中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは?メリットとデメリットを解説
更新日:2024年06月11日
中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)とは、予期せぬ事態に備えて中小企業や個人事業主が加入する共済制度です。中小企業倒産防止共済では、加入者が条件を満たした場合に無担保・無保証人・無利子で共済金の融資を受けられます。また、掛金は全額が損金または必要経費として計上できるため、節税を検討している事業者にとっても魅力的な制度です。
本記事では、中小企業倒産防止共済の概要や加入の流れ、メリット・デメリットについて解説します。
目次
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは
中小企業倒産防止共済は、取引先が倒産した際に中小企業が連鎖倒産するのを防ぐための制度です。中小企業倒産防止共済の制度は、中小企業倒産防止共済法に基づき1978年に発足しました。
ここでは、中小企業倒産防止共済について以下の4つに分けて解説します。
- 共済制度の概要
- 加入資格
- 共済制度に加入できないケース
- 掛金
「もしも」に備えるためのセーフティネットについて理解を深めましょう。
共済制度の概要
中小企業倒産防止共済は独立行政法人によって運営され、取引先の倒産による売掛金等の回収困難時に無担保・無保証人で共済金を借りられる仕組みを提供しています。
共済金の借入が受けられる取引先の倒産には、以下のものが挙げられます。
共済金の借入が受けられる取引先の倒産 |
法的整理 |
取引停止処分 |
でんさいネットの取引停止処分 |
私的整理 |
災害による不渡り |
災害によるでんさいの支払不能 |
特定非常災害による支払不能 |
共済金の借入が受けられない取引先の倒産 |
夜逃げ |
借入限度額は、回収困難な売掛債権等の額または納付した掛金総額の10倍(最高8,000万円)のうち、いずれか少ないほうの額です。
掛金は月額5,000円〜20万円の範囲で自由に設定でき、確定申告時に損金または必要経費に算入できます。契約解約時は、12か月以上納めていれば掛金の8割以上、40か月以上納めていれば、全額が戻ります。
加入資格
中小企業倒産防止共済は「個人事業主」や「中小企業」を主な対象としており、一部の組合(企業組合・協業組合・事業協同組合・事業協同小組合・商工組合)も対象に含まれます。ここでは、個人事業主と中小企業の加入資格について解説します。
中小企業倒産防止共済への加入が認められるかどうかの判断基準は以下のとおりです。
個人事業主 | 中小企業 |
継続して1年以上事業を継続している | 会社法に定められた会社(下表参照) |
常時使用する従業員の数が要件を満たしている(下図参照) ※「事業主」「事業主の家族従業員」「雇用期間が2か月以下の人(アルバイト等)」は常時使用する従業員数に含めない |
引き続き1年以上事業を継続している |
事業所得(不動産所得)を得ていることにより確定申告をしている | 下図の各業種において「資本金の額または出資の総額」「常時使用する従業員数」のどちらかに該当する中小企業者である ※「法人の役員」と「雇用期間が2か月以下の人(アルバイト等)」は常時使用する従業員数に含めない |
雇用契約以外の契約によって他者の事業に従属する形で(継続的な請負や納入をする業者、代理店など)個人で独立経営をしている |
【加入資格を有する業種および従業員数】
【加入できる会社の業態】
株式会社 | 出資者である株主に対し、株式を発行することで設立している |
有限会社 | 2006年5月1日以前に設立され、特例有限会社として存続している |
合名会社 | 無限責任社員のみで構成されている |
士業法人 | 監査法人、弁理士法人、弁護士法人、税理士法人、土地家屋調査士法人、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人 |
合資会社 | 有限責任社員と無限責任社員の両方で構成されている組合類似の組織 |
合同会社 | 社員全部が有限責任社員で構成されている(2006年5月1日会社法により新設) |
次の事業形態は加入不可 → × 医療法人 × 農事組合法人 × NPO法人 × 外国法人等 |
参考:共済サポート navi「経営セーフティ共済の加入資格」
判断基準を満たす個人事業主や中小企業は、次に述べる例外を除き中小企業倒産防止共済に加入できます。
共済制度に加入できないケース
共済制度に加入できないケースは、以下のとおりです。
加入できないケース | 個人事業主 | 会社 |
住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況把握が困難な人 | ○ | ○ |
