給与所得とは?所得税の計算方法や給与収入との違いも解説
更新日:2024年05月13日
給与所得とは、会社が役員や従業員に支払う給料・賞与などのことです。一部を除き、各種手当も含まれます。
必要経費を計上できない分、給与所得控除を引ける点が事業所得との違いです。本記事では、給与所得とはどのような所得かを説明した上で、税金の計算方法を紹介します。
目次
給与所得とは
給与所得とは、10種類ある所得のうちのひとつです。ここから、給与所得の具体例やほかの所得の違いを解説します。
給与所得の具体例
給与所得の具体例は、以下のとおりです(いずれも、役員・従業員に支払うものが対象)。
- 給料
- 賃金
- 賞与
- 残業手当
- 休日出勤手当
- 職務手当
- 地域手当
- 家族手当・扶養手当
- 住宅手当
各種手当も、基本的に給与所得の対象となります。ただし、以下に該当する手当は非課税です。
- 通勤手当のうち一定額以下
- 通常必要と認められる金額の旅費(転勤や出張などに関するもの)
- 宿直・日直手当のうち、一定額以下
通勤手当の場合、交通機関を利用している場合は合理的な運賃の額、自動車や自転車は距離に応じて1か月あたりの限度額が定められています。通勤手当の非課税限度額は、以下のとおりです。
区分 | 課税されない金額 |
1.交通機関または有料道路を利用している人に支給する通勤手当 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額 *最高限度150,000円 |
2.自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当 | (通勤距離ごと) |
2-1.片道55km以上 | 31,600円 |
2-2.片道45km以上55km未満 | 28,000円 |
2-3.片道35km以上45km未満 | 24,400円 |
2-4.片道25km以上35km未満 | 18,700円 |
2-5.片道15km以上25km未満 | 12,900円 |
2-6.片道10km以上15km未満 | 7,100円 |
2-7.片道2km以上10km未満 | 4,200円 |
2-8.片道2km未満 | (全額課税) |
3.交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額 *最高限度150,000円 |
4.交通機関や有料道路を利用する以外に、交通用具も使用している人に支給する通勤手当・通勤用定期乗車券 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額と、2の金額との合計額 *最高限度150,000円 |
なお、宿直は一般的に夜間の特殊業務に従事するもので、日直は主に昼間に対応するものを指します。
参考)国税庁「No.2508 給与所得となるもの」
参考:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
参考:国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」
給与所得とほかの所得の違い
給与所得以外の所得は、以下の9種類です。
給与所得と事業所得などの所得との主な違いは、収入金額に応じて給与所得控除額を適用できる点です。
たとえば、事業所得の場合は総収入金額から必要経費を引くことで所得を計算します。一方、給与所得では、線引きが難しくなるため必要経費の計上が認められていません。そこで、公平性を担保するため、給与所得者には給与所得控除が認められているのです。
給与所得の計算方法
給与所得は、以下の式を用いて計算します。
給与所得 =収入金額 − 給与所得控除額
ここから、収入金額の意味や給与所得控除の計算方法などについて、詳しく解説します。
収入金額とは
給与所得の収入金額は、金銭で支給されることが一般的です。ただし、給与の支払者(会社)による以下のような経済的利益も収入金額に含まれます。
- 物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡
- 土地・家屋・金銭などを無償、または低い対価で貸し付け
- 2以外の用役を無償または低い対価により提供(例:福利厚生施設の利用など)
- 個人的債務を免除または負担
上記の経済的利益を現物給与と呼ぶことが一般的です。特定の現物給与については、課税上金銭で支給される給与と異なる扱いが定められています。
給与所得控除の計算方法
給与所得控除の金額は、給与収入によって異なります。給与収入金額に応じた給与所得控除額は、以下のとおりです。
給与などの収入金額 | 給与所得控除額 |
〜1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円〜1,800,000円 | 収入金額×40% −100,000円 |
1,800,001円〜3,600,000円 | 収入金額×30% + 80,000円 |
3,600,001円〜6,600,000円 | 収入金額×20% + 440,000円 |
6,600,001円〜8,500,000円 | 収入金額×10% + 1,100,000円 |
8,500,001円〜 | 1,950,000円(上限) |
なお、収入金額は給与所得の源泉徴収票における、支払金額で確認できます。同じ年に複数の源泉徴収票がある場合は、合計額を参考にしてください。
給与所得の計算例
たとえば、給与収入が300万円の場合、給与所得控除額は98万円です(300万円 × 30% + 8万円)。そのため、給与所得は202万円と計算できます(300万円 − 98万円)。
また、給与収入が700万円の場合、給与所得控除額は180万円です(700万円 × 10% + 110万円)。給与所得は、520万円になります(700万円 − 180万円)。
給与収入が1,000万円の場合、給与所得控除額を計算する必要はありません。給与収入が850万円を超える場合は一律上限の195万円が適用されるため、給与所得は805万円です。
所得・収入・手取りの違いとは
所得・収入・手取りは混同しやすい言葉です。ここから、給与収入と給与所得の違いや、給与所得と手取りの違いについて、詳しく解説します。
給与収入と給与所得の違い
そもそも、「収入」と「所得」は異なる概念です。収入が売上のような主に入ってくる金額を指すのに対し、所得は収入から必要経費を引いて残った額を指します。
また、給与収入は源泉徴収税額・特別徴収税額・社会保険料などが天引きされる前の額であるのに対し、給与所得は給与収入から給与所得控除を引いた額です。すでに述べたように、給与所得においては、「給与所得控除」が必要経費の役割を果たします。
給与収入と給与所得の違いは、所得税だけでなく住民税の計算でも重要なため、あらかじめ理解しておきましょう。
給与所得と手取りの違い
