役員賞与とは?役員報酬との違いや損金算入する方法も解説
更新日:2024年12月07日
役員賞与とは、毎月支払う報酬とは別に、役員に対して臨時的に支払う報酬のことです。役員賞与を損金算入して節税につなげるためには、いくつかの条件を満たさなければなりません。本記事では、役員賞与とは何かを説明したうえで、損金算入方法についてわかりやすく解説します。
目次
役員賞与とは
役員賞与とは、役員個人に対して支給する賞与のことです。一般的に、賞与は毎月の給与とは別に支給される報酬を指します。
役員賞与についての理解を深めるため、ここから「役員」の定義や、役員賞与との違いについて確認していきましょう。
「役員」の定義
役員賞与の「役員」とは、会社や団体を代表したり、業務を執行したりする人のことです。また、法人税法においては法人において以下に該当する人を「役員」と定義しています。
また、取締役に就任していない会長のように、法人の使用人以外でその法人の経営に従事している人も役員の対象です。また、同族会社の使用人のうち一定条件を満たし、会社の経営に従事している人も、「役員」とみなされることがあります。
なお、会社法上では、「役員」とは取締役・会計参与・監査役の三役のことです(会社法第329条第1項)。
参考)国税庁「No.5200 役員の範囲」
参考)e-Gov 法令検索「会社法第三百二十九条」
役員報酬と役員賞与の違い
役員賞与と混同しやすい言葉のひとつとして、役員報酬が挙げられます。役員報酬と役員賞与の主な違いは、支払うタイミングです。
役員報酬とは、役員に対して支給する報酬を指します。役員報酬は毎月定期的に支払うものであるのに対し、役員賞与は会社の業績や役員個人の働きに応じて、年に1回(もしくは数回)臨時的に支払うものとして区別することが一般的です。
役員賞与を支給するメリットとデメリット
ここから、役員賞与を支給するメリットとデメリットを紹介します。
役員賞与を支給するメリット
節税につながる可能性がある点が、役員賞与を支給するメリットです。条件を満たしていれば役員報酬分を損金算入できるため、支給せずに法人税を支払う場合と比べて税額が減ります。
また、役員報酬を減らしてその分を役員賞与の支給にまわした場合に、社会保険料の負担軽減につながりうる点もメリットです。賞与にかかる健康保険料や厚生年金保険料には上限が設けられているため、一定額以上の賞与を支払う場合に本来の料率よりも低い金額になります。
役員賞与を支給するデメリット
会社の業績に影響を与える点が、役員賞与を支給するデメリットです。損益計算書において、役員報酬は一般的に「販売費及び一般管理費(販管費)」に含まれるため、業績が芳しくないのにもかかわらず役員報酬額が大きければ、営業利益の赤字につながる可能性があります。
また、役員報酬を減らした分を役員賞与にあてる場合は、役員の生活に影響を与えかねません。なぜなら、毎月定期的に受け取っていた額が減額されるためです。
役員賞与・定額報酬を損金算入する方法
役員賞与や定額報酬(役員報酬)を損金算入するためには、以下の方法を検討しなければなりません。
- 役員賞与を事前確定届出給与として支払う
- 業績連動給与の制度を活用する
- 定期同額給与にする
- 使用人兼務役員の可能性を検討する
それぞれ解説します。
役員賞与を事前確定届出給与として支払う
役員賞与を損金算入するために、事前確定届出給与として支払う方法があります。
事前確定届出給与とは、所定の時期に役員の職務に対して金銭を交付することを決め、あらかじめ税務署に届出を提出したうえで支給する給与のことです。特定の時期に支給する役員賞与であっても、あらかじめ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出しておけば、損金算入できる場合があります。
なお、事前確定届出給与として支払うためには、いくつかの点に注意しなければなりません。注意点については後ほど詳しく説明します。
業績連動給与の制度を活用する
業績連動給与の制度を活用して、損金算入する方法もあります。
業績連動給与とは、勤め先の企業の業績と連動させた額を役員に対する報酬として支給する制度のことです。2017年度の税制改正で「利益連動給与」から「業績連動給与」に名称が変わったことに伴い、連動の対象となる指標の範囲が拡大されました。
利益連動給与の制度に則って役員賞与を支給すれば、損金算入可能です。ただし、基本的に有価証券報告書に記載されている数値を指標とするため、有価証券報告書を提出している企業のみが制度を利用できる点に注意しましょう。
定期同額給与にする
定期同額給与にすることも、損金算入の方法です。定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定期間ごとである給与で、対象時期における支給額が同額である報酬のことです。
そのため、毎月支給する役員報酬であっても、金額が一定でなければ損金算入できません。ただし、役職が変わる・勤め先の企業の経営状況が著しく悪化するなど、一定の条件を満たす場合には一定額でなくても損金算入を認められる可能性があります。
参考)国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
使用人兼務役員の可能性を検討する
