管理会計とは?業務、目的、導入メリット、財務会計との違い

更新日:2024年03月15日

管理会計とは

管理会計とは、経営者が企業をマネジメント(管理)する社内向けの会計を意味しており、英語では、Management accountingと表現します。管理会計の主な目的は、役員や管理者などの経営者に、経営判断する上で必要な情報を提供することです。管理会計を用いることで、自社の状況をより具体的に把握できるようになります。ただし、管理会計には明確なルールや形式がありません。また、会社側に義務付けられてはいないため、導入していない企業もあります。今回は、管理会計の主な業務、導入メリット、財務会計との違いについて解説します。

目次

管理会計の主な4つの業務

管理会計は法的に必須なものではないため、各企業が必要だと考える業務に特化して構いません。一般的には、以下4つの業務を管理会計としてます。

  1. 経営分析
  2. 予実管理
  3. 資金繰り管理
  4. 原価管理

1.経営分析

経営分析とは、財務諸表や各種調査結果などの情報をもとに、経営状態を把握する分析を指します。財務諸表は、投資家(株主)や債権者などに対して1年間の財務状況を報告する決算書類のことです。

管理会計で経営分析することで、数字から自社の経営課題や改善策が見えてきます。その中で使われる指標のひとつが、損益分岐点分析です。

損益分岐点とは、売上と費用が同じになる地点を指します。損益分岐点より売上が上回れば利益が出て(黒字)、下回れば損失が発生する(赤字)という判断基準になる指標です。

損益分岐点分析では、限界利益も算出します。限界利益は、売上から変動費を引いた金額のことです。

経営分析により、損益分岐点や限界利益などを使用して、自分の会社が利益を出すためにどれだけ売上を増やさなければならないのか、経費はどれだけ削減すべきかといったことが見えてきます。

参考)損益分岐点とは

参考)限界利益率とは

2.予実管理

予実管理とは、経営目標に合わせて設定した予算と、その実績を把握することです。予実管理を「予算管理」と「実績管理」に分けて説明することもあります。

予実管理では、管理表などの資料を作成して予算と実績を比較することがポイントです。予算と実績の比較により、計画がどれほど進んでいるのかが数字で見えてきます。

また、なぜ予算が未達になったか原因を分析することも大切になり「そもそも予算を多く取りすぎていた」などの事情に気づくことなどができます。

予実管理は、表計算ソフトのExcelなどを使用することが一般的です。近年は、会計システムを利用する場合もあります。

なお、予実管理の対象期間は、年次・月次など企業によってさまざまです。

3.資金繰り管理

資金繰り管理は、会社の日々の入出金を管理し、資金の過不足がないように調整することです。資金繰り管理が不十分だと、黒字経営にもかかわらず支払いに必要な資金が不足して倒産(黒字倒産)してしまう懸念もあります。

財務諸表上は問題がなさそうに見えても、資金不足に陥ってしまう原因のひとつが、取引先からの入金の遅れです。いくら売上を出していても、売掛金や未収金などを現金化できなければ、手元資金はいつか枯渇してしまいます。

表計算ソフトなどで資金繰り表を作成し、資金繰り管理を徹底していれば、いつ現金不足になるかあらかじめ把握できるため、突如資金がなくなって慌てることはありません。あらかじめ、手元資金を潤沢にするために金融機関に運転資金の借入を申し込む、取引先に入金サイクルを早めてもらうよう交渉するなどの対策を取れるでしょう。

参考)資金繰りとは

参考)黒字倒産とは

4.原価管理

原価管理とは、目標とする原価(コスト)と、実際に製品やサービスを提供するためにかかっている原価を比較し、改善を目指すことです。とくに、製造業界で導入されています。

原価管理では、製品の製造にかかる材料費だけでなく、設備費や人件費も把握することがポイントです。原価管理することで、無駄なコストが何なのかが明確に見えてきます。

原価管理により算出された原価にいくらの利益を上乗せし、販売価格をいくらに設定すべきかの見通しが可能です。売上や利益の予測ができるため、今後売上拡大のための設備投資が必要か、それだけの資金は確保できるか、などの長期的経営判断の参考になります。

なお、原価管理も、Excelなどの表計算ソフトを使用するのが一般的です。

参考)売上原価とは

管理会計を導入するメリット

管理会計を導入することで、主に4つメリットが期待できます。

  1. 経営状況を客観的に評価できる
  2. セグメントごとの分析、評価が可能
  3. コスト削減につながる
  4. 経営戦略に活用できる

1.経営状況を客観的に評価できる

管理会計を導入することで、経営状況を客観的に評価できる点がメリットです。

財務諸表から抽出した数値で算出する指標を用いて、自社の状況を客観的に判断できるでしょう。経営状況を客観的に評価できる指標として、「自己資本比率」「総資本回転率」「売上高営業利益率」などがあります。

