原価管理とは?目的・メリットや方法をわかりやすく解説
更新日:2024年08月09日
原価管理とは、会社や組織が製品の製造やサービスの提供にかかるコストを効率的に管理することを指します。実施する主な目的は、利益率の向上やリスクの管理などです。本記事で原価管理とは何かを説明した上で、実施する際の流れを解説します。
目次
原価管理とは
原価管理とは、製品を生み出す(プロジェクトを完了する)までに必要なコストを管理することです。
そもそも「原価(げんか)」とは、ものを製造したり、サービスを提供したりする際にかかる費用を指します。原価の具体例は、製造に必要な原料や資源を仕入れる際にかかる「材料費」、商品の製造に直接かかわった人に対して支払う「労務費」などです。
なお、原価管理の対象となる原価は、業種によって異なります。
原価管理を実施する目的
原価管理を実施する目的は、主に以下のとおりです。
- 利益率の向上
- リスク管理
それぞれ解説します。
利益率の向上
利益率を向上(利益を拡大)させることが、原価管理を実施する主な目的です。
利益の一種である「売上総利益(粗利)」は、売上高から商品の原価を引くことで求められます。そのため、原価率が上昇すれば利益率は減少、原価率が下落すれば利益率が上昇することが一般的です(売上高が一定の場合)。
原価管理を適切に実施していれば、製品を作り出したりサービスを提供したりするまでにどれだけのコストがかかるかを把握できます。把握したコストを削減するための策を打ち出せば、利益率の向上(利益の拡大)にもつながるでしょう。
リスク管理
リスクを管理すること(リスクマネジメント)も、原価管理を実施する目的のひとつです。
仮に安定した売上を期待できるビジネスを営んでいたとしても、利益も毎回黒字を計上できるとは限りません。なぜなら、何かしらの事情で原価が上昇すると、利益が圧迫されてしまうためです。
原価の上昇は、為替変動(円安)に伴う輸入製品価格の上昇、物価の上昇、賃金の上昇など、さまざまな要因によって起こりえます。そこで、原価管理をすることで何が自社の原価を左右しているのかをあらかじめ把握することにより、原価の上昇リスクを予測し、対策を立てることが大切なのです。
原価管理と類似用語の違い
原価管理にはいくつか類似用語が存在するため、混同しないようにしましょう。ここでは、原価管理と予算管理や原価計算との違いについて説明します。
原価管理と予算管理の違い
原価管理と予算管理の違いは、管理する対象の範囲といえます。
予算管理とは、会社が設定した売上や必要経費などの目標値を管理することです。数値をどのように達成するか分析したり、現状と目標値との乖離を把握したりします。
予算管理の種類は、売上予算・原価予算・経費予算・利益予算などさまざまです。原価も、予算管理で管理する数値に含まれています。
そのため、予算管理の方が原価管理よりも広い範囲(ひとつ上の階層)で使われることが一般的です。
原価管理と原価計算の違い
原価管理と原価計算の違いは、実施する作業の内容です。原価計算とは、製品を作ったり、サービスを提供したりするまでにかかった費用(原価)を計算することを指します。
原価管理を実施する上で、原価計算の作業が欠かせません。ただし、原価管理には原価計算だけでなく、標準原価の設定や差異分析の実施などの作業も必要です。
そのため、原価計算は原価管理を実施するための作業の一部といえるでしょう。
原価管理を実施するメリット・重要性
原価管理を実施するメリット(重要性)は、以下のとおりです。
- 損益分岐点を確認できる
- 経営計画を立てやすくなる
- コストを把握できる
それぞれ解説します。
損益分岐点を確認できる
原価管理を実施することで、損益分岐点を確認できることがメリットのひとつです。損益分岐点とは、売上高と費用が等しくなる(営業利益がゼロになる)ときの売上高のことです。
損益分岐点を明確にしておけば、自社の業績を黒字にするためにどれだけの売上が必要かがわかります。また、損益分岐点を確認すれば、市場に出した商品の引き際も見極められるでしょう。
損益分岐点の計算式は、以下のとおりです。
損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率(売上高に占める*限界利益の割合)
*限界利益 = 売上高 − 変動費(もしくは、利益 + 固定費)
原価管理を実施していれば、上記の計算に必要な数値を把握しやすくなります。
経営計画を立てやすくなる
原価管理を実施することで、経営計画を立てやすくなる点もメリットです。
経営計画とは、自社の目標やビジョンを明確にし、それらを達成するために必要な戦略や行動を示したものを指します。経営計画を策定する際は、できるだけ現実的かつ正確なものにすることが重要です。
原価管理を実施し、原価に関するさまざまな数値を把握しておけば、より正確な経営計画を策定できるでしょう。
コストを把握できる
コストを把握できる点も、原価管理のメリットです。原価管理を実施することにより、仕入や製造工程などにおける無駄を把握できることがあります。
たとえば、原価管理で相場より高い価格で原材料を仕入れていることに気づいたら、取引先と価格交渉したり、複数の仕入先に相見積もりを取ったりすることで原価を低減できるでしょう。また、余分な工程が発生することで労務費がかさんでいることが判明したら、システム導入による業務効率化を図ることで原価を低減できる可能性があります。
把握したコストを削減して原価低減に成功すれば、最終的に利益改善や赤字から黒字への転換などにもつながるでしょう。
原価管理の方法
原価管理を実施するための方法は、主に以下のとおりです。
- エクセルを使う
