棚卸資産の種類とは?計算方法・評価方法や仕訳例を解説
更新日:2025年03月18日

棚卸資産とは、商品・製品・仕掛品のように、仕入れてから加工・販売せずに社内に留まっている資産を指します。経営に影響を及ぼす重要な項目のひとつのため、しっかりと把握することが大切です。本記事では、棚卸資産の種類や評価方法について、詳しく解説します。
目次
棚卸資産とは
棚卸資産とは、事業者が営業目的で仕入れたものが、まだ加工や販売に至らず、社内に留まっている状態の資産を指します。一般的には、「在庫」も棚卸資産と同じ意味で使われる言葉です。
なお、法人税法第2条第20項では、「商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・そのほかの資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの」を棚卸資産と定義しています。
棚卸資産と貸借対照表の関係
貸借対照表(バランスシート)は財務諸表のひとつで、左側の「資産の部」と右側の「負債の部・純資産の部」を使って企業の財政状態を示した決算書を指します。
貸借対照表上で棚卸資産が記載されるのは、「資産の部」です。また、土地・建物や機械などの固定資産よりも現金化しやすいため、「資産の部」のうち「流動資産」に記載されます。
なお、棚卸資産をそのまま貸借対照表に計上するには、「実際に在庫が存在していること」「販売価額が下落していないこと」が必要です。
棚卸資産が経営に影響を与える理由
棚卸資産は、経営に影響を与える項目のひとつとして知られています。主な理由は、以下のとおりです。
- 税金に関係するため
- 資金繰りに関係するため
- 業務量に関係するため
それぞれ解説します。
税金に関係するため
棚卸資産が税金に関係することが、経営に影響を与えるとされる理由のひとつです。一般的に、売上原価を計算する際は以下の式を使います。
売上原価(円) = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高
期首商品棚卸高は会計期間開始日時点で保有している在庫の金額、 期末商品棚卸高は会計期間終了時点で残っている在庫の金額のことです。つまり、会計期間の開始日・終了日時点でどれくらいの棚卸資産があるのかによって、売上原価が変動します。
また、以下の式からわかるように、売上原価は売上総利益を計算するために必要な数字です。
売上総利益(円) = 売上高 − 売上原価
売上総利益から営業利益、経常利益、税引前当期純利益を計算していくため、棚卸資産がどれくらい変動しているかが、納税額に影響を及ぼすのです。
資金繰りに関係するため
資金繰りに関係することも、棚卸資産が経営に影響を与えるとされている理由です。資金繰りとは、事業を円滑に進めるために収支を管理して資金の過不足を調整することを指します。
一般的に、棚卸資産が多いということは、本来販売するはずの商品・製品を現金化できていないということです。現金化できず棚卸資産だけが増えていくと、手元の資金が足りなくなり、そのうち必要な支払いが困難になる可能性があります。
それに対し、滞留している在庫を売却できた場合は、棚卸資産の額が減る一方で現金や売掛金の額が増えることによりキャッシュフローを安定させ、資金繰りの改善につながります。ただし売掛金については、期限までに代金回収をすることが重要な点は理解しておきましょう。
業務量に関係するため
業務量に関係することも、棚卸資産の額が経営に影響を与える理由です。通常より棚卸資産の額が大きい場合は、在庫を過剰に抱えていることを意味します。
在庫を過剰に抱えていると、工場から倉庫、倉庫から販売所など本来より多くの移動・運搬業務を繰り返すことになり、その分稼働コストが多くなりがちです。たとえば、給与や社会保険料などの人件費が増えたりすることになるでしょう。
また、保管場所が足りない場合は新たにスペースを借りるなど、余分な賃貸料がかかる場合もあります。さらに、品質の劣化・破損を防ぐために光熱費がかかったり、紛失・盗難を防ぐために保険料がかかったりすることもあります。
棚卸資産の種類・分類
棚卸資産は、以下の種類で分けることが一般的です。
- 商品・製品
- 仕掛品
- 原材料
各種類の概要について、解説します。
商品・製品