自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合のことです。一般的に、自己資本比率が高ければ、財務健全性が高い企業と判断できます。

総資本回転率とは、総資本(総資産)からどれだけ効率的に売上を出したかを示す指標です。一般的に、総資本回転率が高い方が、効率も高いことを示しています。

売上高営業利益率とは、営業利益が売上高に占める割合のことです。売上高営業利益率が高ければ、本業による収益力が高いことを示しています。

なお、各指標の計算式は以下のとおりです。

  • 自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
  • 総資本回転率(回転) = 売上高 ÷ 総資本
  • 売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

参考)自己資本比率とは

参考)総資産回転率とは

参考)売上高営業利益率とは

2.セグメントごとの分析、評価が可能

セグメントごとの分析や評価が可能な点も管理会計を導入するメリットです。セグメントごとにまとめられた業績や財務状況の数値を使えば、部門別・サービス別・製品別などに分類して細かな分析ができます。

企業全体の業績が黒字(赤字)でも、全部門や全製品が好調(不調)とは限りません。管理会計を通じてセグメントごとの分析や評価をすれば、本当に必要な製品・サービスや、テコ入れしなければならない部門などが具体的に見えてくるでしょう。

3.コスト削減につながる

管理会計の導入でコスト削減につながる点もメリットです。管理会計の業務には、原価管理が含まれるため、原材料費や人件費などの現状を明確な数値で把握し、コスト削減方法を検討できます。

セグメントごとの分析と合わせてコスト管理するをおこなうことで、どの部門に経費がかかっているかもはっきりとさせられます。

参考)人件費とは

4.経営戦略に活用できる

管理会計を導入して、経営戦略に活用できる点もメリットです。売上高や営業利益、コストなどを把握することで、経営陣は改善するために何が必要かを判断できます。管理会計の業務のひとつである資金繰り管理により、金融機関などから資金を調達すべきタイミングも、把握できるようになるでしょう。

さらに、管理会計を導入してさまざまな項目を数字で明確に表せば、経営陣だけでなく従業員も目標が明確になります。その結果、会社全体で同じ方向を目指すようになり、統一感が生まれるでしょう。

管理会計と財務会計の違い

管理会計が経営者がマネジメントするための「社内向け会計」であるのに対し、財務会計は企業の財政状態や経営成績を外部関係者に伝えるための「社外向け会計」である点が大きな違いです。また、「社内向け」であるか「社外向け」であるかで異なることに伴い、具体的に以下の点が管理会計と財務会計の違いとして挙げられます。

  1. 任意と法律義務の違い
  2. 対象期間の違い

1.任意と法律義務の違い

管理会計は各企業が「任意」で取り入れるものに対し、財務会計は財務諸表の作成に「法律義務」がある点が違いです。管理会計は、あくまで自社の経営判断に役立てるもののため、外部に提供する必要もなく、明確なルールも定められていません。

財務会計は、法律の規定で必ず財務諸表を作成・提出しなければなりません。会社法第440条第1項で「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない」とされています。

参考)貸借対照表とは

参考)損益計算書とは

2.対象期間の違い

管理会計には期間の定めがないのに対し、財務会計は会計期間を定めている点も違いです。管理会計には明確なルールがないため、週・月・年など経営判断に役立つと考えた期間を対象にできます。

財務会計の会計期間は、1年とすることが一般的です。ただし、半年や四半期にする企業もあります。

なお、決算書類作成にかかる期間について、1年を超えることはできません

参考)会社計算規則第59条第2項

財務会計の目的と機能

「管理会計」よりも古くから存在する会計として「財務会計(Financial accounting)」があります。財務会計とは、外部の関係者に対して自社の財政状態・経営成績を明らかにするためのものです。管理会計と財務会計は目的や業務内容が異なります。ちなみに財務会計は制度会計の1つで、税金の申告を目的にする税務会計も、制度会計に含まれます。

参考)制度会計とは

以降では、財務会計の目的や機能について整理しましょう。

財務会計の目的は財政状態と経営成績の開示

財務会計の目的は、財政状態や経営成績を開示することです。いくつかの資料を作成して開示し、それぞれの内容は異なります。

財政状態とは、企業の資金調達・運用状況のことです。決算報告書(財務諸表)の中の主に「貸借対照表」で、自社の財政状態を明らかにします。

経営成績とは、一定期間内に企業が経営活動を通じて生じた利益または損失のことです。決算報告書の中の主に「損益計算書」で、自社の経営成績を明らかにします。

貸借対照表は、企業の資産や負債を示した財務諸表で、損益計算書は、企業の収益や費用を示した財務諸表です。貸借対照表と損益計算書に「キャッシュフロー計算書」を加え、「財務三表」と表現します。

