売上原価とは?計算方法、仕訳、製造原価との違いを解説

更新日:2024年07月09日

売上原価とは

売上原価とは、販売した商品に関わるすべての費用を指します。売上原価に含まれるのは、仕入れた商品の金額や製造費、製造に関わる従業員の人件費やその他の経費です。なお、売れ残っている商品の原価は、売上原価に含まれません。売上原価の考え方は、期中に発生した費用と収益は同じ期間内の損益に含めるべきという「費用収益対応の原則」に基づいています。業種によって、売上原価に含まれる費目は変わりますが、基本となる考え方は同じです。売上原価は会社で取り扱っている商品の価値を判断する上で、とても重要な項目です。本記事では、売上原価の計算方法、仕入や製造原価との違い、売上原価の仕訳などについて解説します。

目次

売上原価の計算方法

売上原価は「今期に売れた商品にかかった費用」を指すため、以下の計算式で求めます。

売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高

売上原価の計算式を理解するには「期首商品棚卸高」「当期商品仕入高」「期末商品棚卸高」という3つの言葉の意味を知っておく必要があります。

  • 期首商品棚卸高…期首の時点で在庫に残っている商品の総額
  • 当期商品仕入高…当期に仕入れた商品の合計額
  • 期末商品棚卸高…期末の時点で在庫に残っている商品の総額

売上原価を計算してみる

実際に売上原価を求めてみましょう。

例)パソコンを販売するA社

  • パソコンの仕入価格:30,000円
  • 前年度に売れ残ったパソコン:20台
  • 当期中に仕入れたパソコン:100台
  • 当期末に売れ残ったパソコン:10台

この場合、売上原価は以下のように算出します。

  • 期首商品棚卸高:30,000円 × 20台 = 60万円
  • 当期商品仕入高:30,000円 × 100台 = 300万円
  • 期末商品棚卸高:30,000円 × 10台 = 30万円
  • 売上原価:330万円 = 60万円 + 300万円 - 30万円

期末商品棚卸高の計算方法

期末商品棚卸高を知るためには、在庫として残っている商品の仕入れ価格を把握しなければなりません。しかし、市場価値や需要と供給のバランスが変動すれば、同じ商品でも仕入れた時期によって価格が異なるケースが発生します。そのため、在庫として残っている商品の仕入価格をどのようにして決定するかという問題が生じます。

以下で紹介する2つの棚卸資産の評価方法は、仕入れ時と販売時の数量と金額を記録する場合に使われる代表的な計算方法です。

  • 先入先出法:先に仕入れた商品から出荷すると考える方法。
  • 移動平均法:仕入れるたびに残高を数量で割り、平均単価を計算する方法。

他にも現場で棚卸しをする場合、最後に仕入れた単価を使う「最終仕入れ原価法」があります。管理は先の2つに比べて楽になりますが、急な価格変動や商品ロスも売上原価に含まれてしまうため、あまり実用的ではありません。

売上原価と売上総利益の関係

売上原価は会計上、損益計算書の費用の部に表示されます。売上高から売上原価を引いた金額が売上総利益となり、この金額が企業の粗利(粗利益)です。粗利が出ていなければ、取り扱っている商品や製品に原価以上の価値はないと判断できます。粗利は企業の競争力を知る上で重要な判断基準です。業種によって売上原価に含まれる費目の範囲が異なるため、正確な粗利を算出するためにも、事業内容を理解して適切に売上原価を定義する必要があります。

売上原価の費目

前述した通り、売上原価とは「今期売れた商品にかかった費用」全般を指します。

  • 商品の仕入れ原価
  • 製造にかかった材料費
  • 製造に従事する従業員の人件費や外注費
  • 製造に使われた機械に関わる費用や減価償却費
  • 製造工程で発生した水道光熱費
  • その他製造に関わる諸経費

上記すべてが売上原価の費目です。お菓子工場を例にとると、イチゴや小麦粉、生クリームといったケーキの材料、ケーキを作る職人、生地を混ぜる攪拌器、攪拌器を動かすための電気、ケーキを包むためのフィルムなど、これらはすべて売上原価に含まれます。

売上原価と仕入の違い

仕入高とは、売れたか売れなかったかにかかわらず、販売するために他社から購入した商品すべての合計金額を指す言葉です。例えばドラッグストアなら医薬品や食品、ラーメン屋ならラーメンを作るための食材費などが含まれます。

売上原価には「今期売れた商品」の仕入れ額のみ含まれます。つまり「今期売れなかった商品」の仕入額は含まれません。仮に今期中に商品を1,000個仕入れたとして、100個しか売れなかった場合、仕入れた1,000個すべてを売上原価に計上してしまうと粗利はマイナスです。正確な商品価値を知るために、売れなかった商品は省いておく必要があります。

売上原価は業種により異なる

前述した通り、営業形態によって売上原価に含まれる費目や金額は変わります。この章では業種によって異なる売上原価の範囲について紹介します。

小売業

スーパーや百貨店、コンビニエンスストアといった小売業において、売上原価として計上される費用は、主に商品の仕入れ原価が中心です。大手企業であれば自社ブランドの製品を工場で製造している可能性もありますが、基本的には製造工程が発生しないため、製造業に比べると売上原価として計上される範囲は狭くなります。それに対して、広告宣伝費・オフィスワークに従事する従業員や販売員の人件費など、販売費及び一般管理費として計上されるものの範囲が広くなる傾向があります。