商品とは販売目的で仕入れたもの、製品は自社で製造したもののことです。
商品や製品が販売されずに社内に残っている場合に、棚卸資産の商品・製品として計上します。具体例は、スーパーマーケットが仕入れた食品や、メーカーが製造した家電などです。また、主とする製品の製造過程で出る副産物や、作業くずなども商品・製品に含まれます。
商品・製品に関連し、販売前の半製品も棚卸資産に含まれる勘定科目です。半製品とは、ペットボトルに詰められたラベルが貼られる前のジュースのように、そのままでも販売できるけれども最終製品とはいえないものを指します。
仕掛品
仕掛品(呼び方:しかかりひん)とは、原材料の加工が始まっているけれども、製造途中で完成していないもののことです。半製品はそのままでも販売可能であるのに対し、仕掛品はまだ販売できない点が異なります。
具体例は、冷凍餃子の餡の部分、液晶画面が取り付けられる前のスマートフォン本体、塗装される前の自動車などです。
原材料
原材料とは、自社で製造するために仕入れて、まだ製造に取り掛かっていないもののことです。原材料には、製品本体を製造するために欠かせない主要原材料と、製造過程で補助的に使用される補助原材料があります。
主要原材料の具体例は、鉄板・銅板や小麦粉などです。一方、補助原材料として、釘や塗料、デコレーションのためのチョコレートなどが挙げられます。
なお、貸借対照表には現金化しやすいものから並べるため、上から製品・原材料・半製品・仕掛品と記載することが一般的です。
棚卸資産の取得価額の計算方法
棚卸資産を評価する際には、対象資産の取得価額を把握しておかなければなりません。取得価額の計算方法は、棚卸資産をどのように取得したかによって異なります。
購入した棚卸資産の場合、購入代価や消費して販売するために直接かかった全費用が取得価額の対象です。ただし、買入事務にかかった費用や販売所間を移動するためにかかった運賃などの合計額が少額の場合は、その部分について算入を省けます。
製造などにかかる棚卸資産の場合、製造にかかった原材料費・労務費・経費の合計額や、消費して販売するために直接かかった全費用が取得価額の対象です。ただし、製造後にかかった検査額や荷造費用の額などの合計額が少額の場合は、その部分を算入しないようにできます。
参考)国税庁「法令解釈通達 第5章 棚卸資産の評価 第1節 棚卸資産の取得価額 第1款 購入した棚卸資産」
参考)国税庁「法令解釈通達 第5章 棚卸資産の評価 第1節 棚卸資産の取得価額 第2款 製造等に係る棚卸資産」
棚卸資産の評価方法
棚卸資産を評価する方法のひとつに、原価法があります。原価法とは、棚卸資産の取得価額を基準に評価する方法です。
原価法は、さらに以下の6つの評価方法に分類できます。
- 個別法
- 先入先出法
- 移動平均法
- 総平均法
- 売価還元法
- 最終取得原価法(最終仕入原価法)
ここから、原価法を用いた6つの評価方法に加え、原価法とは異なる低価法のやり方について、詳しく解説します。
個別法【原価法】
個別法とは、商品を仕入れるごとに、その取得価額を棚卸資産の評価額とする方法です。そのため、スーパーマーケットのように販売する商品が多い事業者よりも、土地や建物など高額のものをいくつか取り扱う不動産業者などに向いています。
たとえば、期中に不動産A(800万円)・不動産B(1,500万円)・不動産C(2,200万円)を仕入れ、不動産Cのみ販売できた場合、期末に計上する棚卸資産の額は2.300万円です(800万円 + 1,500万円)。
先入先出法【原価法】
先入先出法とは、先に仕入れたものから売れていくと仮定して取得原価を算定する方法です。
先入先出法では、物価が上昇している場合は高く販売できる一方で低いときの原価で計算するため、利益が高くなります。それに対して、物価が下落しているときは利益が低くなる点に注意が必要です。
たとえば、ある商品を4月15日に170円で30個、5月20日に220円で20個、6月25日に200円で30個仕入れ、7月30日に50個販売できたとします。この場合は、4月15日と5月20日に仕入れた分(30個 + 20個)を売却できたとするため、期末に計上するのは6月25日に仕入れた分の6,000円です(200円 × 30個)。
移動平均法【原価法】