参考)キャッシュフロー計算書とは

財務会計が持つ2つの機能

財務会計が持つ機能として、主に以下の2点が挙げられます。

  • 利害調整機能
  • 情報提供機能

1.利害調整機能

利害調整機能とは、利害関係者間で対立が起こった際に、利害を調整する機能のことです。利害対立が発生する主なケースとして、以下の2つが考えられます。

  • 株主と債権者
  • 株主と経営者

「株主」は、出資した企業が自分たちに対する配当を多くすることに関心が高いです。一方、融資している銀行や支払いを待っている取引先などの「債権者」は、配当を増やすことで対象の企業の資金が減り、返済できなくなることを懸念するため、利害関係が生じます。

財務会計により、対象企業の財務情報が開示されるため、株主は期待できる配当金の目安、債権者は返済可能な状態か確認できるでしょう。このように、財務会計の利害調整機能がはたらきます。

「株主」は、出資した資金をもとに経営陣が健全かつ効率的に経営を実施し、配当が増えることを期待することが一般的です。一方、「経営者」は経費を自分が得するように使用したり、役員報酬を上げようとしたりすることがあるため、利害関係が生じます。

財務会計で、財務諸表を開示することで、株主は経営者が適切に経営していることを確認できるでしょう。

2.情報提供機能

情報提供機能とは、利害関係者に参考になる情報を提供する機能のことです。たとえば、投資家は財務諸表をひとつの参考資料として、株主になるか判断します。

また、銀行が対象企業の融資可否を判断する際にも、財務諸表が重要な材料です。貸借対照表上で返済能力は確認できるか、損益計算書の「営業利益」や「経常利益」は黒字か、などさまざまな項目を確認します。

財務会計の情報提供機能により、自社の内容を投資家や銀行に正しく知ってもらえるでしょう。

参考)営業利益とは

参考)経常利益とは

管理会計を導入する時のポイント

管理会計導入時のポイントは以下の2つです。

  1. 業務負担を軽減できる仕組みを考える
  2. 自社に合った管理会計システムを選択する

管理会計を導入すると、情報の提供や管理などの作業で、現場の担当者の負担が増えてしまいます。管理会計を導入してかえって効率が悪くなることにならないように、各ポイントをあらかじめ押さえておきましょう。

1.業務負担を軽減できる仕組みを考える

管理会計の導入により現場が混乱しないようにするため、あらかじめ業務負担を軽減できる仕組みを考えておきましょう。具体例として、以下のような仕組みが考えられます。

  • 導入前に作業に関係する従業員に対して研修を実施する
  • 従業員と話し合いを重ねる
  • 関連する部署の人員を増やす

同じ「会計」であっても、「管理会計」は「財務会計」とは異なる点がいくつもあります。今まで経理などに携わっている人材にも、「管理会計」の基本的な考え方や、損益分岐点などの基礎知識を伝えるために、一度研修を実施した方がよいでしょう。

また、一方的に管理会計を押し付けることも、混乱のもとです。日常業務量に加え、新たな業務をこなせそうかという点も会社側で聞き取りしておいた方がよいでしょう。

今まで会計に携わってきた人員だけでは対応できなそうであれば、関連する部署の人員を増やすことも大切です。

2.自社に合った管理会計システムを選択する

管理会計システムとは、予実管理や原価管理などの管理会計業務を効率化するシステムのことです。Excelなどの表計算ソフトでも管理会計は可能ですが、以下の課題があります。

  • データ入力・出力に時間がかかる
  • ヒューマンエラーにより、不正確なデータになる可能性がある

基本的に、表計算ソフトを利用するには、担当者が関係者に内容を確認し、そのデータを入力するという作業を進めなければなりません。また、作業にあたって入力ミスが生じるおそれもあります。

管理会計システムを選択すれば、データ連携機能を活用してリアルタイムの情報収集が可能です。入力作業の手間も省けるため、ミス防止や業務効率化にもつながります。

自社に合ったシステムを選ぶ際は、管理会計を導入する目的を整理し、それに対応するものに注目しましょう。そのほか、公認会計士に相談することや、システム導入に詳しい業者を見つけることも大切です。

管理会計まとめ

管理会計とは、経営者がビジネス上の意思決定をするための社内向けの会計です。管理会計を利用することで、経営状況を客観的に評価できる、コスト削減につながるなどのメリットが期待できます。ただし、導入することで現場の作業負担が増す可能性がある点に注意が必要です。実務の負担を軽減できる仕組みを考えた上で、管理会計の導入を進めましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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