ROICとは?計算式やROAとの違い、メリットを解説
更新日:2025年01月26日

ROICは、銀行や投資家などから調達した資金で、どれだけ効率的に利益を出したかを示す指標です。主なメリットとして、セグメントごとに管理できる、資金調達しやすくなる点が挙げられます。本記事では、ROICの計算式やROAとの違いについて解説します。
目次
ROICとは
ROICとは、Return on Invested Capitalを省略したもので、投下資本利益率を意味します。具体的には、銀行などの債権者や投資家から調達した資金で、どれだけ効率的に利益を出せたかを示す指標です。より深く理解するために、ROICが注目された背景や、計算式などについて確認しておきましょう。
ROICが注目された背景
従来、日本企業は損益計算書(PL)に記載されている、売上高や営業利益などの数字に注目して経営することが一般的でした。しかし、投資家から企業のROE(自己資本利益率)向上を望む声が上がり、グローバル化も進むにつれて、効率的に利益を出すことを示す指標に注目が集まるようになります。
2014年の経済産業省による「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」最終報告書(通称:伊藤レポート)も、転機のひとつです。
伊藤レポートに「グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限 8%を上回る ROEを達成する」ことを目指すべきと記載があったため、企業がROEの改善を意識するようになりました。
その中で、ROE(自己資本利益率)よりも、ROICの方が事業別に管理しやすい指標であったことが、注目されるようになった背景です。
参考:経済産業省「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書 」
ROICの計算式
ROICの計算式は、以下のとおりです。
ROIC(%) = 税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債 + 株主資本)× 100
たとえば、Aプロジェクトに投じた資金(投下資本)が1,000万円で、そこから得た利益(税引後営業利益)が200万円のケースの場合、200万円÷1,000万円×100=20のため、AプロジェクトのROICは20%です。なお、有利子負債とは、利息の支払いが必要な負債(例:借入金や社債)を指します。利子を支払って返済する
事業のコストパフォーマンスの指標になる
ROICは、事業のコストパフォーマンスの指標になります。ROICの数値が高い事業は、少ない投下資本で多く稼げるでしょう。
つまり、ROICが20%のAプロジェクトと、15%のBプロジェクトを比較すると、Aプロジェクトの方が付加価値の高い事業といえます。また、ROICが極端に低いプロジェクトは、撤退を検討した方がよいでしょう。
ROICとROE、ROA、WACCとの違い
ROICに関連する用語として、ROE・ROA・WACCがあります。ROEは自己資本利益率、ROAは総資産利益率、WACCは加重平均資本コストのことです。また、ROEは「Retrurun On Equit」、ROAは「Return On Assets」、WACCは「Weighted Average Cost of Capital」を省略しています。
ROEとの違い
ROEは、自己資本からどれだけ利益につながっているかを示すための指標です。以下の式で計算します。
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEでは、投下資本ではなく、投下資本から有利子負債を引いた「自己資本(純資産)」を使います。また、ROICでは利益として「税引後営業利益」を使うのに対し、ROEは「当期純利益」を用いる点も大きな違いです。
ROAとの違い
ROAは、企業の保有している全資産がどれだけ利益につながっているかを示すための指標です。以下の式で計算します。
(%) = 当期純利益 ÷ 総資本 × 100
ROEと同様に「当期純利益」を使うため、ROICよりも投資家に注目されやすい点が違いです。 ROICでは、投下資本を用いるのに対し、ROAは総資本で計算する点も異なります。総資本とは、貸借対照表の負債の部と純資産の部を合算した数字です。ROICと異なりROAでは、取引先に対する後払いの支払額(買掛金など)にも大きく左右されます。
WACCとの違い
WACC(資本コスト)は、企業が借入や株式調達にかかるコストを加重平均した指標です。以下の式で計算します。
C = { D /(D+E)} × rD ×(1-T) + E/(D+E)× rE
Dは有利子負債総額でEは株主資本の合計、rDは負債コスト、rE=株主資本コスト、T=法人税率を指します。
ROIC・ROE・ROAはいずれもどれだけ利益につながったかを表すものであるのに対し、WACCはコストを算出するための指標である点が主な違いです。
ROICの3つのメリット
ROICを参考にすることには、主に以下3つのメリットがあります。
- セグメントごとに管理できる
- ROE、ROAが持つ課題を解決できる
- 資金調達しやすくなる
1.セグメントごとに管理できる
まず、セグメントごとに管理できる点が、ROICを使うメリットです。ビジネスにおいて、セグメントとは、何かの基準ごとに区切ったまとまりを指します。