移動平均法とは、仕入れの都度平均単価を求める方法です。手間がかかる分、売上原価や棚卸資産の評価額を把握するのに役立ちます。
先入先出法で出した例を使って、移動平均法で5月末時点の評価額を算出してみましょう。
5月末時点の仕入合計額は9,500円です(170円 × 30個 + 220円 × 20個)。これを合計個数(50個)で割って平均を出すと、190円/個と評価できます。
総平均法【原価法】
総平均法とは、会計期間における仕入単価の平均を使って評価額を計算する方法です。移動平均法と異なり手間はかからない分、期末に原価を把握するまで評価ができません。
先入先出法や移動平均法で使ったケースを用いて、実際に評価額を計算してみましょう。
期中の仕入合計額は15,500円です(170円 × 30個 + 220円 × 20個 + 200円 × 30個)。これを合計個数(80個)で割って平均を出すと、193.75円/個と評価できます。
売価還元法【原価法】
売価還元法とは、商品を種類ごとにグループ分けし、各グループの販売合計額に原価率を掛けてそれぞれの評価額を計算する方法です。原価率は、以下の計算式を使って求めます。
原価率(%)=(期首の棚卸資産の取得価額 + 期中の仕入棚卸資産の取得価額) ÷ (期末の棚卸資産の販売額 + 期中に販売した棚卸資産の販売価額)
売価還元法を使えば、スーパーマーケットのように取り扱う商品が多く、原価を把握することが困難な場合でも対応できます。ただし、種類ごとのグループ分けに手間がかかります。
最終取得原価法(最終仕入原価法)【原価法】
最終取得原価法(最終仕入原価法)とは、最後に仕入れたタイミングにおける原価を取得価額として採用する方法です。仕入れの日によって、170円で仕入れることや220円で仕入れることがあったとしても、最終取得原価法では最後に仕入れたときの200円で棚卸資産を評価します。
最終取得原価法を使う場合、直近の取得価額を確認すればよいだけのためスムーズです。ただし、期末になるまで取得価額が判明しないため、評価できません。
低価法
低価法とは、ここまで紹介した原価法で計算した取得原価と期末時点の時価を比較し、低いほうを評価額とする方法です。
低価法を用いることにより、予期せぬ事情で時価が著しく低下した場合でも実態を反映できます。ただし、いずれかの原価法で評価することと、期末に棚卸資産を時価評価することの2つの作業が必要になるため、手間がかかるでしょう。
棚卸資産の会計処理・仕訳例
ここで、棚卸資産を購入した際・棚卸資産を販売した際・期末に棚卸資産を修正する際の3つのタイミングに分けて、具体的な数字を使い会計処理・仕訳の例を紹介します。
今回使うのは、商品の売買を仕入(費用)・売上(収益)・繰越商品(資産)に分けて処理する三分法です。
棚卸資産を購入した際
期中に160万円分の商品を仕入れて、翌月に支払う場合の仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
仕入 | 1,600,000円 | 買掛金 | 1,600,000円 | 6/10 商品Aを1,600個仕入 |
翌月に支払うため、貸方に「買掛金」を計上しています。また、三分法を用いているため、借方に記載するのは「仕入」です。仕入れの段階では、商品に関する勘定科目は記載しません。
棚卸資産を販売した際
仕入れた商品を110万円分販売し、翌月に売上代金を受け取る場合の仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
売掛金 | 1,100,000円 | 売上 | 1,100,000円 | 7/20 商品Bを900個販売 |
販売に伴い売上が発生するため、貸方に「売上」を計上しています。また、翌月に代金を受け取るため、借方に「売掛金」の計上が必要です。販売する段階でも、商品に関する勘定科目は記載しません。
期末に棚卸資産を修正する際
三分法を用いる場合は、期末に棚卸資産の残高を反映させます。前期末の商品棚卸高が90万円、当期末の商品棚卸高が70万円の場合の仕訳例は以下のとおりです。
【前期末の棚卸資産高の振替】
借方 | 貸方 | 備考 | ||
仕入 | 900,000円 | 繰越商品 | 900,000円 | 決算修正仕訳 |
まず、前期末の棚卸高を一度繰越商品から出して仕入れたことにするため、貸方に「繰越商品」90万円、借方で「仕入」90万円を記載しています。
