固定費と変動費の違いとは?分け方や削減方法を解説
更新日:2024年03月05日
固定費と変動費の違いとは、売上の増減に対して費用がどのように反応するかの違いです。固定費と変動費の違いを理解し、それらを適切に分類することによって経営改善に活かせます。
本記事では、固定費と変動費の違いやコスト削減のポイント、4つの分析指標について詳しく解説します。
目次
固定費と変動費の違いとは
固定費と変動費の違いは、売上の増減に対する費用の反応の仕方によります。たとえば家賃や従業員の給与は、売上に関係なく一定の費用として発生するため「固定費」です。一方で原材料費や外注加工費は、売上にともなって増減する「変動費」です。このような費用の分類を「固変分解」と呼び、将来の収益予想やコスト削減の策定に役立ちます。
「固定費」とは必ず発生する費用のこと
固定費(不変費)とは、売上の増減にかかわらず発生する一定額の費用のことです。固定費に該当する具体的な費用には、人件費、地代家賃、水道光熱費、接待交際費、リース料、広告宣伝費、減価償却費などがあります。
会社が事業を営むにあたっては、製造・販売などの操業をしていなくても、必ず支払いが発生する費用があります。たとえば、事務所の家賃は毎月必ず発生しますし、設備を使っていなくても減価償却費は発生します。
人件費も同様で、従業員を雇っている以上は必ず支払わなければならない費用です。このように、原則として”固定”の金額が発生する費用は固定費とされます。
参考)人件費とは
参考)交際費とは
参考)減価償却とは
「変動費」とは売上の増減で変動する費用のこと
変動費(可変費)とは、売上の増減によって変動する費用のことです。一般的に変動費に該当する費用は、原材料費、仕入原価、販売手数料、消耗品費などです。固定費が売上に関係なく一定額発生するのに対し、変動費は売上に比例して増減します。
たとえば、1,000個の製品を製造する場合、1,000個分の原材料を調達する必要があり、その分の原価が発生します。このように、原則として金額が”変動”する費用は変動費とされます。変動費は、製造・商品の販売などの事業に付随して発生するコストであることから、「活動原価(アクティビティコスト)」とも言われます。
参考)売上原価とは
固定費と変動費を分類する3つの理由
固定費と変動費を分類する理由として、以下の3つが挙げられます。
- 将来の利益を予測できる
- 効果的に費用を削減できる
- 新事業立ち上げ時の判断材料になる
固定費と変動費を分類する理由について考えるとき、ビジネス運営と財務管理の観点から重要な意味を持つことがわかります。固定費と変動費を正確に理解し適切に分類することで、収益性を向上させ、将来の経営計画をより効果的に立案できます。
1.将来の利益を予測できる
費用を「固定費」と「変動費」に分けることにより、将来の利益の予測がしやすくなります。たとえば売上を10%増加させるための目標に対し、売上増加分が利益にどのように影響を及ぼすかを予測する際に有用です。
具体的には、売上10%増加にともなう変動費の10%増加と一定額のままの固定費を合算し、10%増加した売上高から差し引くことによって利益の予測がつきます。また、売上が減少した場合にも同様に減少する利益の予測ができます。
2.効果的に費用を削減できる
効果的に費用を削減できることも、固定費と変動費を分類する理由の一つです。固定費と変動費を事前に分類しておくことで、どの費用項目が利益を圧迫しているかが明らかとなり、有効な対策を講じられます。
売上の下降局面においては、どの費用を削減するかを決定する際に固定費と変動費の分類がなされていれば検討がスムーズに進みます。一般的に費用の削減は、売上が下がっても同時に減少しない固定費の削減が効果的です。
変動費は主に原材料費や外注費など、製品を作り出すために必要なものが多く、削減が難しい面があります。一方で、固定費は水道光熱費の削減や広告宣伝費の再評価などによる削減のように容易なケースが多く、生産量に連動しないため収益改善が確実に見込めます。
3.新事業立ち上げ時の判断材料になる
新規事業を立ち上げる際は、固定費を最小限に抑えることが重要です。固定費を最小限に抑えることで、すぐには売上につながらない場合や事業が順調に進まない場合でも、赤字の範囲を小さく抑えられます。
事業立ち上げ時には固定費の見積もりを行い、削減可能なコストを特定していきましょう。特定することにより、赤字を少なく抑えるための戦略を立てたり、早期に赤字を解消するための収入確保を目指し市場投入のタイミングを早めたりできます。コスト削減が困難であり、赤字増加の可能性がある場合は、事業の立ち上げを見送る判断もつきます。
固定費と変動費の分類方法
費用を固定費と変動費に分類することを、固変分解といいます。費用の中でも、原価を固定費と変動費に分けることを、特に原価分解と呼ぶこともあります。一般的に用いられる方法は、運用が簡単な「勘定科目法(個別費目法)」。厳密さを求めるなら「回帰分析法(最小二乗法)」などがあります。
勘定科目法
勘定科目ごとに固定費と変動費に振り分ける簡単な方法です。便利ではありますが、厳密な固変分解には適していません。固変分解をするにあたり、固定費と変動費の区分に絶対的な基準はないからです。
固定費としての性質か、変動費としての性質か、どちらの比重が重いかを見て会社が個別に判断することになります。
回帰分析法
勘定科目法の他に用いられる固変分解の方法に「回帰分析法(最小二乗法)」があります。縦軸に総費用、横軸に売上をとった散布図に、毎月の売上と総費用の点を描きます(12ヶ月分)。その1年分の12個の点を近似曲線で結ぶと、変動費率と固定費を計算でき、y=ax+bという、数学の授業で習った懐かしい公式で表現されます(aが変動費率、bが固定費)。