一般的に、給与所得が所得税の計算に使用する金額であるのに対し、手取りは自分の手元に入る金額を指す点が主な違いです。
基本的に、給与明細などに記載されている「総支給金額」(額面)はそのまま手元に入りません。なぜなら、自分の手元に入る前に、額面から健康保険料・厚生年金保険などの社会保険料や、税金が天引きされているためです。
なお、一般的に給与所得者が住宅ローンを申し込む際の「年収」は、給与所得ではなく額面を記入します。それに対し、個人事業主は収入(売上)から必要経費を除いた事業所得を記載しなければなりません。
給与所得の所得税の計算方法
給与所得には、所得税(2037年までは復興特別所得税も)がかかります。給与所得者の所得税・復興特別所得税は、毎月の給与やボーナスから源泉徴収されることが原則です。
ここから、給与所得にかかる所得税の計算や税率、控除などについて詳しく解説します。
所得税の計算・税率
給与所得の所得税を計算・納付する際の大まかな流れは、以下のとおりです。
- 給与収入から給与所得控除を引いて給与所得を算出
- 1とそのほかの所得を合わせる
- 2から各種所得控除額を引く(課税所得金額の算出)
- 課税所得金額(3)に所得税の税率を適用して計算する(所得税額の算出)
- 所得税額から税額控除などを引く(基準所得税額の算出)
- 基準所得税額に2.1%かけて復興特別所得税額を計算
- 基準所得税額・復興特別所得税額の合計から源泉徴収税額などを引き、納付する税金を計算する
なお、所得税額の算出に使われる所得税率は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円〜 | 45% | 4,796,000円 |
日本の所得税の税率は超過累進税率のため、所得が多くなるにつれて税率も高くなります。
参考)国税庁「給与所得者と税」
特定支出控除・所得金額調整控除とは
特定支出控除や所得金額調整控除とは、確定申告や年末調整により一定の金額を給与所得額から控除できる制度です。
通勤費・職務上の旅費・転居費・研修費・資格取得費・帰宅旅費などが、特定支出に該当します。特定支出の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超える場合に限り、確定申告することで基準を超える額を所得金額から控除可能です。
また、所得金額調整控除は、給与収入金額が850万円を超えて、本人が特別障害者に該当する・23歳未満の扶養親族がいる・特別障害者である同一生計配偶者もしくは扶養親族がいる場合に適用できます。
参考)国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」
参考:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
所得控除とは
所得控除とは、納税者の個人的事情を加味して、給与所得控除とは別に引ける金額のことです。各種所得の合計から、所得控除が引かれます。
所得控除の種類は、以下のとおりです。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
そのうち、基礎控除は合計所得金額が2,400万円以下であれば、誰でも48万円一律で控除できます。
参考)国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」
参考:国税庁「No.1199 基礎控除」
給与所得の所得税計算の具体例
給与所得が400万円、ほかの所得はなし、適用する所得控除は基礎控除のみのケースで所得税を計算してみましょう。
まず、給与所得から基礎控除を引いて、課税所得金額の算出が必要です(400万円 − 48万円 = 352万円)。続いて、所定の税率をかければ、所得税を計算できます。
今回課税所得金額は352万円のため、税率は20%です。よって、所得税は27万6,500円と計算できます(352万円 × 20% − 42万7,500円)。
給与所得と年末調整の関係
年末調整は、給与所得との関係が深い作業です。ここから、年末調整の概要や申請方法などについて詳しく解説します。
年末調整とは
年末調整とは、源泉徴収された税額の年間の合計額と、年税額を一致させる精算の手続きのことです。
給与所得者は、毎月給与を受け取る際に、所得税や復興所得税が源泉徴収(会社が天引きして代わりに納税する仕組み)されています。そのため、毎年年末調整すれば、基本的に確定申告の必要がありません。
一方、個人事業主は年末調整の仕組みがないため、原則として確定申告が必要です。
年末調整で所得を申請する方法
年末調整に必要な書類は、以下のとおりです。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 基礎控除申告書
- 配偶者控除等申告書
- 所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書
- 住宅借入金等特別控除申告書
給与所得者は、人事・労務担当者から書類を受け取り、記入します。記入後、人事・労務担当者への提出が必要です。
なお、年末調整の手続きは一般的に11月中旬から下旬ごろに進められます。
参考)国税庁「令和5年分年末調整のしかた(手順などの説明)」
年末調整で対応できるケース・確定申告が必要なケース
給与所得者の大部分が、年末調整で所得税や復興所得税を精算できるため、確定申告は不要です。ただし、以下に該当する方は年末調整の対象外のため、確定申告しなければなりません。
- 給与の収入金額が2,000万円を超える
- 1か所から給与の支払を受けていて、給与全額が源泉徴収の対象となる場合で、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える
- 2か所以上から給与の支払を受けていて、給与全額が源泉徴収の対象となる場合で、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える
また、本来は確定申告が不要でも、住宅ローン控除を適用する場合(1年目)や医療費控除を適用する場合など、確定申告したほうがよいケースがあります。
給与所得まとめ
給与所得とは、給料・賞与や各種手当などを指します。ただし、通勤手当や旅費などは、条件によって一部の金額が非課税です。
給与所得控除を引ける点が、給与所得と給与収入の主な違いとして挙げられます。また、給与所得者は必要経費を計上できない分、給与所得控除が認められている点が、事業所得との違いです。
年末調整で対応できるため、基本的に給与所得者は確定申告する必要がありません。ただし、収入額や受ける控除によって、確定申告が必要なこともある点に注意しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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