【当期末の棚卸資産高の計上】
借方 | 貸方 | 備考 | ||
繰越商品 | 700,000円 | 仕入 | 700,000円 | 決算修正仕訳 |
続いて、新たに当期末の棚卸高を計上するために借方に「繰越商品」70万円、貸方に「仕入」70万円を記載しています。
棚卸資産を計上する際のポイント
棚卸資産を計上する際の主なポイントは、以下のとおりです。
- 在庫の含み損を考慮する
- 評価方法を申告する
- 定期的に実地棚卸を実施する
各ポイントについて、解説します。
在庫の含み損を考慮する
棚卸資産を計上する際は、在庫の含み損(評価損)を考慮することがポイントです。在庫の含み損とは、市場の価格変動や商品の陳腐化、欠陥などの要因で商品の価値が帳簿の額より低くなり、売却の際に発生すると考えられる損失を指します。
評価損は損益計算書の売上原価に該当するため、計上することで利益の圧縮、節税につながることがあります。ただし、棚卸資産の評価損を計上するためには、国税庁が定めている要件を満たさなければなりません。要件を満たさない場合や理由が明確でない場合は、評価損が認められないことがあるため注意しましょう。
参考)国税庁「法令解釈通達 第9章 その他の損金 第1節 資産の評価損 第2款 製造等に係る棚卸資産」
評価方法を申告する
棚卸資産を計上する際は、事前に自社で採用している評価方法を申告することも重要な点です。
まず、普通法人を設立した場合は、設立第1期の確定申告書提出期限までに、「棚卸資産の評価方法の届出書」をe-Taxで提出します。提出していない場合は、最終取得原価法(最終仕入原価法)で対応しなければなりません。
また、棚卸資産の評価方法を変更しようとする場合も、変更する事業年度開始日前日までに申請書の提出が必要です。ただし、変更について相応の理由がなければ、認められない可能性があります。
参考)国税庁「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」
参考)国税庁「C1-29 棚卸資産の評価方法・短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法・特定譲渡制限付暗号資産の評価方法・有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の変更の承認の申請」
定期的に実地棚卸を実施する
定期的に実地棚卸を実施することも、棚卸資産を計上する際のポイントです。
実地棚卸とは、現場で実際に棚卸資産の数を把握することを指します。帳簿だけで対応し続けると、そのうちヒューマンエラーなどの理由で帳簿とズレが生じることがあるため、定期的に実地棚卸が必要です。
なお、実地棚卸で商品の紛失や破損が見つかった場合は、期末の帳簿で反映しなければなりません。商品に5万円分の破損が判明した際の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
商品評価損 | 50,000円 | 繰越商品 | 50,000円 | 商品〇〇破損 |
棚卸資産まとめ
棚卸資産とは、営業目的で仕入れてから、まだ加工や販売に至らず社内に留まっている状態のものです。商品・製品、仕掛品、原材料などが具体例として挙げられます。
棚卸資産を評価する手法は、個別法・先入先出法・移動平均法などです。それぞれメリットとデメリットがあるため、特徴を理解したうえで自社にあった評価方法を用いましょう。
ただし、すでに評価方法を提出している場合は、原則として同じ手法を用いる点に注意が必要です。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
項目 | 内容 |
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法人番号 | 1011101045361 |
事業内容 |
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本社所在地 | 〒160-0022 東京都新宿区新宿3-5-6 キュープラザ新宿三丁目5階 |
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