事業に関する経理内容が不明の人 | ○ | ○ |
中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金の返還を怠っている人 | ○ | - |
すでに貸付を受けた共済金または一時貸付金の返済を怠っている人 | - | ○ |
中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金または解約手当金の返還を怠っている人 | - | ○ |
納付すべき「所得税」を滞納している人 | ○ | - |
納付すべき「法人税」を滞納している人 | - | ○ |
掛金を12か月以上滞納したために中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から12か月を経過していない人 | ○ | ○ |
不正行為により共済金もしくは一時貸付金の貸付、または解約手当金の支給を受け、または受けようとした日から12か月を経過していない人 | ○ | ○ |
現在、共済契約者となっている人(重複加入は不可) | ○ | ○ |
参考:共済サポート navi「経営セーフティ共済の加入資格」
加入が制限される状況は上記のように限定的ですが、該当した場合には要件を満たしていても加入は認められません。
掛金
中小企業倒産防止共済の掛金は、掛金残高が800万円に達するまで納付可能で、掛金月額の増減や前納も可能です。掛金月額は5,000円から20万円の範囲で設定でき、途中解約しても返戻金が受け取れます(12か月以上の場合)。
任意解約の返戻率は、40か月以上で原則100%です。納付した掛金は、個人の場合は事業所得の必要経費、法人の場合は損金の額に算入できます。
ただし2024年度税制改正により、任意解約後2年間は再加入しても掛金を損金算入できず、入金額はそのまま利益として課税されます。なお適用は、2024年10月以降の解約分からです。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)加入の流れ
中小企業倒産防止共済加入の流れは、以下のとおりです。
(1)書類の準備
加入手続きでは、以下の必要書類をそろえる必要があります。公的機関発行の書類は準備に時間がかかることもあるため、早めに手配しましょう。
主な必要書類は、以下のとおりです。
【法人の場合】
- 登記事項証明書(商業登記簿謄本)
- 法人税確定申告書
- 法人税の納付を証する納税証明書
【個人事業主の場合】
- 所得税確定申告書
- 所得税の納付を証する納税証明書
- 確定申告時の帳簿等
【共通】
- 契約申込書
- 口座振替申出書
- 重要事項確認書兼反社会的勢力の排除に関する同意書
(2)窓口への書類提出
続いて提出先を確認しましょう。会員となっている委託団体か、取引のある金融機関の本支店窓口に必要書類一式を提出します。中小機構と業務委託契約を結んでいる金融機関であれば手続きできます。
手続きができる代理店(金融機関)は、以下の公式サイトより確認でき、オンライン手続きも代理店によっては可能です。
(3)契約の締結
書類を提出すると、中小機構から約2か月後に共済契約締結証書や加入者必携が送られてきます。これらを受け取れば加入手続きは完了です。スムーズな加入に向けて、計画的に準備を進めましょう。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)のメリット
中小企業倒産防止共済のメリットは、取引先が倒産した後の借入にとどまらず、掛金を損金や必要経費に算入することが可能であり、なおかつ解約手当金が受け取れる点です。そのなかでも主なメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
- 無担保・無保証で借入できる
- 解約手当金が受け取れる
それぞれについて詳しく解説します。
無担保・無保証で借入できる
中小企業倒産防止共済は、取引先が倒産したときだけでなく、その他の事業資金の要請にも対応します。
掛金納付月数が12か月以上で、事業資金(運転・設備)が使途であれば、基本的に借入が可能です。担保や保証人の必要性はありません。取引先事業者が倒産していなくても借りられる「一時貸付金制度」は、解約手当金の95%が上限とされています。
一時貸付金の借入条件と借入限度額は以下のとおりです。
一時貸付金の借入条件 | |
借入限度額 | 機構解約時に支払われる解約手当金の95%の範囲内 |
借入額 | 借入限度額の範囲内で、30万円以上で5万円単位(5万円未満切捨て) |
借入金の使途 | 事業資金(運転資金、設備資金) |
借入期間 | 1年(償還期日の約1か月前に、『償還金振込票』が送付される) |
返済(償還)方法 | 期限一括償還 |
利率 | 金融情勢等により変動 |
利息支払方法 | 借入時に一括前払い |