製造業

食品製造・機械製造・衣類製造といった製造業は、以下のような製造に関わるすべての費用が製造原価として計上されます。

  • 仕入れた材料の原価
  • 製造に携わる人件費
  • 外注費
  • 工場で使われた機械の減価償却費
  • 水道光熱費

詳しくは後述しますが、製造原価は会計上、売上原価に含まれる項目です。商品を製造するためには多種にわたる費目が必要となるため、他の業種に比べて売上原価として計上される費目の範囲は広くなります。

飲食業

レストラン・カフェ・バーといった飲食業の場合、顧客に提供する料理の材料費・アルコールやジュースなどの仕入れ原価が主な売上原価です。他にも調理の際に発生した廃棄食材や売れ残りといった食品ロスも売上原価に含まれます。人件費に関しては、製造に関わるキッチンスタッフを売上原価に加えるか、直接的な売上に連動していないとして販管費に加えるか、企業によって考え方が異なる場合があります。

サービス業

コンサルタント業・士業・運輸業といったサービス業は、実物を商品として取り扱っておらず、製造や仕入れにかかるコストが発生しません。美容室で商品を仕入れて販売している場合などは異なりますが、サービス業においては、他社の人員を使ってサービスを提供する場合にかかる外注費が主な売上原価の費目です。会議や事務処理、外注手配といったサービスを管理する社員の人件費は販管費として計上されるため、他の業種よりも売上原価が少なくなる傾向があります。

売上原価の仕訳は4パターン

売上原価を出すために、まずは商品に関わる取引内容の仕訳をしなければなりません。ここでは代表的な4つの方法を紹介します。

3つの勘定科目で仕訳する一般的な「三分法」

三分法は「仕入」「売上」「繰越商品」という勘定科目を使って商品売買を記録する方法です。期中に仕入れた商品を仕入勘定で処理し、販売した商品は売上勘定として計上します。決算整理の際に在庫商品を繰越商品勘定として処理し、売上原価を算出します。他の方法に比べて、日々の記帳と決算時の処理が簡易かつ効率的であるため、現在最も広く使われている仕訳方法です。

期中でも売上原価がすぐ分かる「売上原価対立法」

売上原価対立法は「商品」「売上」「売上原価」という勘定科目を使って商品売買を記録する方法です。

まず、仕入れた商品を商品勘定で処理します。次に、販売した商品の原価を商品勘定から売上原価勘定に振り替え、売上代金を売上勘定で処理します。商品勘定がそのまま期末の商品在庫になり、売上原価勘定が売上原価の金額になるため、決済時の処理が不要です。売上原価を常に把握できる利点がある反面、他の方法に比べて仕訳が煩雑になる欠点があります。

期中から原価管理する「分記法」

分記法は「商品」「商品売買益」という勘定科目を使って商品売買を記録する方法です。

期中に仕入れた商品は商品勘定を用いて資産として計上し、販売した際は商品勘定と売価の差額を、商品売買益勘定として収益に計上します。商品勘定の数字は仕入れ原価の額と同様です。取引ごとに仕入れ原価と売買益がリアルタイムで反映されるため、現在の粗利を把握しやすく、素早く経営戦略に活用できるというメリットがあります。ただし、取引ごとの記帳が煩雑になるというデメリットがあるため、商品数の多い企業には向かない方法です。

期末にまとめて原価管理する「総記法」

総記法は、仕入れ時と売上時、どちらも「商品」の勘定科目を使って商品売買を記載する方法です。そのため、決算整理前の残高試算表の商品勘定は貸方残高にも借方残高にもなります。つまり、原価と売価が混在している状態であるため、必ず決算整理をする必要があります。商品勘定のみで処理をするため、最も簡易な商品売買の記帳方法です。しかし、商品勘定のなかに仕入れ原価と売価が混ざるため、期中に経営成績や財政状況を把握できず、実務で使用されることはほぼありません。

売上原価と製造原価の違い

製造業で混同されやすい「製造原価」と「売上原価」の違いを説明します。

違いは売上に関与しているかどうか

製造原価とは、商品を製造する過程で発生した費用の合計です。原料や設備にかかった費用、製造に関わる人件費などが含まれます。自社で製造した商品をすべて他社に卸している場合、売上原価は発生しません。製造原価のみ計上します。しかし、自社製品を販売したり、仕入れた商品も販売したりする場合は、製造原価に加えて仕入れ原価、売上に関与した諸経費なども売上原価として計上しなければなりません。

製造原価の費目は3種類

製造業では、製造工程でかかった費用を算出するために製造原価報告書を作成します。その際に記載する費用の項目は以下の3種類です。

  • 製造する際に仕入れた「材料費」
  • 工場で働く従業員の「労務費(人件費)」
  • 工場で使う機械の購入費と減価償却費、製造に使用した水道光熱費、外注費などの「諸経費」

これら費用の合計値に、期首時点の仕掛品(※1)や半製品(※2)を加えて、さらに期末時点での仕掛品と半製品を除いたものが当期の製造原価です。

※1 作りかけの製品。
※2 作りかけではあるが、そのまま外部に販売することも可能な製品。

売上原価まとめ

売上原価とは「今期売れた商品」に直接かかった費用を指します。取引ごとの仕訳方法や、在庫残高からの売上原価算出、製造原価との違いといった少々複雑な部分はありますが、正しい売上原価の知識があれば、経営分析に役立ちます。適切な原価管理のために、自社で取り扱っている商品が正しい価格で仕入れ、あるいは製造されて、販売されているかを見極めることが重要です。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
法人番号 1011101045361
事業内容
  • 会計・財務・資金調達に関するメディア運営
  • 中小事業者・会計事務所向け業務系システムの開発・販売
本社所在地 〒103-0006
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所属団体 一般社団法人Fintech協会
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