマイナス、つまり営業損失が出ている営業赤字の状態であれば、売上高営業利益率は負の値になります。

売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高✕100

※営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

※売上総利益=売上高-売上原価

売上高営業利益率を求めるために扱う指標

売上高営業利益率を求めるためには、「売上高」「売上総利益」「営業利益」の値をそれぞれ求めないといけません。ここからはこの3つについての説明をします。

売上高とは|売上金額の総額

売上高とは、企業のサービスや商品を提供することによって得た収益の合計金額です。例えば500円の手帳が10個売れると売上高は5,000円です。よく売上高と利益を混同してしまうのですが、利益とは売上高から費用や仕入金額を差し引いた値です。一方で売上高は仕入や費用を差し引く前の金額を表します。

売上総利益とは|商品の付加価値

売上総利益とは、「粗利」「粗利益」とも呼ばれます。おおよその企業の収益を表す指標とされています。計算式は下記の通りです。

売上総利益=売上高ー売上原価

売上原価とは、売上のために直接かかった費用で、商品の仕入代金や製造費用などが挙げられます原価が300円の商品10個を500円で販売して完売した場合の売上総利益は、以下のように計算できます。

売上高=500(円)✕10(個)
売上原価=300(円)×10(個)
売上総利益=5000(円)ー3000(円)=2,000(円)

売上総利益は、売上高から売上原価を差し引くことで、求められる指標であるため、売上原価が高くなれば売上総利益は低くなってしまいます。売上総利益を増やすためには、売上原価を下げるコスト削減が必要です。また、売上総利益が高いことは、商品に付加価値を与えることができていると推測できます。他の企業にはない、独創性や機能性を生み出せば、売上総利益を高めることができるでしょう。

参考)売上総利益(粗利)とは

参考)売上原価とは

営業利益とは|本業の利益

営業利益とは、本業で稼いだ利益を示す指標です。売上総利益は売上高から原価を差し引いた金額ですが、営業利益はそこからさらに販売するために必要な他の費用も差し引きます。例えば、広告宣伝費・人件費・光熱費といった、原価以外で商品を販売するために必要となる費用です。計算式は以下の通りです。

営業利益=売上総利益ー販売費および一般管理費

参考)営業利益とは

売上高営業利益率の適正値は?

自社の売上高営業利益率を分析するにあたって、気になるのが目安でしょう。ただ残念なことに、売上高営業利益率が◯%だと適切である、という基準はありません。業種業態、ビジネスモデルによって売上高営業利益率は変わります。そのため、後で紹介する業界別の平均値を参考にしつつ、自社の過去の推移を把握して現在位置を確かめた上で、改善を目指すのか否かを決断するのが良いでしょう。

売上高営業利益率の業種別平均値

業種によって売上高営業利益率の平均値は異なります。そのため、自社の売上高営業利益率を他社と比較する際は、同業種の中で見比べるのが1つの方法です。下記の表にて、売上高営業利益率の平均値をまとめました。表から、売上高営業利益率の平均値が高い企業は、不動産業・技術サービス業といった厚利少売である業種、反対に平均値の低い企業は小売業・卸売業といった薄利多売である業種であることが分かります。

業種 売上高営業利益率(%)
学術研究,専門・技術サービス業 12.64
不動産業,物品賃貸業 7.00
情報通信業 4.74
建設業 4.42
製造業 3.39
サービス業 3.29
生活関連サービス業,娯楽業 2.46
運輸業、郵便業 2.16
卸売業 1.53
宿泊業・飲食サービス業 0.89
小売業 0.85
全平均 2.97

出典:e-Stat|中小企業実態基本調査 令和2年確報(令和元年度決算実績)  3.売上高及び営業費用 (1)産業別・従業者規模別表

売上高営業利益率が高い会社の特徴

売上高営業利益率が高い企業には「提供している商品やサービスの価値が高い」「効率よく営業活動をしている」という特徴があります。それぞれについて説明します。

提供している商品やサービスの価値が高い

クオリティーの高い商品を開発すれば、製作コストが高くなります。しかし、顧客にとって「購入する価値がある」と判断されれば、おのずと商品が売れて、結果的に利益率が上昇します。また、製作コストを下げるための工夫がうまくいけば、商品の品質を保ちながら売上原価の削減が可能です。

効率的な営業活動をしている

効率的な営業活動をすることで、販売費および一般管理費を見直すことができます。例えば、実店舗を構えて商品を販売せずに、インターネット通販による販売をすれば、人件費や家賃、光熱費といった費用の削減につながります。

売上高営業利益率の分析方法

求めた売上高営業利益率を使って、さまざまな分析が可能です。企業の経営成績を正確に把握するために押さえた方がよい分析方法をいくつか紹介します。

計算式を分解して分析する

売上高営業利益率の計算式を段階で分けずに記載すると下記のようになります。

売上高営業利益率=(売上高ー売上原価ー販売費及び一般管理費)÷売上高×100

つまり「売上高」「売上原価」「販売費及び一般管理費」の3つの数値を使った計算式です。それぞれの要素に着目して分析すれば、売上に対するコストが適正であるかどうかを検討できます。

売上高営業利益率の分子部分である営業利益は、売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた値です。売上高が高く利益率が低い場合はコストが高いと判断され、売上高が低く利益率が高い場合はコストパフォーマンスがよいと判断できます。

売上高総利益率を併用して分析する

売上高総利益率とは、商品を販売することで単純にいくら稼いだかを表す指標です。粗利益率とも呼びます。計算式は下記の通りです。

・売上高総利益率=売上高総利益÷売上高×100

・売上高総利益=売上高-売上原価

この計算式から、商品の原価が高ければ、売上高総利益率は低くなることが分かります。売上総利益率が高ければ、企業の営業力や商品の品質がよいと判断でき、反対に利益率が低い企業は生産コストや仕入れコストの削減を検討した方がよいでしょう。したがって、この指標を見れば経費と利益のバランスを評価できます。