ROICを使えば、セグメントごとに数値を算出可能なため、会社全体だけでなく、各事業や部門ごとに細かな目標を定められるでしょう。とくに、限られた予算をできるだけ効率的に配分しなければならない場面で役に立ちます。
2.ROE、ROAが持つ課題を解決できる
ROEやROAが持つ課題を解決できる点もROICのメリットです。
ROEは、企業が自社株買いで自己資本(純資産)を減らすことで、数値を改善できてしまう点が課題として挙げられます。また、ROAは総資本で計算するため、取引先との交渉で支払いを遅らせられる場合でも、そのまま買掛金の数値に含まれてしまう点が課題です。その点、ROICは自己資本を調整するだけでは、簡単に数値を大きく変更できません。また、総資本ではなく投下資本で計算するため、買掛金に左右されないでしょう。
3.資金調達しやすくなる
さらに、ROICを活用して資金調達しやすくなる点もメリットです。ROICで自社がどれだけ投下資本を使って効率的に利益を生み出しているのか、明確に投資家や金融機関に説明できます。
ROICの値が満足いくものであれば、投資家からの出資や金融機関からの融資につながりやすくなるでしょう。出資の目安となるROICのひとつの水準は7%です。
ROICの2つのデメリット
ROICには、以下2つのデメリットもあるため、導入時には注意が必要です。
- ROEなどと比べて計算式が複雑
- 経営状況に応じて有効性が変化する
1.ROEなどと比べて計算式が複雑
ROEやROAの数式と比べると、計算式がやや複雑で、一度見ただけではわかりにくい点がROICのデメリットです。とくに「投下資本」は、慣れるまで理解しにくい概念でしょう。
ROEやROAは理解していても、ROICは知らない従業員もいるため、研修や打ち合わせを通じて、概念や計算方法などを現場に周知する機会を一度設けた方がよいです。
2.経営状況に応じて有効性が変化する
ROICは、経営状況に応じて有効性が変化する点もデメリットです。
一般的に、企業は「創業期」「成長期」「安定期」「衰退期(再成長期)」の4つのフェーズに分けられます。その中で、ROICは主に安定期前後で使用できる指標です。
創業期はまだ利益を十分に獲得できない点、衰退期は財務の健全性にスポットを当てるべき点を考慮し、ROICの使用は控えましょう。また、投下資本をあまり使用せずに事業の拡大を図るサービス業もROICになじみません。
ROIC経営4つのポイント
ROICをひとつの指標とする、ROIC経営のポイントを4つ解説します。
1.評価期間を複数年に設定する
すぐに成果が出るとは限らないため、評価期間を3〜5年に設定しましょう。1年だと、将来性がある事業でも数字だけで成果なしと判断されて、予算削減につながりかねません。
投下した資本で効率的に利益へ結びつけることが、ROICの本来の目的です。目先の数字にとらわれて、必要な投資をカットしないようにしましょう。
2.WACCよりもROICが上回っているかを確認する
借入や株式調達にかかるコストを加重平均した、WACCとの比較も大切です。
ROICがWACCを上回っていれば、企業価値が拡大しているといえます。一方、下回っていれば、企業が成長しても企業価値は拡大しないです。
ROIC経営を導入したら、ROICがWACCを上回っていることを確認し、より大きな付加価値を創造していきましょう。
3.ROAやROE、WACCとセットで活用する
ROIC経営を導入する際は、ROA・ROE・WACCなどの指標をあわせて活用することが大切です。ROAやROEを確認することで、ROICだけでは見抜けない課題に気づくことがあります。
また、ROAやROEはより投資家目線に近い指標のため、株主から自社がどのように見られているのかを確認できるでしょう。
4.ROIC逆ツリー展開を活用する
オムロンが考案した、「ROIC逆ツリー展開」の活用も検討しましょう。ROIC逆ツリー展開とは、ROICの要素を分解して各部門のKPIに落とし込むことです。ROIC逆ツリー展開で現場もROIC向上を意識するようになるため、全社一丸となってROIC経営に取り組めるでしょう。なお、KPIとは、業績管理評価向けに設定する指標です。
ROICまとめ
ROICとは、各事業のコストパフォーマンスを把握できる「投下資本利益率」のことです。セグメントごとに管理ができる点や、資金調達がしやすくなる点が使用するメリットとして挙げられます。
ROIC経営に取り組むには、ROE・ROA・WACCなどの指標も活用することが大切です。ROICの式や概念を理解し、経営効率化を図りましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
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会社名 | 株式会社フリーウェイジャパン |
法人番号 | 1011101045361 |
事業内容 |
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本社所在地 | 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町12-8 Biz-ark日本橋6F |
所属団体 | 一般社団法人Fintech協会 |
顧問弁護士 | AZX総合法律事務所 |