- システムを導入する
それぞれ簡単に説明します。
エクセルを使う
表計算ソフトのエクセル(Excel)を使って、原価管理できます。最初から自分で作るのには一定の労力や時間を要するため、テンプレートを活用するとよいでしょう。
あらかじめ会社のパソコンにエクセルが入っている場合、コストをかけずにできる点がエクセルで原価管理するメリットです。また、一般的に日常業務でエクセルが使われる機会が多いため、業務に導入しやすいでしょう。
一方で、属人化やヒューマンエラーが発生しやすい点はデメリットです。原価管理のフォーマットに複雑な関数が含まれていると、理解不足の従業員が操作した際に誤りが発生する可能性があります。
そのほか、従業員間で最新の原価データを共有しにくい点も、エクセルを使うデメリットです。
システムを導入する
エクセルを活用せず、原価管理システム・会計ソフト・ERPなどのシステムを導入し、原価管理を実施する方法もあります。
原価管理システムとは、原材料費・設備費など原価に関する数値をまとめて把握できるシステムのことです。課題を発見したり、データを分析したりする際にも役立ちます。
会計ソフトとは、会計業務全般に対応するツールです。原価管理もできる会計ソフトを利用すれば、手軽に原価管理を実施できます。
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、会社の全業務プロセス(会計・人事・生産・物流など)を一元管理できるソフトウェアのことです。
原価管理を実施するためにシステムを導入するメリットとして、ヒューマンエラーを防ぐことや、従業員間の連携がしやすくなる点などが挙げられます。一方、導入にあたってコストがかかる点はデメリットです。
原価管理の流れ
原価管理の流れは、以下のとおりです。
- 標準原価を設定する
- できるだけ正確に原価計算する
- 差異分析を実施する(1と2の比較)
- 1〜3を踏まえて改善する
各手順で実施することについて、解説します。
1. 標準原価を設定する
原価管理を実施するにあたって、まず標準原価を設定します。
標準原価とは、材料費や労務費、間接経費から算出する原価のことです。あくまで概算で出す値のため、実際の原価とは一致しません。
標準原価の主な種類は、以下のとおりです。
- 理想標準原価(最も効率よく原料を調達できた場合を想定した理想の標準原価)
- 現実的標準原価(現実的な業務環境を想定して算出した標準原価)
- 正常原価(長期間にわたる数値を統計的に平準化し、将来予測を加味した標準原価)
- 基準標準原価(長期間固定することを前提に算出する標準原価)
どの標準原価を用いるかは、目的や状況によっても異なります。原価管理では、できるだけ実現可能な値を設定することがポイントです。
2. できるだけ正確に原価計算する
製品を作ったり、サービスを提供したりする際にかかった費用をできるだけ正確に計算します(原価計算)。
原価計算では、材料費・労務費・加工費など、漏れのないようにすることが重要です。小さな値や減価償却費・光熱費なども忘れずに計算しましょう。
なお、製品製造過程でかかった原価を計算することを「実際原価」と呼びます。
3. 差異分析を実施する(1と2の比較)
1と2の計算を終えたら、差異分析を実施します。差異分析とは、計画と実績を比較して経営上の課題を見つけることで、原価管理だけでなく予算管理全般で大切な作業です。
原価管理では、標準原価(1の内容)と実際原価(2の内容)を比較します。ふたつの数値の間にどれくらいの差異が発生しているのかを把握することで、自社の原価に関する課題を洗い出し、必要な改善方法を見出せるでしょう。
なお、標準原価よりも実際原価が高ければ、当初見込んだ利益を圧迫することになります。
4. 1〜3を踏まえて改善する
差異分析で把握した内容に基づき、自社が抱える課題を解消・改善していきます。
とくに、実際原価が標準原価を大きく上回っている場合、改善すべき点がいくつもある可能性が高いです。なぜ大きく上回ってしまうのかを考えた上で、無駄を省く・価格設定を原価に見合ったものにする、仕入先・方法を見直すなど、必要な策を講じていきましょう。
原価管理を実施する際の注意点
原価管理を利益率の向上やリスク管理などに役立てるには、できるだけ漏れなく原価を把握し、正確に計算する必要があるため、手間がかかります。そこで、とくに経理担当者に重い負担がのしかかることをあらかじめ理解しておかなければなりません。
また、原材料や労務費など会計に関する専門知識が求められる点にも注意が必要です。専門知識を持たない担当者が大雑把に原価管理を進めると、原価がかさみ予期せぬ赤字が発生する可能性があります。
さらに、会社全体で協力体制を整える必要がある点も重要です。社内に協力的でない部署があると、原価管理をスムーズに進められません。
原価管理まとめ
原価管理とは、製品を生み出したりサービスを提供したりするまでに必要なコストを管理することを指します。実施することで、損益分岐点を把握したり、経営計画を立てやすくなったりする点がメリットです。
原価管理を実施するには、エクセルを活用する・システムを導入するなどの方法があります。システムを導入する際はコストがかかりますが、その分ヒューマンエラーを軽減したり、従業員間でデータを共有しやすくなったりする点がメリットです。
業績や経営で悩みを抱えている場合は、まず原価管理を実施することで課題の解決を図ってはいかがでしょうか。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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