支給相手を使用人兼務役員とすることで、損金算入できる可能性もあります。使用人兼務役員とは、取締役総務部長や取締役人事部長のように、役員でありつつ従業員としても職務に従事している人のことです。
支給相手が従業員(使用人)の場合、基本的に賞与を損金算入できます。そのため、対象の役員が使用人兼務役員であれば、「従業員」の部分のみについては損金算入可能です。
なお、すべての役員が使用人兼務役員になれるわけではありません。たとえば、代表取締役・代表執行役員・副社長・専務・常務・委員会設置会社の取締役などは、使用人兼務役員の対象外です。
参考)国税庁「No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人」
事前確定届出給与の注意点
事前確定届出給与に関する注意点は、主に以下のとおりです。
- 役員賞与・報酬の届出に期限がある
- 変更があった場合は手続きが必要
- 不当に高額だと損金算入できない
- 退任した役員への支給は損金算入できない可能性がある
それぞれ解説します。
役員賞与・報酬の届出に期限がある
事前確定届出給与として支給する場合、役員賞与や報酬について定めてから書類を提出するまでに期限が設けられている点に注意しましょう。
原則として、以下いずれかの早い日までに届出書を提出しなければなりません。
- 株主総会などの決議で決めた日から1か月を経過する日
- 対象の会計期間開始日から4か月を経過する日
なお、期限までに届出がなくてもやむをえない事情が認められる場合には、期限に間に合ったものとして損金算入できることがあります。
変更があった場合は手続きが必要
役員の地位に変更がある・職務内容に重大な変更といった臨時改定事由に該当したり、経営状況が著しく悪化したりしたことで申告内容を変更せざるを得ない場合は、別途届出が必要です。変更の届出にも期限が定められているため、注意しましょう。
なお、臨時改定事由などに該当しない場合は、届出と実際の支給額が異なると損金算入ができません。そのため、一度支給条件を決めたら特別な事情がない限り変更しないようにしましょう。
不当に高額だと損金算入できない
支給額が不当に高額な場合に損金算入できなくなる点にも、注意しましょう。
役員賞与・役員報酬の適切な額について、法律で特別な定めはありません。ただし、役員の職務や対象企業の業績などを総合的に勘案して不自然だと、損金算入が認められない可能性があります。
不安な場合は、支給額がほかの役員や同業他社と比較してどうか、顧問税理士の見解はどうかなどを確認しておくとよいでしょう。
退任した役員への支給は損金算入できない可能性がある
退任した予定の役員への支給は、損金算入できないことがある点にも注意しましょう。
職務執行の対価に該当しないと判断されると、中途退任した役員に支給する事前確定届出給与の額は、基本的に損金算入の対象外です。ただし、対象の役員が退任するまでの期間分の額が届出どおりの額で支給されている場合は、全額損金算入が認められます。
事前確定届出給与として支払うまでの流れ
事前確定届出給与として支払う際の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 株主総会で支給日や金額を決める
- 税務署に届出書を提出する
各手順ですべきことについて、詳しく解説します。
株主総会で支給日や金額を決める
事前確定届出給与として役員に賞与・報酬を支払う場合は、まず株主総会などで支給日や金額を決めておかなければなりません。会社法第361条には、取締役の報酬が定款に記載されていない場合に、株主総会決議で定めることが規定されています。
なお、株主総会の議事については、議事録を作成しなければなりません(会社法第318条)。税務調査などで議事録の作成が漏れていることが判明すると、事前確定届出給与の損金算入が認められない可能性があるため注意しましょう。
参考)e-Gov 法令検索「法人税法第三百六十一条」
参考)e-Gov 法令検索「法人税法第三百十八条」
税務署に届出書を提出する
支給日と金額が確定したら、期日までに税務署へ事前確定届出給与に関する届出書を提出します。提出方法は、以下のとおりです。
- e-Taxソフトを使って届出書を作成して提出する
- 書面を作成して納税地の所轄税務署に持参する、もしくは郵送する
e-Taxソフトを利用せず書面を作成する場合は、国税庁のホームページに掲載されている申請書様式を使いましょう。
役員賞与まとめ
役員賞与とは、毎月の給与とは別に役員に対して支給する報酬のことです。役員報酬を支給して損金算入することにより、企業は節税につなげられる場合があります。
役員報酬を損金算入するには、業績連動給与として支給する(有価証券報告書を提出している場合)、定期同額給与にするといった方法があります。また、有価証券報告書を提出していない企業で、定期同額給与ではなく年に1〜2回の役員賞与を支給するケースでも、事前確定届出給与として支給することで損金算入可能です。
事前確定届出給与を利用するには期日までに届出を提出しなければならないため、検討している場合は早めに準備を進めましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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