売上高経常利益率を併用して分析する

売上高経常利益率とは売上高に占める経常利益の割合です。計算式は下記の通りです。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100

経常利益とは、営業利益に、本業以外の収入と費用(例:受取利息、支払利息)を足し引きした利益です。そのため、売上高営業利益率と売上高経常利益率を比較した時、後者の値が高い場合は、本業ではなく資金運用や資金調達といった資金管理がうまくいっていると判断されます。

売上高営業利益率の向上方法

売上高営業利益率を高めるためには、さらに儲かるように工夫するだけでなく、科目ごとの費用に着目して見直す地道な作業も必要です。具体的に説明します。

売上高を向上させる

売上を伸ばすためには「顧客を増やす」「単価を上げる」の2つを考える必要があります。顧客数を増やすには、新規の顧客開拓数を伸ばすこと、顧客が離れを防ぐこと(顧客維持)の2つの方法があります。新規開拓だけに目を向けてしまうと、顧客の純増に繋がらない可能性があるため、維持もセットで考えましょう。単価を上げるには、商品やサービスの価格を値上げする、アップセルで上位商品を販売する、クロスセルなどで顧客あたりの購入数を増やすといった方法があります。

売上原価を見直す

売上原価を下げるために、仕入れ方法や製造方法を見直しましょう。見直すための方法としては、以下のような方法が考えられます。

  • 商品の構造を簡単にして使用する部品を少なくする
  • 購入先や仕入条件を見直す

しかし過度のコストカットは、不良品を発生させてしまう原因になる等の問題が発生するため、注意が必要です。また、条件交渉の中で仕入先との関係が悪化してしまう可能性もあります。現在の仕入先とビジネスパートナーとして長期的な関係を築きたい場合には、行き過ぎた交渉をしないように留意しましょう。

販売費を見直す

販売費および一般管理費を削減することも、売上高営業利益率を高める有効な対策です。販売費を見直すポイントは以下です。

  • 無駄な固定費(売上高に影響しない費用)を削減する 例:社員に支給している携帯電話を格安スマホに乗り換える
  • 変動費(売上高と連動する費用)の中でも、売上高に貢献していない費用を削減する(例:広告宣伝費は適正かチェック)

参考)固定費と変動費の違いとは

売上高営業利益率と販売戦略

前述したとおり、厚利少売である職種は売上高営業利益率の平均値が高く、薄利多売である職種の平均値は低い傾向にあります。それぞれの販売戦略について説明します。

厚利少売(こうりしょうばい)の販売戦略

厚利少売とは、多くの商品を販売していなくても一度に大きな利益を生み出すビジネススタイルです。高付加価値のサービスを提供することで、さらに高い売上高営業利益率が期待できます。厚利少売をビジネススタイルとする業種の例は以下です。

  • 不動産業
  • 物品賃貸業
  • 専門・技術サービス業

薄利多売(はくりたばい)の販売戦略

薄利多売とは、1つの取引では小さい利益しか生み出さないが、多くの商品を販売することで大きな利益を生み出すビジネススタイルです。1つの取引の利益が少ないため、売上高営業利益率が低くなります。ただし、顧客の数が増えれば利益と売上を伸ばすことができます。薄利多売をビジネススタイルとする業種は以下です。

  • 卸売業
  • 飲食業
  • 宿泊業

売上高営業利益率と損益計算書

最後に、損益計算書についても簡単に解説しておきます。損益計算書とは、企業にとって1年間の経営成績を評価するために欠かせない計算書です。英語では「Profit and Loss Statement」、略して「P/ L」と表記されることもあります。損益計算書に記載されている主な内容は以下です。

  • 収益
  • 費用
  • 利益

損益計算書は、収益と費用から利益を求めます。損益計算書を見れば「どこにどれくらいお金を使っているのか」「どれくらい売上が上がったのか」「利益はどれくらい生み出せたのか」を確認できるため、これからの経営戦略を立てたりコスト削減をしたりする上で、有効な資料として使うことができます。

損益計算書に記載される5つの利益

損益計算書では

  • 売上総利益
  • 営業利益
  • 経常利益
  • 税引前当期純利益
  • 当期純利益

これら5つの利益を求めます。それぞれの説明と計算方法は以下の表です。売上高営業利益率の計算に必要な「営業利益」も計算されます。

名称 説明 計算式
売上総利益 サービスや商品を提供することで生み出した利益。 売上高-売上原価
営業利益 企業が本業で稼いだ利益 売上総利益-販売及び一般管理費
経常利益 企業が本業で稼いだ利益(営業利益)と、それ以外で稼いだ利益(営業外利益)を合わせた利益。営業外利益には、保有している不動産による家賃収入や受取利息、受取配当金、有価証券売却益などが挙げられます。 営業利益+営業外収益-営業外費用
税引前当期純利益 税金を支払う前の利益。経常利益に、営業活動とは関連性の低い臨時の利益を加えたり、同じように関連性の低い損失を引いたりすることで求められる利益。 経常利益+特別利益-特別損失
当期純利益 税引前当期純利益から法人税等を差し引き、最終的に会社に残る利益。 税引前当期純利益-法人税等

参考)損益計算書とは

参考)法人税等とは

参考)当期純利益とは

参考)特別利益と特別損失とは

参考)経常利益とは

売上高営業利益率まとめ

売上高営業利益率は、本業で稼ぐ力を表す経営指標です。自社が属する業界の平均値と比較して、自社の数値が低い場合は何らかの課題がある可能性があります。売上高営業利益率が高い会社の特徴を参考に、解決に取り組みましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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