違約金(延滞利息) | 年 14.6% |
掛金の納付月数 | 一時貸付金の借入限度額 (掛金総額) × (解約手当金支給率) × (一時貸付金係数) |
1か月~11か月 | 0円 (利用不可) |
12か月~23か月 | 掛金総額 × 75% × 95% |
24か月~29か月 | 掛金総額 × 80% × 95% |
30か月~35か月 | 掛金総額 × 85% × 95% |
36か月~39か月 | 掛金総額 × 90% × 95% |
40か月以上 | 掛金総額 × 95% × 95% |
掛金総額が800万円の場合 | 掛金総額×100% × 95% (760万円) |
中小企業倒産防止共済を利用すれば、連鎖倒産のリスクだけでなく、資金繰りの悪化やさまざまな理由による事業資金の不足にも対応できます。
解約手当金が受け取れる
中小企業倒産防止共済では任意解約が認められているため、基本的にはいつでも解約できます。さらに、掛金を12か月以上納付している場合、解約手当金(解約返戻金)を受け取れます。
解約手当金の支給率は、以下のとおりです。
【解約手当金の支給率】
掛金を納付した月数 | 解約事由 | 解約手当金の支給率 |
1か月~11か月 | 任意解約 | 0% |
みなし解約 | ||
機構解約 | ||
12か月~23か月 | 任意解約 | 80% |
みなし解約 | 85% | |
機構解約 | 75% | |
24か月~29か月 | 任意解約 | 85% |
みなし解約 | 90% | |
機構解約 | 80% | |
30か月~35か月 | 任意解約 | 90% |
みなし解約 | 95% | |
機構解約 | 85% | |
36か月~39か月 | 任意解約 | 95% |
みなし解約 | 100% | |
機構解約 | 90% | |
40か月~ | 任意解約 | 100% |
みなし解約 | ||
機構解約 | 95% |
解約の種類 | 解約事由 |
任意解約 | 共済契約者の任意解除 |
みなし解約 | 個人事業主の死亡 |
会社等法人の解散 | |
事業譲渡 | |
会社等法人の分割 | |
機構解約 | 共済契約者に対する機構解除 |
なお、納付期間が12か月未満の場合、どのような解約理由であっても掛け捨てになってしまいます。また解約手当金は、益金または事業所得として扱われ、課税の対象となるため注意が必要です。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)のデメリット
中小企業倒産防止共済は、経営悪化時に無利息で資金を借りられる制度ですが、いくつかのデメリットがあります。
【貸付を受けると実質的には利息負担】
共済金の借入は無利息ですが、借入額に応じて「すでに納付している掛金額」から「共済金借入額の10分の1に相当する額」が差し引かれます。つまり、借入額の一定割合相当額を実質的な利息として負担することになります。
【解約時の元本割れ】
契約期間が40か月に満たない場合、解約時の返戻金は納付済みの掛金額を下回ります。とくに12か月未満であれば、掛け捨てです。長期加入を前提としない場合には、元本割れのリスクに注意しましょう。
【解約返戻金への課税】
掛金納付時に経費や損金算入による節税メリットを受けていた分、解約時の返戻金については全額が益金や事業所得の雑収入として課税対象となり、実質的な追加課税が発生します。
このように、中小企業倒産防止共済には実質的な利息負担や解約における元本割れ、返戻金課税など注意すべき点があります。メリットも大きい一方で、デメリットも存在するため、加入検討時には内容を十分理解した上で、総合的に判断するようにしましょう。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)まとめ
中小企業倒産防止共済は、取引先の倒産により被る影響を最小限に抑えることを目的とする制度です。
40か月以上加入すれば掛金の減額はなく、最大8,000万円の融資を無利子・無担保で受けられるというメリットがあります。また、一時的な資金需要にも対応できる柔軟性のある制度であり、さらに掛金を経費として控除できるため、節税効果も期待できます。こうした点から、事業リスクを低減し、安心して経営に専念できる有益な制度といえるでしょう。
一方で、12か月未満の加入では掛金の返金がなく、40か月未満の解約では元本割れが起こります。さらに、融資を受けた場合は掛金の一部が差し引かれてしまうことに加え、解約手当金には課税されるなどといったデメリットもあります。
中小企業倒産防止共済への加入はメリット・デメリットを冷静に見極めた上で、慎重に検討しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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