手計算では手間がかかりますが、Excelを使うと簡単です。まずは勘定科目法に挑戦して、実態と合わなければ回帰分析法など他の方法を試してみましょう。
固定費と変動費を削減する際のポイント
経費の削減においては、以下の2つのポイントに分けて考える必要があります。
- 固定費削減のポイント
- 変動費削減のポイント
固定費が多いケースでは売上に関係なく経費が発生し、変動費の多い場合には利益が伸び悩みます。ただし、無計画な削減は品質低下や売上減少のリスクがあります。効果的な削減のためには、優先順位を設定し固定費から削減を検討することが有効であり、変動費の削減に関しては売上減少につながる可能性もあるため慎重な検討が必要です。
固定費削減のポイント
固定費削減のポイントとしては、「家賃」「通信費」「水道光熱費」「消耗品費」「広告宣伝費」などの削減が有効です。コスト削減の初期段階では、基本的に固定費の削減を優先的に考えます。固定費は売上の増減に関係なく発生するため、売上に直接影響を与えず費用だけの抑制が可能です。
こうした固定費の抑制であれば、損益分岐点の売上が低下し、売上が減少した場合でも利益を確保できます。ただし行き過ぎた抑制は、不況にも強く安定した経営を実現できる反面、労働環境を悪化させ、事業としての信頼性を失う可能性があります。固定費削減は、長期的な視野をもって検討を進めることが重要です。
変動費削減のポイント
変動費を削減するポイントとしては、「仕入費」「原材料費」「外注費」などの削減が考えられます。施策としては「仕入先との交渉や仕入ルートの再検討により、仕入単価を下げる」「材料の無駄や加工ロスを削減する」「ペーパーレス化を推進し、印刷費や消耗品費を抑制する」などが有効です。
ただし、仕入や外注に関する価格や業者の見直しは、品質に悪影響を及ぼす恐れがあるため、慎重に行う必要があります。売上に関係ない部分から徐々にコストを下げていく取り組みが重要です。
固定費と変動費で分析できる4つの指標
固定費と変動費を把握することによって、以下の4つの指標が得られます。
- 限界利益
- 損益分岐点
- 安全余裕率
- 売上高変動費比率
これらの数値はすべてコスト構造を理解し、経営上の決定を下すための重要な指標のため、正確な数値の算定が求められます。ここでは、固定費や変動費から導き出される4つの指標について解説します。
1.限界利益
限界利益とは、製品やサービスを売ることにより得られる収入のことで、売上から変動費を引いたものに相当します。つまり、製品やサービスの販売によって直接生み出される利益といえます。
限界利益=売上高-変動費
限界利益は、事業が継続できるか否かの予測や人件費や販売経費などをどの程度投下すべきかの判断材料に有用な指標です。限界利益は売上の変化にともなって変動するため、変動費が増加することによって限界利益は減少し、限界利益がマイナスであれば事業として成立していないとみなされます。
2.損益分岐点
損益分岐点とは、製品やサービスの販売にかかる費用と売上がイコールになるポイントのことを指します。
損益分岐点=固定費÷限界利益率
損益分岐点を割り出し、販売数量や固定費、変動費をコントロールすることによって、どのように利益を捻出できるのかといったシミュレーションが可能です。限界利益率とは、売上高のうち限界利益が占める割合、すなわち限界利益を売上高で割った値です。
損益分岐点の売上に達しない場合には、費用を削減することによって損益分岐点を下げるケースや、製品やサービスの値上げで売上を増やすといったケースを組み合わせてシミュレーションします。
参考)限界利益率とは
参考)損益分岐点とは
3.安全余裕率
安全余裕率は、実際の売上と損益分岐点の売上との間の差異を表す指標であり、安全余裕率が高いほど事業としての安定性が高いと判断されます。
安全余裕率=1-(損益分岐点売上高÷実際の売上高)
安全余裕率がマイナスであれば、赤字が出ていることを示します。プラスの場合でも、財務状況に余裕があるかどうかについての評価が可能です。安全余裕率は、売上が安全余裕率の割合だけ減少した場合に利益がゼロになることを示しています。安全余裕率が高ければ財務状況には余裕があると考えられ、理想的な値は40%以上とされています。
参考)安全余裕率とは
4.売上高変動費比率
売上高変動費比率(変動費率)とは、売上高のうち変動費がどのくらい占めるかを示す指標であり、変動費を売上高で割ることによって計算します。
売上高変動費比率=変動費÷売上高✕100
売上高は「固定費」「変動費」「利益」の3つの要素に分けられます。変動費率が高ければ、固定費率が低いため、赤字になりにくいのが利点です。一方で変動費率が高いと、販売量を増やしても利益が上がりにくいというデメリットもあります。
固定費と変動費の違いまとめ
固定費と変動費の違いを正しく理解し分類できれば、事業に関係する費用の構成がわかり、将来の利益の予測や新事業立ち上げの際の判断に役立ちます。また、固定費と変動費の分類で得られた4つの指標は、コスト構造を理解し経営上の決定を下すための重要な指標となりえます。まずは費用がそれぞれ固定費・変動費のどちらに分類されるのかを把握し、分類するところから始めることが重要です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
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